これは報われない恋だ。

朝陽天満

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555、墓地、再び

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 ログアウトまで濃厚にヴィデロさんと愛し合った俺は、ヴィデロさんの腕の中で長光さんとユキヒラにメッセージを送った。

 ダンジョンへのお誘いだ。

 二人ともまだログインしていたらしく、すぐにいい返事を貰えた。よかった。

 今週末に二人とも時間が空くらしく、雄太たちからもオッケーを貰ったので、決行は土曜日と決まった。

 やり取りを終えて横を見ると、ヴィデロさんの寝顔があった。規則正しい寝息が聞こえて思わずにんまりする。

 少しだけ身体を伸ばして顎にキスをすると、ヴィデロさんに抱き着いて、ログアウトした。





 そしてやってきました土曜日。

 持ち物欄をチェックして、しっかりとアリオンの花が入ってることを確認した俺は、インベントリに入れっぱなしだった宝箱に気付いた。

 その場でドン、と出して置いておく。雄太は寝室に、とか言ってたけど、取り敢えずここでいいかな。と、工房の隅に置く。きっと出てくるのは残念アイテムだろうし。

 ヴィデロさんは今日はお仕事で、すでに門に立ってるはず。

 ホーリーハイポーションはたんまり作ったし、聖短剣も腰に。回復用アイテムと起爆剤を確認して、よし、と頷く。

 魔法陣を描いて、待ち合わせの辺境の壁に跳ぶ。



 壁の上の部分に設置されている休憩用の部屋に入っていくと、結構な人数が部屋で休んでいた。

 その中には雄太たちもいた。

 俺を見ると、立ち上がって寄ってくる。



「よ、マック」

「お待たせ。ユキヒラと長光さんはまだ来てないの?」



 姿が見えない二人の名前を出すと、雄太は苦笑しながら人が溜まっているところを指さした。



「長光はあそこで出張防具メンテしてる。ユキヒラはまだだけどな」

「うわあ」



 それで人だかりができてたのか、と休憩所の一角を見る。

 これが普通なのかと思ったけど、実は普段はもう少し少ないんだそうだ。主に壁の向こうにレベル上げに行く人たちの休憩所だから。

 長光さんがここに現れた途端に、周りにいたプレイヤーたちが一斉に『長光来た!』と掲示板にあげたらしい。長光さん人気だなあ。



「わりい、ここまでな。待ち人が来た」

「サンキュ。よかったあ、鎧壊れるかと思ったぜ」

「早めのメンテしろよ。いい鎧なんだから」

「俺もして欲しかったなあ」

「今度店に来いよ。手が空いたらするから。でも表通りの店も腕は確かだぜ」

「今度鎧予約していいか?」

「もちろん。ただし、すぐ欲しい場合はやっぱり表通りの店で買うことを勧める。いつになるかはわからねえからな。素材持ち込んだら早めにできるけど」



 ガヤガヤと声をかける周りを卒なくあしらって人波から出てきた長光さんは、相変わらず甚平姿で髪を一つにくくっていた。



「ようマックくん久しぶりだな。その後、刀の調子はどうだ?」

「今日は誘いに乗ってくれてありがとうございます。刀はすっごく切れ味いいです。あんまり使ってないけど」

「後衛が刀を抜いたら、そりゃ負け戦だからな。前衛に任せてデンと構えていられる後衛ってのが理想だし、一番バランスがいいからな」



 自分の腰に差した刀を撫でながら、長光さんがニヤッと笑う。

 確かに、と納得していると、休憩所の入り口が開いて、ユキヒラが顔を出した。



「悪い遅くなった」

「時間通りだよ」



 まだ待ち合わせ時間よりは早かったのでそう応えながらユキヒラの姿を見る。

 相変わらず聖騎士様様っていうような白い鎧で、聖剣が眩しい。どこからどう見ても立派な騎士然としたイケメンで、かなり目立つ。その隣には甚平姿の長光さんもいて、ある種異様な空間と化していた。

 周りの様々な形の鎧を着た人、ローブを羽織った人たちがドン引くレベルの目立ち具合に、自然俺の足も一歩下がる。

 さすがアバターというかなんというか。周りにはイケメンと美女しかいないんだけど、その中でも群を抜いてるっていうか。どうしてユキヒラはそんなアバターにしたのか。リアルを知っているだけに、ちょっと可笑しい。



「揃ったなら、行くか。マック、ホーリーハイポーション売ってくれ」

「俺の護衛で行くんだから、それは普通にあげるよ。作り方も素材もそう難しい物じゃないし」

「そうかわかった。じゃあ今日手に入れる布は全部お前の物だってことで手を打とう。何なら、この間ゲットした布もいるか?」

「あ、あれ聖水で綺麗になったよ」



 雄太の出した条件に苦笑してそう言うと、雄太が怪訝な顔をした。そうだった。俺が布を洗ったのはランクSの聖水だった。 

 ってことは、洗えるのは、俺だけ?

