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417、ちょっとだけ嫉妬したんだ
しおりを挟む長光さんが帰っていった後の部屋には、滅茶苦茶かっこいい鎧が二つ並んで置かれている。
本当にかっこよかった。一から長光さんがデザインしたんだったら、ほんとにセンス抜群。
「実はマックは鎧が好きなのか?」
ヴィデロさんにそう訊かれるくらいには鎧をガン見してた俺。
でもね違うんだよ。自分で着ようとは全く思わないんだよ。ヴィデロさんが着てるのを見るのが好きなんだよ。だって本当にかっこいいんだもん。
デレッとしながら鎧姿のヴィデロさんを思い出していると、普段着のヴィデロさんが肩を竦めた。
「鎧に嫉妬しそうだ」
苦笑気味にそう言われて、俺はヴィデロさんのすぐ横に足を進めた。
椅子に座って寛いでいたヴィデロさんは、近付いた俺の腰に腕を絡めた。
ぐい、と腕に力を込められて、膝上に持ち上げられる。向き合う形でヴィデロさんの膝の上に乗った俺は、ちょっとだけ口を尖らせた。
でもね、俺もちょっとだけ嫉妬してるんだよ。
ヴィデロさんの綺麗な緑色の目を見ながらそう言うと、ヴィデロさんは驚いたように目を開いた。
「嫉妬? 何に?」
「長光さんに。だって、ヴィデロさんとあんなに仲良くなっちゃうから」
「長光か……」
ヴィデロさんはひとつ溜め息を吐くと、俺の額に自分の額をこつんとくっつけた。
そして、尖った俺の口に、ちょん、と唇で触れた。
「あいつは、鍛冶師だろ。さっきの鎧にしても、俺が今まで着た中で一番性能が良くて、何より軽くて動きやすかった。近衛騎士の鎧よりもだ。マックが王宮にユキヒラを送って行ってる間に剣の手入れもしてもらったが、今まで以上に剣の性能を引き出せる腕を持っていた。俺たちのような騎士にとって、鎧と武器は生命線だ。それをよりよくできる鍛冶師は、尊敬すべき者だと父から教わったし、俺もそう思ってる。マックが嫉妬するような間柄とは、全然違うよ。そんなことを言ったら、俺だって高橋やヴィルに嫉妬する。俺よりももっともっと長い時間マック……ケンゴと共に過ごすことが出来るから」
ちゅ、ともう一度口を啄ばまれて、俺は尖った口を引っ込めた。
そうか、だから名乗ったんだ。
ヴィデロさんは俺とヴィルさん以外のプレイヤーには名前を教えないとか、そういう優越感を持ってた。でも、それは単なる俺の驕りで、長光さんへの嫉妬は俺の心の狭さだ。
確かに戦う人にとっては、身を守る鎧とか武器は生命線だ。それをメンテナンスする人を信用できないでどうするんだよって話だよな。
俺だって長光さんは信頼してるし、何よりヴィデロさんを守る鎧を、他の鎧製作を後回しにしてまで最初に作ってくれた人なのに。
それなのに嫉妬するって、俺どれだけ女々しいんだろ。
自分の軽はずみな発言に落ち込んで、ヴィデロさんの肩に額を乗せて落ち込む。
小さい声で「ごめんなさい」と謝ると、ヴィデロさんが含み笑いをした振動が額に伝わってきた。
「でも、嫉妬されるのは嬉しい。マックがちゃんと俺を独り占めしたいと思ってくれてるのがわかるから」
「ヴィデロさん……」
「嫉妬してるマックも、俺をうっとりと見てくれるマックも、愛し合ってる時の扇情的なマックも、全部俺が独り占めしたい。でもそれをすると縛り付けすぎて逃げられそうだからしないけどな。それに、嫉妬してもらえないのは逆に悲しい」
「ヴィデロさん……好き」
「ああ。俺も愛してる。もう一度、マックを愛してもいいか?」
「うん……俺も愛したいし愛して欲しい」
顎を持ち上げられて、ちゅ、とキスをされて、俺は湧き上がる感情を隠すことなく口から紡いだ。
大好き、と。もう一度俺の中でヴィデロさんを感じたいと。
一度愛し合った名残の残るしわくちゃシーツのベッドにもう一度移動した俺たちは、またもベッドに体重を預けた。
すぐにでも愛し合いたかった俺は、太ももを自分で押さえて、足を開いた。
早く欲しい、としっかりとそそり立った俺のモノをヴィデロさんに晒すと、ヴィデロさんは困ったように口もとを抑えて、動きを止めた。
がっつきすぎたのかな。でも、恥ずかしさよりも早く欲しい気持ちの方が大きいんだ。
「……煽りすぎだろ」
「だって、はやく……っ」
欲しいから、という前に、ヴィデロさんが俺の中に挿ってきた。さっき愛し合った名残でまだ柔らかかったから、ただただ衝撃と快感だけが身体の中を伝う。思わず声を漏らすと、その声を閉じ込めるかのように、ヴィデロさんが口を重ねた。
頭を抱え込まれて、激しいキスをしながら、奥を突かれる。思い切り足を開いているおかげか、いつもよりもさらに奥にヴィデロさんのヴィデロさんが当たる気がした。
ぐい、と腰に腕を回されて、持ち上げられて、思わず「あ!」と声を上げる。
奥の奥のめちゃくちゃ気持ちいい場所を、ぐいぐいと刺激された。出し入れされてるわけじゃないのに、そこをぐりぐりされるだけでカーっと頭に熱があがる。
「ふ、んんっ……っ! ……っ」
声にならない声をヴィデロさんの口に堰き止められて、俺はさらにヴィデロさんのヴィデロさんを締め付けていた。
散々奥を突かれて、中を擦られて、揺さぶられて、腹を汚して、それでも足りないとヴィデロさんが囁く。
俺、お腹いっぱいだけど、ちゃんとヴィデロさんが満腹になるまで俺を食べつくしてほしい。何度でも、いつでも。
愛してる、の言葉を聞きながら、俺は何度目かの熱をお腹の中で感じた。
ヴィデロさんに身体を拭いてもらうと、俺はのろのろと服を着た。ヴィデロさんは怠そうなところは全然見せずに、俺のぼーっとした様な顔を見て、幸せそうに微笑んだ。ああ、その顔、一番好き。
ぐっすり眠れた次の日、学校を終えてバイトに行くと、無精ひげをそのまま放置した様な顔で、目の下にクマさんを飼ってるヴィルさんが迎えてくれた。
「システム書き換えに付き合わされた……健吾、すまない、ご飯が出来たら起こしてくれ……」
それだけ言うと、フラフラと簡易ベッドを引っ張り出して転がった。
ええと、一昨日のバイトの時もヴィルさんとアリッサさんは寝てないって言ってたけど、もしかしてそれからもほとんど寝てなかった、とか。
二人ともやることが膨大なのは想像つくけど、身体が資本なのに。
そう言えば、と部屋を見回すと、いつもはパソコン前に座って何かしら作業をしているはずの佐久間さんもいなかった。
ってことは、今日のご飯はヴィルさんの分だけなのかな。
そんなことを思いながらキッチンに続く方に回り込むと、奥にポツンと置いてあるソファーで佐久間さんが撃沈していた。全員が大変だったんだね……。ごめんなさい、皆が寝ないで作業をしているその間、俺はヴィデロさんと愛をはぐくんでました。まあシステム云々は俺は触れないから何も出来ないんだけどね。
「一気に同じ場所に人が集まると、ちょっとシステムが誤作動を起こすらしくてな。それの調整に駆り出されていたんだ。どうもトレの街の転移魔法陣が大人気らしくて。いやはや、有名人は大変だな、健吾」
「はい?」
ご飯が出来たからと起こすと、ヴィルさんは案外すっきりした顔つきで食卓に着いた。そして、徹夜作業の内容を教えてくれたんだけど、有名人……って。
「健吾と弟のご利益にあやかりたいと、絶対にトレの街の転移魔法陣は登録したいというプレイヤーでギルドは大混雑らしい。母親に用事があって行っても中にすら入れないから諦めて部屋に直接跳ぶことにしたんだと天使が教えてくれた」
「ええと……ご利益って、ヴィデロさんの『エッジラック』の?」
「というか幸せのおすそ分けだな」
「わけが分からない。前に海里もそんなことを言ってましたけど、それほんとなんですかね」
「俺は検証したことはないから何とも言えないけど、こういうのは事実よりもその人の気持ち次第なんじゃないか? 健吾の掲示板がなかなか面白いことになってるぞ」
「見たくないですよそんなの……」
楽しそうにそういうヴィルさんに、思わず肩を落とすと、佐久間さんがニヤリと笑った。
「一度見てみろよ。門番さん浮気疑惑が持ち上がってるぞ」
「……」
「長光とかいうやつと」
無言になった俺に追い打ちをかけるように、佐久間さんが楽しそうにそう言った。
それを聞いたのが今日でよかった。と苦笑する。
だってまさに昨日、それが原因でたんまり愛し合ったし。あれがなかったら、ちょっとだけ不安が胸をよぎってたかも。
それにしても、ヴィデロさんが長光さんと浮気疑惑……。
うん、絶対に掲示板を見るのはやめよう。なんか、精神的に大打撃を受けそうだ。
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