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後日談
獣の鎖 5
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「貴族ではなくなったけどさぁ、隊長は隊長だよ」
「うむ。彼の方は心が貴族でござった」
「良いとこのお嫁さんになって良かったと思う」
口々にそう言う彼女らは、心からリヴィ様を慕ってらっしゃるのでしょう。貴族を退いたことをとって、あの方を侮るつもりはないようでした。
「でもちょっと心配……」
「庶民の生活だもんねぇ……。アギーのお嬢様だったのに」
それこそ今まで以上に侮られるのではと、懸念してらっしゃるようですね。
彼女らの言葉に、サヤ様が私の方に不安そうな視線を向けてきました。
……仕方ありませんね……。
「その懸念は無用かと」
私はセイバーンの執事長という立場から、リヴィ様を領民として迎えるにあたっての色々にも携わりましたので、その辺りのことはある程度把握しております。
「まず、バート商会はブンカケンに席を置く老舗。貴族様方の対応には慣れておりますし、顧客として尊き血筋の方々とも懇意にしております。
ブンカケンとバート商会、更に顧客の方々を敵に回す気概のある血筋というのには……心当たりがございませんね」
その顧客には王家すら含みますから。
内心でどう思っていようが、取引を断られては困るでしょうから、匂わせはしないでしょうし。
「とくにこのアヴァロンは陛下のお膝元となりますし、これからも女性職務者の衣服提供で関わりが続きます。
それにギルは、リヴィ様を蔑ろにするような輩の前に、彼の方を立たせはしないでしょう」
今までの立場であれば前に立たざるを得なかったリヴィ様でしたが、これからはギルが夫。盾になると誓った言葉は違えないでしょう。
「それから、女近衛の正装を作り上げる際、バート商会の仕事をリヴィ様は見ておられますし、関わりも持ちました。
その時はとてものびのびとされてたように思います。
確かに貴族であった頃の生活とは違う日々になるでしょうが……、アヴァロンにはヴァーリンのセレイナ様やシルビア様もいらっしゃいますし、セレイナ様はバート商会で刺繍のお仕事もされていたりなさいますから、接点も多くございます。
知らない環境で味方もなく孤立する……ということにはなりませんから、ご安心を」
そう言って説明を終えると、皆様はホッと息を吐き、懸念が晴れた表情をなさいました。
「そっか……。それにここにはサヤもいるしね」
「ロレンだって帰ってくる。長期休暇」
「なんなら越冬は、ちょくちょく我らもここに来そうですしな」
それは正直迷惑なのですが……。
離宮ができてしまいましたし、受け入れるしかございませんね。
「それに今は、メバックとセイバーン村になら越冬中も犬橇が走りますから、行き来だってできるんです。
バート商会は研究室をアヴァロンに置いてますし、リヴィ様もお越しになると思いますよ」
「おぉ。ではこの冬にお会いできるやもしれぬな!」
「絶対会えます。……ここに来る時、メバックには立ち寄らなかったんですか?」
「実は立ち寄った」
「お会いしたでござる」
「ただ、流石にまだ馴染んでなかったよねー」
それは仕方ないことかと。
お互いの距離感も掴めていないでしょうから。
そこでようやっと、応接室の扉が叩かれました。
本日のお部屋が整ったという知らせです。今日はこの館で一日お休みいただき、明日借家へとご案内する予定となっております。
長旅でしたでしょうから、湯の方もご用意致しましたと伝えましたところ、歓声が上がりました。
「おっ風呂っ、おっ風呂~っ」
「贅沢」
「ではまず埃を流そう。ロレン、部屋へ……」
そんな風に言いつつ席を立ったご一同でしたが。
「申し訳ございません。妻の部屋はこちらへは用意しておりません」
家があるんですから、そちらに帰らせます。
皆様の仕度と共に、家へも使用人を走らせました。
今頃室内を整え、風呂の支度も済んでいることでしょう。
「サヤ様、私も一度……」
「勿論です。と、いうか……今日はこのまま、家で過ごしてください。大丈夫、ここにはメイフェイアも、見習いたちもいますから」
「有難うございます。ですがくれぐれも、走ったり、重いものを急に持ったりなさいませんよう……」
「う……。気を付けます……」
一旦妻を家へ送っていくだけのつもりであったのですが、お許しが出てしまいました。
改めてメイフェイアを呼び、引き継ぎを済ませてから、妻を伴い久しぶりの我が家へ向かうことにいたします。
と、言いますのも……私はこの通り不自由な身になってしまいまして、日常を一人でこなすには色々不便だったのです。
なので、妻が王都へと勤めに出ている間は、宿舎を利用し、私の補助をウォルテールに任せておりました。
ウォルテールが不在の場合は、見習い従者の男性陣に。
なので、私が我が家へ帰るのは、妻が共にいるときだけです。
「お帰りなさいませ!」
「戻りました。申し訳ないですね、急な知らせとなってしまいましたが……」
「大丈夫ですよ。いつものことじゃないですか」
小さな家ですが、使用人のコレットがおります。
二人が揃う時しか使わない家の、管理者が必要でしたので。
彼女は孤児院の出で、私の顔にも慣れておりましたので逃げられずに済んでおります。
初めに雇った数名の女中は私を恐れてしまいましたし、私が獣人であるということにも恐怖があったようでしたので、気にしないでもらえる相手は貴重です。
「お食事は急でしたからご用意できなくって、食事処から持ち帰りのものをお願いしたんです」
「構いません。有難うございます」
「奥様、外套をいただいておきます。あれ、荷物ってこれだけですか?」
「あ、明日届きますし、これも自分で運びます……」
途端に挙動が怪しくなる妻。
奥様扱いに動揺してしまったようです。
まぁ、普段からまるで男のように振る舞うことに、慣れきってしまってますからね。
正式に女近衛となった今も、彼女は風貌を男性のように整え、宮中の女中の人気をさらっているそうです。
サヤ様曰く『タカラヅカの男役』さながらであるそう。よく分かりませんが、サヤ様のお国には敢えて女性が男装して男を演じる演目があり、それが女性にとても人気なのだそうです。
逆もあるそうですよ。更によく分かりませんが……レイシール様のような男性がよほど多いお国なのでしょうか?
「コレット、本日はこれで充分、残りは我々で進められます。
外も暗くなってまいりましたから、貴女も早くお帰りなさい」
「畏まりました。では明日は……」
「昼からで構いません。食事は必要無く、掃除だけで」
「承知致しました。ではまた明日」
「はい。また明日」
コレットには夫と年老いた義母がおり、普段は実家で内職をしております。
私の家の管理はさほど手間を取られず、実入りが良いということで、彼女の副業に収まっております。
コレットを送り出し、部屋へ荷物を運び、着替えているだろう妻の元へと足を急がせました。
ガチャリと扉を開けると飛び上がる妻。
「急に入ってこないでくれないか⁉︎」
「見られて困るものでもあるのですか?」
上着を脱ぎ、短衣も脱ぎかけていた妻が慌てて前を隠しましたが、それだって別に見慣れたものじゃないですか。何故隠すんです。
「まさか怪我でもしましたか」
「してないっ!」
「見せなさい。口では信用なりません」
「おまっ、そのいちいち腹立たしい言い方何っ⁉︎ なんで見せる必要が……」
「見せなさい」
片手で短衣を剥ぎ取ると、破れるだろ⁉︎ と、抗議の声。それを塞ぎ封じ込めました。
顔の位置が私より少し高いので、首に片腕を絡めて強引に引き下げて。
久しぶりに帰ってくる度、いちいち恥じらって男みたいに振る舞うの、なんとかしてくれませんか。
「おかえりなさい、元気そうで良かった」
唇を離してそう言うと、動揺して視線を彷徨わせつつも妻は、やっと少し、肩の力を抜きました。
「………………うん」
「今年の越冬はこちらで過ごせるようになったのですね」
「うん。なんとかそれで調整できて……みんなに色々助けてもらったからその……」
「後日菓子でも差し入れましょう。
それはそうとその報せ、もっと早くに寄越せませんでしたか?」
「無理に決まってるだろ⁉︎ ほんと直前まで調整して……」
更に不平不満を続けそうになった妻の唇をもう一度塞ぎました。
いえ、努力してくれたと分かったのならもう文句など言いません。ただ、待っていたのに報せが来なかったので、無理だろうと考えていた矢先だったのです。おかげで少し、私も感情がうわつき、舞い上がってしまっていました。
その上で妻本人に、私が彼女の帰りを待ち侘びていなかった……と解釈されたことが、些か腹立たしかったので、これはちょっとした意趣返しです。
そのまま身体を短い右腕で抱き寄せて、鎖骨に唇を移し、舌を這わせると……。
「まっ、まだ埃まみれ……」
「風呂の方が私と睦み合うより大事だとでも言うのですか?」
「だけどっ」
「待ちません」
そう言うと、我が妻は観念したようでした。
片腕、片脚しかない身ですし、私にはレイシール様と、セイバーンの運営を支えるという職務がございます。
ですから彼女のためにできることは然程もありません。
それでも番となることを決めたのは、彼女がそれを望んだからです。
彼女が続けたいと言うから、女近衛でい続けることも認めました。
遠く離れ、数えるほどの日数しか会えぬ状況も、甘んじて受け入れております。
だというのに、まだ私が夫であるという認識が甘いようなので、そこは教え込む必要があると思いました。
いい加減、疑われるのもうんざりです。
そもそも、こちらにその気がないなら、妻を娶るなどということを、私が受け入れるはずがないではないですか。
◆
死ぬつもりはございませんでした。けれど、死ぬ道しかないだろうとは思っておりました。
片腕に片脚を失い、瞳まで片側のみという状態になり、のうのうと生きていける世ではございません。
それでも命を繋ぐことができたのはひとえに、彼女のおかげでした。
オゼロを説得し、医者を手配させ、ひとときも気を許せない状態の私を看病し続けてくれたのも彼女でした。匂いでそれは理解しておりましたから……彼女の嘘も、理解しておりました。
「うむ。彼の方は心が貴族でござった」
「良いとこのお嫁さんになって良かったと思う」
口々にそう言う彼女らは、心からリヴィ様を慕ってらっしゃるのでしょう。貴族を退いたことをとって、あの方を侮るつもりはないようでした。
「でもちょっと心配……」
「庶民の生活だもんねぇ……。アギーのお嬢様だったのに」
それこそ今まで以上に侮られるのではと、懸念してらっしゃるようですね。
彼女らの言葉に、サヤ様が私の方に不安そうな視線を向けてきました。
……仕方ありませんね……。
「その懸念は無用かと」
私はセイバーンの執事長という立場から、リヴィ様を領民として迎えるにあたっての色々にも携わりましたので、その辺りのことはある程度把握しております。
「まず、バート商会はブンカケンに席を置く老舗。貴族様方の対応には慣れておりますし、顧客として尊き血筋の方々とも懇意にしております。
ブンカケンとバート商会、更に顧客の方々を敵に回す気概のある血筋というのには……心当たりがございませんね」
その顧客には王家すら含みますから。
内心でどう思っていようが、取引を断られては困るでしょうから、匂わせはしないでしょうし。
「とくにこのアヴァロンは陛下のお膝元となりますし、これからも女性職務者の衣服提供で関わりが続きます。
それにギルは、リヴィ様を蔑ろにするような輩の前に、彼の方を立たせはしないでしょう」
今までの立場であれば前に立たざるを得なかったリヴィ様でしたが、これからはギルが夫。盾になると誓った言葉は違えないでしょう。
「それから、女近衛の正装を作り上げる際、バート商会の仕事をリヴィ様は見ておられますし、関わりも持ちました。
その時はとてものびのびとされてたように思います。
確かに貴族であった頃の生活とは違う日々になるでしょうが……、アヴァロンにはヴァーリンのセレイナ様やシルビア様もいらっしゃいますし、セレイナ様はバート商会で刺繍のお仕事もされていたりなさいますから、接点も多くございます。
知らない環境で味方もなく孤立する……ということにはなりませんから、ご安心を」
そう言って説明を終えると、皆様はホッと息を吐き、懸念が晴れた表情をなさいました。
「そっか……。それにここにはサヤもいるしね」
「ロレンだって帰ってくる。長期休暇」
「なんなら越冬は、ちょくちょく我らもここに来そうですしな」
それは正直迷惑なのですが……。
離宮ができてしまいましたし、受け入れるしかございませんね。
「それに今は、メバックとセイバーン村になら越冬中も犬橇が走りますから、行き来だってできるんです。
バート商会は研究室をアヴァロンに置いてますし、リヴィ様もお越しになると思いますよ」
「おぉ。ではこの冬にお会いできるやもしれぬな!」
「絶対会えます。……ここに来る時、メバックには立ち寄らなかったんですか?」
「実は立ち寄った」
「お会いしたでござる」
「ただ、流石にまだ馴染んでなかったよねー」
それは仕方ないことかと。
お互いの距離感も掴めていないでしょうから。
そこでようやっと、応接室の扉が叩かれました。
本日のお部屋が整ったという知らせです。今日はこの館で一日お休みいただき、明日借家へとご案内する予定となっております。
長旅でしたでしょうから、湯の方もご用意致しましたと伝えましたところ、歓声が上がりました。
「おっ風呂っ、おっ風呂~っ」
「贅沢」
「ではまず埃を流そう。ロレン、部屋へ……」
そんな風に言いつつ席を立ったご一同でしたが。
「申し訳ございません。妻の部屋はこちらへは用意しておりません」
家があるんですから、そちらに帰らせます。
皆様の仕度と共に、家へも使用人を走らせました。
今頃室内を整え、風呂の支度も済んでいることでしょう。
「サヤ様、私も一度……」
「勿論です。と、いうか……今日はこのまま、家で過ごしてください。大丈夫、ここにはメイフェイアも、見習いたちもいますから」
「有難うございます。ですがくれぐれも、走ったり、重いものを急に持ったりなさいませんよう……」
「う……。気を付けます……」
一旦妻を家へ送っていくだけのつもりであったのですが、お許しが出てしまいました。
改めてメイフェイアを呼び、引き継ぎを済ませてから、妻を伴い久しぶりの我が家へ向かうことにいたします。
と、言いますのも……私はこの通り不自由な身になってしまいまして、日常を一人でこなすには色々不便だったのです。
なので、妻が王都へと勤めに出ている間は、宿舎を利用し、私の補助をウォルテールに任せておりました。
ウォルテールが不在の場合は、見習い従者の男性陣に。
なので、私が我が家へ帰るのは、妻が共にいるときだけです。
「お帰りなさいませ!」
「戻りました。申し訳ないですね、急な知らせとなってしまいましたが……」
「大丈夫ですよ。いつものことじゃないですか」
小さな家ですが、使用人のコレットがおります。
二人が揃う時しか使わない家の、管理者が必要でしたので。
彼女は孤児院の出で、私の顔にも慣れておりましたので逃げられずに済んでおります。
初めに雇った数名の女中は私を恐れてしまいましたし、私が獣人であるということにも恐怖があったようでしたので、気にしないでもらえる相手は貴重です。
「お食事は急でしたからご用意できなくって、食事処から持ち帰りのものをお願いしたんです」
「構いません。有難うございます」
「奥様、外套をいただいておきます。あれ、荷物ってこれだけですか?」
「あ、明日届きますし、これも自分で運びます……」
途端に挙動が怪しくなる妻。
奥様扱いに動揺してしまったようです。
まぁ、普段からまるで男のように振る舞うことに、慣れきってしまってますからね。
正式に女近衛となった今も、彼女は風貌を男性のように整え、宮中の女中の人気をさらっているそうです。
サヤ様曰く『タカラヅカの男役』さながらであるそう。よく分かりませんが、サヤ様のお国には敢えて女性が男装して男を演じる演目があり、それが女性にとても人気なのだそうです。
逆もあるそうですよ。更によく分かりませんが……レイシール様のような男性がよほど多いお国なのでしょうか?
「コレット、本日はこれで充分、残りは我々で進められます。
外も暗くなってまいりましたから、貴女も早くお帰りなさい」
「畏まりました。では明日は……」
「昼からで構いません。食事は必要無く、掃除だけで」
「承知致しました。ではまた明日」
「はい。また明日」
コレットには夫と年老いた義母がおり、普段は実家で内職をしております。
私の家の管理はさほど手間を取られず、実入りが良いということで、彼女の副業に収まっております。
コレットを送り出し、部屋へ荷物を運び、着替えているだろう妻の元へと足を急がせました。
ガチャリと扉を開けると飛び上がる妻。
「急に入ってこないでくれないか⁉︎」
「見られて困るものでもあるのですか?」
上着を脱ぎ、短衣も脱ぎかけていた妻が慌てて前を隠しましたが、それだって別に見慣れたものじゃないですか。何故隠すんです。
「まさか怪我でもしましたか」
「してないっ!」
「見せなさい。口では信用なりません」
「おまっ、そのいちいち腹立たしい言い方何っ⁉︎ なんで見せる必要が……」
「見せなさい」
片手で短衣を剥ぎ取ると、破れるだろ⁉︎ と、抗議の声。それを塞ぎ封じ込めました。
顔の位置が私より少し高いので、首に片腕を絡めて強引に引き下げて。
久しぶりに帰ってくる度、いちいち恥じらって男みたいに振る舞うの、なんとかしてくれませんか。
「おかえりなさい、元気そうで良かった」
唇を離してそう言うと、動揺して視線を彷徨わせつつも妻は、やっと少し、肩の力を抜きました。
「………………うん」
「今年の越冬はこちらで過ごせるようになったのですね」
「うん。なんとかそれで調整できて……みんなに色々助けてもらったからその……」
「後日菓子でも差し入れましょう。
それはそうとその報せ、もっと早くに寄越せませんでしたか?」
「無理に決まってるだろ⁉︎ ほんと直前まで調整して……」
更に不平不満を続けそうになった妻の唇をもう一度塞ぎました。
いえ、努力してくれたと分かったのならもう文句など言いません。ただ、待っていたのに報せが来なかったので、無理だろうと考えていた矢先だったのです。おかげで少し、私も感情がうわつき、舞い上がってしまっていました。
その上で妻本人に、私が彼女の帰りを待ち侘びていなかった……と解釈されたことが、些か腹立たしかったので、これはちょっとした意趣返しです。
そのまま身体を短い右腕で抱き寄せて、鎖骨に唇を移し、舌を這わせると……。
「まっ、まだ埃まみれ……」
「風呂の方が私と睦み合うより大事だとでも言うのですか?」
「だけどっ」
「待ちません」
そう言うと、我が妻は観念したようでした。
片腕、片脚しかない身ですし、私にはレイシール様と、セイバーンの運営を支えるという職務がございます。
ですから彼女のためにできることは然程もありません。
それでも番となることを決めたのは、彼女がそれを望んだからです。
彼女が続けたいと言うから、女近衛でい続けることも認めました。
遠く離れ、数えるほどの日数しか会えぬ状況も、甘んじて受け入れております。
だというのに、まだ私が夫であるという認識が甘いようなので、そこは教え込む必要があると思いました。
いい加減、疑われるのもうんざりです。
そもそも、こちらにその気がないなら、妻を娶るなどということを、私が受け入れるはずがないではないですか。
◆
死ぬつもりはございませんでした。けれど、死ぬ道しかないだろうとは思っておりました。
片腕に片脚を失い、瞳まで片側のみという状態になり、のうのうと生きていける世ではございません。
それでも命を繋ぐことができたのはひとえに、彼女のおかげでした。
オゼロを説得し、医者を手配させ、ひとときも気を許せない状態の私を看病し続けてくれたのも彼女でした。匂いでそれは理解しておりましたから……彼女の嘘も、理解しておりました。
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