681 / 1,121
閑話 夫婦 5
しおりを挟む
「また近く、立ち寄る」
それだけ約束して、俺たちは食事処を後にした。
張り詰めた様子のダニルに、何も言えないまま……。だけど今の彼に、俺が何を言ったって意味が無いと思った。
来世のために罪を贖おうと説得したところで、何も飲み込めないだろう。それだけは、いやでも分かった。
今のダニルは前を見ていない……。
彼は調理場から出てこなかった。俺たちを、店の前まで見送りに出てきてくれたのは、カーリンと手伝いの少女たちだけ……。
だけどダニル。
俺は、まだ諦めていないから。
今は駄目でも、どこかで必ず、お前が救われる道を、幸せを目指せる方法を、見つけるから。
現場に戻り、作業に携わる皆にもう一度挨拶して、六の月から宜しく頼むと伝えた。
アーシュとクロード。毎日どちらかは必ず現場にいるようにするからと。
そうして俺たちは、セイバーン村を後にした。
◆
一度訪れなければと思っていたのだ。
色々と関わりは増えたけれど、まだ直接、顔を合わせてはいなかったから。
「……ロジェ村にですか?」
「うん。伺うのは極力少人数で、事態を知っている者だけに絞ろうとは思うのだけど、一度ちゃんと挨拶をしておきたくて。
正直、結構な難題を受け入れてもらっているのに、顔を出しもしない管理職って、信用的にどうかなって思うし……生まれた幼子の健康管理についてや環境に関しても気になるのと、やはり産業面……。
あの一帯を吠狼の管理区域としたから、色々免除は受けられるんだけど、やはり収入源には難があるままだろう? そこが気になってて」
マルやサヤと色々検討し、いくつかロジェ村で収入確保に繋げられそうなものを見繕ったのだ。それについても相談したい。
そう言うと、今年初めての玄武岩を運んで来ていたエルランドとホセは、なんとも複雑そうな顔をした。
「そこまで気を配っていただけるってこと、普通無いですよ……」
「そうなの?」
「そもそもオーストでは存在すら認められませんでしたから」
あー……そういえばそうだった。
俺の反応に、顔を見合わせたエルランドとホセ。だけどくすりと笑って……。
「セイバーンが豊かであるのは、立地に恵まれただけじゃないってことが、よく分かります」
「いやだってさ……収入源もないのに納税しろとか、豊かになれとか、言われて出来るなら誰も苦労してないし。
自分たちでどうにか出来る問題なら、その土地がずっと貧しいままであるはずないんだよ」
そんな時のための領主だと、父上は言う。俺もその通りだと思うのだ。
「そうですね……、では我々がご案内します。
吠狼の方々がいらっしゃるなら、あまり意味はないのですが、我々も責任上、知っておく方が良いでしょうし」
そんなわけで、七日間程拠点村を空けることとなった。
同行者は当然ハイン、サヤ。シザー、オブシズに加え、ユスト。そして吠狼から、ジェイドと久しぶりのアイル。
父上に留守をお願いし、護衛が少なすぎるとぶちぶち言うガイウスには、明けの明星という、信頼度の高い傭兵団の護衛があるから大丈夫と伝えた。
交易路計画に関してはクロードとアーシュが。
拠点村に関してはマルとウーヴェが、それぞれ担ってくれることが決まった。
孤児院に関しては、最近子供達にも信頼されてきているジークが引き受けてくれた。
「オブシズの古巣ですから、信頼できますよ」
「そうか。ではオブシズ頼む」
「はっ。必ずやお守り致します」
仕事の速い女中頭が荷造りを担当してくれたので、準備も一日で済んだし、エルランドらを案内役として雇う形を取ったので、荷車も利用出来る。
あれやこれやと積み込むと、結構な荷物量になってしまったけれど、まぁ、良いよな。
