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三章
3-38 あれは何の精霊だ?
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「ほらほら、折角のパレードだよ! 歌って踊り始めたし!」
シアが視線に気が付いて恥ずかしそうに、賑やかな方を指した。
きらびやかな衣装を纏った人達が、踊っている。
確かにこれは精霊をあがめるような内容に近い。よくよく歌詞を聞いてみると、精霊という単語こそは使っていないものの「木々の実りに感謝し」とか「美しい自然を」だとか、そういう言葉がふんだんに使われている。
精霊達も楽しそうに踊っているし、そういうものなんだな。
……うお、舞の近くで得体のしれない精霊が一緒に踊ってるぞ! なんだあの、ニワトリにトカゲのしっぽが生えたような面妖な精霊!
それらは舞と一緒にゆっくりと前進し、人の中を練り歩き、暫くするとこちらに戻ってきた。パレードっていうくらいだから、かなりの範囲で踊っている人が練り歩いていたのだろう。
びっくりするのは、この賑やかで、華やかなパレードの中に、よくわからない精霊が混ざっている事だ。
「なぁ、スティア。あれ……」
「わ、わかっている。見えているが……。あれは何の精霊だ?」
どうもスティアもわからないらしい。
「あれはヴニヴェルズムよ。本局にヴニヴェルズムの三兄弟が勤めているから、その関係なんじゃない?」
「あれが、ヴニヴェルズム」
ルイザの答えに、オレは改めてまじまじと見つめた。同じように、スティアも、ディオンも、ラナも見つめている。
共通しているのは、全員「なんであんな姿なんだろう」という表情をしているところだ。
華やかなパレードは盛り上がったし、よかったけど、どうしても精霊が気になって仕方がなかった。そんなパレードもやっと終わり、今度は壇上に男性が上がった。
赤髪の、髭の男性は管理官の制服の上からマントをつけているような恰好をしている。
「国王陛下からの一言」
進行役の声を聴いてから、男性――クロッカス国王陛下はゆっくりと頷いた。何故か陛下の肩には何体かのヴニヴェルズムがのって、陛下と同じタイミングで頷く。
……何やってんの、あいつら。
「今年もこの武術大会が大きく開催される事を嬉しく思う。皆、大きな怪我をしないよう、注意をしてくれ」
『いたいのいたいの、とんでいってほしい』
あの、精霊の声も拾って、こっちまで聞こえてるんだけど。
オレは「えー」と思いながらシアやベルを見るが、特になんとも思っていないようだ。拡声器が精霊の声を拾っても、精術師にしか聞こえないんだな。
ベル辺り、残念がるだろうなぁ。これを知ったら。
「皆、大いに盛り上がり、楽しんでくれ」
『おおもりあがり、たのしい』
『よろしく、です』
陛下がもう一度大きく頷くと、肩のヴニヴェルズムも頷く。そして、陛下とヴニヴェルズムは下がった。
えっと……盛り上げればいい、ん、だな?
「王族の皆様から、一言ずつ頂戴致します」
陛下の代わりに壇上に上がったのは、くすんだ金髪の女性と、赤髪の男性の二人だ。
「えー、第一王位継承者であるカサブランカ様は体調が優れない為、従者である私、ライリー・ヴニヴェルズムと、その部下にあたるリリウム・ドライツェーン・バーナーが言付けを預かって参りました」
え! あの人がヴニヴェルズムの人!?
女性とはいえ、オレとそんなに歳が離れている感じもない。肩で切りそろえたくすんだ金の髪も、どこか獣を思わせる金色の瞳も、その人の個性程度でどこも特別には見えない。
だが、精術師でありながら第一王位継承者のカサブランカ様の従者をしている、というのは、特殊すぎる。胸の階級章も、彼女が十二枚の管理官である事を示していた。
同様に、隣の男も。
この隣の男……リリウムだっけ? この人、なんか陛下に似てるんだけど……。部下って言ってるけど、実は血縁者か?
男は懐から紙を取り出すと、読み上げ始めた。
「皆様、この度はお集まり頂き、誠にありがとうございます。伝統あるこの行事も、国の歴史同様歳を重ねておりますが、今年より、新しいルールが追加されました」
『そう。せいじゅつ、かいきん』
『いっぱいたのしい、たのしい、ってしてね』
ヴニヴェルズムの……えーっと、ライリーさんの肩やら頭やらに止まったヴニヴェルズムが、やはり言葉を続けている。
いや、お前らどんなポジションなんだよ。オレ達の近くで、ツークフォーゲルとエーアトベーベンが爆笑してるんだけど。ヴァイスハイトは、なんか呆れてる感じだけどさ。
「今後もこうして少しずつ新しい形へと姿を変えていく事でしょう。伝統を引き継ぎ、しかし新しさも取り込んでいく国の姿に、喜びを感じております。国の未来に、幸多からん事を」
『ヴニヴェルズムはしゅくふくする』
『みんな、しあわせがいいな』
お、おう、そうだな。
「以上が、カサブランカ様からのお言葉です。これをもっての挨拶とさせて頂きます」
ライリーさんとリリウムさんがペコリと頭を下げ、やはり壇上を下りると、一緒にヴニヴェルズムも頭を下げて去っていった。
あの人、ヴニヴェルズムがあんなふうにしているのを見る事に慣れてるのかな。もの凄く自然だった気がする。
次に壇上に上がったのは、黒髪の男だった。もれなくそいつの肩にもヴニヴェルズムが乗っている。
王族全員分、これやるの?
