これは報われない恋だ。

朝陽天満

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577、ロイさん一家

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 散歩がてら届けに行こうか、ということになって、すっかり夜空になったトレの街に繰り出した俺たち。

 これから夜狩りに行くのか、鎧姿の集団が門に向かって足を進めている。かと思うと、外から帰ってきたらしい集団が夕食の相談をしながら汚れた鎧で冒険者ギルドへの道を辿る。

 どこの街も、プレイヤーが行き交う様になってからは、夜も眠らない街になったんだとか。

 門番さんたちも、夜も引っ切り無しに人が出入りすることで、勤務中の眠気も大分緩和されたとか。

 ヴィデロさんも夜勤だったときはプレイヤーと話をして眠気を緩和してたんだって。

 でも居眠りするヴィデロさんもちょっとだけ見てみたかった。



 詰所に着いて、中に入ると、食堂では非番の人たちとロイさん一家がテーブルを囲んでいた。

 ロイさんの横にはフランさん。そして、ロイさんの腕の中には赤ちゃんが。

 思わず駆け寄ると、2人とも笑顔で挨拶してくれた。



「うわ可愛い! このふわふわ髪の毛、この口! フランさんそっくり!」

「レディアっていうんだ。うちの姫、可愛いだろ」



 ロイさんは目じりを下げて、腕の中の小さな赤ちゃんを見せてくれた。

 隣でニコニコしているフランさんも、幸せそうに娘自慢しているロイさんを見ている。

 ヴィデロさんも、目を細めてロイさんの腕に眠るレディアちゃんを見ている。ロイに似なくてよかったな、なんて。ロイさんそこで「だろお!」って答えないように。フランさん滅茶苦茶笑ってるよ。



「全然お祝いに行けなくてごめんなさい」



 俺はフランさんにそういうと、渡そうと思っていた出産お祝いをインベントリから取り出した。

 リボンのついた大きな袋をフランさんに渡すと、フランさんは嬉しそうに「ありがとう」と受け取ってくれた。

 最高ランクポーション各種と、果物各種。澄のつく果物を見繕って、まだ売り出されていないペスカの実も輪廻経由でトレアムさんから許可を得て詰め込んでみている。

 中を見ていいか訊かれたので頷くと、袋を覗き込んだフランさんは目を輝かせてロイさんの脇腹を肘で突いた。



「ちょっと書類だけ置いてくるから、待っててくれるか?」



 ヴィデロさんに言われて、俺は頷いた。ここでレディアちゃんを見ながら待ってるよ。



「ヴィデロどうしたんだ? 今日は早く上がったって言ってたから姫を見せれないと思ってがっかりしてたんだけど」

「引継ぎの書類を間違えて持ってきちゃったからって届けに来たんだ」

「そっか。ヴィデロ君、今はマック君の家に住んでるんだものね。婚姻、おめでとう」



 フランさんに祝福されて、嬉しくなる。

 ありがとうございます。と顔を緩めながら返した。

 レディアちゃんはすやすやとロイさんの腕の中で眠っている。

 ロイさんの抱っこ姿はすごく様になっていて、ああ、お父さんなんだな、なんて眩しく見えた。

 でも実はロイさんもさっき上がった後、伝えないといけないことを伝えるのを忘れて、ちょっとぐずっていたレディアちゃんをあやすついでに散歩しながら皆でここに来たらしい。今日は皆ポカミスをやらかす日なんだね。



「なんか今日はずっと姫の機嫌が悪かったらしくてな。フランの気分転換も兼ねてるんだ」

「じゃあフランさん疲れてるんじゃないですか? 子育ては大変だって聞くし」

「大丈夫。ロイがいる時はずっとレディアを構い続けてるから、私も休めるのよ。レディアもロイが大好きみたいでご機嫌になるから」



 うわあ、お父さん。お父さんがいる。絶対に「将来嫁になんかやらん」とか言いそう。うん絶対に言う。

 容易に想像できて思わず笑う。

 レディアちゃんは周りの雑音も何のその、すやすやと寝ている。

 そこに、ヴィデロさんと共に食堂にガレンさんとタタンさんが入ってきた。



「お、ロイ。何戻って来てんだ?」



 ガレンさんは今まで裏で鍛錬をしていたらしくて、ロイさんが戻ってきたことに気付かなかったらしい。

 ロイさんの腕の中のレディアちゃんを見て顔を綻ばせたあと、「ん?」と眉をひそめた。



「なあ、ロイ。その子供、健康か?」



 ガレンさんの一言に、周りがザワリとなった。





 そういえば前、ガレンさんはアルルの両親がコウマ病で倒れた時に、アルルから嫌なにおいがするって言って病気を察知してたんだ。

 それを思い出して、俺は息を呑む。

 ロイさんもガレンさんのその鼻の良さをよく知ってるのか、顔色が悪くなった。



「ロイさん、レディアちゃんを鑑定眼で見てみていい?」

「頼む」



 ロイさんに了承してもらって、レディアちゃんに鑑定眼を使ってみる。

 そして、その結果に息を呑んだ。



「……赤ちゃんって、『コウマ病』にかかるの……?」



 鑑定眼の結果には、しっかりと『コウマ病』と示されていた。

 血の気が下がる。でもそれは、きっとロイさんとフランさんの方が感じてることで、フランさんは顔を真っ青にして、我が子を覗き込んでいた。



「俺、シックポーションのランクSってまだ作れないんだよ……! あ、聖魔法、確か、上級の聖魔法だと治せる魔法があるって」



 はやる心を押さえながら、インベントリから聖魔法の本を取り出す。

万能薬はなんか強そうだから赤ちゃんに使っていいかわからないし悩む。

 周りの門番さんたちも「誰か薬師!」「コウマ病は無理だろ!」「じゃあ、司祭」「今上級聖魔法使える司祭なんてトレにいるわけねえだろ!」と慌てている。

 文字を追いながら必死で聖魔法を探す。っていうかコウマ病に効く聖魔法ってどれだよ!

 かなり分厚い本を焦りながら探すけれど、なかなか見つからなくて、口を突いて出そうになる悪態を必死で呑み込む。

 すると、両肩にポン、と手が置かれた。

 ヴィデロさんとガレンさんだった。



「気持ちはわかるが、焦ってると色んなもんを見落とすからちょっと落ち着け」



 ガレンさんにそう言われて、我に返る。

 そうだ。見つからなければ知ってる人に聞けばいいんだ。

 俺は気を取り直して、ユキヒラがログインしているか調べるため、フレンドリストを開いた。





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