異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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最後の春

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 そうして、春の会合で、セイバーンに離宮を設けること、ブンカケンを国の研究機関とすること、成人前の仕官者に成人までの研修期間を置くことが、陛下より発表された。
 当然反発を招いたし、俺の重用により権力が偏ることを是としない者らが声高に反対を叫んで、陛下の俺への優遇を非難したのだが。

「公爵四家は賛同致します」
「重用と言うが、では他にここ以上の利益を上げておる業種、適した人材、設置すべき場があると? ならばそれを申してもらおう」
「各部署より、王宮を辞してセイバーンへと仕官した者が既に複数名おるようだが、何故彼らがここを辞すことになったのか、述べてみよ」
「セイバーンに権力が偏ると申すならば、どこが偏った部分が聞いてみたいところだね」

 アギーを筆頭とする領主らがそう口にしたことで、会合の場は沈黙した。
 実際俺は、地方行政官長としての役割以外は担っておらず、その権力をどこぞで利用した覚えもない。

 交易路計画は地方ごと、領地に託す形となっている。
 交易路計画担当の武官・文官は、各公爵家傘下からの派遣官が主となっており、俺たちがしゃしゃり出るのは資金管理に関してくらい。
 用途不明な金は徹底的に洗い出しさせてもらっているが、工事に関してのものならば出し惜しみしていないつもりだ。
 無論、いったん用途不明扱いとなっても、きちんと説明があり、確かに必要と判断したものは、後日新たに受け入れている。
 その徹底した管理のお陰で、工事費用が急激に膨れ上がったりすることなく、計画当初の試算を大幅に越えたりもしていないため、各領地の負担割合は、当初の計画通り、三割で正確に守られている。

 また、秘匿権無償開示に関しても……。
 国に譲渡した後は、開示品の改良等が行われた場合以外は、全て管理を国に任せてあった。
 申請者をこちらで吟味することもない。規約さえ遵守してくれるならば、誰が利用しようが勝手。
 技術習得のために、拠点村へ来る職人を指導することは担うが、こちらから声を上げで募る事も、もうしていない。
 それでも充分な職人が集まるようになったというのもあるし、それは特定の領地等に偏ったしがらみを作らないためでもあった。

 ただ、入村の際に、契約の内容は徹底させる。それに反した場合、名が入村者の規律違反者として五年残る。
 その五年の間、再び学ぶことは許されないし、更新内容が通達されることもない。その期間に更なる違反や不正を行った場合はまた五年、入村禁止期間が延長される。
 どの領地の肝煎り職人だろうが、扱いは同じだ。
 よって、俺の権力というものは、基本拠点村の中でしか機能していない。
 会合以外ではほぼ領地に引き篭もっているし、他が育ちようもないのだ。

「実績はもう、皆が知る通りと思う。
 交易路計画は、遅延等もほぼ無いに等しく終盤が見えてきておるゆえ、新たな職務も可能と判断した。
 此奴にと思うたのは、その資金繰りの透明性と仕事の速さも要因である。大抵はずれ込んで……計画が一年以上遅延するなどザラであるからな」

 公共事業は費用が跳ね上がったり遅延が当たり前……というのは、そこに汚職が蔓延るからだ。
 計画通りにやってくれるなら、その方が良いに決まっている。
 他に任せないのはそれが理由だと言われれば、その実績を出せていない者らは黙るしかない……。

「で、交易路が順調であるということは、秘匿権の無償開示政策……こちらも思った以上の税収を叩き出しておるということだが?」

 威厳ある声で述べた陛下に、各長や大臣から返答が返る。

「左様でございます。
 収益を交易路費用に充てるとされておりました、秘匿権無償開示検証品ですが、想定以上の量が確保されておりますため、問題無く予定額に到達しております。
 また、秘匿権無償開示品からの税収、開示品発表前の十年の税収平均値と照らし合わせる形で計算しましたところ、総定額を一割強上回りすらしております」
「流通面でも大きく貢献しております。交易路利用による品の素早い運搬が生み出す利益は、想像以上の効果。
 また、野盗等による襲撃も減少し、被害も軽減されております。この効果によりまして、交易路利用の申請量も増加続きでございます」
「日程短縮も大きな要因と思われます。
 試算によりますと、国境までの日数が平均して四日程短縮されます。最長距離では七日です!
 これは、交易路費用を支払う価値に充分値するとの声を得ております。
 今回の速報案で、交易路の価値はまた更に高まることでしょう!」

 結局……。
 これだけの利益を叩き出しているのが個人の研究機関ではね……という空気に押し切られる形で、ブンカケンの国営化案はこの会合を通過した。
 そして、オゼロから新たな燃料開発に目処が立ったという発表も重なり、話題がそちらにさらわれる形で決着を見せた。
 木炭の秘匿権を有償開示するほどの価値を持つ新たな燃料。
 これの製造によって、鉄の鋳造が可能となる可能性が高まったとくれば、それも当然のこと。
 受注に対して全く製造が追いついていなかった手押し式の組み上げ機が、ここにきてやっと手に入るかもしれない。しかも更に安くなるかもしれないと、皆の期待も高まった。
 まぁ、陛下や公爵四家の計画的な会合の流れであったのだと思う。
 ブンカケンの国営化は、四家の同意を得ている時点で決定が決まっているようなものだったから。