 雄太が山のように出した布を渡されてうろたえていると、それに便乗するように愉快な仲間たちも布を取り出した。



「あ、あれ、例の墓地ダンジョンのドロップ品じゃねえ?」

「俺も持ってるけど、集めてるのか? 欲しいならやるよ。使い道が全く分からねえから」

「あれ、雑貨屋でも防具屋でもギルドでも売れないんだよな」

「ああ、買取できませんとか言われて、どうしていいか悩むんだよな。集めてるならやるよ」



 周りで俺たちのやり取りを見ていたプレイヤーたちも墓地に行ったことある人が多いみたいで、いつの間にやら目の前には腕に抱えられないほどの汚い布が山積みにされた。っていうか俺も活用方法わからないんだけど。

 困惑していると、ユキヒラまでもが布を取り出した。

 そしておかしそうに笑った。



「マックならこれの活用方法を編み出すと思ってた」

「編み出してないから! どうすんだよこんなに一杯……」



 でも皆が善意でくれるって言ってたものだから、仕方なくインベントリに詰め込んでいく。まとまった布の数を見ると、200枚くらいになっていた。99枚で一マスなのがほんとにありがたい。

 周りにもありがとう、と声をかけて、俺たちは墓地ダンジョンに移動することにした。



 ダンジョン入り口に着くと、俺は改めて全員に今回の趣旨を説明した。

 オランさんの話を詳しくすると、ユキヒラは真顔になって「じゃあ俺が切ったのはオランの番か……」と呟いた。



「逆に消してやって欲しいって言われたよ。魔物化した人って苦しいらしいんだよ。ヴィデロさんもすっごく苦しそうだったし、後々まで辛そうだったから、それが更に酷くなってずっと辛い状態なんじゃないかなって思う。だから、切ってあげるのが正解だって」

「……わかった」



 溜め息と共に頷いたユキヒラが、ギュッと手を握りしめたのを俺は横目で見ていた。気持ちはわかるよ。

 気合いを入れて、俺たちはダンジョンに足を踏み入れた。





 俺とユキヒラでガンガンゴースト系魔物を倒して、難なく先に進む。

 ユキヒラはやっぱり前に入った時は墓地をスルーして出てきた魔物を片っ端から切ってたみたいで、俺が浄化するのをその手があったか、という顔をして見ていた。

 俺と愉快な仲間たちだけの時よりも更にスピーディーに先に進んだ俺たちは、そう時間もかからずに、最奥の墓地までたどり着いた。

 今日も壁魔物はいたけど、ユキヒラの聖剣で一刀両断されて終わった。ユキヒラがぬるいって言ってたわけがわかったよ。瞬殺だった。

 ちなみに、宝箱は今日も健在で、何度でも置かれているんだっていうのがわかった。でも今日は中身だけありがたく貰うことにして、誰も宝箱を持って帰る人はいなかった。っていうか、持ち帰りできるの知ってるの、俺たちとマッドライドくらいじゃないかな、なんて思う。誰にも言ってないし。



 今日も丘の上には一つ立派なお墓があった。

 前と同じように部屋全体を浄化して、最後、オランさんの番の墓石の前に立つ。



『迫害されし王者の最愛の者、ここに永遠に眠る。永遠なる安息を同胞に。例え親しき者と袂を分かとうとも、心穏やかに、健やかに日々を過ごすことをここに刻む。願わくば、誰かが最愛の者のために祈り続けるように。黒く、染まらぬよう』



 何度見ても、オランさんが仲間のことを思って刻んだ墓標にしか見えない。

 でもこれが枷になってるなんて。



「この文字を変えればいいんだな。任せろ。彫刻スキルはカンストしてる」



 長光さんはインベントリから次々よくわからない道具を取り出した。



「破棄するって言われたんですけど、これ、この墓石を壊して違うのを建てればいいんですか?」



 俺が首を傾げると、長光さんは首を横に振った。



「多分、この墓石は重要な物だ。これ自体に力がこもってるんじゃねえかな。だから、文字を削って新たに文字を刻んだ方がいい」



 長光さんは、沢山ある道具の中から二つを手に取ると、石をカンカンと削り始めた。

 文字が消えたところで、違う道具に持ち替える。

 それで表面を更に平らにして、また道具を持ち替えた。

 あっという間に文字の刻まれていた墓石は平らな何も書かれていない石になった。

 見惚れてる間に仕事を終えた長光さんは、手を止めて、俺を見上げた。



「なんて書く?」

「魂を解放できるような、輪廻の輪に入れるような文字がいいんですけど」



 前の文はスクショを取っていたので、皆でそこからどうやってここに囚われている魂を解放できるか、話し合うことにした。

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