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5章 晩冬堕天戦
17. 命短し速度ぶち上げろ乙女
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運命の日だ。
今日、レヴリッツ・シルヴァの命運は決まる。
マスター級昇格戦はプロ級昇格戦と異なり、チャンスが一度しかない。
一度敗北した時点で長期間の修行を挟まなければならなくなる。
「……昔から緊張には弱いんだ」
レヴリッツの鼓動は、この上なく高鳴っていた。
Oathの皆や、同僚たち、協会の人たちからも激励の言葉をもらった。
ファンも全力で応援してくれているのだろう。
声援など何の実益にもならない。以前の彼ならばそう考えていただろう。
だが、少なくとも。今は彼の精神を多少なりとも安定させてくれている。
『みなさま、お待たせいたしました!
とうとうこの日がやって参りました! はたして今日は伝説の日となるのか!? これより、レヴリッツ・シルヴァのマスター級昇格戦を開始いたします!
挑戦者の入場です! 東側、レヴリッツ・シルヴァー!』
気が付けば、その瞬間は迫っていた。
呆然と緊張の中で立ち尽くしていたレヴリッツ。心の準備もできていないままに、バトルパフォーマンス最高の舞台に叩き出される。
一つの通過儀礼だ。
何の苦慮もなしに通過儀礼を成し遂げられるわけがない。
この緊張もまた、一つの試練。
「行くか」
彼は自信に満ちた笑みを作ってバトルフィールドへ歩き出した。
何回経験しても、大勢の前で闘うのは慣れない。
その方が新鮮味があって面白いかもしれないが。
カメラへ、客席へ、至る所に手を振って笑顔を振りまく。
客席ではヨミ、リオート、ペリが並んで席に座っていた。
恥ずかしい姿は見せられない。
やがて中央に立ったレヴリッツは、相手の登場を待つ。
『続いて、試験官の入場です!
西側……ユニ・キュロイー!』
試験官の名が呼ばれると同時、聞いたこともない歓声の嵐が巻き起こった。
これがマスター級の名声か。
やや早めの歩調でやって来たのは、桃色の髪の少女。
藍色のメッシュが特徴的だ。
目につくのは、風の抵抗を極限まで減らしたコート。
ついでにバイザーを額につけている点も目立つ。
彼女はレヴリッツにとっても見覚えがある。
たしか綾錦杯の際、カガリに殺されかけていた少女だ。
とりあえず無難な挨拶をしておく。
「はじめまして。レヴリッツ・シルヴァと申します。
本日は対戦よろしくお願いします」
「ぼくはユニ・キュロイ。
もちろん、ぼくのことは知ってると思うけど」
「いや……申し訳ないです。僕は基本的に格上の情報は閲覧しないようにしているので……ユニ先輩がどんなバトルパフォーマーなのか知らないんですよね。
配信で名前くらいは聞いたことあるんですけど」
「えっ……地味にショックなんだけど。もしかしてぼくの知名度、まだまだ足りない? ちなみにだけどさ、なんで格上の情報は見ないの?」
「だって……初見の闘いを楽しみたいじゃないですか。ユニ先輩だって僕の戦闘スタイルはあまり分析してないでしょう?」
レヴリッツの言葉に、ユニは目を見開く。
確かにそうだ。
昨日のイルクリスとの闘いは試験官として見たが、そこまでガチの分析はしていない。他のバトルパフォーマンスも分析しようとは思わなかった。
もしかしたら、初見でレヴリッツと闘うのを楽しみにしていたかもしれない。
長らく戦闘の興奮を味わっていなかったユニ。
彼女はとっくに忘れかけていた楽しみを思い出す。
「……うん。やっぱりさぁ。
きみ、マスター級になるべきじゃないよ」
「は? 喧嘩売ってます?」
「ピキんなっつの。夢を見てた方が幸せな時期もあるんだって。
ま、いいよ。どうせレヴリッツくんは……ぼくが蹴落とすから」
ユニは額のバイザーを下ろし、腰にさげた鉤爪を装着した。
これが彼女の戦闘スタイルだ。
「当然、僕は勝ちに来たので。勝ちます。
──レヴリッツ・シルヴァ」
これ以上、交わす言葉はない。
正確に言えば、これ以上言葉を交わすとレヴリッツの精神が持たない。
「きみが天才ならそれでいい。でも……凡才なら、ここで終わってもらうよ。
──ユニ・キュロイ」
一触即発。
張り詰めた静寂が渦巻いている。
この場の誰もが鼓動を高鳴らせていた。
ただ一人……観客席からそっと見物する黄金の少女を除いて。
静寂を破ったのは試合開始の宣告。
『両者、準備完了です!
レヴリッツ・シルヴァは頂点の一角となり得るのか!
はたまたユニ・キュロイはレヴリッツの快進撃を否定するのか!?
──試合開始です!』
刹那。
一秒にも満たない空隙であった。
試合開始の音が鳴るのと、ほぼ同時に。
「"遅い"」
ユニが消えた。
そして、一本の線のようなものが駆けた。
「っ……!?」
一拍遅れて、レヴリッツの左腕に創傷が出来る。
着物の端がはらりと舞う。鮮血と共に中空を漂う。
レヴリッツは咄嗟に魔力を全身に通し、速度と反射神経を補強する。
振り向いた背後にはユニが足を揺らして立っていた。
「遅いよ。今の一撃、初手だから手加減してあげたけど……急所突いたら、どうなってた?」
「……負けてませんよ。今の攻撃で急所を突かれても僕は負けていない」
「うえー? 生意気すぎね?
絶対負けてたよね?」
「いいえ、負けていません。何故なら……」
カチャリ、と。鍔鳴りが響く。
音と共に舞ったのは……桃色の毛。
ユニの毛先がわずかに散っていた。
「今の一撃、初手だから手加減してあげましたけど……バッサリいったら、どうなってました?」
「……ぼくがハゲになってる。でも乙女の髪を切るのはNGね。
うん、オッケー。ま、まぁ……とりあえず出だしは合格ってとこかな?
あはは……」
「そうですね、ははは……」
二人は赤面しつつ苦笑い。
正直に言えば、互いに互いの攻撃を見切れていなかった。
ここは手打ちということにしておく。
ユニは持ち前の速度で。レヴリッツは持ち前の気配察知で。
互いに初手の攻撃を浴びせたことになる。
(マズい……速すぎる)
レヴリッツは余裕の笑みを浮かべているが、内心は焦っていた。
勝負が始まって間もないというのに、彼の額には冷汗が滲み出ていた。
ユニの速度はおよそ人間のそれではない。
たとえ魔力によって反射神経を極限まで錬磨し、動体視力を上げたとしても……姿を捉えることはできないだろう。
これがマスター級の真価。
今のように持ち前の感覚で攻撃を防いでも、やがて限界は来る。
どうにかしてユニの速度を対策しなければ勝機はない。
「うーん……なんで見えてるんだろ? おかしいなぁ……」
「ユニ先輩、めちゃくちゃ速いですね。速すぎて若干キモいです」
「でしょでしょ。人間が1秒あたりに認識できるのは240フレームが限界。
魔力による神経強化を施しても、最高で1秒あたり3215フレーム。ぼくの幻術はフレームを重ね掛けすることによって、神経強化を以てしても見切れない攻撃を繰り出す。
でもレヴリッツくんは反撃したよね?」
「そ、そうですよ(便乗)」
幸いなことに、ユニはどうやってレヴリッツが敵影を捉えているのか気がついていないようだ。
まだ『見えている』と勘違いさせていれば、動きを制限できる可能性はある。
「試してみようか」
今一度、ユニが地を蹴る。
眼前に桃色の光線が舞った。衝撃。
レヴリッツが直感で傾けた刀をなぞり、鉤爪の刃が走る。
またもや直感による防御。
このまま全ての攻撃を往なせればいいが、そう簡単にはいかないだろう。
「ふむ……ぼくもまだまだ速さが足りないということか。
──《加速》」
「えっ、まだ速くなるんですか?」
「あと十段階くらい速くできるけど」
「吐きそう」
相手がめちゃくちゃ速い。ただそれだけの事実で。
すでにレヴリッツの勝機は潰されかけていた。
こんな時、レヴリッツの知る人だったらどう対処しているだろうか。
例えばヨミ。彼女ならば目を閉じながらユニの攻撃をすべて躱せるだろう。
あるいは昨日闘ったイルクリス。
彼ならばシールドを展開し、速度で打ち破れない弾幕を作り出すだろう。
各々の長所を生かして強敵を攻略する。それが戦闘というもの。
だが、今のレヴリッツには──
(……ない。彼女を攻略できる手段が存在しない)
少なくとも、竜殺しの剣術では分が悪すぎる。
忍術も命中させることはできない。
誇りを捨てて殺しの術に手を染めるか。いや、それは彼の矜持が許さない。
「独壇場──虚心舞台」
一つだけの可能性。
レヴリッツの独壇場は領域内の相手に幻惑を齎す。
「……わーきれい」
ユニはバトルフィールドを塗り替えた領域をざっと見る。
空中に浮かぶ音叉の数々。窓から射し込む蠱惑的な青き光。
見た目こそ幻想的だが、独壇場はどんな危険が潜んでいるかわからない。
鼓膜を叩いた妙音。三味線のような心地よい音が響く。
ユニが警戒する中、いつしかレヴリッツの姿が消えていた。
「《雷鳴》」
「──!」
気配なく現れた刀の切っ先。
刀に宿された雷がユニを裂く。
彼女は負傷した左手を抑えつつ、猛烈なスピードで走る。
とりあえず高速で走っていれば攻撃は当たらないはず。
(レヴリッツくんが消えた……? 瞬間移動してる?
これが独壇場の権能だとすれば、なかなかに厄介……)
再び弦音。
ユニは「何か」に激しく衝突した。
「いったぁ!?」
壁だ。直前には見えていなかったバトルフィールドの壁に衝突した。
立ち眩みを抑え、彼女は咄嗟に身をよじる。
先程と同じように刀が現れた。
全方位から音叉を伝って足音が響く。
レヴリッツの気配が至る所に感じられた。
予想通り。
これは幻惑を見せるタイプの独壇場だ。
戦闘経験豊富なユニだからこそ、この短い時間でレヴリッツの権能を看破できた。
いくらスピードを高めても、幻を見せられて誘導されては打つ手がない。
「ねえレヴリッツくん、知ってる? 独壇場の壊し方」
虚空に向かってユニは問いかけた。
すると問いかけた方角からレヴリッツの声だけが返ってくる。
「はぁ……知らないですね。ワ〇ップに書いてありますか?」
「簡単だよ!
まず、独壇場には"質"……レベルがあるのだ。
例えばレヴリッツくんの独壇場が発動している状態で、ぼくの独壇場を発動すると……
結果 : ぼくの勝ち」
刹那、世界が爆ぜた。
ユニの全身から立ち昇った魔力が、レヴリッツの領域を破壊していく。
空間がひび割れ、徐々にレヴリッツの魔力が崩壊。ユニの魔力が侵食。
「どこまでも速く。
独壇場──」
──《韋駄天幻狼》
ユニの独壇場、【韋駄天幻狼】
彼女の強靭なる領域は、レヴリッツ唯一の希望を容易く破壊した。
今日、レヴリッツ・シルヴァの命運は決まる。
マスター級昇格戦はプロ級昇格戦と異なり、チャンスが一度しかない。
一度敗北した時点で長期間の修行を挟まなければならなくなる。
「……昔から緊張には弱いんだ」
レヴリッツの鼓動は、この上なく高鳴っていた。
Oathの皆や、同僚たち、協会の人たちからも激励の言葉をもらった。
ファンも全力で応援してくれているのだろう。
声援など何の実益にもならない。以前の彼ならばそう考えていただろう。
だが、少なくとも。今は彼の精神を多少なりとも安定させてくれている。
『みなさま、お待たせいたしました!
とうとうこの日がやって参りました! はたして今日は伝説の日となるのか!? これより、レヴリッツ・シルヴァのマスター級昇格戦を開始いたします!
挑戦者の入場です! 東側、レヴリッツ・シルヴァー!』
気が付けば、その瞬間は迫っていた。
呆然と緊張の中で立ち尽くしていたレヴリッツ。心の準備もできていないままに、バトルパフォーマンス最高の舞台に叩き出される。
一つの通過儀礼だ。
何の苦慮もなしに通過儀礼を成し遂げられるわけがない。
この緊張もまた、一つの試練。
「行くか」
彼は自信に満ちた笑みを作ってバトルフィールドへ歩き出した。
何回経験しても、大勢の前で闘うのは慣れない。
その方が新鮮味があって面白いかもしれないが。
カメラへ、客席へ、至る所に手を振って笑顔を振りまく。
客席ではヨミ、リオート、ペリが並んで席に座っていた。
恥ずかしい姿は見せられない。
やがて中央に立ったレヴリッツは、相手の登場を待つ。
『続いて、試験官の入場です!
西側……ユニ・キュロイー!』
試験官の名が呼ばれると同時、聞いたこともない歓声の嵐が巻き起こった。
これがマスター級の名声か。
やや早めの歩調でやって来たのは、桃色の髪の少女。
藍色のメッシュが特徴的だ。
目につくのは、風の抵抗を極限まで減らしたコート。
ついでにバイザーを額につけている点も目立つ。
彼女はレヴリッツにとっても見覚えがある。
たしか綾錦杯の際、カガリに殺されかけていた少女だ。
とりあえず無難な挨拶をしておく。
「はじめまして。レヴリッツ・シルヴァと申します。
本日は対戦よろしくお願いします」
「ぼくはユニ・キュロイ。
もちろん、ぼくのことは知ってると思うけど」
「いや……申し訳ないです。僕は基本的に格上の情報は閲覧しないようにしているので……ユニ先輩がどんなバトルパフォーマーなのか知らないんですよね。
配信で名前くらいは聞いたことあるんですけど」
「えっ……地味にショックなんだけど。もしかしてぼくの知名度、まだまだ足りない? ちなみにだけどさ、なんで格上の情報は見ないの?」
「だって……初見の闘いを楽しみたいじゃないですか。ユニ先輩だって僕の戦闘スタイルはあまり分析してないでしょう?」
レヴリッツの言葉に、ユニは目を見開く。
確かにそうだ。
昨日のイルクリスとの闘いは試験官として見たが、そこまでガチの分析はしていない。他のバトルパフォーマンスも分析しようとは思わなかった。
もしかしたら、初見でレヴリッツと闘うのを楽しみにしていたかもしれない。
長らく戦闘の興奮を味わっていなかったユニ。
彼女はとっくに忘れかけていた楽しみを思い出す。
「……うん。やっぱりさぁ。
きみ、マスター級になるべきじゃないよ」
「は? 喧嘩売ってます?」
「ピキんなっつの。夢を見てた方が幸せな時期もあるんだって。
ま、いいよ。どうせレヴリッツくんは……ぼくが蹴落とすから」
ユニは額のバイザーを下ろし、腰にさげた鉤爪を装着した。
これが彼女の戦闘スタイルだ。
「当然、僕は勝ちに来たので。勝ちます。
──レヴリッツ・シルヴァ」
これ以上、交わす言葉はない。
正確に言えば、これ以上言葉を交わすとレヴリッツの精神が持たない。
「きみが天才ならそれでいい。でも……凡才なら、ここで終わってもらうよ。
──ユニ・キュロイ」
一触即発。
張り詰めた静寂が渦巻いている。
この場の誰もが鼓動を高鳴らせていた。
ただ一人……観客席からそっと見物する黄金の少女を除いて。
静寂を破ったのは試合開始の宣告。
『両者、準備完了です!
レヴリッツ・シルヴァは頂点の一角となり得るのか!
はたまたユニ・キュロイはレヴリッツの快進撃を否定するのか!?
──試合開始です!』
刹那。
一秒にも満たない空隙であった。
試合開始の音が鳴るのと、ほぼ同時に。
「"遅い"」
ユニが消えた。
そして、一本の線のようなものが駆けた。
「っ……!?」
一拍遅れて、レヴリッツの左腕に創傷が出来る。
着物の端がはらりと舞う。鮮血と共に中空を漂う。
レヴリッツは咄嗟に魔力を全身に通し、速度と反射神経を補強する。
振り向いた背後にはユニが足を揺らして立っていた。
「遅いよ。今の一撃、初手だから手加減してあげたけど……急所突いたら、どうなってた?」
「……負けてませんよ。今の攻撃で急所を突かれても僕は負けていない」
「うえー? 生意気すぎね?
絶対負けてたよね?」
「いいえ、負けていません。何故なら……」
カチャリ、と。鍔鳴りが響く。
音と共に舞ったのは……桃色の毛。
ユニの毛先がわずかに散っていた。
「今の一撃、初手だから手加減してあげましたけど……バッサリいったら、どうなってました?」
「……ぼくがハゲになってる。でも乙女の髪を切るのはNGね。
うん、オッケー。ま、まぁ……とりあえず出だしは合格ってとこかな?
あはは……」
「そうですね、ははは……」
二人は赤面しつつ苦笑い。
正直に言えば、互いに互いの攻撃を見切れていなかった。
ここは手打ちということにしておく。
ユニは持ち前の速度で。レヴリッツは持ち前の気配察知で。
互いに初手の攻撃を浴びせたことになる。
(マズい……速すぎる)
レヴリッツは余裕の笑みを浮かべているが、内心は焦っていた。
勝負が始まって間もないというのに、彼の額には冷汗が滲み出ていた。
ユニの速度はおよそ人間のそれではない。
たとえ魔力によって反射神経を極限まで錬磨し、動体視力を上げたとしても……姿を捉えることはできないだろう。
これがマスター級の真価。
今のように持ち前の感覚で攻撃を防いでも、やがて限界は来る。
どうにかしてユニの速度を対策しなければ勝機はない。
「うーん……なんで見えてるんだろ? おかしいなぁ……」
「ユニ先輩、めちゃくちゃ速いですね。速すぎて若干キモいです」
「でしょでしょ。人間が1秒あたりに認識できるのは240フレームが限界。
魔力による神経強化を施しても、最高で1秒あたり3215フレーム。ぼくの幻術はフレームを重ね掛けすることによって、神経強化を以てしても見切れない攻撃を繰り出す。
でもレヴリッツくんは反撃したよね?」
「そ、そうですよ(便乗)」
幸いなことに、ユニはどうやってレヴリッツが敵影を捉えているのか気がついていないようだ。
まだ『見えている』と勘違いさせていれば、動きを制限できる可能性はある。
「試してみようか」
今一度、ユニが地を蹴る。
眼前に桃色の光線が舞った。衝撃。
レヴリッツが直感で傾けた刀をなぞり、鉤爪の刃が走る。
またもや直感による防御。
このまま全ての攻撃を往なせればいいが、そう簡単にはいかないだろう。
「ふむ……ぼくもまだまだ速さが足りないということか。
──《加速》」
「えっ、まだ速くなるんですか?」
「あと十段階くらい速くできるけど」
「吐きそう」
相手がめちゃくちゃ速い。ただそれだけの事実で。
すでにレヴリッツの勝機は潰されかけていた。
こんな時、レヴリッツの知る人だったらどう対処しているだろうか。
例えばヨミ。彼女ならば目を閉じながらユニの攻撃をすべて躱せるだろう。
あるいは昨日闘ったイルクリス。
彼ならばシールドを展開し、速度で打ち破れない弾幕を作り出すだろう。
各々の長所を生かして強敵を攻略する。それが戦闘というもの。
だが、今のレヴリッツには──
(……ない。彼女を攻略できる手段が存在しない)
少なくとも、竜殺しの剣術では分が悪すぎる。
忍術も命中させることはできない。
誇りを捨てて殺しの術に手を染めるか。いや、それは彼の矜持が許さない。
「独壇場──虚心舞台」
一つだけの可能性。
レヴリッツの独壇場は領域内の相手に幻惑を齎す。
「……わーきれい」
ユニはバトルフィールドを塗り替えた領域をざっと見る。
空中に浮かぶ音叉の数々。窓から射し込む蠱惑的な青き光。
見た目こそ幻想的だが、独壇場はどんな危険が潜んでいるかわからない。
鼓膜を叩いた妙音。三味線のような心地よい音が響く。
ユニが警戒する中、いつしかレヴリッツの姿が消えていた。
「《雷鳴》」
「──!」
気配なく現れた刀の切っ先。
刀に宿された雷がユニを裂く。
彼女は負傷した左手を抑えつつ、猛烈なスピードで走る。
とりあえず高速で走っていれば攻撃は当たらないはず。
(レヴリッツくんが消えた……? 瞬間移動してる?
これが独壇場の権能だとすれば、なかなかに厄介……)
再び弦音。
ユニは「何か」に激しく衝突した。
「いったぁ!?」
壁だ。直前には見えていなかったバトルフィールドの壁に衝突した。
立ち眩みを抑え、彼女は咄嗟に身をよじる。
先程と同じように刀が現れた。
全方位から音叉を伝って足音が響く。
レヴリッツの気配が至る所に感じられた。
予想通り。
これは幻惑を見せるタイプの独壇場だ。
戦闘経験豊富なユニだからこそ、この短い時間でレヴリッツの権能を看破できた。
いくらスピードを高めても、幻を見せられて誘導されては打つ手がない。
「ねえレヴリッツくん、知ってる? 独壇場の壊し方」
虚空に向かってユニは問いかけた。
すると問いかけた方角からレヴリッツの声だけが返ってくる。
「はぁ……知らないですね。ワ〇ップに書いてありますか?」
「簡単だよ!
まず、独壇場には"質"……レベルがあるのだ。
例えばレヴリッツくんの独壇場が発動している状態で、ぼくの独壇場を発動すると……
結果 : ぼくの勝ち」
刹那、世界が爆ぜた。
ユニの全身から立ち昇った魔力が、レヴリッツの領域を破壊していく。
空間がひび割れ、徐々にレヴリッツの魔力が崩壊。ユニの魔力が侵食。
「どこまでも速く。
独壇場──」
──《韋駄天幻狼》
ユニの独壇場、【韋駄天幻狼】
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( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
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