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第一章
17、フラグの乱立
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順調に勇者と魔王が親密度を上げている。
シーマ様なんか、ハート二つもライ君に対して染めている。だいぶ信頼している証だ。
対するライ君も、シーマ様に対してハート半分程色がついている。それは私に向ける倍くらいの親愛度になる。色は相変わらず赤いので、魔王どうしたとたまに無性にツッコみたくなる。
教室ではレグノス君トレイン君と相変わらずつるんで楽しそうだしね。
そう、私も相変わらず教室ではボッチ。
誰も声を掛けてこないので、一人図書室から借りた本を黙々と読んでいるのだ。学園図書室侮れない。蔵書が凄くてワクワクする。放課後は生徒会があるので向かうことが出来ないから、借りて来ては休み時間に読書するのだ。だから、誰も声を掛けてこないのはむしろ快適と言える。
たまにヒロインちゃんがみかねて声を掛けてくれるけれど、一言二言しか返さないので悲しそうな顔で去っていく。ヒロインちゃんと話をすると「生徒会はどう? 殿下たち、優しい?」という攻略対象者たちの話題にしかならないので、私の中ではだいぶ無駄な時間と感じてしまうのだ。読書大事。
今日も手にはドッケンミュドラーという著者の『各国の特色と文化』という本が握られている。きっとこのドッケンさんという方は、片っ端から国と国を渡り歩いている人だ。その場に行かないとわからないようなこと細かい特色が本に詰め込まれていて、まるで旅行記を見ているようでとても楽しい。
いい本を見つけた、と鼻歌を歌いだしそうな雰囲気で生徒会室に向かっていると、ライ君が「あのさ」と口を開いた。
「ローズ嬢、大丈夫か?」
何やら心配げに私の顔を覗き込んでくるライ君に、何のことかわからず首を傾げる。
「何がですか? 至って楽しい毎日を過ごしておりますが?」
「……なら、いいんだけど」
話はそこで終わってしまった。
首を傾げつつ、先程読んでいて隣の更に隣の『セルゲン国』に思いを馳せる。とても広い海と、白い砂浜が特色なんだそうだ。海にはとても大きな魔物がいて、それが絶品なんだとか。素晴らしい。この国ではほぼシーフードはないどころか、うちは貧乏で肉にありつくのも週一がいい所なので、美味しいものは何でも食べたい。もし機会があれば行ってみたいものだ、セルゲン国。本に書かれている国は、次々私の脳にインプットされていく。ドッケン氏の本は数冊置いてあったので、全て全暗記する所存。いつ、どんな機会があって他国を訪れるかわからないからね。備えあれば憂いなしだね。
生徒会室に着くと、シーマ様とグロリア様が既に席について仕事をしていた。
一部ぐしゃっている書類を見つけたので、今日一でやらかしたらしいことが伺える。
私は席に着くと、そっとグロリア様に声を掛けた。
「お怪我はありませんか」
「えっ、どうしてローズ様にはバレてしまうのかしら。ちょっと足を捻ってしまったくらいよ」
「今治癒魔法掛けますので、じっとしていて下さいね」
そっとどっちの足かを聞いて、目の前に跪く。
捻ったという足を手にして治癒魔法を掛けると、グロリア様が困ったような顔をしていた。
「ローズ様、そんな簡単に膝をつくのはよろしくないですわ」
「私の体面よりもグロリア様の足の方が大事なので問題ないです」
「まぁ……」
私がきっぱりと答えると、グロリア様は頬を赤くして嬉しそうな雰囲気を醸し出した。
「私、ローズ様がもし男性だったらきっと惚れてしまっていましたわ」
「奇遇ですね。私も自分がもし男性だったらグロリア様に懸想しているところです」
チラリ、とシーマ様に一瞬だけ視線を向けると、シーマ様は机にかじりつくようにしながらも微動だにしていなかった。めっちゃ聞いてる。そして、脳内にグロリア様の好み像を焼きつけている。きっとシーマ様はこれから事あるごとにグロリア様に跪く気がする。そしてアピールすると思う。想像しただけで笑いそうになってしまう。
コホン、と笑いそうになるのを咳で誤魔化し、席に座り直すと、目の前の仕事に手を伸ばした。
その後はしばらく意見交換しつつ手を動かす。
学生主体のあらゆる催し物の書類がすべてここに集まってくるので、たとえ次の行事が一月後であっても、生徒会の仕事がないという日は全くないのだ。まるでブラック。賃金発生しないのが辛い。
外を見れば晴天。
こんな天気のいい日は木陰で本を読んだらきっと素敵だろうな、なんて思いながら何気なく窓を見ると、そこに魔法の鳥が止まった。
「王宮からの連絡だな」
シーマ様も鳥に気付いたらしく、窓に近付いて鳥を手に乗せた。
アレックス殿下宛らしい。シーマ様の手の中で、鳥はシュルンと手紙の形に変わった。
「もうすぐお茶の時間だから殿下も戻ってくるだろ」
シーマ様はその手紙をアレックス殿下の机の上に置くと、そこで伸びをした。
「いや、そういえば今日ザッシュが差し入れの菓子を持ってきていたんだ。僕たちで先に食べようか」
シーマ様の提案に、私たちは苦笑しつつちょっと早めに机の書類をまとめた。
「ザッシュ様の差し入れとは何でしょうね。あの方は実は甘いものが大好きなので、お薦めは外れなしなんですのよ」
「そうなんですね。楽しみです」
グロリア様と机を片付けながらお菓子に思いを馳せる。
ザッシュ様が甘いもの好きなのは、鑑定するまでもなく乙女ゲーム情報で知っている。ちなみにアレックス様は辛いものが好きなんだけどこの国にはあまり香辛料がないので寂しいらしい。シーマ様は美人の見た目に反して肉好きらしい。意外性というかギャップ萌えでも目指していたんだろうか、『星火の乙女』は。
ライ君がこれかな、と綺麗な装飾の箱を持ってくる。有名お菓子店の箱だった。めっちゃ高いやつ。私の家じゃ年に一回も買う気にならないお高いお菓子!
箱を見た瞬間テンションが爆上がりした私は、早速お茶の用意をすることにした。
誰一人本人たちを待とうと言い出す人はいなかった。
ワクワクしながらシーマ様がお菓子の箱を開けるのを見ていると、不意に扉の向こうが騒がしくなった。
「アレックス殿下が戻ってきたのかな」
シーマ様がドアの方に顔を向けるのにつられ、皆が入り口の立派なドアに目を向ける。
「ですから、私だったらしっかりと仕事もしますし、市井の店の事務もしたことがあるので経験者です。きっとお役に立てると思います」
「人数はもう決まっているし、問題はないから大丈夫」
「でも、休憩時間にも勉強をしないといけない程に忙しいのでしょう? 私だったら休憩時間まで勉強することなくお手伝いしてみせますので、是非生徒会をお手伝いさせてください!」
聞こえてきたその声は、ヒロインちゃんのものだった。
シーマ様なんか、ハート二つもライ君に対して染めている。だいぶ信頼している証だ。
対するライ君も、シーマ様に対してハート半分程色がついている。それは私に向ける倍くらいの親愛度になる。色は相変わらず赤いので、魔王どうしたとたまに無性にツッコみたくなる。
教室ではレグノス君トレイン君と相変わらずつるんで楽しそうだしね。
そう、私も相変わらず教室ではボッチ。
誰も声を掛けてこないので、一人図書室から借りた本を黙々と読んでいるのだ。学園図書室侮れない。蔵書が凄くてワクワクする。放課後は生徒会があるので向かうことが出来ないから、借りて来ては休み時間に読書するのだ。だから、誰も声を掛けてこないのはむしろ快適と言える。
たまにヒロインちゃんがみかねて声を掛けてくれるけれど、一言二言しか返さないので悲しそうな顔で去っていく。ヒロインちゃんと話をすると「生徒会はどう? 殿下たち、優しい?」という攻略対象者たちの話題にしかならないので、私の中ではだいぶ無駄な時間と感じてしまうのだ。読書大事。
今日も手にはドッケンミュドラーという著者の『各国の特色と文化』という本が握られている。きっとこのドッケンさんという方は、片っ端から国と国を渡り歩いている人だ。その場に行かないとわからないようなこと細かい特色が本に詰め込まれていて、まるで旅行記を見ているようでとても楽しい。
いい本を見つけた、と鼻歌を歌いだしそうな雰囲気で生徒会室に向かっていると、ライ君が「あのさ」と口を開いた。
「ローズ嬢、大丈夫か?」
何やら心配げに私の顔を覗き込んでくるライ君に、何のことかわからず首を傾げる。
「何がですか? 至って楽しい毎日を過ごしておりますが?」
「……なら、いいんだけど」
話はそこで終わってしまった。
首を傾げつつ、先程読んでいて隣の更に隣の『セルゲン国』に思いを馳せる。とても広い海と、白い砂浜が特色なんだそうだ。海にはとても大きな魔物がいて、それが絶品なんだとか。素晴らしい。この国ではほぼシーフードはないどころか、うちは貧乏で肉にありつくのも週一がいい所なので、美味しいものは何でも食べたい。もし機会があれば行ってみたいものだ、セルゲン国。本に書かれている国は、次々私の脳にインプットされていく。ドッケン氏の本は数冊置いてあったので、全て全暗記する所存。いつ、どんな機会があって他国を訪れるかわからないからね。備えあれば憂いなしだね。
生徒会室に着くと、シーマ様とグロリア様が既に席について仕事をしていた。
一部ぐしゃっている書類を見つけたので、今日一でやらかしたらしいことが伺える。
私は席に着くと、そっとグロリア様に声を掛けた。
「お怪我はありませんか」
「えっ、どうしてローズ様にはバレてしまうのかしら。ちょっと足を捻ってしまったくらいよ」
「今治癒魔法掛けますので、じっとしていて下さいね」
そっとどっちの足かを聞いて、目の前に跪く。
捻ったという足を手にして治癒魔法を掛けると、グロリア様が困ったような顔をしていた。
「ローズ様、そんな簡単に膝をつくのはよろしくないですわ」
「私の体面よりもグロリア様の足の方が大事なので問題ないです」
「まぁ……」
私がきっぱりと答えると、グロリア様は頬を赤くして嬉しそうな雰囲気を醸し出した。
「私、ローズ様がもし男性だったらきっと惚れてしまっていましたわ」
「奇遇ですね。私も自分がもし男性だったらグロリア様に懸想しているところです」
チラリ、とシーマ様に一瞬だけ視線を向けると、シーマ様は机にかじりつくようにしながらも微動だにしていなかった。めっちゃ聞いてる。そして、脳内にグロリア様の好み像を焼きつけている。きっとシーマ様はこれから事あるごとにグロリア様に跪く気がする。そしてアピールすると思う。想像しただけで笑いそうになってしまう。
コホン、と笑いそうになるのを咳で誤魔化し、席に座り直すと、目の前の仕事に手を伸ばした。
その後はしばらく意見交換しつつ手を動かす。
学生主体のあらゆる催し物の書類がすべてここに集まってくるので、たとえ次の行事が一月後であっても、生徒会の仕事がないという日は全くないのだ。まるでブラック。賃金発生しないのが辛い。
外を見れば晴天。
こんな天気のいい日は木陰で本を読んだらきっと素敵だろうな、なんて思いながら何気なく窓を見ると、そこに魔法の鳥が止まった。
「王宮からの連絡だな」
シーマ様も鳥に気付いたらしく、窓に近付いて鳥を手に乗せた。
アレックス殿下宛らしい。シーマ様の手の中で、鳥はシュルンと手紙の形に変わった。
「もうすぐお茶の時間だから殿下も戻ってくるだろ」
シーマ様はその手紙をアレックス殿下の机の上に置くと、そこで伸びをした。
「いや、そういえば今日ザッシュが差し入れの菓子を持ってきていたんだ。僕たちで先に食べようか」
シーマ様の提案に、私たちは苦笑しつつちょっと早めに机の書類をまとめた。
「ザッシュ様の差し入れとは何でしょうね。あの方は実は甘いものが大好きなので、お薦めは外れなしなんですのよ」
「そうなんですね。楽しみです」
グロリア様と机を片付けながらお菓子に思いを馳せる。
ザッシュ様が甘いもの好きなのは、鑑定するまでもなく乙女ゲーム情報で知っている。ちなみにアレックス様は辛いものが好きなんだけどこの国にはあまり香辛料がないので寂しいらしい。シーマ様は美人の見た目に反して肉好きらしい。意外性というかギャップ萌えでも目指していたんだろうか、『星火の乙女』は。
ライ君がこれかな、と綺麗な装飾の箱を持ってくる。有名お菓子店の箱だった。めっちゃ高いやつ。私の家じゃ年に一回も買う気にならないお高いお菓子!
箱を見た瞬間テンションが爆上がりした私は、早速お茶の用意をすることにした。
誰一人本人たちを待とうと言い出す人はいなかった。
ワクワクしながらシーマ様がお菓子の箱を開けるのを見ていると、不意に扉の向こうが騒がしくなった。
「アレックス殿下が戻ってきたのかな」
シーマ様がドアの方に顔を向けるのにつられ、皆が入り口の立派なドアに目を向ける。
「ですから、私だったらしっかりと仕事もしますし、市井の店の事務もしたことがあるので経験者です。きっとお役に立てると思います」
「人数はもう決まっているし、問題はないから大丈夫」
「でも、休憩時間にも勉強をしないといけない程に忙しいのでしょう? 私だったら休憩時間まで勉強することなくお手伝いしてみせますので、是非生徒会をお手伝いさせてください!」
聞こえてきたその声は、ヒロインちゃんのものだった。
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