必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 弥生たちは随分と忙しいのか、時折訪れては滞在していった紫呉も来なくなって久しくなった。彼らと話すどころか姿も見えないことに寂しさは募るが、それ以外は特に変わることのない日常が流れていく。由弦がサクラと外で走り回る声が聞こえ、周は手際よく食事を作り、雪也は静かに薬を作っていく。そして作り終えた薬を籠に入れて、雪也は庵の外へ出た。今日は老夫婦と末子への薬を届けに行かなければならない。
 いつも通り声をかけてくれる町人に軽く挨拶をして、先に老夫婦へと薬を届ける。そこで少し雑談をして、次は末子の長屋へ向かった。
「おや雪也ちゃん、いらっしゃい」
 縫物をしていた末子が、雪也の姿を見止めてニコリと笑みを浮かべる。それに笑みを返して、雪也は近づいた。多恵は出かけているのだろう、末子一人が座っているのを見て少し安堵しながら、雪也は末子の近くに腰を下ろす。
「いつもの薬を持ってきました。足の具合はどうですか?」
 差し出した薬を受け取りながら、末子は機嫌よさそうに微笑む。
「良いことがあったからね。足も随分と調子が良いよ」
「足の調子も良くなるとあっては、よほど良い事なのですね」
 あまり他者の内情に踏み込むことをしない雪也であるが、聞いてほしいと全身で訴えているのがわかり、あえて末子に問いかける。その問いを待ってましたとばかりに笑って、末子は縫っていた衣を撫でた。
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