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ウォルテール 6
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翌朝、ウォルテールの朝食をギルが運んで来てくれた。
「とりあえずこれな。でも人前に出るなよ、ここには狼がいることになってんだから」
「分かってる……」
大人しくなってしまったウォルテールがそう言って料理を受け取り、俺に机を促されてそちらへと進んだ。
俺の仕度はハインが行っており、俺とウォルテールの距離はなにかと計算されている。一晩同じ部屋だったんだから、今更警戒する必要も無いと思うのだけど、ハインの顔がいつも以上に怖くて余計な口を挟めない。
だけどこの顔は…………。
「ハイン……お前寝てないだろ」
「あれを同室にされて、おちおち眠ていられると思うのですか……」
部屋には踏み込んでこなかったものの、ハインは隣室にて臨戦態勢で待機していた様子。
一応シザーと交代で多少は休んだと言うが、こいつ絶対寝てない……。
「悪かったよ……だけど起こすのも可哀想だったんだ……」
数日まともに食べたり休んだりできていなかったと思うのだ。
でなければ、信頼できる者がサヤしかいないあの状況で、眠ってしまったりはしなかったろう。結局一晩中起きなかったみたいだし、サヤがいない今も、大人しくしているし……。
なにより、他の部屋に行かせるわけにもいかないじゃないか。彼は人型であっても耳や尾、脚に獣人の特徴が出るのだし。
俺の身仕度が終わる頃、またギルが桶と、ウォルテールの衣服を持ってやって来た。
「ここにはまだ湯船なんて気のきいたものは無いからな。食事終わったら、これで身体拭いてから着替えろ」
桶の中は湯であった様子。なんのかんので世話焼きだからなぁ、ギル。わざわざ湯を用意してくれるあたり、口調はぶっきらぼうでも優しい。
「レイ、日中は女近衛の正装の件で、サヤ借りるぞ。あとサヤの今後のことでも話があるから、時間を作ってくれ」
サヤ。
という言葉にびくりと肩を跳ねさせたウォルテール。昨日嫌と言われたことを気にしている様子だ。
サヤはウォルテールが嫌なんじゃないよとは伝えておいたけれど、そんな言葉では安心できないよな、やっぱり。
「分かった。
あぁ、あとウーヴェとロビンがこちらに来ると思うんだ。急ぎの件だから、来たら取次頼むよ」
「了解」
部屋を出ようとすると、ウォルテールが不安そうにこちらを見ているのに気が付いた。
「そのまま食べておいて。俺たちも朝食取ってくるから。すぐ戻る。ほんの一時間ほどだ。
あと、休むならそこの長椅子、使えば良いからね」
一応そう伝えておく。
部屋を出ると、扉横にシザーがおり、そのままここでウォルテールを見ていてくれる様子。
「いつも悪いな。すぐ戻るから」
見張りは必要無いと思うけれど……部下の皆がそれで心を落ち着けていられるならばと了承する。
「おはようございます」
応接室には身支度を済ませたサヤとマルも既に来ており、俺のすぐ後に父上らも到着したため、すぐに朝食となった。
いつも通りの時間。朝食を取りながらの、今後の予定のすり合わせだ。
席に着く際、サヤには一応「起きて、朝食摂ってるよ」と呟いておく。彼女はホッとしたように息を吐いて、俺に「おおきに」と返事をくれた。
「じゃあマルは父上と一緒に一旦戻るんだな」
「ええ。一日いただきます。明日の昼までにはまたこちらに戻りますよ」
「頼む。こっちは正装と耳飾、あと女中や衛兵の雇用募集を手続きしておく。人数はどうしておけば良い?」
「一応の雇う目処はあるので……そうですね、どちらも二十名ほどで。ただ、募りますけれど、全員面接をした上で決めます。予定人数に達しない場合もあるでしょうし、それ以上を採用する場合もあると思います」
「分かった、その辺も踏まえてやっておく」
まぁ、貴族の身の回りでの職務だからそれは当然だろうな。むしろ思っていたより随分と募集人数が少ないのが気になるところだけれど、枠が狭いと思わせておく方が良いのだろう。
「で、あの親子、どうします?」
「うーん……どうしような……拠点村に先に連れて行っても良いんだけど……きっと落ち着かないよなぁ……」
「どこに連れて行っても落ち着かないでしょうけどね」
マルの言葉にうーんと唸る……。
まだ拠点村に孤児院は建設されてすらいないのだ。連れて行ってもやることが無いだろうし、見知らぬ者らの中に放り出されても困るだろう。
何より神殿の関係者だから、そこいらに放っておくのは憚られる。あと、娘と母の二人きりというのも気になるし……。
「……なんなら、しばらくうちで下働きにでも雇うか?
子連れの女性は、なかなか雇う先も少ないだろうしな。子は庭で遊ばせておくくらいしかできんが……」
ギルがそう申し出てくれたので、女中頭に視線をやる。
「宜しいのではございませんか? カタリーナは、何もしないでいることの方が落ち着かないでしょうし」
「そうか……。うん、じゃあギルにしばらくお願いすることにする」
「孤児院と幼年院の建設も帰り次第指示を出しますよ。工事はもう始まっているでしょうが、こちらを優先して建設を急いでもらうことにします」
そんな風にしながらあっという間に一時間を過ごした。
部屋に戻り、シザーを朝食に送り出し、身繕いも済ませ、ソワソワと部屋で落ち着かなくしていたウォルテールにただいまを伝えると、俺とサヤの姿にホッとした様子を見せたが、そのまま部屋の隅で丸くなってしまった。
サヤがまだ、口をきいてくれそうにないからだ……。極力ウォルテールの方を見ないようにしているし、表情も固い。その様子に、ウォルテールは恐れ慄いているのだ。
サヤがいないと不安……だけど嫌われたくない……。そんな雰囲気が滲み出ていて、サヤも居心地悪そうに視線を彷徨わせている。
そうこうしているとギルが来て、サヤに仕事だと声を掛け、俺は二人を部屋から送り出した。
それによりまたウォルテールは、落胆したように俯いてしまった。
本日の書類仕事は、応接室でなくここで行う。あちらは父上らが帰り支度に利用されるからな。
俺用の硝子筆は今日も絶好調だ。これを使っているだけで作業が格段に捗っている気分になる。
そんな中、部屋の隅に縮こまったままの存在が、やっぱり気になった。
「ウォルテール。サヤがなんでまだ、君を許してくれないか分かるかな?」
ハインとともに手を動かしながら、そう問うと、ウォルテールがギクリと身を強張らせる。
「君からまだ、聞いてないからだと思うよ。昨日のこと、どう思っているのか。これからをどうするのか。
サヤは優しいって、君だって知ってるだろう? 怒り続けるのも疲れるし、苦しいんだよ」
そう言うと、唸り声。どことなく狼っぽい、グルルル……といった感じの。
暫くその唸り声は続いていたのだけど、不意にぷつりと途切れて、ボソボソとくぐもった声に変わった。
「…………でもサヤ、俺を見ない……。話しかけてほしくないって顔してた……」
「そりゃ、つい構ってしまいそうになると思ってるんじゃないかな。
だけどここで君に譲歩したんじゃ、君のために良くないと思ってる」
「…………俺のため?」
ウォルテールのため。その言葉に反応して聞き返してくる。そんな必死さが、なんだか幼さを感じた。
嫌っているであろう俺の言葉にすら、縋ってしまう。それだけ追い詰められているのだろう。
「そうだよ。今までウォルテールがどういった場所にいたのかは知らないけど、これからもサヤの傍にいたいと思うなら、集団の中の生活を覚えるしかない。
それには、誰かのための我慢が必要になる。
だけどそれは、君だけに我慢をしろって言ってるんじゃないんだよ。君のためにみんなも我慢をするんだ。
今までだってそうして、いくつも我慢してくれていたんだよ。
なのにお前ときたら、わざわざ君を拾い、面倒を見て、集団生活を教えてくれている彼らの文句をぶちまけた。あの場を逃げ出した。あまつさえジェイドに怪我させた。
他の皆に迷惑をかけることを省みず、自分がやりたいことを優先した。
それに関して、君はどう思ってるか、サヤにまだ言ってないだろう?
だからサヤは、君が昨日のままだと思ってるんだよ。昨日のままの君が、サヤは嫌なんだ。
サヤに笑ってほしいなら、話しかけてほしいなら、どうすべきか考えて、伝えないとな」
そう言って俺が黙ると、また沈黙……。
ちらりと視線をやってみると、なんとも困った顔で泣きそうになっている。
……十三歳……か。身体は大きいけど、やっぱりまだ幼いんだな……。
「どんな風にすることが必要か、分からないかな?」
そう聞くと、素直にこくりと頷く。俺にすら素直だ。
その必死さに、俺は笑った。答えなんて、もう自分で持ってるも同然なのに。
「簡単なことだよ。サヤに見せたくない。知られたくない。そんな風に思うことを、しなければ良いんだ。
サヤが笑顔になってくれそうなことを、他の皆にもすれば良い。
サヤは言ってたよ。ウォルテールが優しくしてくれたって。それが嬉しかったって。だから、お前が持ってないものを出せって言ってるんじゃないんだ。
難しく考えないで。周りが笑顔になってくれることを、すれば良いんだよ」
「笑顔……?」
「あと、失敗しないコツは、それをした後どうなるかを、ちゃんと考えることかな。
自分が集団の中の一人なのだということをだよ。相手と自分二人だけじゃないんだ。
いくら相手が笑顔でも、周りのみんなが苦しんだり、悲しんだりするようなことは正しくない。
そういう時は、君が間違ったことをしようとしてるその相手を、諌めてあげなきゃね」
そう言うと、ウォルテールは混乱してしまったようだ。
目を白黒させて唸るから、笑ってしまった。
「ま、はじめからあまり多くは求めないよ。まずは相手を笑顔にする。そこからで良いから。
サヤを悲しませないことを考えることから、始めたら良い」
「悲しませない、こと……」
そう呟くとウォルテールは、なにやら長考に入ってしまった。
膝を抱え、真剣な顔で考えている。その様子に、そっとしておこうと、俺も仕事を再開した。
「とりあえずこれな。でも人前に出るなよ、ここには狼がいることになってんだから」
「分かってる……」
大人しくなってしまったウォルテールがそう言って料理を受け取り、俺に机を促されてそちらへと進んだ。
俺の仕度はハインが行っており、俺とウォルテールの距離はなにかと計算されている。一晩同じ部屋だったんだから、今更警戒する必要も無いと思うのだけど、ハインの顔がいつも以上に怖くて余計な口を挟めない。
だけどこの顔は…………。
「ハイン……お前寝てないだろ」
「あれを同室にされて、おちおち眠ていられると思うのですか……」
部屋には踏み込んでこなかったものの、ハインは隣室にて臨戦態勢で待機していた様子。
一応シザーと交代で多少は休んだと言うが、こいつ絶対寝てない……。
「悪かったよ……だけど起こすのも可哀想だったんだ……」
数日まともに食べたり休んだりできていなかったと思うのだ。
でなければ、信頼できる者がサヤしかいないあの状況で、眠ってしまったりはしなかったろう。結局一晩中起きなかったみたいだし、サヤがいない今も、大人しくしているし……。
なにより、他の部屋に行かせるわけにもいかないじゃないか。彼は人型であっても耳や尾、脚に獣人の特徴が出るのだし。
俺の身仕度が終わる頃、またギルが桶と、ウォルテールの衣服を持ってやって来た。
「ここにはまだ湯船なんて気のきいたものは無いからな。食事終わったら、これで身体拭いてから着替えろ」
桶の中は湯であった様子。なんのかんので世話焼きだからなぁ、ギル。わざわざ湯を用意してくれるあたり、口調はぶっきらぼうでも優しい。
「レイ、日中は女近衛の正装の件で、サヤ借りるぞ。あとサヤの今後のことでも話があるから、時間を作ってくれ」
サヤ。
という言葉にびくりと肩を跳ねさせたウォルテール。昨日嫌と言われたことを気にしている様子だ。
サヤはウォルテールが嫌なんじゃないよとは伝えておいたけれど、そんな言葉では安心できないよな、やっぱり。
「分かった。
あぁ、あとウーヴェとロビンがこちらに来ると思うんだ。急ぎの件だから、来たら取次頼むよ」
「了解」
部屋を出ようとすると、ウォルテールが不安そうにこちらを見ているのに気が付いた。
「そのまま食べておいて。俺たちも朝食取ってくるから。すぐ戻る。ほんの一時間ほどだ。
あと、休むならそこの長椅子、使えば良いからね」
一応そう伝えておく。
部屋を出ると、扉横にシザーがおり、そのままここでウォルテールを見ていてくれる様子。
「いつも悪いな。すぐ戻るから」
見張りは必要無いと思うけれど……部下の皆がそれで心を落ち着けていられるならばと了承する。
「おはようございます」
応接室には身支度を済ませたサヤとマルも既に来ており、俺のすぐ後に父上らも到着したため、すぐに朝食となった。
いつも通りの時間。朝食を取りながらの、今後の予定のすり合わせだ。
席に着く際、サヤには一応「起きて、朝食摂ってるよ」と呟いておく。彼女はホッとしたように息を吐いて、俺に「おおきに」と返事をくれた。
「じゃあマルは父上と一緒に一旦戻るんだな」
「ええ。一日いただきます。明日の昼までにはまたこちらに戻りますよ」
「頼む。こっちは正装と耳飾、あと女中や衛兵の雇用募集を手続きしておく。人数はどうしておけば良い?」
「一応の雇う目処はあるので……そうですね、どちらも二十名ほどで。ただ、募りますけれど、全員面接をした上で決めます。予定人数に達しない場合もあるでしょうし、それ以上を採用する場合もあると思います」
「分かった、その辺も踏まえてやっておく」
まぁ、貴族の身の回りでの職務だからそれは当然だろうな。むしろ思っていたより随分と募集人数が少ないのが気になるところだけれど、枠が狭いと思わせておく方が良いのだろう。
「で、あの親子、どうします?」
「うーん……どうしような……拠点村に先に連れて行っても良いんだけど……きっと落ち着かないよなぁ……」
「どこに連れて行っても落ち着かないでしょうけどね」
マルの言葉にうーんと唸る……。
まだ拠点村に孤児院は建設されてすらいないのだ。連れて行ってもやることが無いだろうし、見知らぬ者らの中に放り出されても困るだろう。
何より神殿の関係者だから、そこいらに放っておくのは憚られる。あと、娘と母の二人きりというのも気になるし……。
「……なんなら、しばらくうちで下働きにでも雇うか?
子連れの女性は、なかなか雇う先も少ないだろうしな。子は庭で遊ばせておくくらいしかできんが……」
ギルがそう申し出てくれたので、女中頭に視線をやる。
「宜しいのではございませんか? カタリーナは、何もしないでいることの方が落ち着かないでしょうし」
「そうか……。うん、じゃあギルにしばらくお願いすることにする」
「孤児院と幼年院の建設も帰り次第指示を出しますよ。工事はもう始まっているでしょうが、こちらを優先して建設を急いでもらうことにします」
そんな風にしながらあっという間に一時間を過ごした。
部屋に戻り、シザーを朝食に送り出し、身繕いも済ませ、ソワソワと部屋で落ち着かなくしていたウォルテールにただいまを伝えると、俺とサヤの姿にホッとした様子を見せたが、そのまま部屋の隅で丸くなってしまった。
サヤがまだ、口をきいてくれそうにないからだ……。極力ウォルテールの方を見ないようにしているし、表情も固い。その様子に、ウォルテールは恐れ慄いているのだ。
サヤがいないと不安……だけど嫌われたくない……。そんな雰囲気が滲み出ていて、サヤも居心地悪そうに視線を彷徨わせている。
そうこうしているとギルが来て、サヤに仕事だと声を掛け、俺は二人を部屋から送り出した。
それによりまたウォルテールは、落胆したように俯いてしまった。
本日の書類仕事は、応接室でなくここで行う。あちらは父上らが帰り支度に利用されるからな。
俺用の硝子筆は今日も絶好調だ。これを使っているだけで作業が格段に捗っている気分になる。
そんな中、部屋の隅に縮こまったままの存在が、やっぱり気になった。
「ウォルテール。サヤがなんでまだ、君を許してくれないか分かるかな?」
ハインとともに手を動かしながら、そう問うと、ウォルテールがギクリと身を強張らせる。
「君からまだ、聞いてないからだと思うよ。昨日のこと、どう思っているのか。これからをどうするのか。
サヤは優しいって、君だって知ってるだろう? 怒り続けるのも疲れるし、苦しいんだよ」
そう言うと、唸り声。どことなく狼っぽい、グルルル……といった感じの。
暫くその唸り声は続いていたのだけど、不意にぷつりと途切れて、ボソボソとくぐもった声に変わった。
「…………でもサヤ、俺を見ない……。話しかけてほしくないって顔してた……」
「そりゃ、つい構ってしまいそうになると思ってるんじゃないかな。
だけどここで君に譲歩したんじゃ、君のために良くないと思ってる」
「…………俺のため?」
ウォルテールのため。その言葉に反応して聞き返してくる。そんな必死さが、なんだか幼さを感じた。
嫌っているであろう俺の言葉にすら、縋ってしまう。それだけ追い詰められているのだろう。
「そうだよ。今までウォルテールがどういった場所にいたのかは知らないけど、これからもサヤの傍にいたいと思うなら、集団の中の生活を覚えるしかない。
それには、誰かのための我慢が必要になる。
だけどそれは、君だけに我慢をしろって言ってるんじゃないんだよ。君のためにみんなも我慢をするんだ。
今までだってそうして、いくつも我慢してくれていたんだよ。
なのにお前ときたら、わざわざ君を拾い、面倒を見て、集団生活を教えてくれている彼らの文句をぶちまけた。あの場を逃げ出した。あまつさえジェイドに怪我させた。
他の皆に迷惑をかけることを省みず、自分がやりたいことを優先した。
それに関して、君はどう思ってるか、サヤにまだ言ってないだろう?
だからサヤは、君が昨日のままだと思ってるんだよ。昨日のままの君が、サヤは嫌なんだ。
サヤに笑ってほしいなら、話しかけてほしいなら、どうすべきか考えて、伝えないとな」
そう言って俺が黙ると、また沈黙……。
ちらりと視線をやってみると、なんとも困った顔で泣きそうになっている。
……十三歳……か。身体は大きいけど、やっぱりまだ幼いんだな……。
「どんな風にすることが必要か、分からないかな?」
そう聞くと、素直にこくりと頷く。俺にすら素直だ。
その必死さに、俺は笑った。答えなんて、もう自分で持ってるも同然なのに。
「簡単なことだよ。サヤに見せたくない。知られたくない。そんな風に思うことを、しなければ良いんだ。
サヤが笑顔になってくれそうなことを、他の皆にもすれば良い。
サヤは言ってたよ。ウォルテールが優しくしてくれたって。それが嬉しかったって。だから、お前が持ってないものを出せって言ってるんじゃないんだ。
難しく考えないで。周りが笑顔になってくれることを、すれば良いんだよ」
「笑顔……?」
「あと、失敗しないコツは、それをした後どうなるかを、ちゃんと考えることかな。
自分が集団の中の一人なのだということをだよ。相手と自分二人だけじゃないんだ。
いくら相手が笑顔でも、周りのみんなが苦しんだり、悲しんだりするようなことは正しくない。
そういう時は、君が間違ったことをしようとしてるその相手を、諌めてあげなきゃね」
そう言うと、ウォルテールは混乱してしまったようだ。
目を白黒させて唸るから、笑ってしまった。
「ま、はじめからあまり多くは求めないよ。まずは相手を笑顔にする。そこからで良いから。
サヤを悲しませないことを考えることから、始めたら良い」
「悲しませない、こと……」
そう呟くとウォルテールは、なにやら長考に入ってしまった。
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