「生まれて三……四ヶ月か? ちっちゃいんだろうな」
「結構大きくなりましたよ。生まれたてなんて、片手に乗るくらいの大きさだったのですが」
道中の休憩時間、昼食を兼ねて交流を深めた。
そう話すホセは、当初の寡黙さなどかなぐり捨てている。幼子のことはいくらでも語れるらしい。
双子は男児をレイル、女児をサナリと名付けられたそうなのだが……。
「あの……申し訳ありません……お、お二人の響きを少々……」
「…………えっ⁉︎」
俺とサヤの名から音を拝借したと言われ、嬉しいやら恥ずかしいやら……。
「良かったのかな……」
「無事に二人とも生まれて来てくれました。それはレイ様の尽力あってこそなので」
笑ってそう言われ、なんともいえない気持ちになる。
何をしたってわけでも、ないと思うのだけどなぁ……。
「ロゼがきっと喜びますよ。拠点村に遊びに行きたいって、駄々こねまくってますからね」
金星ヘルガーが、そう言って笑う。
「ロゼ一人なら良いんですけどねぇ……弟と妹をレイ様に見せるのだと言って聞かないから……。
サナリはともかくレイルは連れ出せないって口を酸っぱくして言ってるんですけど……まだ理解できないみたいで」
その言葉に納得。
ロゼだものなぁ……。あの子は幼さもあると思うけれど、それ以前にこう……性格から、内緒ごとには向いていないと思う……。
サナリは人だけれど、レイルはやはり、獣人の血が濃く出たらしい。特徴が顕著にあるから、村から出すことはできないという。
だけどロゼからすれば、どちらも大切な弟と妹なのだ。サナリだけと言われたって、納得などできないだろう。
「楽しみだ。俺も早く会いたい。ロゼにも、サナリとレイルにも。なぁサヤ」
「ええ。そうですね」
久しぶりの、なんだか明るい話題と雰囲気。
その空気に浮かれて、俺たちはのんびりと会話を楽しみながら、西を目指した。
◆
西への旅は昨年の秋以来。あの時は、進むにつれ体調を崩していった。
今なら分かる。俺は多分、西の風景や匂い、雰囲気などを、無意識化で記憶していたのだろう。
あの夢の場所……母が俺の死を望んだ場所。あそこに近付くことを、身体が拒否していたのだ。
「…………」
なのに、不思議だ……。
同じ風景を前にしているのに、あの時の恐怖が、今は湧いてこない……。
陽光にきらめく水面は、ただ美しいだけだ。
夢の中で何度もここに足を浸した。あの時の俺は小さかったから、あっという間に頭の先まで、水の中だったけれど、今なら……。
「レイ」
名を呼ばれ、後ろから抱きつかれて我に帰った。
振り返ってみると、不安そうな表情のサヤと視線が合った。水面を前に動かなくなってしまった俺を心配したのだと分かって、ちょっと恥ずかしくなる。
「いや、大丈夫なんだよ。あれだけ怖かったのに、もうなんともないのが不思議で……見入っていただけなんだ」
そう言うと、ホッとしたのか、表情と腕を緩めた。けれど……。
「もう、準備できたから、戻ろ」
俺の袖を摘み、まだどこか不安そうな表情で、そう言ってくる。
その言葉に従って、サヤとともに水面を離れた。
本日宿泊する予定の邸に戻ると、懐かしい顔が出迎えてくれ、俺は彼に微笑みを向けることができたことを、改めて嬉しく思った。
「カーク、久しぶり。その後なかなか顔を出せなくて申し訳なかった」
隣の地区を管理するカークが、ご挨拶にと出向いてくれていた。
手紙でのやり取りはあったものの、父上救出の後はすぐに越冬準備に追われてしまった。
更にアギーの社交界出席、王都の戴冠式と続いたから、カークとは秋以来だ。歳も歳だし心配していたのだけど、どうやら元気であったよう。
「その後変わりはない?
この地区の管理者を定めた件、急だったのに色々手配を手伝ってくれてありがとう」
「いえいえ、お陰様で越冬期間の仕事量が半減しました。
スヴェンという者も、勤勉で良い人物ですね。
越冬中、来て早々村の雪下ろしを始めたそうで、大雪の後は定期的に行ってくれたと聞いております。皆助かったと感謝しておりました」
長らく管理者がいなかったこの区域を、セイバーンの特別部隊、吠狼の管理区域としたことを、カークには伝えてあった。
影の部隊となるため、表向きは俺の私兵扱い。その部隊の長が、吠狼のスヴェンと定まったのだ。
彼はローシェンナの補佐的な役割を長年続けており、豺狼組であった頃の人間側代表者……ローシェンナを表に出せない場合の、頭役。だから適任者だろうとなったのだ。
急にこの地区に管理者が決まった理由は、これからこの西の地に道を繋げる予定が立ち、そのための下準備という建前になっている。
氾濫のせいで、この地域へ赴くには南から大きく迂回しなければならなかったため、色々不便で発展も遅れていたのだけど、道が繋がれば、メバックまでにかかる時間が半分以下になる。そのため、その計画は大いに歓迎されているようだ。比較的豊かなセイバーンにおいて、この区域が最も寂れていたしな。
「父上は足を痛めてしまっているし、医師の管理下で容態を調整しているから、長距離の移動が色々と難しくてね。
王都に行くのはどうしようもない決定事項だったから、そこでちょっと無理を押している。それで今は、拠点村で体調を整えているんだ。
でもカークに手紙を預かってきている。後で渡すよ。
それから父上の容態だけど、相変わらず毒の摂取は続いているけれど、分量としては当初の半分以下に減ってるんだ。今年いっぱいを目処に、終わりにできそうだって医師は言っているから、とても順調に回復へと向かっているよ。
最近はね、車椅子で村の中を散策されたりもするんだ」
父上の様子を話して聞かせると、とても嬉しそうに目を細める。
母のことも、色々あったけれど、今は飲み込めていると伝えた……。
「もう、母が俺を疎んでいたわけじゃないのだって、分かったから……」
そう話すと、良うございましたと涙を拭うカーク。
泣かせるほど心配させていたのかと慌ててしまう。
「歳を取ると涙腺が脆くなってしまいますもので……」
「色々心配させて申し訳なかった」
「これでようやっと、心残りがなくなりました。安心して来世へと旅立てます……」
そう言い肩の力を抜いたカーク。
きっとカークは、俺の年齢と同じくらいの年月、母と俺のことを思い悩んでいたと思う。
「縁起でもないこと言うな。父上が、道が繋がったらこちらにも顔を出したいとおっしゃっていたんだよ。
もう交易路計画の方は始動してる。堤も完成したから、雨季が明けたら西への道にも着工できると思うんだ。
毒が抜けたら、父上はもう少し自由に行動できるようになるから、カークと顔を合わせることもできると思う。だからどうか元気でいてくれないか」
そう言うと、お迎えが来ぬ限りは頑張りますと言い、カークは微笑んだ。
それだけ約束して、俺たちは食事処を後にした。
張り詰めた様子のダニルに、何も言えないまま……。だけど今の彼に、俺が何を言ったって意味が無いと思った。
来世のために罪を贖おうと説得したところで、何も飲み込めないだろう。それだけは、いやでも分かった。
今のダニルは前を見ていない……。
彼は調理場から出てこなかった。俺たちを、店の前まで見送りに出てきてくれたのは、カーリンと手伝いの少女たちだけ……。
だけどダニル。
俺は、まだ諦めていないから。
今は駄目でも、どこかで必ず、お前が救われる道を、幸せを目指せる方法を、見つけるから。
現場に戻り、作業に携わる皆にもう一度挨拶して、六の月から宜しく頼むと伝えた。
アーシュとクロード。毎日どちらかは必ず現場にいるようにするからと。
そうして俺たちは、セイバーン村を後にした。
◆
一度訪れなければと思っていたのだ。
色々と関わりは増えたけれど、まだ直接、顔を合わせてはいなかったから。
「……ロジェ村にですか?」
「うん。伺うのは極力少人数で、事態を知っている者だけに絞ろうとは思うのだけど、一度ちゃんと挨拶をしておきたくて。
正直、結構な難題を受け入れてもらっているのに、顔を出しもしない管理職って、信用的にどうかなって思うし……生まれた幼子の健康管理についてや環境に関しても気になるのと、やはり産業面……。
あの一帯を吠狼の管理区域としたから、色々免除は受けられるんだけど、やはり収入源には難があるままだろう? そこが気になってて」
マルやサヤと色々検討し、いくつかロジェ村で収入確保に繋げられそうなものを見繕ったのだ。それについても相談したい。
そう言うと、今年初めての玄武岩を運んで来ていたエルランドとホセは、なんとも複雑そうな顔をした。
「そこまで気を配っていただけるってこと、普通無いですよ……」
「そうなの?」
「そもそもオーストでは存在すら認められませんでしたから」
あー……そういえばそうだった。
俺の反応に、顔を見合わせたエルランドとホセ。だけどくすりと笑って……。