「かわりまして、第二王位継承者のクレマチス・ドライツェーン・アウフシュナイターです。本日はお集まり頂き、ありがとうございます」
『ありがとうございます。ヴィニヴェルズム、うれしい』
う、嬉しいか。それはよかった。
クレマチス様が微笑むと、ヴニヴェルズムも小さく『にこー』と口にした。うちのツークフォーゲルもそうだが、鳥にはくちばしがあって、あんまり「にっこり」って感じにはならない。
あ、どの精霊でもそれは一緒だったわ。
「幸いな事に天気にも恵まれ、こうして無事開催出来た事を嬉しく思います。さて、本日は大きな行事という事もあり、沢山の出店も並んでおります。すでに楽しまれた方も多いのではないでしょうか」
昨日から盛り上がってるしな。オレも昨日、いくつか買って食べたりもしたし。
「大いに盛り上がっているようで嬉しい限りではありますが、昨年はお子様方が走って屋台に突っ込んでしまう、などといったトラブルなどもございました。どうか皆様、全員楽しめるよう、そういった部分にも注意をしてお過ごし下さい」
『いたいの、よくない』
屋台に突っ込んだら、大惨事になったんじゃなかろうか。去年も来ていたっぽいベルの方をちらっと見ると、大きく頷いていた。
うん、大惨事だったんだな。
「また、万全を期して随所に管理官を配置し、見回りも行っております。万が一不審者、不審物などをお見かけの際は、お近くの管理官への報告をお願い致します」
この人の挨拶、なんか偉い人の挨拶っていうよりは、注意喚起っぽいな。管理局の中での偉い人だから、なのか?
「挨拶というには注意事項が多く、申し訳ありません。ただ、この注意を心にとめ、どうか皆様、最後までお楽しみ下さい」
『たのしんでね。にこにこがいいよ』
彼はそう締めると、ヴニヴェルズムと共に壇上を下りた。
さぁ、ヴニヴェルズムは次も来るのか!?
シアが視線に気が付いて恥ずかしそうに、賑やかな方を指した。
きらびやかな衣装を纏った人達が、踊っている。
確かにこれは精霊をあがめるような内容に近い。よくよく歌詞を聞いてみると、精霊という単語こそは使っていないものの「木々の実りに感謝し」とか「美しい自然を」だとか、そういう言葉がふんだんに使われている。
精霊達も楽しそうに踊っているし、そういうものなんだな。
……うお、舞の近くで得体のしれない精霊が一緒に踊ってるぞ! なんだあの、ニワトリにトカゲのしっぽが生えたような面妖な精霊!
それらは舞と一緒にゆっくりと前進し、人の中を練り歩き、暫くするとこちらに戻ってきた。パレードっていうくらいだから、かなりの範囲で踊っている人が練り歩いていたのだろう。
びっくりするのは、この賑やかで、華やかなパレードの中に、よくわからない精霊が混ざっている事だ。
「なぁ、スティア。あれ……」
「わ、わかっている。見えているが……。あれは何の精霊だ?」
どうもスティアもわからないらしい。
「あれはヴニヴェルズムよ。本局にヴニヴェルズムの三兄弟が勤めているから、その関係なんじゃない?」
「あれが、ヴニヴェルズム」
ルイザの答えに、オレは改めてまじまじと見つめた。同じように、スティアも、ディオンも、ラナも見つめている。
共通しているのは、全員「なんであんな姿なんだろう」という表情をしているところだ。
華やかなパレードは盛り上がったし、よかったけど、どうしても精霊が気になって仕方がなかった。そんなパレードもやっと終わり、今度は壇上に男性が上がった。
赤髪の、髭の男性は管理官の制服の上からマントをつけているような恰好をしている。
「国王陛下からの一言」
進行役の声を聴いてから、男性――クロッカス国王陛下はゆっくりと頷いた。何故か陛下の肩には何体かのヴニヴェルズムがのって、陛下と同じタイミングで頷く。
……何やってんの、あいつら。
「今年もこの武術大会が大きく開催される事を嬉しく思う。皆、大きな怪我をしないよう、注意をしてくれ」
『いたいのいたいの、とんでいってほしい』
あの、精霊の声も拾って、こっちまで聞こえてるんだけど。
オレは「えー」と思いながらシアやベルを見るが、特になんとも思っていないようだ。拡声器が精霊の声を拾っても、精術師にしか聞こえないんだな。
ベル辺り、残念がるだろうなぁ。これを知ったら。
「皆、大いに盛り上がり、楽しんでくれ」
『おおもりあがり、たのしい』
『よろしく、です』
陛下がもう一度大きく頷くと、肩のヴニヴェルズムも頷く。そして、陛下とヴニヴェルズムは下がった。
えっと……盛り上げればいい、ん、だな?
