必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「実はね、お多恵の婚約が決まったんだよ。この前言ってた、呉服問屋の息子さんとのね。今はあちらが忙しいから、それが落ち着いたら顔合わせをして、結納をする予定でね」
 あぁ、と雪也は頷く。末子は雪也と彼に面識があることを知らないが、呉服問屋の息子とは、雪也に金はしっかり受け取るべきと説いた老人の息子――兵衛の事だろう。歳も多恵とそう変わらなかったと記憶している。あまり表情は動かないが、それでも実直で優しい男であることを知る雪也としても、彼と多恵の婚約は喜ばしいことだった。
「それは確かに、嬉しいことですね」
「ふふふ、そうだろう? あそこの店は繁盛してるから、金に困ることもないだろうし、あの息子ならお多恵に酷いことはしないだろう。近臣のお屋敷や大奥を除けば、一番良い嫁ぎ先さ。もちろん、大奥や近臣のお屋敷に行けるならそれにこしたことはないだろうが、まぁ、あたしらみたいな庶民には縁がないからね」
 多恵に与えられる縁の中では、一番の嫁ぎ先だと末子は笑う。己が娘の幸せが嬉しくて仕方がないのだろう。それに雪也も微笑みながら、胸の内でほんの少し苦笑した。
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