必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「いいえ、主上。帝たる主上と衛府の将軍たる芳次公のお気持ちが、目指す場所が同じであれば、必ずしも戦をする必要はございません。主上、これは華都や衛府の問題なのです。この国に住まう民に犠牲を強いるは酷というもの。上に立つならば、国を動かす者だと豪語するのならば、彼らの犠牲の上に成り立つものを目指し、あまつさえその犠牲を〝仕方のないこと〟と言ってないがしろにしてはなりません」
 それを帝に言うのは不敬だ。弥生は帝の考えを否定するどころか、説教をしたに等しいのだから。もしも人払いがされていなければ、弥生は今頃華都の兵に捕らえられ、不敬罪で首を刎ねられていてもおかしくはなかっただろう。だが帝はむしろ面白いと言わんばかりに上がった口端を隠すようパチリと扇を広げ、視線だけで続きを促した。
「主上は先程、静姫宮様と鶴頼様を秘密裏に華都へ戻すと仰った。それはお二人が主上にとって何にも代えがたい大切な存在であることに他なりません。ですが主上、誰かを大切に思うのに、貴賤は関係ございません。民にもまた、失いたくない大切な者がいるのです。彼らから大切な者を奪い、平穏な明日を奪う権利は、たとえ華都であろうと衛府であろうとありません。奪われて仕方がないとすませて良いモノなど、何一つとしてないのです」
 弥生の脳裏に浮かんでは消える、大切な者たち。それは弥生だけではない。民の一人一人にも存在するはずだ。
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