「王族の皆様から、一言ずつ頂戴致します」
陛下の代わりに壇上に上がったのは、くすんだ金髪の女性と、赤髪の男性の二人だ。
「えー、第一王位継承者であるカサブランカ様は体調が優れない為、従者である私、ライリー・ヴニヴェルズムと、その部下にあたるリリウム・ドライツェーン・バーナーが言付けを預かって参りました」
え! あの人がヴニヴェルズムの人!?
女性とはいえ、オレとそんなに歳が離れている感じもない。肩で切りそろえたくすんだ金の髪も、どこか獣を思わせる金色の瞳も、その人の個性程度でどこも特別には見えない。
だが、精術師でありながら第一王位継承者のカサブランカ様の従者をしている、というのは、特殊すぎる。胸の階級章も、彼女が十二枚の管理官である事を示していた。
同様に、隣の男も。
この隣の男……リリウムだっけ? この人、なんか陛下に似てるんだけど……。部下って言ってるけど、実は血縁者か?
男は懐から紙を取り出すと、読み上げ始めた。
「皆様、この度はお集まり頂き、誠にありがとうございます。伝統あるこの行事も、国の歴史同様歳を重ねておりますが、今年より、新しいルールが追加されました」
『そう。せいじゅつ、かいきん』
『いっぱいたのしい、たのしい、ってしてね』
ヴニヴェルズムの……えーっと、ライリーさんの肩やら頭やらに止まったヴニヴェルズムが、やはり言葉を続けている。
いや、お前らどんなポジションなんだよ。オレ達の近くで、ツークフォーゲルとエーアトベーベンが爆笑してるんだけど。ヴァイスハイトは、なんか呆れてる感じだけどさ。
「今後もこうして少しずつ新しい形へと姿を変えていく事でしょう。伝統を引き継ぎ、しかし新しさも取り込んでいく国の姿に、喜びを感じております。国の未来に、幸多からん事を」
『ヴニヴェルズムはしゅくふくする』
『みんな、しあわせがいいな』
お、おう、そうだな。
「以上が、カサブランカ様からのお言葉です。これをもっての挨拶とさせて頂きます」
ライリーさんとリリウムさんがペコリと頭を下げ、やはり壇上を下りると、一緒にヴニヴェルズムも頭を下げて去っていった。
あの人、ヴニヴェルズムがあんなふうにしているのを見る事に慣れてるのかな。もの凄く自然だった気がする。
次に壇上に上がったのは、黒髪の男だった。もれなくそいつの肩にもヴニヴェルズムが乗っている。
王族全員分、これやるの?
「かわりまして、第二王位継承者のクレマチス・ドライツェーン・アウフシュナイターです。本日はお集まり頂き、ありがとうございます」
『ありがとうございます。ヴィニヴェルズム、うれしい』
う、嬉しいか。それはよかった。
クレマチス様が微笑むと、ヴニヴェルズムも小さく『にこー』と口にした。うちのツークフォーゲルもそうだが、鳥にはくちばしがあって、あんまり「にっこり」って感じにはならない。
あ、どの精霊でもそれは一緒だったわ。
「幸いな事に天気にも恵まれ、こうして無事開催出来た事を嬉しく思います。さて、本日は大きな行事という事もあり、沢山の出店も並んでおります。すでに楽しまれた方も多いのではないでしょうか」
昨日から盛り上がってるしな。オレも昨日、いくつか買って食べたりもしたし。
「大いに盛り上がっているようで嬉しい限りではありますが、昨年はお子様方が走って屋台に突っ込んでしまう、などといったトラブルなどもございました。どうか皆様、全員楽しめるよう、そういった部分にも注意をしてお過ごし下さい」
『いたいの、よくない』
屋台に突っ込んだら、大惨事になったんじゃなかろうか。去年も来ていたっぽいベルの方をちらっと見ると、大きく頷いていた。
うん、大惨事だったんだな。
「また、万全を期して随所に管理官を配置し、見回りも行っております。万が一不審者、不審物などをお見かけの際は、お近くの管理官への報告をお願い致します」
この人の挨拶、なんか偉い人の挨拶っていうよりは、注意喚起っぽいな。管理局の中での偉い人だから、なのか?
「挨拶というには注意事項が多く、申し訳ありません。ただ、この注意を心にとめ、どうか皆様、最後までお楽しみ下さい」
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