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連載
416、長光さんいらっしゃい
しおりを挟む長光さんの分もご飯を作って待っていると、比較的すぐに長光さんは現れた。ドアがノックされたので開けると、長光さんが玄関前に立っていた。クラッシュの店に跳んで、そこから俺の工房を教えて貰ったらしい。
長光さんは「じゃあ早速」と懐から甲冑台を取り出した。
「もう立派なのがあるじゃねえか。っつうかヴィデロ君はここに鎧を置いてたんだな。んじゃ隣に置くか」
ドン、と空の甲冑台の横にもう一つ甲冑台を置く。そしててきぱきと黒い鎧をセットした。
それから。
懐から、淡いパールグリーンの鎧を取り出した。縁にゴールドで飾りがついている、デザイン的には近衛騎士団の鎧と似ているスマートな鎧。
その薄いグリーンはヴィデロさんの深緑の瞳ととてもよく似合っていて、ゴールドが髪の色に近いちょっとだけ濃い目の色で、長光さんがヴィデロさんのために作ってくれた、と一発でわかるような鎧だった。
「これ、めちゃくちゃ気合い入れたんだぜ。新しいヴィデロ君の鎧。アビスアーマーもすげえいい鎧だけど、こっちはまた違う性能の鎧だから、状況によって使い分けるといい。この間みたいな闇系の魔物にはアビスな。こっちは光と風、でもって土の魔法に強いんだ。要するに、この緑はアレだ。草花。北の方の山にな、綺麗なデカい葉っぱから真珠みてえな鉱石が採れるんだけどよ、それを使って作った鎧だ。綺麗だろ、この表面の淡いメタリック。鉄系より柔軟でよ、スピードを殺さねえ鎧なんだよ。風魔法なんか来てもよほどじゃねえ限りはダメージ受けねえから」
最後、その鎧に黒いマントを羽織らせた。
「この鎧に黒いマントはヴィデロ君のたっての希望の色だ。鎧はどうしてもこっちで作りたかったんだよ。マック君が草花薬師だって聞いたからな。でもって、マック君の色を一つ入れてくれって言われてな」
「長光、それは」
「いいじゃねえか。隠すことじゃねえよ」
ヴィデロさんが少しだけ照れたような顔をして長光さんを窘めたけれど、長光さんはすごくいい笑顔でそう切り返した。
それにしても、ヴィデロさんの鎧の色合い、長光さんが考えたんだ。
「……嬉しいし、すっごくかっこいい……!」
甲冑台に飾られただけだったけど、容易に想像できるよ! この綺麗な鎧をヴィデロさんが身に纏って颯爽と魔物を退治するところ! あああカッコいい! 最高! 好き!!
手をわなわなさせて涎を垂らさんばかりの勢いで鎧を見つめていると、ヴィデロさんが長光さんの肩をトン、と叩いた。
「早速身に着けてみるか?」
「ああ」
ヴィデロさんの返事と共に、長光さんが器用にヴィデロさんの身体に鎧を纏わせていく。
それは俺がさっき想像した通り、いや、それ以上にかっこいい姿で、なんというか、ものすごく、ものすごく、神々しかった。あああ、生きててよかった。
ひたすら悶える俺を見て、長光さんはなぜかものすごく満足そうに頷いていた。
お代は俺の錬金した物、ということで、ご飯を食べたら錬金を見せることになった。
ご飯を並べていくと、長光さんが目の前の料理に苦笑した。
曰く、「なんか新婚の友人ちに招かれたときと同じような気分なんだけど、マック君の手料理思った以上に美味そう」だそうです。きっと向こうで行ったことあるんだね、新婚の友人のうちに。
食後のお茶でお腹を落ち着けると、二つ並んだ鎧を見てニマニマしながら俺たちは奥の錬金用工房に移動した。薬師の方の工房と違って、こっちは結構簡素な部屋だ。テーブルに早速ドイリーを敷いて錬金釜を乗せると、まずそこで長光さんから歓声が上がった。
「すげえ! なんか雰囲気がすげえ!」
始める前からこのテンションなので、思わず笑う。フッと肩の力が抜けたことで、俺は少なからず緊張してたんだってことがわかった。
そこで長光さんが懐から何かを出し始めた。
次々重なっていくそれは、錬金素材鉱石の山。今までため込んでいたものを本当に全部持ってきたらしい。
「忘れるところだったが、これ、土産な。遠慮なく貰ってくれ。俺には何も出来ない物だから」
「すごい……全部で何個くらいあるんだろ」
一つ手に取ってみると、普通の石みたいなそれがしっかりと錬金素材と鑑定された。
トータルで30個くらいはありそうだよ。全部貰っていいってものすごく太っ腹。
俺もちょっとテンションが上がってきて、その素材を一つ一つ鑑定しながら広い方のテーブルに並べていった。
レシピを見るのが楽しみ。
まずは何を作ろうか、と考えて、手慣らしに簡単なところを作ることにした。
トレどころかウノ付近でも手に入る錬金素材を使って、『ホットゼリー』を製作する。素材もたった二つの超簡単な物。
すぐに出来上がったので、それを長光さんに渡した。
「これは武器とか防具に冷感軽減を付与できる『ホットゼリー』っていう物です。そのまま使うこともできる、お手軽なやつですけど、使ってみますか?」
「おもしれえ。使おう。それにしても、こんなに簡単にできるんだなあ」
「これは初歩のレシピですから」
まじまじと瓶を見ながら感心した声を上げる長光さんに申し訳ないと思いながら付け足す。
じゃあちょっと難易度が高いものを作ろうか。
俺は長光さんから祭壇の洞窟で買い取った『水玄光石』を取り出した。そしてサラさんのレシピ本を取り出して開く。
あった。真ん中より少し後ろの方に『水玄光石』を使うレシピが載ってた。他の素材も、俺が持ってる素材とハルポンさんにもらった素材、そして今まさにお土産としてもらった素材の名前が並んでいて、丁度一つレシピが埋まっていた。
でも作ってみないと何ができるのかはわからない。
俺はレシピを見て流れを掴んでから、錬金釜にMPを注いだ。ヴィデロさんも手伝って魔力を注いでくれたから、きっといいのが出来上がるよ。
長光さんが見ている中、俺は一つ一つ丁寧に素材を謎液体に溶かしていった。
最後力づくでグルグルかき混ぜると、中の液体がだんだんと固まっていって、コロンと石が一つ出来上がった。
鉱石素材がメインだから出来上がるのも石系なのかな、なんて思いながら釜の中から出来上がった物を取り出す。
「ここまで出来上がったら長光さんも鑑定できるはずです」
「お、おお……」
出来立てほやほやの青い石を渡すと、長光さんはそっとそれを持ち上げた。
「『海光玄魔石』海塩の浄化作用を付与することが出来る魔石。水属性のモノに着装するとより効果が高くなる……これ、鎧に着けりゃ簡単に属性付与できる系魔石じゃねえか……」
「錬金術で出来る石は大抵そんな感じですよ」
「うわ……やっぱ出てくる謎素材これからも全部マック君にやるわ。だからこういうの大量に作って欲しい。装備品に組み込みてえ。夢が広がるだろ……! そこにさらに魔法陣で強化すれば、今以上にすげえ防御力の物ができるってこったろ!」
石を光にかざしながら、長光さんのテンションはマックスになったみたいだった。
もっと作れねえか?! と目を輝かせる長光さんに頷いて、俺はさらにもう一つ新しいレシピの物を作った。
今度もまた青い石だった。でもさっきとは青さの度合いが違う。今出来上がった方は、少しだけ緑がかった碧色って感じだった。
「『深水淡石』こっちは水系を弾く効果を付与する石か。深くて淡いって面白い名前だな。ヴィデロ君、これ、ちょっとさっきの鎧に着けてもいいか?」
鑑定をした長光さんが、そのアイテムを持ってそんなことを言い出した。
ヴィデロさんは苦笑して「任せる」と一言。
よっしゃあ! と立ち上がった長光さんが鎧のある部屋の方に移動していったので、どうやってつけるのか気になった俺たちも後をついていった。
長光さんは鎧の前に立つと、懐から道具を数点取り出した。
彫刻刀のような物を手に持って、鎧をじっと見つめる。
そして、腰部分を指でなぞると、長光さんは膝をついて、ベルト部分の中心を大胆にも手に持った道具で彫り始めた。
まるで柔らかい物にスプーンを通すように抉られた鎧に驚いていると、長光さんは違う道具を使って懐から取り出した金色の鉱石を薄くそこに張り付けていった。
そして最後にはさみのような物で伸ばした金色の鉱石を飾り切りしてから、懐から薬剤を取り出す。今加工した場所すべてにそれを筆で塗って、手に持った石を填めた。ぴったりだった。測ってもいないのにぴったり。なんか、神業を見せてもらっている気分だった。
最後にその石の上にも薬剤を塗って、その瓶を懐にしまうと、長光さんは立ち上がった。
「できた。ヴィデロ君、もう一回着てみてくれねえか? あと魔法を使える場所はねえかな」
「街門宿舎に修練所があるから、そこなら」
「よし、じゃあ着たら移動だ」
パールグリーンの鎧を纏って、黒いマントを羽織ったヴィデロさんは、それはもう戦神の如き尊さだった。トレの街を颯爽と歩くその姿がもう、もう……。
「マック君、顔が緩んでる」
「だってヴィデロさんが神々しすぎて俺もう瀕死です……!」
「そりゃ製作者冥利に尽きるな。気に入ったか?」
「最高過ぎて俺もうどうしよう……っ」
そうでなくても鎧を着たヴィデロさんはかっこいいんだよ。それが、さらにヴィデロさんを引き立てるような鎧が、控えめに言って最の高です。
面を上げてこっちを振り返ったヴィデロさんも、俺のあまりの悶えっぷりに苦笑していた。見慣れるまでがヤバそう。新しい鎧、最高。黒い鎧も良かったけど、何度でもいうけど今回の鎧ほんと最高。やっぱりヴィデロさんは淡い色の鎧の方が似合うと思う。
そっと手甲の填められた手に自分の手を伸ばすと、すぐにヴィデロさんがその手を握ってくれた。好き。
道行く人も、ヴィデロさんのあまりのかっこよさに足を止めてこっちを見ているのは気のせいじゃない。
門に着くと、タタンさんと交代したマルクスさんが門に立っていた。
「ようお二人さん。二人で部屋にしけこんでると思ったら、鎧ショッピングデートしてたのか? 新しい鎧すげえいいんじゃねえ? なんつうか、神鍛冶師が作ったみてえな」
「サンキュ」
マルクスさんの言葉に、ヴィデロさんじゃなくて長光さんがそう返した。
そしてニヤッと笑って鎧の方に目を向けた。
「俺が作ったんだ。褒めてくれてサンキュ」
「あんたが作ったのか。すげえ腕だな。辺境にいる腕だけは最高の偏屈爺さんより腕がいいんじゃねえ? あんまり見た事はねえけど」
「あの爺さんはすげえよ。俺の尊敬する爺さんだ。付き合ってみるとなかなか面白い爺さんだぜ」
「知ってるのか、その爺さんを」
「ああ。俺はその偏屈爺さんの元で腕を磨いたからな」
「へえ……道理で」
フッとマルクスさんの目が細められた。
長光さんの何かを認めたらしい。「ヴィデロとマックの友人なら歓迎するぜ」と詰所の入り口を開けた。
すごい。一瞬でマルクスさんが落ちた。
快く詰所に通してもらう長光さんの背中を見つめながら、俺は今まさにNPCタラシの偉業を目にしたことに、感嘆の溜め息が止められなかった。
詰所の修練所に行くと、長光さんは早速ヴィデロさんを立たせて、次々魔法を繰り出した。
魔法は苦手なんだよ、という言葉の通り、どれも初歩の魔法だった。
その初歩の魔法を受けたヴィデロさんは、特にダメージを受けた様子もなく、腕組みをしたまま普通に立っている。
長光さんはヴィデロさんに近付いて行くと、背中に回り込んだ。そして何かを調整して満足そうな顔をして戻って来る。
「なかなかいいみたいだな。調整もこれで大丈夫」
頷いたところで、周りに集まった非番の門番さんたちがヴィデロさんに近付いていった。そして「すげえなあこの鎧」「いくらしたんだよ」「まさかマックに買わせたりしてねえよな」「俺も欲しい」とヴィデロさんをもみくちゃにし始めた。
すぐにサッと離れた長光さんは、その光景を俺の横に立って眺めていた。素早い。
「ヴィデロさん潰されそう……」
「なあに、あれくらいの攻撃で潰れる鎧じゃねえよ」
「でも後ろでタタンさんが狙ってますよ……」
「……大丈夫だ。でんと構えとけ」
今一瞬間が開きませんでしたか? ジト目で見ると、長光さんがさっと目を逸らした。
あ、ヴィデロさんがガレンさんに圧し掛かられて潰れた。その上から他の門番さんも乗り込んでいく。ヴィデロさん潰れちゃわないかな!
見えなくなったヴィデロさんにちょっと焦っていると、山になった門番さんたちが一気に崩れた。そして、そこには無傷のヴィデロさんが立っていた。す、すごい。
潰されたヴィデロさんも周りの門番さんたちもかなり大笑いしていて、すごく楽しそうなのが見ていてわかった。つられるように俺の顔も笑っていた。
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