962 / 1,121
終幕の足音 10
しおりを挟む
ジェスルと神殿の動きが連動している。その上でスヴェトランの動きに絡んできたとなると、かなりきな臭い……。
セイバーンがスヴェトランに情報を売っていた……という疑惑はそっくりそのまま裏返って、ジェスルがそうしていたのではと考えられてしまうからだ。
時期的には早すぎるけれど、マルが言っていたように、時間のかかる策略を当然と巡らせるのがジェスルであるなら、準備期間からセイバーンの情報を集めていたとしても、なんらおかしくはない。
とはいえ、これは全部が推測で、ジェスルや神殿が関わっている証拠は無く……。
その疑いがある。というだけの話では、何も手を打てない……。疑惑を向けられているのがセイバーンであるだけに、可能性を口にすることもできないのが現状だ。
スヴェトランとフェルドナレンは、隣接する部分の殆どが山脈により遮られており、ジェスル領以外の場所からの侵略を考えると、難しい。
だから平地続きになっているジェスルは常にスヴェトランの脅威に晒され、日々攻防を繰り返している。ここにかなり国の予算を注ぎ込んでいるし、言うなれば、スヴェトラン絡みである場合のフェルドナレンは、守りの殆どがジェスルにかかっているのだ。
だからこそ、ジェスルは常に疑われ、見張られている……。
彼らが裏切れば、国は危機的な状況に追いやられる。そんなことは幼子でも理解できることだから、当然対策は取られている。
監視の目は、見える場所ばかりではない。各公爵家や王家の目が、常にジェスルを捉えている。
しかし、それはある種の絆のもとに成り立っている関係なのだ。
王家と公爵家とジェスルには、公にはなっていない、何かの柵や因縁……もしくは絆が存在する。
元公爵家であったジェスルが伯爵家となった理由や、あの地を任された理由は伏せられており、王家とジェスルの間に、何かしらの取引があったのではとも囁かれている……。
とにかく、何かにつけてジェスルには謎が多い。
そして何かを画策しているとすれば、その目を掻い潜っての動きなわけで、その上で証拠を徹底的に残さないから、結局疑惑止まりで終わるのだ……。
ジェスルとは、そういう難しい相手だった……。
◆
調査のために、更に忙しくなった。
歴代領主の残した資料は膨大な量があり、しかも纏められていない紙束状のものが殆ど……。一通り目を通すだけで難航した。
マルがいたなら、大体の内容が頭に入っているだろうから、目星をつけることも可能であったと思うのだけど……いかんせん、俺たちには、一度見たものを大抵覚えられるような、規格外な頭脳は備わっていない。
「マルさあああぁぁぁぁん!」
「あの人ほんとなんで今いないんでしょうううぅぅ⁉︎」
ヘイスベルトとエヴェラルドの嘆きが止まらない……。クロードは黙々と作業をしているが、もう無心にならざるを得ないといった、ある種の悟りの境地だろう。
カークやガイウスといった、父上や先先代の代で業務に関わっていただろう者たちは引退してしまっており、帰郷先に問い合わせるにしても、それなりに時間を取られる。
それに、万が一セイバーン側の不正であった場合は、彼らがそれに関わっていることも考えられるわけで、そうすると調査と見せかけて証拠の隠蔽を行われてしまう可能性もある。
というわけで、結局自分たちで一から洗い出すしかない状況だ。
ここで効率化民族の真骨頂とばかりに、その能力を遺憾無く発揮したのがサヤだった。
「分かりました。この際ですから、資料を全てファイリングしていきましょう!
