これは報われない恋だ。

朝陽天満

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202、生死不明の捜索依頼

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 門の前に立った瞬間、俺達は問答無用で詰所にしょっ引かれた。

 奥の会議室みたいなところに連れて行かれると、そこには険しい顔をしたブロッサムさんと、初めて見る顔の厳つい人が立っていた。

 ここの団長さんらしい。そっとヴィデロさんに教えて貰った。

 ブロッサムさんは俺達を見ると近寄ってきて、まずはヴィデロさんの身体を手でバンバン叩き、次いで俺の身体をヴィデロさんよりは軽くバンバン叩いた。

 「傷はねえみてえだな」と離れていったから、俺達が怪我をしてないか確認したらしい。



「マックははじめましてか? 俺らの親玉のソルブっていうしがない団長だ」

「あの、はじめてです。よろしくお願いします」



 頭を下げると、団長さんがじろりと俺を見下ろして、小さく頷いた。

 そして、テーブルに着くように俺たちを促す。お言葉に甘えて座らせてもらうことにした。



「まずは今回の事、謝らせてもらう。我々の騎士団の所からマック殿のことが教会に知れてしまった。無事で何よりだ。何事もなかった……わけではないな。教会内部がここトレでも大変なことになっているようだから。詳しく聞かせてもらってもいいか、ヴィデロ」

「はい」



 ビシッと敬礼したヴィデロさんがセィの王宮で起こったことをざっと話す。俺が拉致されたこと、教会内部の人が闇魔法を使いまくりだったこと、教皇が実は呪いを蔓延させて詐欺まがいに金を儲けていたことを包み隠さずハッキリと。そして教皇が処刑されて後釜を探すのを宰相の人が請け負ったことまで。

 団長さんは訊き終わった後、厳しい顔をさらに厳しくして、ブロッサムさんにちらりと視線を向けた。



「教会に漏らしちまったのは、ケイなんだよ。ここで俺らが話してる時、廊下で話を聞いたらしい。そこから不自然に抜け出して、教会に入るところを追っていたロイが見ている。捕まって強制的に意識改革させられるらしいぜ」

「うわぁ、意識改革……」

「ケイが……」



 思わず顔を顰めてしまう。ヴィデロさんは少しだけ目を伏せて、ちょっとだけ深く息を吐いた。仲良かったのかな。でもあれって魅了の呪いが掛かってるんだったら、ディスペルハイポーションで一発なんだけど。薬、いつ頃出回るんだろう。

 そう思っていると、団長さんが腰のカバンから一本、見慣れない瓶を取り出した。中は、うっすい青の液体。



「あ、それ……」

「二日前から出回り始めた、ディスペルハイポーションだ。貴殿の作った物とは雲泥の差だが、ようやく薬師が新薬を製作したようだ。試験的にギルドにだけ卸している」

「え、早くないですか? 宰相の人にレシピを渡したの、ええと、何日か前なのに。それに薬師の人たち、動いたんだ……」

「一斉にすべての街に伝達されたから、動かざるを得ないだろう。これで動かなかったら薬師としてやっていく波に乗り遅れるからな。それに秘匿しようにも、すべての薬師たちに伝わったから、師であろうと弟子であろうと平等に作る権利が生まれたわけだ。しかもランクBを作った者は報酬を貰えると尻を叩かれた。そして、師が弟子の功績を奪おうものなら、その師の未来は四角い冷たい箱の中と決まってしまっている。内部告発もバンバンしないとその師と共謀していると見られて捕まってしまうという触れの内容だからな」



 うわあ、まさに血も涙もない。師弟関係を崩しちゃったよあの宰相の人。

 話を聞くたびに机に突っ伏したくなるのを必死で我慢していると、団長さんがディスペルハイポーションをまじまじと見てから、俺の前に置いた。ランクはDだった。



「これが解禁になったのは、二日前だ。貴殿らの足取りが途絶えた後になる。もしやまだ手を出そうとする教会の者が貴殿らを捕え、殺したのかと思いこちらは気が気ではなかった」

