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第四話 募る不安
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王都に帰還したルイスに一目会う為、イェリは王宮に来ていた。
ルイス一行は王宮に到着後、王に謁見し、魔王討伐の旅について報告をしているとのことであった。
ルイスが本宮から出てくるのを待つため、薬剤部で時間を潰していたイェリは、同僚のレイザという女性に声をかけられた。
「あれ?イェリ、今日は休みじゃなかった??」
「あぁ······はい、ちょっと用事があって。」
「あ!分かった。もしかして、勇者様達が帰還したから、一目見たくて王宮に来たんじゃない?あなたも意外とミーハーなのね。」
「えぇ?いえ、ハハ·········」
言っていることはあながち間違ってはいないので、イェリは否定せず作り笑いをした。
「私、さっき実は勇者様達を遠目だけど見たわ。すごく素敵だったわよ。勇者のルイス様に、聖女のサリーヤ様でしょ、魔法使いのエイデル様に······私の推しの、騎士アクレン様!」
「推しがいるの?」
イェリが興味本意で訪ねると、レイザは興奮したように喋りだした。
「ええ!私がなぜアクレン様の推しかというと、アクレン様は勇者一行で唯一、魔力無しなのよ。でもなぜメンバーに選ばれたかというと、それは剣の実力のみで認められたからであって、彼の前には魔法も魔族も太刀打ちできない───」
仕事中にも関わらず、レイザの『アクレン推し』の話は延々と続いた。この一時間弱、イェリは何故か『魔力無しの騎士アクレン』について、必要以上に詳しくなったのだった。
しばらくすると、本宮の方が騒がしくなった。勇者一行の謁見が終わった様子であったので、イェリは急いで本宮門の前に待機し、中の様子を伺っていた。
「おい、お前何してる。」
本宮の警備をしている屈強な門番の一人に突然低い声で話しかけられ、イェリは驚き目を白黒させた。
「い、いえ、私はルイス様に用がありまして·······出てこられるのを待っているのです。」
イェリが正直に話すと、門番の男は目をギョロっと見開き、イェリを怒鳴り散らした。
「冗談もいい加減にしろ!!勇者様に用があるだと!?お前なんかが会えるお方ではない!帰れ!!」
イェリは門番の迫力に身体を強張らせ、一歩後ろに後ずさった。
「し、しかし、私は本当にルイス様の知り合いなのです。家族のような者で·······」
門番はさらに怒りを露にし、イェリに呆れと蔑みの目を向けた。
「今日で、勇者様の知り合いだという女が何人ここに来たと思う?皆、恋人だの、家族だのと言い繕い、勇者様に会おうとする女ばかりだった。」
「いえ、私は本当に嘘ではなく·······」
諦めの悪いイェリに我慢ならなくなった門番は、イェリの手首を掴むと、乱暴に振り払いイェリを地面に転がした。
「···········いたっ!────」
「口で忠告しているうちに帰らぬか!このストーカー女!!」
ここを通してもらうのは無理だと悟ったイェリは、痛む手首を擦りながら立ち上がり、おずおずと門番に願い出た。
「分かりました。今日は帰ります······あの、では私が来たということだけルイス様にお伝えいただけないでしょうか?私は王宮の薬剤部で働いているイェリと申します。待っていますと······お伝えください。」
「フン!!!」
門番はイェリを一瞥したあと、無視するかのように前を向き、再び無表情に戻った。
(この様子では、ルイスに伝えてもらえないかもしれない。まさか会うことも難しくなるなんて思いもしなかった·······)
イェリはがっくりと肩を落とし、とぼとぼと王宮を後にした。
確かに、ルイスは今や国の英雄で、イェリのような一般人が近付けるような相手ではないだろう。それでも、イェリはルイスにとって特別なはずだ。二人の絆が、こんなことで揺らぐはずはないと、この時のイェリは考えていた。帰還を果たしたばかりのルイスではあるが、落ち着いたらきっとイェリに会いに来てくれる、そう信じて疑わなかった。
しかし、それから三日間待っても、ルイスはイェリに会いにくることはなかった。忙しいにしても手紙や伝言すらなく、イェリは日に日に不安が募っていった。
そうして落ち着かない日々を過ごしていたイェリであったが、ある日上司から呼び出され、秘密裏の『特例案件』を受けた。
久しぶりの呼び出しだった為、もしかしたら、ルイスが内密に会いに来てくれたのではないかと期待したイェリであったが、部屋で先に待っていた、背の高いフードを被った男性を見た瞬間、明らかにルイスではないことが分かり、内心肩を落とした。
イェリが「失礼します。」と言い部屋の中に入ると、フードで顔を隠した大柄な男は椅子から立ち上がった。フードの隙間からは、短い金髪と形のよい唇が見えた。フード越しにもかなりの筋肉質だと分かり、戦闘に特化した兵士か傭兵だとイェリは予想した。
「突然すまない。君が特例を受けてくれる薬師だとツテで聞いたんだ。早速だが、本題に入ってもいいか?」
低く色気のある声だ。急いでいるのか、相手の男からは切迫したような雰囲気を感じた。
「はい。伺ってもよろしいですか?」
「俺にかけられた魅了魔法を解いてほしい。」
フードをゆっくりと外した瞬間、イェリは息を飲んだ。その男の顔に見覚えがあったからだ。
