異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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反撃の狼煙 7

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 もう一度座り直したルドワーは、鞘に収まらなくなってしまった短剣を諦め、囲炉裏の灰に突き立てて「獣人を庇って立場を追われるってな、どういう意味だ?」と、そう問うた。

「言葉のままですよ。
 この方は領地で獣人を数多く囲っておりました。それが世間に知られて神殿に悪魔扱いされましてね。
 因みに悪魔は後ろの奥様で、レイ様は使徒でして……」
チビあんたにゃ聞いてない」

 マルは相変わらず信頼を得られていないらしい……。ヘカルはローシェンナにこだわりがあるみたいだったし、その関係かな……。
 それで結局、説明を引き継いだのはリアルガー。

「人前で獣化しやがった馬鹿を、存じ上げませんと切り捨てられず、神殿に使徒認定されたんだとよぉ。
 けどその全部が神殿の策略ってんだから救えねぇ……」
「余計分かんねぇよ……どういう意味だ」

 それで神殿の裏の顔が狂信者であり、獣人を造り、それを操ることで獣人を貶め、あまつさえスヴェトランと手を組みフェルドナレンに攻め入る算段を企てていると伝えることになった。
 まぁ、俄には信じ難い……。その反応となるのは当然だったろう。
 だが……。

「はぁ⁉︎ 大災厄の再来だぁ? あったま沸いてんじゃねぇだろうな」
「気狂いだろ……その発想になるのが気狂いだ……。
 そもそも、その女がなんで神殿に狙われるんだ……ただの異国からの流民だろう」

 主らにはそう言われ、長らには嘲笑されてしまった。
 神殿が獣人を使い、スヴェトランから山脈を超えて攻めてくるというのは、荒唐無稽すぎると取られてしまったようだ。

「だいたいよぉ、その狂信者が獣人を造ってるってところからどうなのよ」
「そんな組織が北にありゃ、私らが嗅ぎ分けてる」
「その組織が国外にあればどうですか。もっと北……スヴェトランの国境沿いや、向こう側……」
「年中雪の中じゃねぇか!」
「あるもんかそんなこと」

 その一言で、またも笑い声が広がっていく……。
 けれどマルたちは、その山脈内まで、密輸業者の痕跡を辿ったのだ。途中で見失ってしまったものの、その人物が宣教師の顔を持っていることは突き止めた。
 山脈のどこかに姿をくらました密輸業者が、用もないのに冬の雪山に踏み入る理由など無い。あるとすれば、そこに行く必要があったはず。それを俺は、狂信者らの飼育施設だと考えた……。
 だけどこの反応……。結局推測でしかないのだから仕方がないだろう……。でも話だけは最後まで聞いてもらわなければと、俺はそのまま言葉を続けた。

「……五百年前から、組織は国外にあったのかもしれません。
 その時代、神殿は全盛期。大きな権威と巨額の寄進、更に秘匿権を得ており、その威光は王家の婚姻をも左右したほどでした。国外にも手を伸ばせるだけの力はあったでしょう。
 そしてその当時の大司教の一人に、私の妻と同郷の者がいたようです。
 彼は特別な知識を持った賢人……その特別な知識を、獣人の血の濃縮や秘匿権の確保、そして王家の婚姻にも応用したと思われます。
 それが妻の狙われる理由だ。その国の、特別な知識を求めたのだろうと考えています。
 その五百年前の大司教、こちらの地では渡人のサトゥルやサト、コハーシュ、コハシ……という名で知られた偉人。貴方たちも耳にしたことがあるのでは?」

 それでも反応は変わらずで……見かねたのだろう。サヤが口を開いた。

「私の国で男性名ならば、コハシサトル……もしくはコバヤシサトルかもしれません。
 サトだと、男性名にはあまり使われません。私の名前は鶴来野小夜です。響きも似ておりませんか?」
「似たような名前なんていくらだってあんだろうが」

 とりあう気は無いらしい……。
 嘲笑を続ける獣人らを見渡した。
 少なくとも、リアルガーの元にいる長らは、笑いごとではないようだ。けれど大災厄という言葉に困惑を隠せない……。
 もう一度口を開こうとしたサヤを、俺は右腕で制した。
 笑っているのは確か。だけど……受け入れたくないという気持ちがそうさせているのも、あるのだろう。

