管理官と問題児

二ノ宮明季

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1章

1-20 優先順位を見失いませんよう

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 朝からナスタチウムさんの部屋に行き、朝食の世話をして薬を飲ませる。それから、俺の部屋から持参した飴玉をナスタチウムさんの口に放って口直しをさせてから出勤。
 たまりにたまった仕事と、新たに加わる報告を全て聞き、クレソンさんとの話し合い。
 大捕り物とナスタチウムさん沈没の影響で、今日もバタバタしている。そのせい、だったのだろう。

「ナスタチウムさんの世話までしているらしいですね」

 こんな風に、クレソンさんに言われたのは。
 決して好意的な響きの言葉ではない。どちらかと言えば嘲笑。それよりは呆れ。そして苛立ち。

「そうですね。何か問題でも?」
「体調管理も出来ないような輩の相手をしているなんて、理解に苦しみます」

 俺が勝手にやっている事なのだから、放っておけばいいのに。

「貴方の休息時間をナスタチウムさんに取られ、この状況で万が一貴方にも倒れられでもしたら、一体どうなるのか……お考えになったりはしませんか?」
「私は、この程度で倒れるほど軟ではありませんし、ナスタチウムさんが快方に向かわれるのは、早い方が良い。その方が、混乱は落ち着いて行くのではないかと」

 なるほど、俺が倒れる事に対する不安。それによって引き起こされるであろう状況への懸念。どちらも彼に降りかかる「災い」を案じての物か。

「……貴方は、大捕り物に加えられる可能性もありますよね」

 元々、荒事に対しての介入も多い。確かに、状況によっては加えられるだろう。
 俺は「そうですね」と相槌を打った。

「優先順位を見失いませんよう」
「ご忠告、痛み入ります」

 まぁ、ナスタチウムさんが良くなるまで、世話を止める気はないのだが。
 俺がやらなくとも誰かがやってくれるのならいい。けれども、俺が行っている間、ただの一人もナスタチウムさんのお見舞いには来なかったではないか。
 普通課に居る、ナスタチウムさんの父でさえ。
 俺にはどうしても放っておけなかった。怖がられているのを知りながらも。傷つきながらも。

「わかったのならいいんです。では、仕事に戻りましょう」
「はい。今日もよろしくお願い致します」

 じっとクレソンさんに視線を向けていると、彼はバツが悪そうな顔をして、仕事に戻った。余程上からじっと見られる事に圧迫感を覚えたのだろう。
 別に睨んだつもりもないが、あまり表情の変わらないこの顔と、恵まれた体格が化学反応を起こし、相手に「恐怖」に近い感情を与える事は、多々あるようだ。が、俺にはどうしようも無い部分なので、ある程度は妥協して頂きたい。
 俺は小さくため息を吐くと、また大暴走をしているネモフィラ様が待つ、ナスタチウムさんの執務室へと足を向けた。

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