サザン・ホスピタル byうるかみるく

くるみあるく

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Part1 My Boyhood

Chapter_09.コンプレックスからの脱却(3)多恵子のアルバイト〜返り討ち

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At Naha City, Okinawa; from 3:00PM to 7:30PM JST, September 27, 1992.
This time, the narrator changes from Tsutomu Uema into Taeko Kochinda.

首里にある、航空会社系列のホテル。あたしは夏休みから、ここのラウンジでウェイトレスをしていた。
ウェイトレスのバイトをしようと思ったのは、看護学校の先輩たちから、
「一年生はまだ実習がないから、なにかサービス業を経験していたほうがいいよ」
とアドバイスされたから。このホテルなら、看護学校と家との中間にあって、バスの便も良かった。普段は学校帰りに寄って夜勤に入り、夜遅くなったときは、おとうに電話して迎えに来てもらった。土日は自分のオプティに乗って、職員専用駐車場に停めていた。

九月最後の日曜日。結婚式が数件入っていたせいか、午後のラウンジはかなり込み合っていた。あたしは三時から勤務に入ったが、もうてんてこ舞いだった。
「コーヒーと、紅茶と、ゴーヤージュースください」
「ねえ、サンドイッチまだ? もう十分なるよ?」
「すみませーん、チョコレートパフェ二つちょうだい!」
「ちょっと、ここのテーブル座りたいんだけど。早くさらぐゎーどけて!」

……あの、そんなに一度に言われても、わかりませんってば。
あたしは順序良く片付けようとしたが、頭はいっぱいいっぱいだった。ああ、ナースの仕事って大変なんだろうなー。だって、一つ一つの動作が、患者さんの命にかかわるもんね。これだけのことで音を上げちゃいけないなー。

三時間立ちっぱなしで、必死に仕事を片付けた。六時前になると、あんなにたくさんいたお客様が見事に消えた。やっぱり、披露宴だったんだ。
「多恵子さん、外、雨なの?」
主任の声に窓をみた。うわー、雨だ! こりゃ、夜はきっとヒマだ。
「参ったわねー。日曜日の稼ぎ時なのに」
主任は舌打ちをした。ホテルには一応、各セクション毎に、セールス目標ってのがあるのだ。今月の売り上げ目標まで、あと少しで到達するはずだ。
「多恵子さん、いまのうちに夕ご飯行っといで。三十分休憩ね?」
「じゃあ、行ってきます」
主任の言葉に、あたしは階下の職員食堂へ向かった。あたしは、ここの食事が好きだった。ホテルだけあって、なかなか、おいしかった。ちょうど閉店前であまりいいのは残っていなかったが、ご飯と味噌汁、野菜炒めとコロッケをいただいた。そのあと、売店で野菜ジュースを買って一気に飲み干すと、またラウンジへと向かった。

ウェイトレスたちが、ケーキのショーウィンドウの傍で、ひそひそ話をしている。
「どうしたの?」
「あ、おかえり多恵子」
答えたのは、看護学校のクラスメートでもある粟国あぐに里香りかだ。彼女は浦添から通っていた。
「あのさ、外国人のお客様みたいなのよ」
「外国人?」
「ほら、あそこ」
あたしは、里香の指す方向をみた。
シーンとしたラウンジのちょうど正面、大きな柱の側の9番テーブル。背広を椅子に掛け、半袖シャツにネクタイ姿の、金髪の男性が一人腰掛け、文庫本を開いている。
……え、あれ? ひょっとして?
「あたし、オーダー取ってきます」
みんながびっくりした。
「多恵子、英語しゃべれるの?」
「主任に任せたほうがいいんじゃない?」
「いいよ、あたし、行く」
あたしはメニューを片手にカウンターを飛び出した。

“Excuse me. May I help you ?”
(すみません、いかがされましたか?)

話しかけながら9番テーブルに向かった。客はあたしの顔を見てにっこり微笑んだ。
……やっぱり、勉だ。 さては、サンシンの稽古の帰りだな? おとうかおかあが話したのだろう。あたしがここにいるって。さては、からかいに来たのね。

“Hello !”
(こんにちは!)

ちょっと、なによその英語。そして、その眼鏡の奥の意地悪そうな目は? ずっと外国人のフリするつもり?
カチンと来た。ふーん、いいよ。そっちがその気なら、受けて立つよ。
あたしは、おひやを置きながら話しかけた。

“What can I do for you ?”
(ご注文はおきまりでしょうか?)

“Smile, please !”
(スマイル頂戴)

あんたねー、何考えてるの? ここはマクドナルドじゃないよ? まあ、折角のご要望ですから、にっこり微笑んであげました。でもさ、一応、何か取ってもらわなくっちゃ困るのよね。あたしはメニューを示した。

“Let me see….”
(ええっと……)

メニューを開いた勉は目を丸くしている。高い? そうだよねー。コーヒーが600円。ホテルですから。でもさ、ここのブレンドはすっごくおいしいんだよ!

“I recommand you our blend of coffee. It's pretty well.”
(ブレンドコーヒーをオススメします。なかなかのものです)

“I guess so, too, but….”
(でしょうね。でも……)

仕方がない。助けてあげよう。今回だけだよ。

“O.K. I'll treat you.”
(わかりました、おごります)

“Thank you !”
(ありがとう!)

ちょっと、ここのコーヒー、あたしの時給より高いんだからね。わかってる? 

「ホットです」
あたしはカウンターの里香に声を掛けた。
「多恵子、あんた、大丈夫だったの?」
「あれ、知り合いだから」
「知り合いって?」
幼馴染おさななじみだよ。あれでも日本人だからさ」
「日本人なの?」
みんな、びっくりしている。たしかに、‘パッと見’ は白人さんだね?
「クォーターって言うのかな。おじいちゃんがアメリカ人だったらしいよ」
「へえ」
驚くみんなを尻目に、あたしは出来上がったコーヒーを持って再び勉の元へ向かった。

コーヒーを持ったあたしを見て、勉がニッと笑って言った。
「うじゅー、ぷりんみー、かっぱっぱー?」
……こ、この男! む、むかつくー!
「えー、あんたの頭の上にコーヒー、ひっくり返いっけーらしても、いいかねー?」
あたしが低い声でそう言うと、とたんに勉は黙って、真顔で首を横に振った。勝負あり! 思わず心の中でピースサインしちゃいました。
これで、あたしのペースだ。テーブルにコーヒーを置きながら、質問攻めにしてみた。
「腋、包帯取れたんだ?」
「おかげさまでね」
「稽古の帰り?」
「ああ、いゃーがここにいるって言うから」
「なんで、背広着てるの? 彼女とデート?」
「家庭教師だよ。八時から、寄宮よせみやで」
寄宮は那覇の郊外、ほとんど南風原はえばるだ。家庭教師か。稼いでるはずだのに、なんでコーヒー代払えんの?



勉は文庫本を閉じ、コーヒーを啜った。
「うん、おいしいね。さすがだ」
「でしょ? 結構、評判だよ」
「本当に、お金、いいの?」
まあ、お金は次回から取る事にするか。
「今回はね。次は彼女とでもおいでよ」
勉はコーヒーカップを置き、首を振った。
「女は当分、いらないや」
「何で? ひょっとして、フラれたの?」
「ううん、フッた」

……どうも、むかつくんだよね。その一挙一動が。
「いやー、医学生だから僕、モテちゃってさー」
みたいな。ただでさえ、金髪で、背が高くて、ホントに外国人みたいだし。
中学、高校と、ただ道から歩いていても、女の子たちから、声掛けられてたもんね?
いいよねー、モテてモテて、さぞ、お困りでしょうね?

あたしは、プリプリ怒りながら空のトレーを持ってカウンターへ帰った。
「カッコイイね、多恵子さんの彼氏?」
主任がにこにこしながらあたしに尋ねた。あたしは、しっかり首を横に振った。
冗談じゃない! あんな奴が彼氏でたまるか!
「知り合いです、ただの」
「へえ、仲良さそうだったけど?」
「何でもないです!」
大声になってしまい、あたしは思わず自分の口を塞いだ。
「え、彼氏じゃないんだ?」
「もったいなーい!」

なんで、みんな、そんなに驚くわけ?
あたしは、ますます腹が立った。こんな下らない誤解までされて、何であんな奴にコーヒーをおごらなくっちゃいけないんだ?

十分くらい経って、勉がレジに現れた。
「多恵子さんの彼氏だったら、お会計はいいですよー」
主任は笑って勉に告げている。……だ、か、ら、彼氏でも何でもありませんってば!
「ご馳走様でした」
勉、あんたも笑ってないで、ちょっとは否定しなさいよ?
「またコーヒー飲みにいらしてくださいね」
あら、まあ。里香まで、ニコニコしちゃってさ。それに勉、あんた、鼻の下伸びてるよ? 里香みたいないい子に手を出したら、承知しないからね? 判ってるよね? ……ああ、もう、本当にむかつくー!

いらいらするから、勉のセリフ、取っちゃおーっと。……ということで、次章へTo be continued.
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