年代別にして、更に月ごとにに分けて、項目順に並べていきます。皆さんまずは、資料全てを年代別に分けてください!」
大量の紙束を全て年代分けし、そうしてそれをまた月別、項目別に仕分けていく。痛みの激しいものには裏打ちを施し、補強も加えた。
更に穴を開け、ファイルに綴り、背表紙・表表紙に年代と番号を記した紙を挟んでいくという、根気のいる作業。
年間を通し業務を全て把握し、自ら作った事務用品を深く理解しているからこそだろうが、その手腕は何とも見事で、皆は救世主を見るような熱い視線で指示に従っていた。
ファイルに挟んで使う厚手の紙の仕切り、こんなに役立つ品だと思ってなかった……これは凄い。
日常業務の合間に、少しずつ見ていくしかないと思っていたのだが……思ったより早く目処が立つかもしれない。
これは正直かなり有難いことだった。
何故なら、ホライエン伯爵様は、当然あれで諦めておらず、日参する勢いで訪れていたからだ。
かつての疑惑であろうと、離宮建設はもう一度考え直すべき、建設自体は決定事項としても、場所を選定し直すべきと譲らない。
そんな日々の突撃の合間に日常業務をこなし、該当の書類を探すのだが、今のところ怪しいもの、抜けのあるものは無く、何かしら記憶に無い業務等の名目で書き出されたという記録も、残っていなかった。
領主印を必要とする書類は大抵写しを用意し、割印を押している。特に出荷情報のようなものは、移した回数まで別途記録されているし、どこに出すかも記載され、その都度領主印を必要とする。
逆に、印が無い情報は信頼性が無い誤情報として扱われ、例え数字的に合っていても、正式な数字として価値を認められない。
機密情報を提出に、領主印を正式使用した回数というのも、年毎に纏められ、国への報告を義務付けられている……。
勿論、数字だけを求めるなら正式なものでなくても済む話で、それが不正が無かった完璧な証拠とはならないのだが、きっちり記録を残してあり、割印の枚数と記録が合っていない年は、今のところ出ていない。証拠にはならなくとも、信用には繋がるだろうという、地道な作業。
まぁそんな、コツコツとした日常と、離宮建設のための色々で、アヴァロンの中にとどまらざるを得ない状況が続いた。
鍛錬の時間も短く削って執務机に齧り付く日々。そして夜は夜で白の病と獣人の類似性についての報告書を記す。
サヤも協力を申し出てくれたが、サヤの知識をそのまま記してしまうと、ちょっと現実離れし過ぎた内容になってしまうため、俺が俺の認識の元で、この世界に無理のない解釈で記入する方が効率良かったため、結局俺がするしかない作業となった。
「レイ殿……寝ていますか?」
十二の月に入ろうかという頃になってようやっと、報告できる内容に纏まった出荷情報流出調査を提出しに来たら、リヴィ様に真剣な顔でそう聞かれてしまった。
本日の供は武官としてロレン、そして従者はサヤ・ハインを伴っている。
「うん? 寝ていますけど……」
最低限は。
「そんなに酷いですか?」
無精髭等の見苦しいものは無いよう、注意を払っているのだけど……。
「酷いっていうか……人生に疲れた壮年の色女みたいになってるよ……」
ユーロディア殿の例えが深く胸を抉った。
クマが酷くて死人みたいとか、今にもぶっ倒れそうとかじゃなく……、色女っ⁉︎
「どういう見え方してるんです⁉︎」
「何で自覚無いの……?」
「見慣れた自分の顔なんですけども⁉︎」
「とりあえずもう少し寝た方が良いと思うよ……ほんと、色々な意味で」
とても憐れんだ表情で言われて傷付いた……。
どうせ男らしさとは無縁ですよ……くそっ、運動不足で筋力も衰えてるんじゃないか気が気じゃないんだよ最近は。
「これでやっと目処が立ちましたので、今夜からはもう少し確保できますよ……」
五十年という長期に渡る調査がやっと終わったのだ……。今日からは大手を振って寝れる。もう寝てやる。
半ばやけっぱちでそんなことを考えているやさぐれ気味の俺を見て、陛下は苦笑。
「急がぬで良いと示唆したつもりであったのだがな……」
「そうも言ってられないでしょう? 越冬前に区切りをつけておかなければ、あちらにもご納得いただけないでしょうし……陛下のご負担も増えてしまいます……」
こう何度もホライエン伯爵様に来訪されては、ご懐妊がバレてしまいかねないし、なにより胎教に宜しくない。それに……。
「……なんだか、急激に膨れてませんか……」
陛下の腹が、はちきれんばかりに膨らんできているのだ。ホライエン伯爵様来訪中に産気づいてしまわないか気が気じゃない……。
「出産が近づくと一気に育つらしいぞ」
「だけど俺が見たことある妊婦より膨れてます……」
異様な速度で膨れていってますよね……。
そう言うと、診察と今後の予定の話し合いに来ていたユスト、ナジェスタが……。
「カーリンは九ヶ月前後で出産だったから、育ちきってなかったしね。言っておくけど、まだ育つよ?」
「まだ⁉︎」
もうひと回りくらいかなーと、気楽に言うナジェスタ。サヤも特に動じた様子はない……。これが通常のことなのか……? 女性は肝が据わっているな……。
だけど陛下の腹、本当に凄いことになっているのだ。
ホライエン伯爵様のご来訪時は、体調がすぐれぬため寝室にてとしてあり、薄布を介しているので何とか誤魔化せているけれど。
「この調査報告を、ホライエン様にお渡ししてください。
一応、おっしゃられていた期間の領主印使用記録は全て確認致しました。勿論これに含まれていない利用もあるでしょうが、国への提出書類に関するものはかなり厳密に記録が残されておりましたし、二重の確認が取れる形を続けております。
信頼性は高いと、思っていただけるかと……。
まぁ、領内の別の街等で利用された領主印に関しては分かりませんが、その場合は集積出荷記録自体が手に入りませんから、地域毎に出荷情報をもう一度収集し直してから印を押していたことになります」
「うむ。館内に記録があるというのに、わざわざ地方を回って集めて、最後に領主印を押すなどという手間は掛けてはおらぬだろうよ。
そのようなこと、毎年やってられるか」
記録を残さないようにするには有効かもしれないが、情報を集めるだけでふた月近くかかってしまう……。
やってたとしたらその労力にむしろ感服だし、それはそれで別の痕跡をくっきりと残すことになるだろう。
「……これで納得していただけると良いのですけど……」
溜息を吐いて言った俺に、陛下も同じく……。
「ホライエンはお前を鬼か悪魔の如く警戒しておるしなぁ……」
セイバーンがスヴェトランに情報を売っていた……という疑惑はそっくりそのまま裏返って、ジェスルがそうしていたのではと考えられてしまうからだ。
時期的には早すぎるけれど、マルが言っていたように、時間のかかる策略を当然と巡らせるのがジェスルであるなら、準備期間からセイバーンの情報を集めていたとしても、なんらおかしくはない。
とはいえ、これは全部が推測で、ジェスルや神殿が関わっている証拠は無く……。
その疑いがある。というだけの話では、何も手を打てない……。疑惑を向けられているのがセイバーンであるだけに、可能性を口にすることもできないのが現状だ。
スヴェトランとフェルドナレンは、隣接する部分の殆どが山脈により遮られており、ジェスル領以外の場所からの侵略を考えると、難しい。
だから平地続きになっているジェスルは常にスヴェトランの脅威に晒され、日々攻防を繰り返している。ここにかなり国の予算を注ぎ込んでいるし、言うなれば、スヴェトラン絡みである場合のフェルドナレンは、守りの殆どがジェスルにかかっているのだ。
だからこそ、ジェスルは常に疑われ、見張られている……。
彼らが裏切れば、国は危機的な状況に追いやられる。そんなことは幼子でも理解できることだから、当然対策は取られている。
監視の目は、見える場所ばかりではない。各公爵家や王家の目が、常にジェスルを捉えている。
しかし、それはある種の絆のもとに成り立っている関係なのだ。
王家と公爵家とジェスルには、公にはなっていない、何かの柵や因縁……もしくは絆が存在する。
元公爵家であったジェスルが伯爵家となった理由や、あの地を任された理由は伏せられており、王家とジェスルの間に、何かしらの取引があったのではとも囁かれている……。
とにかく、何かにつけてジェスルには謎が多い。
そして何かを画策しているとすれば、その目を掻い潜っての動きなわけで、その上で証拠を徹底的に残さないから、結局疑惑止まりで終わるのだ……。
ジェスルとは、そういう難しい相手だった……。
◆
調査のために、更に忙しくなった。
歴代領主の残した資料は膨大な量があり、しかも纏められていない紙束状のものが殆ど……。一通り目を通すだけで難航した。
マルがいたなら、大体の内容が頭に入っているだろうから、目星をつけることも可能であったと思うのだけど……いかんせん、俺たちには、一度見たものを大抵覚えられるような、規格外な頭脳は備わっていない。
「マルさあああぁぁぁぁん!」
「あの人ほんとなんで今いないんでしょうううぅぅ⁉︎」
ヘイスベルトとエヴェラルドの嘆きが止まらない……。クロードは黙々と作業をしているが、もう無心にならざるを得ないといった、ある種の悟りの境地だろう。
カークやガイウスといった、父上や先先代の代で業務に関わっていただろう者たちは引退してしまっており、帰郷先に問い合わせるにしても、それなりに時間を取られる。
それに、万が一セイバーン側の不正であった場合は、彼らがそれに関わっていることも考えられるわけで、そうすると調査と見せかけて証拠の隠蔽を行われてしまう可能性もある。
というわけで、結局自分たちで一から洗い出すしかない状況だ。
ここで効率化民族の真骨頂とばかりに、その能力を遺憾無く発揮したのがサヤだった。
「分かりました。この際ですから、資料を全てファイリングしていきましょう!
年代別にして、更に月ごとにに分けて、項目順に並べていきます。皆さんまずは、資料全てを年代別に分けてください!」
大量の紙束を全て年代分けし、そうしてそれをまた月別、項目別に仕分けていく。痛みの激しいものには裏打ちを施し、補強も加えた。
更に穴を開け、ファイルに綴り、背表紙・表表紙に年代と番号を記した紙を挟んでいくという、根気のいる作業。
年間を通し業務を全て把握し、自ら作った事務用品を深く理解しているからこそだろうが、その手腕は何とも見事で、皆は救世主を見るような熱い視線で指示に従っていた。
ファイルに挟んで使う厚手の紙の仕切り、こんなに役立つ品だと思ってなかった……これは凄い。
日常業務の合間に、少しずつ見ていくしかないと思っていたのだが……思ったより早く目処が立つかもしれない。
これは正直かなり有難いことだった。
何故なら、ホライエン伯爵様は、当然あれで諦めておらず、日参する勢いで訪れていたからだ。
かつての疑惑であろうと、離宮建設はもう一度考え直すべき、建設自体は決定事項としても、場所を選定し直すべきと譲らない。
そんな日々の突撃の合間に日常業務をこなし、該当の書類を探すのだが、今のところ怪しいもの、抜けのあるものは無く、何かしら記憶に無い業務等の名目で書き出されたという記録も、残っていなかった。
領主印を必要とする書類は大抵写しを用意し、割印を押している。特に出荷情報のようなものは、移した回数まで別途記録されているし、どこに出すかも記載され、その都度領主印を必要とする。
逆に、印が無い情報は信頼性が無い誤情報として扱われ、例え数字的に合っていても、正式な数字として価値を認められない。
機密情報を提出に、領主印を正式使用した回数というのも、年毎に纏められ、国への報告を義務付けられている……。
勿論、数字だけを求めるなら正式なものでなくても済む話で、それが不正が無かった完璧な証拠とはならないのだが、きっちり記録を残してあり、割印の枚数と記録が合っていない年は、今のところ出ていない。証拠にはならなくとも、信用には繋がるだろうという、地道な作業。
まぁそんな、コツコツとした日常と、離宮建設のための色々で、アヴァロンの中にとどまらざるを得ない状況が続いた。
鍛錬の時間も短く削って執務机に齧り付く日々。そして夜は夜で白の病と獣人の類似性についての報告書を記す。
サヤも協力を申し出てくれたが、サヤの知識をそのまま記してしまうと、ちょっと現実離れし過ぎた内容になってしまうため、俺が俺の認識の元で、この世界に無理のない解釈で記入する方が効率良かったため、結局俺がするしかない作業となった。
「レイ殿……寝ていますか?」
十二の月に入ろうかという頃になってようやっと、報告できる内容に纏まった出荷情報流出調査を提出しに来たら、リヴィ様に真剣な顔でそう聞かれてしまった。
本日の供は武官としてロレン、そして従者はサヤ・ハインを伴っている。
「うん? 寝ていますけど……」
最低限は。
「そんなに酷いですか?」
無精髭等の見苦しいものは無いよう、注意を払っているのだけど……。
「酷いっていうか……人生に疲れた壮年の色女みたいになってるよ……」
ユーロディア殿の例えが深く胸を抉った。
クマが酷くて死人みたいとか、今にもぶっ倒れそうとかじゃなく……、色女っ⁉︎
「どういう見え方してるんです⁉︎」
「何で自覚無いの……?」
「見慣れた自分の顔なんですけども⁉︎」
「とりあえずもう少し寝た方が良いと思うよ……ほんと、色々な意味で」
とても憐れんだ表情で言われて傷付いた……。
どうせ男らしさとは無縁ですよ……くそっ、運動不足で筋力も衰えてるんじゃないか気が気じゃないんだよ最近は。
「これでやっと目処が立ちましたので、今夜からはもう少し確保できますよ……」
五十年という長期に渡る調査がやっと終わったのだ……。今日からは大手を振って寝れる。もう寝てやる。
半ばやけっぱちでそんなことを考えているやさぐれ気味の俺を見て、陛下は苦笑。
「急がぬで良いと示唆したつもりであったのだがな……」
「そうも言ってられないでしょう? 越冬前に区切りをつけておかなければ、あちらにもご納得いただけないでしょうし……陛下のご負担も増えてしまいます……」
こう何度もホライエン伯爵様に来訪されては、ご懐妊がバレてしまいかねないし、なにより胎教に宜しくない。それに……。
「……なんだか、急激に膨れてませんか……」
陛下の腹が、はちきれんばかりに膨らんできているのだ。ホライエン伯爵様来訪中に産気づいてしまわないか気が気じゃない……。
「出産が近づくと一気に育つらしいぞ」
「だけど俺が見たことある妊婦より膨れてます……」
異様な速度で膨れていってますよね……。
そう言うと、診察と今後の予定の話し合いに来ていたユスト、ナジェスタが……。
「カーリンは九ヶ月前後で出産だったから、育ちきってなかったしね。言っておくけど、まだ育つよ?」
「まだ⁉︎」
もうひと回りくらいかなーと、気楽に言うナジェスタ。サヤも特に動じた様子はない……。これが通常のことなのか……? 女性は肝が据わっているな……。
だけど陛下の腹、本当に凄いことになっているのだ。
ホライエン伯爵様のご来訪時は、体調がすぐれぬため寝室にてとしてあり、薄布を介しているので何とか誤魔化せているけれど。
「この調査報告を、ホライエン様にお渡ししてください。
一応、おっしゃられていた期間の領主印使用記録は全て確認致しました。勿論これに含まれていない利用もあるでしょうが、国への提出書類に関するものはかなり厳密に記録が残されておりましたし、二重の確認が取れる形を続けております。
信頼性は高いと、思っていただけるかと……。
まぁ、領内の別の街等で利用された領主印に関しては分かりませんが、その場合は集積出荷記録自体が手に入りませんから、地域毎に出荷情報をもう一度収集し直してから印を押していたことになります」
「うむ。館内に記録があるというのに、わざわざ地方を回って集めて、最後に領主印を押すなどという手間は掛けてはおらぬだろうよ。
そのようなこと、毎年やってられるか」
記録を残さないようにするには有効かもしれないが、情報を集めるだけでふた月近くかかってしまう……。
やってたとしたらその労力にむしろ感服だし、それはそれで別の痕跡をくっきりと残すことになるだろう。
「……これで納得していただけると良いのですけど……」
溜息を吐いて言った俺に、陛下も同じく……。
「ホライエンはお前を鬼か悪魔の如く警戒しておるしなぁ……」
0
お気に入りに追加
838
あなたにおすすめの小説
【完結】夫の心がわからない
キムラましゅろう
恋愛
マリー・ルゥにはわからない。
夫の心がわからない。
初夜で意識を失い、当日の記憶も失っている自分を、体調がまだ万全ではないからと別邸に押しとどめる夫の心がわからない。
本邸には昔から側に置く女性と住んでいるらしいのに、マリー・ルゥに愛を告げる夫の心がサッパリわからない。
というかまず、昼夜逆転してしまっている自分の自堕落な(翻訳業のせいだけど)生活リズムを改善したいマリー・ルゥ18歳の春。
※性描写はありませんが、ヒロインが職業柄とポンコツさ故にエチィワードを口にします。
下品が苦手な方はそっ閉じを推奨いたします。
いつもながらのご都合主義、誤字脱字パラダイスでございます。
(許してチョンマゲ←)
小説家になろうさんにも時差投稿します。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
お望み通り、別れて差し上げます!
珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」
本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる