異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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失った地 2

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 街の中の、比較的上質な宿に、俺たちは滞在していた。
 実在するが遠方の商会の使用人一同に変装しているため、下町等では目立ってしまう。
 それに、前回その下町で俺たちの情報を売られてしまったかもしれず、金の出し惜しみをしてられる状況では無かった。
 その割り振られた部屋の一室で……。

 買い出しのふりをして情報収集に回っていた一同が、戻っての情報交換。
 情報を掴んできた吠狼は、皆が口を揃えた。

「……情報が操作されている」
「操作?」
「越冬前の神殿騎士団の動きが、残されていない……」

 冬の社交界を早々に切り上げたオゼロは、即座に戦備えを始めたそうで、スヴェトランとの関係悪化は誤魔化せない状況になっているよう。
 実際何も発表されていないにも関わらず、街中では戦の気配を感じ取り、傭兵を警戒している様子があったのだが、変化と言えばそれだけで、食料等の流通が滞る様子も無かったし、水も普通に買えた。まだせいぜい噂の段階……といった様子なのだ。

 それに加え、悪魔の使徒と神殿騎士団の動きに関する情報が、悉く消されていたそう。
 街の様子を調べて回った吠狼らがそう言うのだから、確かだろう。彼らは情報収集の専門家だ。

「やっぱりマルの留守番は痛かったなぁ……」

 マルがいれば、集めた情報からも、もっと色々を分析できたと思うのだけど、北の地の統括に残ってもらっていた。
 マルの故郷の襲撃から、更に半月ほど経っているのだが、山脈越えの連合部隊は、ほぼ殲滅したと言えるだろう。
 だがまだ東寄りの地域ではスヴェトランの残党狩りが続いており、山脈沿いの状況も移り変わっているため、指示者は必要だった。
 そのため、今回同行しているのはオブシズ・サヤ、アイルに加え、吠狼から選りすぐられた十名のみ。
 ウォルテールもその中に含まれていたが、彼は外見の特徴が目立つため、普段は狼姿で荷車に紛れ、こういった街の中では、貴重品扱いで箱に収納されて部屋に運ばれていた。

 情報収集できる人員も限られていたけれど、これは仕方がない。
 そして集めた情報からきな臭さしか感じない……。

 でも、真偽を確認しようと思うならば尚のこと、避けて通れない以上、危険を承知で踏み込んでみるしかないんだよなぁ……。

 これだけ何も聞かないとなると、情報操作が無かったはずがない。神殿と悪魔の使徒との乱闘なんて話題性のあるネタを揉み消せるのはオゼロ等、上位貴族が動いた以外が考えられない。
 神殿と俺たちのいざこざを揉み消したということは、オゼロも当然、俺たちが獣人と連んでいたって話も耳にしたうえで、敢えてそうしてるはずなんだが……。
 その意図が、どうにも見えない。
 まるで俺たちを庇っている風にも見えてしまう。
 けれどそれは、オゼロには不利益としかならないことだ。自領を守るために身内すら切り捨てたオゼロが、情や柵で領地を左右するような選択を誤るとは考え難い。
 グラヴィスハイド様がスヴェトランの情報を伝えてくれたにしても、対応が早すぎる……よな。
 オゼロ公爵様が、彼の方の異能をご存知とも限らないし……。
 で、そうなって来るとあと考えられるのは……。

「主を釣るための罠ではないかと思う」

 アイルの言葉に、吠狼の一同が頷いた。
 まぁそれしか出てこないよな。俺もそれは思うのだけど……もっとマシな罠はいくらでもあると思うのだ。

「俺を釣りたいなら……ハインが生きてどこぞに幽閉されているとかって噂を流す方が、引っかかりやすいのにな」

 冗談のつもりでそう言うと、気温まで下がった気がするほどに場が鎮まって慌てた。
 俺がまだ、その望みを捨てきれていないと思ったのかもしれない。
 でもまぁ、そうであるならハインは這ってでも俺の元に戻ってくれたろうし、こんな風に存在から消されることなど無かったろう。それくらいの冷静さは、保っているつもりだ。

「大丈夫。例えそんな餌がばら撒かれてたとしても、食いつきはしないから」

 それくらいの理性は、もう保てる。
 まぁそれはそれとして、もうひとつ。
 ここにエルピディオ様が滞在なさっているという情報は確かであるようだ。
 元々重要な街でもあるから、オゼロ公爵家所有の屋敷も置かれていて、通常は夏場の避暑地として利用されているそうなのだけど、そこに季節違いの滞在をされているとのこと。
 また、越冬中もお身内の方が逗留されていたという。
 まぁそれは、俺の捜索のためと、情報操作のためなんだろうな……。

「神殿は?」
「アレクセイ司教が滞在という噂は無いが、神殿関係者の出入りは例年より激しいようだ」
「まぁ、地位そのままでは来てないだろうな……」

 彼の統括地域は南の一区画。だから本来この時期ならば、アギー領にいなければならない。
 しかし、アギーで初めてお会いした時も、下位の司祭に変装していたし、彼にはその辺の抵抗も無いのだろう。何より作戦指揮を担っているのがアレクならば、彼は必ずここに来ている。

 エルピディオ様の死を、人任せになんかしない……。必ず自ら手に掛けにくるだろう。

 その確信があった。

「情報収集先は絞った方が良さそうだな……。神殿より、エルピディオ様の動向を優先しよう。
 少しでも神殿に関わっている人物と公爵家が接触するようなら、それを徹底的に当たってほしい」
「無論」

 とりあえず今できることはそれだけか。
 できれば俺たちも情報収集に出向きたいところだけど、素人じゃ足手纏いにしかならないだろうし……。
 そうなると、俺とサヤは留守番だろうか……と、そう考えていたのだけど。

「では奥方は、俺の護衛兼使用人として、共に来てほしい。
 主とオブシズはここで貴重品ウォルテールの警備。吠狼からも二人残そう」

 と、アイル。

「サヤだけ⁉︎」
「オブシズの瞳は目立つし、使用人が連れ歩くには少々物騒だ。
 主も傭兵に見えない……。それに商人なら、使用人くらいしか連れ歩かない」

 それは重々承知しているけども! サヤとアイルだけって危険じゃないか⁉︎

「万が一があれば、笛で知らせる」
「万が一なんて言うなよ!」

 途端に落ち着かなくなった俺を見て、吠狼らはどう思ったのかホッと胸を撫で下ろす。いや、なんで落ち着く⁉︎
 そして口々に「サヤさんは変装お上手ですし、バレませんよ」「年季入ってますし」「強いですし」と、擁護の声が飛んだ。いや、それも分かってるけど!

「奥方の耳が欲しい。情報収集にはうってつけだからな。
 それに主は人目を惹きすぎるから連れ歩き難い……」

 右手を見てそう言われると、文句も引っ込んだ。
 それは、確かにそうだし……何より俺は何かあった時、足手纏いになりかねない。街中では籠手も身につけておけないしな。

「……分かった……」

 結局そう言うしかなく、そこからまたジリジリと、数時間を待機したのだけど……。
 無事に戻ったアイルとサヤが酷く渋面で、また……おかしなことを言い出したのだ。

「アヴァロンの噂が何ひとつ入っていない」
「……それはそうだろ。越冬中だったんだし……」

 入る方がおかしいと思う。
 しかし、それに対しアイルは、再び大きく首を振った。

「違う。ブンカケン所属の職人の元にだ。この街には幾人か、研修を終えて戻った職人がいる。
 そこを巡ってきたが、そこにも何も、報せが無い……。アヴァロンでは、何も起こっていなかったことになっている」

 は?
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