これは報われない恋だ。

朝陽天満

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545、流石に難しい

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 俺は思いついたことをヴィルさんに話してみることにした。

 一大テーマパーク……いやいや、イベントか何かとして、魔大陸に行かせるのはどうかって。

 ダメでもともと、ちょっとでも聞いてもらえたらラッキー程度に思いながら。そうすれば、サラさんを助けに行くときには魔物が大分駆逐されてるかもしれないんだし。

 セイジさんがどういう経路をたどって魔大陸に行くのかはわからないけど。

 まさか転移一発でサラさんの所に跳ぶんだったりして。それだと駆逐の意味はないけど。でも、魔大陸に行ける人が増えたら、きっと魔王退治も楽になるよね。





 そんなことを思ったこともありました。

 今はバイト中。

 目の前でヴィルさんは難しい顔をしています。



「それをしてしまうと、ゲームのコンセプトに真っ向から反対することになるんだ。俺だって魔王が実はまだ封印されてるだけだっていうのは気付いているけど、健吾、思い出してみろ。ADOのパッケージを」

「魔王のいなくなった異世界で自由をその手に、でしたっけ。あ……」



 そっか。まず魔王が倒された世界っていううたい文句だった。これで、魔大陸に行ったら魔王がいました、じゃ嘘をついてゲームを売り出したことになっちゃう。



「実際に、魔大陸に行くイベントはないのか、なんてヘビーユーザーからの声もあるにはあるんだけどな。辺境でも150付近からレベルを上げるのはなかなかに難しくなっていくから」

「魔大陸でレベル上げしたい人もいるってことですか?」

「そうだな。もちろん、隠されたダンジョンやシークレットダンジョンに入れば貰える経験値からして段違いだから、行けるユーザーはすぐレベルが上がるんだろうけどな。高橋君たちなんかは本当にラッキーなレベル上げ方法を確立していると思うよ。勇者に鍛えられるなんて」

「まあ、そうですよね」

「勇者の弟子になれない、贔屓だ、なんていうクレームもなかなか多いらしいし。そこらへんはまあ難しいところだな。何より、魔大陸に向かう方法が今の所まったくない」



 ヴィルさんの言葉に、俺は間抜けな顔になった。

 え……魔大陸に行く方法がないんだ。ないって、どういうこと?

 首を傾げた俺に、ヴィルさんは苦笑しながら教えてくれた。



「まず、グランデ王国には船がない。まあ、仕方ないよな。周りの大陸が魔に染まってからは外交というものをしなくなったから。船を作る技術も大分廃れてしまっている。あるのはあくまで小舟程度。強度の強い物は、勇者たちが魔大陸に乗っていったものが最後らしいし、帰ってきた時には大分傷んでいたそうだ。大陸間には大渦がいくつも渦巻いた海流があり、小舟程度じゃ全く進まず海の藻屑。こっちの技術を持ち込もうとしても、それは向こうにとってはタブーだ。いらない最新技術だからな」

「難しいんですね……」

「まあな。でもまあ、考えは悪くない」



 ヴィルさんがモニターに視線を移したので、俺もやりかけだったデータの入力を再開する。

 クリアバイザーのギアは、画面と手元どちらも見れるのが凄く便利だった。

 渡された書類を全て打ち終わると、身体は凝り固まっていた。

 うーんと伸びると首がコキっとなる。

 時計を見ると、そろそろキッチンに立たないといけない時間になっていた。

 やった。データ入力よりご飯作りの方が好き。

 嬉々として席を立つと、佐久間さんもヴィルさんも俺に「ごめん飲み物淹れてくれ」と声をかけて来た。

 いい返事をしてキッチンへのドアを潜る。

 ドリップにコーヒー豆をセットしてスイッチを入れつつ、今日の献立表を見る。

 よし、と頷くと、大きな冷蔵庫から食材を取り出した。



 

 一時間後、ご飯が出来上がったので二人を呼ぶ。

 すぐに現れた二人に炊き立ての鳥五目御飯と里いもの煮物、マカロニサラダと麩の味噌汁を出すと、ジャーが満杯になるくらいに炊いたご飯は瞬く間になくなっていった。残ったら夜食用におにぎりにして置いていこうと思っていたことは、杞憂に終わった。すっからかん。相変わらず佐久間さんの胃袋はすげえ。



「はー美味かった。ごちそうさま」

「今度は鮭の炊き込みご飯を作ってみてくれないか? 上にいくらを載せて食べるのがとても美味しいらしいんだ」

「わかりました。いくらは醤油漬けかな」



 皆で茶碗を下げて、食後のお茶としゃれこむ。

 そこでヴィルさんは思い出したようにさっきのことを持ち出した。



「それにしても、魔大陸にプレイヤーを行かせるって、どうしてそんな考えになったんだ?」



 ヴィルさんがそう訊いてきたので、俺はクラッシュがセイジさんに言った言葉を教えた。

 でももちろんセイジさんがなんて答えたかは言わない。ここつながりでクラッシュが魔力測定してオッケー出ちゃったら魔大陸に行かせることになっちゃうし。



「なるほど。現地の人たちを死地に向かわせたくないんだな、健吾は」

「はい。セイジさんも即座にダメだって断ったんですけど、クラッシュはなんか行く気満々で」

「それは……なかなか大変だな。天使は案外頑固だから」

「頑固なんてもんじゃないですよ。ほっといたら勝手についてきそうな勢いですもん。すでにその期間中の店番も頼んでるみたいだし」



 しかめっ面で返すと、ヴィルさんが笑いだした。そして、俺の頭を撫でる。どうして頭を撫でるんだ。



「確かに、死に戻り出来るプレイヤーが魔大陸に行った方がいいな。でも、魔大陸の魔物は手強いんだろ。次々死に戻ってつまらないゲームになったとかいう声が上がったらそれはそれで大変だからな。難しいところだな」

「自由がテーマですもんね」

「その自由っていうのを勘違いして自由に犯罪行為を行ってもいいと思っているユーザーも一定数いたけどな」



 ぽつり、とこぼしたヴィルさんは、ふと遠い目をした。運営も色々大変だね。



 

 家に帰り着いた俺は、まず部屋に駆け込んでログインした。

 ヴィデロさんのご飯は用意してあるけど、朝と夜にせめて顔を見たかったから。

 何せ俺たち新婚だもん。

 目を開けて身体を起こすと、奥の部屋から水音がしたので、ヴィデロさんがお風呂に入っていることが判明した。

 汗を流してるのかな。背中流してあげようかな。

 なんて思いながら俺も奥のドアに向かう。そっと中に入って身に付けている服を脱いで、風呂場に行くと、ヴィデロさんが頭を洗っていた。

 めちゃくちゃかっこいい引き締まった背中に近付いて、手に石鹸を取る。



「旦那様、お背中流しましょうか」



 ふざけてそんなことを言いながら、ヴィデロさんの背中に泡を擦りつけると、ヴィデロさんの肩が震えた。

 ザッとお湯で頭の泡を流したヴィデロさんは、肩越しに俺の方に視線を向けて、嬉しそうに笑った。



「頼もうかな。俺もマックを洗わせてくれ」



 言質を得たので、俺は手に泡のコーティングを付けて、ヴィデロさんの筋肉を堪能することにした。この凹凸が最高。キスしたい。

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