 会議の流れの中で聞き流される形となったが、この春から成人前の登用となった文官・武官を、まずはセイバーンへ研修に向かわせることとなった。
 昨年度の登用者からも、希望者があれば受け入れる。となっており、これは会合後に各部署へと通達が出されるようだ。

 本年度の学舎卒業者からの登用は、文官三名、武官一名、そして学者卒業者枠外だが、女近衛から一名である……。え……そこも? と、思ったけれど、決まったことは仕方がない……。
 また、後日知らせを受けたのだが、前年度登用者からも文官一名、武官一名が希望を出したという。


 ◆


 その会合後、ラジルラフト様からの面会希望が入り、オゼロ官邸に出向き、背中が痛いくらいに叩くわ抱き締めるわという熱烈な感謝攻撃を受け、耐火煉瓦の質が飛躍的に向上したという報告を受けた。
 会合での、燃料開発についての発表で察してはいたものの、それを聞けて肩の荷が降りた。

「良かった……良かったです!
 一年以上、長らく根気のいる作業にご協力いただきました。本当に、感謝しかありません、ありがとうございます」
「何を言う! それはオゼロが言うべきことだ! 本当になし得たとは……よもや夢かと、何度も己の目を疑った!」

 聞けばオゼロ内でも、土を混ぜるべきではという案は出ていたそう。
 ただ、どれを如何程……という部分で難航しすぎて、当初より性能の悪い物ばかりが乱発され、費用を食いすぎると中止の話に流れていたそうだ。
 そうして手渡された最新の耐火煉瓦は……やはり、見た目だけは他のものと変わらず、今まで通りのものだった。

「先ずは小さい炉からだが、耐火煉瓦の耐久試験を兼ねた石炭の加工が、試験的に始められた。
 耐火煉瓦の製造も続けられている。
 こちらの目処が立ち次第、約束通り、セイバーンに高温炉と、鋳造試験ができるだけの量のコークスを送ろう」
「ありがとうございます。これで我々の夢も叶う。
 手押し式汲み上げ機を鋳造する研究に、やっと着手できます」

 そう言うとラジルラフト様は……何か言葉を飲み込み、頭を掻いた。
 言いたくないこと……言いにくいことがある様子。だから、どうされましたか? と、促したのだが。

「……あの土の割合を……其方らは、どうやって見付け出した?
 遠い南の地で、土を持ってすらいなかったのに、だ。
 あれでは、其方らが耐火煉瓦を作り出したような、ものだよな……」

 そんな風に言い、ちらりと俺の顔色を伺う。
 秘匿権はやはりブンカケンで所持すると言い出すのでは……と、そんな不安が見て取れたから、俺は即座にそれを否定した。

「そんなわけがないでしょう。
 我々は幾つかの数字を口出ししただけ。実際に土を掘り、手を動かし、焼き上げて形を作り上げたのはオゼロです。
 耐火煉瓦の秘匿権は、オゼロが所持するべきものですよ」

 そう言ったのだが、まだ納得できないと言う顔。
 あのですねぇ……。

「あれは現段階では、オゼロの土でなければ、作れないんです。あれだけの種類の土を領地ひとつで用意できたことが、オゼロの強みです。
 我々がそれに匹敵する性質を持つ土を見つけ出すのに、どれだけ時間が必要だと思うんです?
 領内で賄えるとも限りませんし……」
「し、しかし……」
「そもそも、今回の耐火煉瓦だって完成形ではありませんよ」
「えっ⁉︎」

 俺の言葉に、度肝を抜かれた様子のラジルラフト様。
 実際そうなんですよ。たまたま俺たちの試算したものが、今までのものからすると、飛躍的に性能を伸ばしていた……と、いうだけですからね。

「もっと良い土の割合や、焼き方等、あると思います。
 それをオゼロはこれからも、試し続けていってほしい。
 今の形で満足しないでください。
 新たな土、新たな割合、新たな製造工程を、日々模索し続けてほしい。
 そうして性能を上げていけば、我々の知識では追いつけなかった、もっとずっと素晴らしいものを、見つけ出せるはずだ」

 誰憚ることなく、我々の作り上げたものだと、言えるようになるはずだ。

「……そうか。
 いや、そうだな。もっと先がいくらだってあるのだな……。
 では、私の一生を掛けて、この品を磨き上げていくと、ここに誓おう」

 そう言ったラジルラフト様。
 オゼロの誇りに賭けてとそう言った彼は、とても頼もしく見えた。

 ……ふぅ。嗅覚師のことも、上手く誤魔化せたようだ……。
 彼らのことは、まだ秘密だからな。
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