ルイスと共に魔王討伐に参加した男、同僚レイザの推し『魔力無しの騎士アクレン』だった。
ルイス一行は王宮に到着後、王に謁見し、魔王討伐の旅について報告をしているとのことであった。
ルイスが本宮から出てくるのを待つため、薬剤部で時間を潰していたイェリは、同僚のレイザという女性に声をかけられた。
「あれ?イェリ、今日は休みじゃなかった??」
「あぁ······はい、ちょっと用事があって。」
「あ!分かった。もしかして、勇者様達が帰還したから、一目見たくて王宮に来たんじゃない?あなたも意外とミーハーなのね。」
「えぇ?いえ、ハハ·········」
言っていることはあながち間違ってはいないので、イェリは否定せず作り笑いをした。
「私、さっき実は勇者様達を遠目だけど見たわ。すごく素敵だったわよ。勇者のルイス様に、聖女のサリーヤ様でしょ、魔法使いのエイデル様に······私の推しの、騎士アクレン様!」
「推しがいるの?」
イェリが興味本意で訪ねると、レイザは興奮したように喋りだした。
「ええ!私がなぜアクレン様の推しかというと、アクレン様は勇者一行で唯一、魔力無しなのよ。でもなぜメンバーに選ばれたかというと、それは剣の実力のみで認められたからであって、彼の前には魔法も魔族も太刀打ちできない───」
仕事中にも関わらず、レイザの『アクレン推し』の話は延々と続いた。この一時間弱、イェリは何故か『魔力無しの騎士アクレン』について、必要以上に詳しくなったのだった。
しばらくすると、本宮の方が騒がしくなった。勇者一行の謁見が終わった様子であったので、イェリは急いで本宮門の前に待機し、中の様子を伺っていた。
「おい、お前何してる。」
本宮の警備をしている屈強な門番の一人に突然低い声で話しかけられ、イェリは驚き目を白黒させた。
「い、いえ、私はルイス様に用がありまして·······出てこられるのを待っているのです。」
イェリが正直に話すと、門番の男は目をギョロっと見開き、イェリを怒鳴り散らした。
「冗談もいい加減にしろ!!勇者様に用があるだと!?お前なんかが会えるお方ではない!帰れ!!」
イェリは門番の迫力に身体を強張らせ、一歩後ろに後ずさった。
「し、しかし、私は本当にルイス様の知り合いなのです。家族のような者で·······」
門番はさらに怒りを露にし、イェリに呆れと蔑みの目を向けた。
「今日で、勇者様の知り合いだという女が何人ここに来たと思う?皆、恋人だの、家族だのと言い繕い、勇者様に会おうとする女ばかりだった。」
「いえ、私は本当に嘘ではなく·······」
諦めの悪いイェリに我慢ならなくなった門番は、イェリの手首を掴むと、乱暴に振り払いイェリを地面に転がした。
「···········いたっ!────」
「口で忠告しているうちに帰らぬか!このストーカー女!!」
ここを通してもらうのは無理だと悟ったイェリは、痛む手首を擦りながら立ち上がり、おずおずと門番に願い出た。
「分かりました。今日は帰ります······あの、では私が来たということだけルイス様にお伝えいただけないでしょうか?私は王宮の薬剤部で働いているイェリと申します。待っていますと······お伝えください。」
「フン!!!」
門番はイェリを一瞥したあと、無視するかのように前を向き、再び無表情に戻った。
(この様子では、ルイスに伝えてもらえないかもしれない。まさか会うことも難しくなるなんて思いもしなかった·······)
イェリはがっくりと肩を落とし、とぼとぼと王宮を後にした。
確かに、ルイスは今や国の英雄で、イェリのような一般人が近付けるような相手ではないだろう。それでも、イェリはルイスにとって特別なはずだ。二人の絆が、こんなことで揺らぐはずはないと、この時のイェリは考えていた。帰還を果たしたばかりのルイスではあるが、落ち着いたらきっとイェリに会いに来てくれる、そう信じて疑わなかった。
しかし、それから三日間待っても、ルイスはイェリに会いにくることはなかった。忙しいにしても手紙や伝言すらなく、イェリは日に日に不安が募っていった。
そうして落ち着かない日々を過ごしていたイェリであったが、ある日上司から呼び出され、秘密裏の『特例案件』を受けた。
久しぶりの呼び出しだった為、もしかしたら、ルイスが内密に会いに来てくれたのではないかと期待したイェリであったが、部屋で先に待っていた、背の高いフードを被った男性を見た瞬間、明らかにルイスではないことが分かり、内心肩を落とした。
イェリが「失礼します。」と言い部屋の中に入ると、フードで顔を隠した大柄な男は椅子から立ち上がった。フードの隙間からは、短い金髪と形のよい唇が見えた。フード越しにもかなりの筋肉質だと分かり、戦闘に特化した兵士か傭兵だとイェリは予想した。
「突然すまない。君が特例を受けてくれる薬師だとツテで聞いたんだ。早速だが、本題に入ってもいいか?」
低く色気のある声だ。急いでいるのか、相手の男からは切迫したような雰囲気を感じた。
「はい。伺ってもよろしいですか?」
「俺にかけられた魅了魔法を解いてほしい。」
フードをゆっくりと外した瞬間、イェリは息を飲んだ。その男の顔に見覚えがあったからだ。
ルイスと共に魔王討伐に参加した男、同僚レイザの推し『魔力無しの騎士アクレン』だった。
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