これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
上 下
420 / 830

417、ちょっとだけ嫉妬したんだ

しおりを挟む
 

 長光さんが帰っていった後の部屋には、滅茶苦茶かっこいい鎧が二つ並んで置かれている。

 本当にかっこよかった。一から長光さんがデザインしたんだったら、ほんとにセンス抜群。



「実はマックは鎧が好きなのか?」



 ヴィデロさんにそう訊かれるくらいには鎧をガン見してた俺。

 でもね違うんだよ。自分で着ようとは全く思わないんだよ。ヴィデロさんが着てるのを見るのが好きなんだよ。だって本当にかっこいいんだもん。

 デレッとしながら鎧姿のヴィデロさんを思い出していると、普段着のヴィデロさんが肩を竦めた。



「鎧に嫉妬しそうだ」



 苦笑気味にそう言われて、俺はヴィデロさんのすぐ横に足を進めた。

 椅子に座って寛いでいたヴィデロさんは、近付いた俺の腰に腕を絡めた。

 ぐい、と腕に力を込められて、膝上に持ち上げられる。向き合う形でヴィデロさんの膝の上に乗った俺は、ちょっとだけ口を尖らせた。

 でもね、俺もちょっとだけ嫉妬してるんだよ。

 ヴィデロさんの綺麗な緑色の目を見ながらそう言うと、ヴィデロさんは驚いたように目を開いた。



「嫉妬? 何に?」

「長光さんに。だって、ヴィデロさんとあんなに仲良くなっちゃうから」

「長光か……」



 ヴィデロさんはひとつ溜め息を吐くと、俺の額に自分の額をこつんとくっつけた。

 そして、尖った俺の口に、ちょん、と唇で触れた。



「あいつは、鍛冶師だろ。さっきの鎧にしても、俺が今まで着た中で一番性能が良くて、何より軽くて動きやすかった。近衛騎士の鎧よりもだ。マックが王宮にユキヒラを送って行ってる間に剣の手入れもしてもらったが、今まで以上に剣の性能を引き出せる腕を持っていた。俺たちのような騎士にとって、鎧と武器は生命線だ。それをよりよくできる鍛冶師は、尊敬すべき者だと父から教わったし、俺もそう思ってる。マックが嫉妬するような間柄とは、全然違うよ。そんなことを言ったら、俺だって高橋やヴィルに嫉妬する。俺よりももっともっと長い時間マック……ケンゴと共に過ごすことが出来るから」



 ちゅ、ともう一度口を啄ばまれて、俺は尖った口を引っ込めた。

 そうか、だから名乗ったんだ。

 ヴィデロさんは俺とヴィルさん以外のプレイヤーには名前を教えないとか、そういう優越感を持ってた。でも、それは単なる俺の驕りで、長光さんへの嫉妬は俺の心の狭さだ。

 確かに戦う人にとっては、身を守る鎧とか武器は生命線だ。それをメンテナンスする人を信用できないでどうするんだよって話だよな。

 俺だって長光さんは信頼してるし、何よりヴィデロさんを守る鎧を、他の鎧製作を後回しにしてまで最初に作ってくれた人なのに。

 それなのに嫉妬するって、俺どれだけ女々しいんだろ。

 自分の軽はずみな発言に落ち込んで、ヴィデロさんの肩に額を乗せて落ち込む。

 小さい声で「ごめんなさい」と謝ると、ヴィデロさんが含み笑いをした振動が額に伝わってきた。



「でも、嫉妬されるのは嬉しい。マックがちゃんと俺を独り占めしたいと思ってくれてるのがわかるから」

「ヴィデロさん……」

「嫉妬してるマックも、俺をうっとりと見てくれるマックも、愛し合ってる時の扇情的なマックも、全部俺が独り占めしたい。でもそれをすると縛り付けすぎて逃げられそうだからしないけどな。それに、嫉妬してもらえないのは逆に悲しい」

「ヴィデロさん……好き」

「ああ。俺も愛してる。もう一度、マックを愛してもいいか?」

「うん……俺も愛したいし愛して欲しい」



 顎を持ち上げられて、ちゅ、とキスをされて、俺は湧き上がる感情を隠すことなく口から紡いだ。

 大好き、と。もう一度俺の中でヴィデロさんを感じたいと。





 一度愛し合った名残の残るしわくちゃシーツのベッドにもう一度移動した俺たちは、またもベッドに体重を預けた。

 すぐにでも愛し合いたかった俺は、太ももを自分で押さえて、足を開いた。

 早く欲しい、としっかりとそそり立った俺のモノをヴィデロさんに晒すと、ヴィデロさんは困ったように口もとを抑えて、動きを止めた。

 がっつきすぎたのかな。でも、恥ずかしさよりも早く欲しい気持ちの方が大きいんだ。



「……煽りすぎだろ」

「だって、はやく……っ」



 欲しいから、という前に、ヴィデロさんが俺の中に挿ってきた。さっき愛し合った名残でまだ柔らかかったから、ただただ衝撃と快感だけが身体の中を伝う。思わず声を漏らすと、その声を閉じ込めるかのように、ヴィデロさんが口を重ねた。

 頭を抱え込まれて、激しいキスをしながら、奥を突かれる。思い切り足を開いているおかげか、いつもよりもさらに奥にヴィデロさんのヴィデロさんが当たる気がした。

 ぐい、と腰に腕を回されて、持ち上げられて、思わず「あ!」と声を上げる。

 奥の奥のめちゃくちゃ気持ちいい場所を、ぐいぐいと刺激された。出し入れされてるわけじゃないのに、そこをぐりぐりされるだけでカーっと頭に熱があがる。



「ふ、んんっ……っ! ……っ」



 声にならない声をヴィデロさんの口に堰き止められて、俺はさらにヴィデロさんのヴィデロさんを締め付けていた。

 散々奥を突かれて、中を擦られて、揺さぶられて、腹を汚して、それでも足りないとヴィデロさんが囁く。

 俺、お腹いっぱいだけど、ちゃんとヴィデロさんが満腹になるまで俺を食べつくしてほしい。何度でも、いつでも。

 愛してる、の言葉を聞きながら、俺は何度目かの熱をお腹の中で感じた。



 ヴィデロさんに身体を拭いてもらうと、俺はのろのろと服を着た。ヴィデロさんは怠そうなところは全然見せずに、俺のぼーっとした様な顔を見て、幸せそうに微笑んだ。ああ、その顔、一番好き。







 ぐっすり眠れた次の日、学校を終えてバイトに行くと、無精ひげをそのまま放置した様な顔で、目の下にクマさんを飼ってるヴィルさんが迎えてくれた。



「システム書き換えに付き合わされた……健吾、すまない、ご飯が出来たら起こしてくれ……」



 それだけ言うと、フラフラと簡易ベッドを引っ張り出して転がった。

 ええと、一昨日のバイトの時もヴィルさんとアリッサさんは寝てないって言ってたけど、もしかしてそれからもほとんど寝てなかった、とか。

 二人ともやることが膨大なのは想像つくけど、身体が資本なのに。

 そう言えば、と部屋を見回すと、いつもはパソコン前に座って何かしら作業をしているはずの佐久間さんもいなかった。

 ってことは、今日のご飯はヴィルさんの分だけなのかな。

 そんなことを思いながらキッチンに続く方に回り込むと、奥にポツンと置いてあるソファーで佐久間さんが撃沈していた。全員が大変だったんだね……。ごめんなさい、皆が寝ないで作業をしているその間、俺はヴィデロさんと愛をはぐくんでました。まあシステム云々は俺は触れないから何も出来ないんだけどね。







「一気に同じ場所に人が集まると、ちょっとシステムが誤作動を起こすらしくてな。それの調整に駆り出されていたんだ。どうもトレの街の転移魔法陣が大人気らしくて。いやはや、有名人は大変だな、健吾」

「はい?」



 ご飯が出来たからと起こすと、ヴィルさんは案外すっきりした顔つきで食卓に着いた。そして、徹夜作業の内容を教えてくれたんだけど、有名人……って。



「健吾と弟のご利益にあやかりたいと、絶対にトレの街の転移魔法陣は登録したいというプレイヤーでギルドは大混雑らしい。母親に用事があって行っても中にすら入れないから諦めて部屋に直接跳ぶことにしたんだと天使が教えてくれた」

「ええと……ご利益って、ヴィデロさんの『エッジラック』の?」

「というか幸せのおすそ分けだな」

「わけが分からない。前に海里もそんなことを言ってましたけど、それほんとなんですかね」

「俺は検証したことはないから何とも言えないけど、こういうのは事実よりもその人の気持ち次第なんじゃないか? 健吾の掲示板がなかなか面白いことになってるぞ」

「見たくないですよそんなの……」



 楽しそうにそういうヴィルさんに、思わず肩を落とすと、佐久間さんがニヤリと笑った。



「一度見てみろよ。門番さん浮気疑惑が持ち上がってるぞ」

「……」

「長光とかいうやつと」



 無言になった俺に追い打ちをかけるように、佐久間さんが楽しそうにそう言った。

 それを聞いたのが今日でよかった。と苦笑する。

 だってまさに昨日、それが原因でたんまり愛し合ったし。あれがなかったら、ちょっとだけ不安が胸をよぎってたかも。



 それにしても、ヴィデロさんが長光さんと浮気疑惑……。

 うん、絶対に掲示板を見るのはやめよう。なんか、精神的に大打撃を受けそうだ。



 
しおりを挟む
感想 508

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

VR『異世界』より

キリコ
BL
 急速な高齢化が進む中、それに急かされるように開発が先行されていた、医療用VR技術の一般転用がされ始め早数年。  大手シェアのゲーム機メーカーが、ライバル社の幾つかと手を組み共同開発したVRゲームが、ついにお披露目されることになった。  その名も『異世界』。  世界中の名だたる頭脳によって作られたゲーム世界の神、AIユグドラシルの主張により、購入予約の権利は脳波測定を併用したテストをクリアした者を優先するとされた。後から公開されたその基準は、悪でもなく過ぎた善でもない者。毒にも薬にもならない、選りすぐりの『普通の人』。  ゲームができると思えば合格したのは嬉しい事なのに、条件に当てはまったと言われると嬉しくない。そんな微妙な気持ちながら、ついにログインできる日が来たのだった。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。 かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。 その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。 ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。 BLoveさんに先行書き溜め。 なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

処理中です...