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葛藤
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それからほどなくして、父上とヴァイデンフェラー男爵様を見つけた。
「よぅご両人! どこにしけ込んでいたのだ! 全く見かけなかったではないか!」
しっ、しけ……⁉︎
禿頭をほの赤く染めたヴァイデンフェラー様が上機嫌で手を振り、こちらだと教えてくれたのだが、言われた言葉に慌てた。
咄嗟にサヤを見て、彼女にはまだ意味が飲み込めてないと理解したので、慌てて駆け寄る。
「そういうことはしてません!」
「照れるな若人。年頃なのだから仕方がなかろう!」
「あなた、失礼ですからおやめになって?」
ひゅぉっと、冷気が吹き付けたような気がした。
奥方様は非の打ち所のない笑顔で、頬に手をやった姿は「困ったわぁ」と、軽い感じなのに、声音は凍えきっていた。
それを聞いた途端、ヴァイデンフェラー様もウッと、言葉を詰まらせる。
「あ……の、先程、ディート様にお世話になりました。いつもありがとうございます」
空気を読んだのか、サヤが慌ててそう言い、頭を下げ、間を取り持とうとしたのだけれど……。
「まあ! あの子ったらここに⁉︎」
「? ……あの、……お聞きになって……」
「おりませんわ。あの子はいっつも、なんの連絡もなく好きに行動しますの。
それもこれも全部、この悪いお手本が原因……」
「ワシはなんもしとらんぞ⁉︎」
「やっと片言喋りだした頃から、あの子を好き勝手前線にまで連れ回していたのはどこの誰ですか」
……どう足掻いてもヴァイデンフェラー様が不利であるらしい。
「あ、いや……任務を遂行されておりましたので、職務ですよ。
それで黙っていらっしゃったのかと……」
「良いのです。今に始まったことではないですから、慣れてますわ。お気遣い痛み入ります、レイシール様」
……これは、故郷に戻ったら小言が凄そうだな……それで戻らないのかもしれないが、悪循環を招いてやしないか……。
心配になったものの、きっとディート殿はそれもさして気にしてなかろうと思った。あの人が動じてる姿は想像できないものな……。
「レイシール、他家との交流は持てたのか?」
「あ、はい。リヴィ様方が懇話会を開いてくださいまして……かなり広く、周知は叶ったかと。ご安心ください」
父上にそう答えると、少しホッとしたような顔をされた。成人前の二人を手元から離したことを、少し心配させていたのだろう。
そうして、暫く疎遠であった家々への挨拶はあらかた済ませたと父上からも報告があり、それに付き合ってくださったヴァイデンフェラー様に、今一度礼を述べると。
「なに、この風変わりな車を押しておれば人が集まってくるのだから、手間でもなかったわ!」
と、豪快に笑われた。良い人だ……ホッとする。
「残りの時間も少なくなってきておるし、もうゆるりと飲もうではないか!」
「さっきから飲み続けているのはどこの誰だ」
「貴殿が飲まぬからワシが余計に飲んでおるのだ!」
「薬があるのでな。酒は許可が出ておらぬ」
「つまらんなぁ! 少しくらい付き合え!」
「孫を見るまでは死にたくない。他をあたってくれ」
笑って遇らう父上に、年甲斐もなく頬を膨らませるヴァイデンフェラー様。その様子があまりにおかしくて、俺もつい釣られて笑ってしまった。
なんというか、こんな風に稚気に富んだ大人のやり取り、見たことがなかったのだ。
ヴァイデンフェラー様はなんというか、感情がそのまま外に溢れているような感じで、全く裏を感じなくて、そのことにとても心が和む気がした。
「孫かぁ。……三年後に即身篭ったとしても……貴殿は六十くらいか?」
「そうだな。だから無理は禁物だ。
そういえば、そちらの後継殿はもう?」
「うちもまだだ。それにうちは一子しか嫁を取っておらん! あいつらいつまで一人でフラフラしておるつもりだ!」
「あら、ディート以外はちゃんとお相手を見つけてましてよ」
「……な、なに……⁉︎ 聞いておらんぞ⁉︎」
「聞かれませんでしたもの」
大人たちのそんなやり取りに苦笑しつつ、ヴァイデンフェラーの人たちは明るいなぁと、感心するしかない。
と、それまで俺同様、やり取りを見守っていたヴァイデンフェラーの若奥様がふと、こちらに視線をやった。
「あら。……サヤ様、お加減が、まだ……?」
「あっ、いえ、なんでもないです……!」
その言葉に、半歩後ろに下がっていたサヤを振り返って……。
「……失礼。ちょっと……」
そのままサヤの肩に手を回して、その場を離れた。
震えてはいない……。だから、卑猥な言葉や視線に傷ついたわけでは、ない。
なら理由はなんだろう……なんて……考えるまでもなかったから、そのまま黙って、足を進める。