 でも、目を逸らしてもらっては困るんだ。

 もう少し、彼らの興味を引く方法……何か、取れる手段は無いものか……。
 俺にできることは何だ……。

「……でも、重要なのは、狂信者の巣がどこにあるかじゃない。
 ……神殿は少なくとも五百年前から……獣人が人から生まれる本当の理屈を理解していた……という部分です。
 だから獣人を造ることができた。
 私がここに狂信者らの施設があると考えたのは、この北の地にならば狩場こうやがあり、濃い血を有した獣人を選び放題だったからだ」

 時間は無いから、あまり深くは辿れないだろう……。人となりも知らないしな……。
 けれど、五百年前の渡人サトゥルの行動と、サヤから……彼の願いは理解できる気がした。

「…………彼は、金と力を欲していた。だからそのために、あらゆる手を尽くした。
 まずは名馬を生産することで注目を集め、貴族に取り入ろうとした……。
 しかし馬事師となっても、流民であることが見ただけで判別できてしまう彼は、金を手にしたところで、この国の最底辺の地位でしかなかった……。
 貴族に召し抱えられても、それ以上は望めず……だから神殿を、取引相手に選び直した」

 妙なことを語り出した俺に、笑い声の波は次第に収まっていく……。
 皆の視線を一新に集めて俺は、言葉を続けた。

「彼の願いは……帰りたい。
 祖国へ、なんとしてでも戻りたかった。だから力となる権威と金が必要だった。帰り方を模索するために。
 彼は自分の知識が特別であること、枯れぬ泉であることを重々理解していた。
 己の国よりも、この世界の文明は数段劣る……。だからこれは武器になると考えた。
 人道など気にしてられなかった。頼れる人はおらず、頼みの綱は己の知識と肉体のみ。
 必死で、のし上がるために知識を使った。特別なことをしなければと考え、目をつけたのが馬だった。
 けれど一人では圧倒的に手が足りない……。名馬の生産は、身ひとつでできることではなかったから……どうしても、協力者が必要だった。
 でも、余計な情報は与えず、極力自分で管理していたろう……。他に余計な知識を溢さないよう、自国の言葉を使って情報を守りながら、孤独な戦いを続けた。
 けれど馬事師では駄目だった。金は得られても地位は得られない……。だから神殿を選び直した。
 もっと特別なものを造らなければならない。自分がこの世界の唯一無二だと知らしめなければならない。
 この世界のありとあらゆる知識を集めなければならない。ここを去るために、組織を得なければ……。
 どんな非道なことでも、必要なことだと彼は……そう考えることで不安を忘れ去ろうとしたのかもしれません。
 帰れないかもしれない……という、不安をです。
 獣人の存在に着目した理由は推測もできませんが……神殿から彼に持ち掛けたのか……彼が神殿にそれがあると見つけたのか……。
 まぁ、どちらでも良いでしょう。とにかくそれにより、彼は獣人を造り出す手法の一端を、神殿に明け渡した。
 あくまで一端をね……」

 サヤは何度も泣いた……諦めるために、沢山苦しんだ。
 今だってその苦しみを抱きしめたままであることも分かっている。祖国とは、家族とは、突然の喪失とは、そういうものだ……。
 だからこの渡人も、やはり祖国を諦めたくなかったろうと思った……。
 もしかしたら、大切な人がいたのかもしれない……なんとしても帰らねばと決意するような、そんな相手が……。

「……彼は出世を繰り返した。若さも、流民の外見をも障害としないほどの功績を重ねて、大司教まで上り詰めた。
 そうして今度手掛けたのは王家の血でした。白く生まれる方が、度々現れたあの血を濃縮せよと言われたのか、もしくは自ら進言したのか……。
 それも分かりませんが、少なくとも実行された。
 馬も、獣人も、王家の血も……やることは一緒だった。血の中にある種の設計図。それの優劣を探り、有効な形で目合わせる。
 何十年と掛けてその成果を示してきた彼には経験値と信用があった。そして運良く白い方を二代続けて輩出でき、彼の地位は盤石なものとなった」
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