「お前らが教会から呪いの石像を持ってったってのは伝手で聞いてたからよ、もしやそれを知った教会の奴になんかされたのかと思ったんだよ。慌てて近くの呪いの石像の所に行ってみれば撒き散らされてそう何日も経ってない血だまりがあるしよ」



 ヴィデロさんの血だ。

 確かに、探してたところに血だまりが出来てたら、生きてるとは思えないよな。実際、俺は一回死に戻りしてヴィデロさんは死にかけたわけだけれども。

 教会とは全く無関係の所で。



「これヴィデロとマックのじゃねえか、なんて見回った全員で青くなったぜ。それが、元気で何よりだよ。で、どこ行ってたんだよ」



 御明察。でも獣人の村の事、言っていいのかちょっと迷う。

 ちらりとヴィデロさんを見ると、ヴィデロさんはまっすぐ前を向いていた。



「それを訊かれても答えることは出来ない。ただ、あの血は俺のもので相違ないし、教会の手の者がやったんじゃないとだけ言っておく」



 まっすぐにブロッサムさんを見てきっぱり答えたヴィデロさんに、目の前の二人は盛大に溜め息を吐いた。



「やっぱりお前の血かよ……。まあ、そばにマックがいたんなら、どれだけ傷つこうが即治すとは思ってたけどよ」



 すいませんその時俺ここの工房に死に戻ってきてました。って言ったらもっと追及されそうだから、黙っておく。



「あれだけ血が流れたってことは、まだ本調子じゃねえんじゃねえか? ハイポーションでは血は作れねえから」

「いや、体調は戻ったから大丈夫だ」

「馬鹿お前、ここは「まだ万全じゃねえ」ってもう一日くらい休むところだぞ」



 ヴィデロさんの答えを聞いてガシガシと頭を掻くブロッサムさんに、団長さんが鋭い視線を向けた。



「お前がそういうことを言ってどうするんだ」

「だってよ、生死の境をさまよってたんだろ。ようやく帰って来たのに次の日から仕事とか、俺ならやってらんねえっての」

「ブロッサム……」



 ブロッサムさん、あけすけすぎて団長さんが凄い目で見てますよ。え、これが通常なの? ヴィデロさん全然気にしてないんだけど。

 その後二人は少しだけ睨み合い、団長さんがヴィデロさんの復帰は明後日からと宣言してお開きになった。結構堅苦しそうな団長さんなのに、ブロッサムさんは団長にもあんな感じなんだと思うとなんとなくおかしい。

 三人で団長さんの消えていったドアを見送ると、ブロッサムさんが早速身を乗り出した。そして、ヴィデロさんの頭に拳骨を……お見舞いしようとして、よけられていた。



「なあ、一体お前らどこの死地を乗り越えてきたんだよ」



 よけられても気にせず、ブロッサムさんが身体を戻す。そして半眼で呟いた言葉に、俺達は顔を見合わせた。



「ど、どうして……」

「あれだけの血が流れるってことは、身体の血がやたら出るところを切られたか、致命傷か、切られてしばらく放置されたかのどれかなんだよ。でもな、マックが倒れたヴィデロを放っておくわけねえだろ。ってことはマックもやられたか、一瞬で致命傷を負ったかしかねえわけだ。二人でな。でも、こうして生きてる。しかもヴィデロ、知らねえ間に肉付きが前よりよくなってやがるだろ。それに身のこなしも、前と全然違う。一体お前らどこで何してきたんだ」