「セイバーンが豊かであるのは、立地に恵まれただけじゃないってことが、よく分かります」
「いやだってさ……収入源もないのに納税しろとか、豊かになれとか、言われて出来るなら誰も苦労してないし。
自分たちでどうにか出来る問題なら、その土地がずっと貧しいままであるはずないんだよ」
そんな時のための領主だと、父上は言う。俺もその通りだと思うのだ。
「そうですね……、では我々がご案内します。
吠狼の方々がいらっしゃるなら、あまり意味はないのですが、我々も責任上、知っておく方が良いでしょうし」
そんなわけで、七日間程拠点村を空けることとなった。
同行者は当然ハイン、サヤ。シザー、オブシズに加え、ユスト。そして吠狼から、ジェイドと久しぶりのアイル。
父上に留守をお願いし、護衛が少なすぎるとぶちぶち言うガイウスには、明けの明星という、信頼度の高い傭兵団の護衛があるから大丈夫と伝えた。
交易路計画に関してはクロードとアーシュが。
拠点村に関してはマルとウーヴェが、それぞれ担ってくれることが決まった。
孤児院に関しては、最近子供達にも信頼されてきているジークが引き受けてくれた。
「オブシズの古巣ですから、信頼できますよ」
「そうか。ではオブシズ頼む」
「はっ。必ずやお守り致します」
仕事の速い女中頭が荷造りを担当してくれたので、準備も一日で済んだし、エルランドらを案内役として雇う形を取ったので、荷車も利用出来る。
あれやこれやと積み込むと、結構な荷物量になってしまったけれど、まぁ、良いよな。
「生まれて三……四ヶ月か? ちっちゃいんだろうな」
「結構大きくなりましたよ。生まれたてなんて、片手に乗るくらいの大きさだったのですが」
道中の休憩時間、昼食を兼ねて交流を深めた。
そう話すホセは、当初の寡黙さなどかなぐり捨てている。幼子のことはいくらでも語れるらしい。
双子は男児をレイル、女児をサナリと名付けられたそうなのだが……。
「あの……申し訳ありません……お、お二人の響きを少々……」
「…………えっ⁉︎」
俺とサヤの名から音を拝借したと言われ、嬉しいやら恥ずかしいやら……。
「良かったのかな……」
「無事に二人とも生まれて来てくれました。それはレイ様の尽力あってこそなので」
笑ってそう言われ、なんともいえない気持ちになる。
何をしたってわけでも、ないと思うのだけどなぁ……。
「ロゼがきっと喜びますよ。拠点村に遊びに行きたいって、駄々こねまくってますからね」
金星ヘルガーが、そう言って笑う。
「ロゼ一人なら良いんですけどねぇ……弟と妹をレイ様に見せるのだと言って聞かないから……。
サナリはともかくレイルは連れ出せないって口を酸っぱくして言ってるんですけど……まだ理解できないみたいで」
その言葉に納得。
ロゼだものなぁ……。あの子は幼さもあると思うけれど、それ以前にこう……性格から、内緒ごとには向いていないと思う……。
サナリは人だけれど、レイルはやはり、獣人の血が濃く出たらしい。特徴が顕著にあるから、村から出すことはできないという。
だけどロゼからすれば、どちらも大切な弟と妹なのだ。サナリだけと言われたって、納得などできないだろう。
「楽しみだ。俺も早く会いたい。ロゼにも、サナリとレイルにも。なぁサヤ」
「ええ。そうですね」
久しぶりの、なんだか明るい話題と雰囲気。
その空気に浮かれて、俺たちはのんびりと会話を楽しみながら、西を目指した。
◆
西への旅は昨年の秋以来。あの時は、進むにつれ体調を崩していった。
今なら分かる。俺は多分、西の風景や匂い、雰囲気などを、無意識化で記憶していたのだろう。
あの夢の場所……母が俺の死を望んだ場所。あそこに近付くことを、身体が拒否していたのだ。
「…………」
なのに、不思議だ……。
同じ風景を前にしているのに、あの時の恐怖が、今は湧いてこない……。
陽光にきらめく水面は、ただ美しいだけだ。
夢の中で何度もここに足を浸した。あの時の俺は小さかったから、あっという間に頭の先まで、水の中だったけれど、今なら……。
「レイ」
名を呼ばれ、後ろから抱きつかれて我に帰った。
振り返ってみると、不安そうな表情のサヤと視線が合った。水面を前に動かなくなってしまった俺を心配したのだと分かって、ちょっと恥ずかしくなる。
「いや、大丈夫なんだよ。あれだけ怖かったのに、もうなんともないのが不思議で……見入っていただけなんだ」
そう言うと、ホッとしたのか、表情と腕を緩めた。けれど……。
「もう、準備できたから、戻ろ」
俺の袖を摘み、まだどこか不安そうな表情で、そう言ってくる。
その言葉に従って、サヤとともに水面を離れた。
本日宿泊する予定の邸に戻ると、懐かしい顔が出迎えてくれ、俺は彼に微笑みを向けることができたことを、改めて嬉しく思った。
「カーク、久しぶり。その後なかなか顔を出せなくて申し訳なかった」
隣の地区を管理するカークが、ご挨拶にと出向いてくれていた。
手紙でのやり取りはあったものの、父上救出の後はすぐに越冬準備に追われてしまった。
更にアギーの社交界出席、王都の戴冠式と続いたから、カークとは秋以来だ。歳も歳だし心配していたのだけど、どうやら元気であったよう。
「その後変わりはない?
この地区の管理者を定めた件、急だったのに色々手配を手伝ってくれてありがとう」
「いえいえ、お陰様で越冬期間の仕事量が半減しました。
スヴェンという者も、勤勉で良い人物ですね。
越冬中、来て早々村の雪下ろしを始めたそうで、大雪の後は定期的に行ってくれたと聞いております。皆助かったと感謝しておりました」
長らく管理者がいなかったこの区域を、セイバーンの特別部隊、吠狼の管理区域としたことを、カークには伝えてあった。
影の部隊となるため、表向きは俺の私兵扱い。その部隊の長が、吠狼のスヴェンと定まったのだ。
彼はローシェンナの補佐的な役割を長年続けており、豺狼組であった頃の人間側代表者……ローシェンナを表に出せない場合の、頭役。だから適任者だろうとなったのだ。
急にこの地区に管理者が決まった理由は、これからこの西の地に道を繋げる予定が立ち、そのための下準備という建前になっている。
氾濫のせいで、この地域へ赴くには南から大きく迂回しなければならなかったため、色々不便で発展も遅れていたのだけど、道が繋がれば、メバックまでにかかる時間が半分以下になる。そのため、その計画は大いに歓迎されているようだ。比較的豊かなセイバーンにおいて、この区域が最も寂れていたしな。
「父上は足を痛めてしまっているし、医師の管理下で容態を調整しているから、長距離の移動が色々と難しくてね。
王都に行くのはどうしようもない決定事項だったから、そこでちょっと無理を押している。それで今は、拠点村で体調を整えているんだ。
でもカークに手紙を預かってきている。後で渡すよ。
それから父上の容態だけど、相変わらず毒の摂取は続いているけれど、分量としては当初の半分以下に減ってるんだ。今年いっぱいを目処に、終わりにできそうだって医師は言っているから、とても順調に回復へと向かっているよ。
最近はね、車椅子で村の中を散策されたりもするんだ」
父上の様子を話して聞かせると、とても嬉しそうに目を細める。
母のことも、色々あったけれど、今は飲み込めていると伝えた……。
「もう、母が俺を疎んでいたわけじゃないのだって、分かったから……」
そう話すと、良うございましたと涙を拭うカーク。
泣かせるほど心配させていたのかと慌ててしまう。
「歳を取ると涙腺が脆くなってしまいますもので……」
「色々心配させて申し訳なかった」
「これでようやっと、心残りがなくなりました。安心して来世へと旅立てます……」
そう言い肩の力を抜いたカーク。
きっとカークは、俺の年齢と同じくらいの年月、母と俺のことを思い悩んでいたと思う。
「縁起でもないこと言うな。父上が、道が繋がったらこちらにも顔を出したいとおっしゃっていたんだよ。
もう交易路計画の方は始動してる。堤も完成したから、雨季が明けたら西への道にも着工できると思うんだ。
毒が抜けたら、父上はもう少し自由に行動できるようになるから、カークと顔を合わせることもできると思う。だからどうか元気でいてくれないか」
そう言うと、お迎えが来ぬ限りは頑張りますと言い、カークは微笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?
サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。
「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」
リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる