これは報われない恋だ。

朝陽天満

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715、上級錬金

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 俺は今、透明な釜を前にしている。

 隣にはヒイロさん、そしてヨシューさん、ケインさん。ついでに言うならオランさんとジャル・ガーさんもいる。

 どうなるかわからないからと、栄えある上級錬金釜の初錬金は、たとえ俺が魔王になっても即止めてくれる人の前でやることにしたんだけど。

 ジャル・ガーさんの所でそれを言った瞬間、じゃあ俺らの前でやればいい、とジャル・ガーさんに獣人の村に拉致られたんだ。

 今日はヴィデロさんはヴィルさんと共に行動している。仕事内容を教わってるみたいだった。なので、ログイン中なのに離れ離れ。俺は休暇でゲームを楽しんでるからね。どこかで会えればいいな、なんて下心はなくもないけど。



 皆が見てる中、俺は釜の横に次々素材を並べていった。

 手には魔大陸産錬金レシピ。

 半分ほど真っ白だったレシピが、この釜を手に入れたことで解禁になったのか、いつの間にかかなり埋まっていた。なるほど、上級錬金術のレシピだったのか、とそれを見た時納得してしまった。ってことは、このレシピは魔王が出来る前からあるものってことか。ってことは、サラさんのレシピはヴィデロさんに譲った方がいいのかもしれない。ヴィデロさんも錬金釜を手に入れたから。





 そして今、俺たちの周りにはその5人以外の獣人さんたちはいない。

 何かあった時に、と皆違う村に避難しているからだ。前にもこんなことあったよね。錬金がらみで。

 皆慣れたもので、オランさんの避難指示の際、俺の肩をポンと叩いて「頑張れよ」「気を付けろよ」なんてエールを贈ってくれる人までいた。



「じゃあ、始めます」



 深呼吸して釜に手を添える。

 MP注入の文字が浮かんだので、ありったけのMPを注ぎ込む。そして回復。まだ足りないのかな。くそ、もう一回。そして回復。

 釜の満足するMPは、俺の満タンのMPの1,5倍だった。これ、一回錬金するのにもかなりMP大変かも。

 透明な釜の中に、うっすらと紫色の液体が溜まっていく。

 何ができるかはわからない。でも、全ての素材が手元にあるレシピを選んでみた。魔大陸で採ってきた物は一度洗っておいてあるから、黒い物は出来ないと思いたい。



 とてもたっぷりの謎液体の中に一つ素材を入れて、掻き混ぜる。

 全然重くはならない。

 溶け切ったところで、二つ目を入れる。

 やっぱり重くならない。腕に優しいけれど上腕二頭筋を成長させない釜なのかな。

 入れる素材は全部で12個。今までで最多だ。

 半分まで入れても、そこまで抵抗を感じないまま掻き混ぜる。

 残り2個、というところで、ようやく謎液体に粘度が生まれた。

 このままサラサラだともしかして何も出来ないんじゃないかな、という不安を持ちながら最後の一つを投入すると、まるで水あめが割りばしに絡まるように液体がグルグルと撹拌棒に絡まり始めて、一つにまとまっていった。さらに掻き混ぜていると、カラン、と音がして、釜の中がキラキラと光った。今のが出来上がりの合図かな。わかりやすい。

 前の釜の様に一人では混ぜれない、ということもなくあっさり一つの物を作り出した釜は、中に出来上がったアイテムがある以外、何事もなかったかのように最初の透明な綺麗な釜のままそこに鎮座していた。

 黒い物を吐いたり、俺が闇に染まったり、そういうことは全くなかった。

 ホッと息を吐くと、周りからもはーっと息を吐く音が聞こえてきた。皆、緊張していたらしい。



 釜の中から出来上がったアイテムを取り出すと、『リジェネストーン』というものだった。

 アクセサリにしたり装備品につける装飾品で、この石のついた物を装備していると、自然回復量が3倍になるんだそうだ。うわ、変な物を作ったよ。しかもこれ、HPだけじゃなくてMPもスタミナも回復量3倍。ああ、うん。上級錬金って感じがする。世に出せないよこれ。それともこういうのをたくさん作って闇アイテム屋さんとか開くのもありかな。クラッシュ辺りなら乗ってくれそうかも。

 手に石を持ちながら唸っていると、周りの人たちが心配そうに俺を見下ろしていた。



「なんか危ないもんでも作ったのか?」

「とうとうマック壊れちまったのか?」

「返事しろよーマック」



 師匠2人とケインさんが心配げに身を屈めて顔を覗き込んでくる。

 その顔に苦笑して、俺は手の中の物を皆に見せた。



「大丈夫です。こんなのが出来たからどうしようかなと思って」

「ん? 『リジェネストーン』?」



 鑑定をしたらしいヒイロさんが首を傾げる中、そのアイテム名を聞いたオランさんとジャル・ガーさんが驚きの声を上げた。

 なんでも、魔王が誕生する前の大陸ではかなりポピュラーな魔石だったらしい。家族や大切な人に贈るちょっとしたアクセサリーによく使われた物なんだとか。

 二人は「懐かしいな」と目を細めていた。今はもう失われたアイテムなんだとか。

 待って。そんなものを作れるこの釜って。

 もしかして個人で持ってはいけない系激レアアイテムなんじゃなかろうか。わかってたけど。わかってたけどね! 何せ魔王を生み出した釜だし!

 でも手放したらそれはそれで上級錬金術が出来なくなるし、もう一つの釜はもう手元にないし。錬金術師は辞めたくないし滅茶苦茶ジレンマだよ。仕方ないから極力黙って錬金してよう。今まで通りに。

 それに何より錬金術師の上級職『女神錬金術師』とかになってしまっているし。

 薬師だって農園クエストをクリアしたから草花薬師になったわけで、上級職の名前は、どのクエストをクリアして上級職になったのかっていうのは重要だけど。

 上級職になった時にクリアしたクエストは確かに女神のものだったけど、ちょっと壮大すぎて誰にも言えない。錬金術師ってことも限られた人にしか教えてないけど。



「魔王にならずに使えることはわかりました……」



 俺は溜め息を呑み込んで、それだけを伝えた。



 素材はたんまり用意していたので、同じものをもう一つ作ると、俺はそれをオランさんとジャル・ガーさんにあげた。魔大陸になる前のアイテムだもん、二人が持ってた方がいいだろうし。また作れるしね。次に作ったらヴィデロさんの鎧に組み込んでもらおう。今度こそ白い鎧を。

 魔石のお礼にと、二人から大量の獣人の村アイテムを貰ってしまった俺は、インベントリに詰め込めなかった分はケインさんの持っていた小さなカバンに詰め込んでもらってそのカバンごと貰ってしまった。カバンも簡易インベントリ状態で、空間拡張の魔法陣が描かれてたんだけど、ほんとにこんなに簡単に貰っていいのかな。お礼にユイル用にといつでも持ち歩いているふわふわドーナツを全てケインさんに渡して大喜びされたのだった。



 

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