 全て見透かされてたみたいだった。さすがに副団長を務めるだけはあるブロッサムさんだ。



「言えねえようなヤバいことか?」



 黙り込んだ俺たちを一瞥して、ブロッサムさんは盛大に溜め息を吐いた。

 こうなるとヴィデロは絶対に口を割らねえんだよな、なんて言って。



「ま、明日はゆっくり休め。もし話せるようになるんだったら、その時は包み隠さず話せ。……そしてマック」

「はい」



 鋭い眼光で見られて、思わず背中を伸ばすと、ブロッサムさんがテーブルの上に置かれたままの薄青い薬をちらりと見た後、また俺に視線を戻した。



「よくやってくれた。恩に着る」



 深々と机に頭をぶつける様に、ブロッサムさんは頭を下げた。







 ようやく詰所から解放されて、俺はヴィデロさんに工房まで送ってもらった。

 まだ陽は高い。しかももうお役御免なのに、送るというヴィデロさんを他の門番さんは暖かい顔で見送ってくれた。マルクスさんなんか、ヴィデロさんがつんのめるくらいの力を入れて背中をバンバン叩いていた。きっと皆すごく心配だったんだろうな。ほんと、俺のために申し訳ない。本当はヴィデロさんを先に帰してから一人で動けばよかったんだろうけど、それだといまだに一つ目の洞窟あたりでくすぶってた気がするから、ほんと助かったんだ。でももう、ほんとにパーティー解消、かな。

 少しだけ寂しくなって、ヴィデロさんの手にそっと自分の手を伸ばすと、しっかりと握りしめてくれた。

 手を繋いで工房の前に辿り着き、最初に目に入ったのは。

 玄関の所に貼ってある貼り紙だった。



「クラッシュだ……至急って書いてある。いつ貼ったんだろ」

「行くか? それとも明日にするか?」



 ヴィデロさんの言葉に、一瞬だけ躊躇った後、俺達はクラッシュの店に向かうことにした。至急と書いてあるから、もちろん工房からクラッシュの家の奥の部屋へ転移で。



 視界が変わってクラッシュの家に出た瞬間、目に飛び込んできたのは、エミリさんだった。

 テーブルの上には、この国の地図が広げられていて、ところどころバツ印が付いていた。



「え、嘘、やだ」



 俺を見て、エミリさんが目を見開いている。誰もいないところに、「クラッシュ、クラッシュちょっと!」と声を掛けている。

 次の瞬間、俺達の隣にクラッシュが姿を現した。

 クラッシュも俺の姿を見た瞬間目を見開いて驚いてから、俺を羽交い絞めした。



「いた! マック一体どこ行ってたんだよ! 生死不明で捜索願いとか門番たちが騒いでたから、俺も捜索に加わってたんだよ! ギルドでも母さんが依頼を出してたんだからな!」

「いたたた、マジか、そんなに大事に……って、痛いよクラッシュ」

「俺の心の方が痛かったってこと、わかれよ!」

「ごめんって! 助けてヴィデロさん!」



 俺達がじゃれてるのをわかってるのか、こういう時はヴィデロさんは苦笑しながら見てるだけ。

 解放してもらうと、スタミナが結構減っていた。クラッシュ。今本気だった?



「教会にバレてなんかあったのかと思って色んな教会に跳んでみれば教皇が処刑されてるし、遊び歩いてるのかなと思って洞窟とか跳んでみればジャル・ガーがいなくなっててべっとり血だまりがあるし。関係がありそうな石像あるところに跳んでみれば壊れてたはずの石像が新しいのに変わってるし。わけわからない」

「クラッシュ、マックは無事だったんだし。一番肝心なことを伝えてないわよ」



 喚き散らしていたクラッシュは、エミリさんの言葉で口を尖らせた。



「……二人とも、生きててよかった」



 しばらく俺の服を握ってたクラッシュが、ぽつりと零した。



「ねえヴィデロさん。クラッシュとエミリさんなら、エルフとハーフエルフだから言ってもいいんじゃないかな」

「……エルフとはまだ付き合いがあるらしいからな、獣人たち。他言無用なら大丈夫じゃないか」



 クラッシュに服を握られたまま、俺とヴィデロさんは顔を見合わせて頷いた。

 あの座標を教えることだけはしないけど、でも、この二人なら信じるんじゃないかって思ったから。



「実は俺達、少しの間獣人の村に行ってたんだ」



 俺がそう言うと、エミリさんとクラッシュは驚いた顔をしたまま、しばらくの間無言だった。



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