露台に人がいないことは分かっていたけれど、そこはサヤが寒いだろうし……歓談用に仕切られた区画の隅の、窓辺までで我慢した。
硝子窓の側は冷気を感じるからか、ここも人が少ない。けれど、寒さは露台の外よりはマシだ。
「……三年待つって決めたのは、俺だよ」
人の視線が無いことは確認してから、サヤを腕の中に収めた。そうしてから、耳元に小さく囁く。
「サヤが気に病む必要はないし、たとえご両親に承諾を得られたとしても、俺は同じ選択をした。
サヤの国では、十代で結婚なんて、ほとんどしないって話だったろう?」
「違う……」
「違わない。だからサヤはこのことを、気にする必要なんて無いんだよ」
「違うっ。そこやないって、分かってるくせに!」
「違わないよ。その先のことは、俺だって半分担うことだし、そもそも神の領域だってことも、言ったはずだ。
サヤは余計なことを考え過ぎてる。それに……授からなかったとしても、他の手段はちゃんとある。準備もする」
「…………お義父様は、悲しまはる……」
「そんなことはない。父上は、サヤが来てくれること、嬉しいと思ってるよ」
「それは、なんも、知らんからや!」
小さく……でも、酷く心の乱れた声音でサヤは言い、俺の胸を押した。
力技で身を離そうとするのを、なんとか気合いで堪える。
「サヤだって知らないよ。未来のことは、誰にも分からない」
「種が、違う……それは、どうしようもない事実や」
「違ったからって、その先のことは分からない」
「分かるもん! 私は、知ってる!」
「そうだとしても。サヤにはなんの責任も無い。
俺が望んだ。サヤしかいらない。そう言ったのは俺だって、皆が分かってる」
「…………そうやない……。
レイは、無理やり私だけやって、言うてるだけやもん……。
ちゃんと、他の人とやったら……この世界の人とやったら、普通に……。
リヴィ様かて、言うたやんか……領主の妻は、子を産むのが一番の仕事やって……一番、やらなあかんことやって…………」
やっぱりそこから、気にしてたか……。
溜息は飲み込んだ。
今は、俺がしっかりしなきゃ話にならないと思ったから。
だから腕に力を込めて、更にサヤを強く抱きしめた。絶対に離さない……。
「気持ちが無い相手となんて、俺は無理」
「それこそ、分からへんやんか。接してみたら、案外良い人や、気の合う人が……」
「サヤは俺を、侮辱してるのか」
敢えて。
キツい言葉を選んだ。
当然腕の中のサヤが、身体を強張らせる。
だけどこれは、俺だって怒って良いことだと思う。
「俺が、サヤだけだと、もう決めたんだ。
サヤにだって、それを覆す権利は無いよ。俺の気持ちのあり方を決めて良いのは、俺だけだ」
そう言い見下ろすと、少し怯えた瞳が、俺を見上げてきた。
俺の怒りには気付いてる。でもそれでも、ならば自分にできることはと考えている、騎士の顔をしたサヤ。
必死で責任を、役割を、この世界で自分がやるべきことを探す顔。それでしか、生きる手段が無いだなんて、思ってほしくない。
サヤがここにいる意味なんて、役割なんて、そんなの本当は、無くったって良いんだ。
その瞳を覗き込んで、サヤの中の不安や、葛藤を探り出す。
「……一番の責任を果たせないから、それならセイバーンを、離れるって?
その方が俺が、二人目の妻を娶りやすいとか、そういう、また俺を怒らせるようなことを、考えていたりする?」
そう問うと、表情が強張った。
「だから、女近衛にだってならなきゃ駄目だって風に、考えた?
当然俺はそんなの許さないし、子が欲しいからサヤと結ばれたいんじゃないってことだって、散々言ったよね?
俺は、サヤがいてくれるなら、それで充分なんだ」
「レイは、領主になるんやで」
「そうだよ。サヤがいてくれるから、なるんだ。
サヤがいないなら、ならないんだよ」
「レイは……そういう人やない。ちゃんと自分の責任とか、大切にする人や。私とか、関係ない」
「でもサヤがいないなら、俺は手段を選ばないよ。最良だと思う手段を、責任のもとで選ぶ」
自分だって、親だって、切れるものは切る。
そう言外に言うと、サヤはキッと俺を睨んできた。
「そんな方法選ばんかて、切り抜けられるって、もう知ってるはずや」
「うん。サヤがいてくれるなら、大変でも、他の方法をいくらだって探す。
サヤと一緒にありたいって思うから、どれだけだって頑張れる。
サヤとの時間を、少しでも多くしたいから、長生きだってするんだ」
「…………無茶苦茶や……」
「うん。俺は我儘になったんだよ」
我儘になっても良いって、サヤが許してくれたから、そうなれるんだよ。
「サヤがいれば、俺はもう幸せなんだよ。
他のことでどれだけ苦労したって良いし、それだって苦労じゃなくなる。サヤとの時間なら全部宝だ。
サヤがいれば、俺は良い領主になる。子は授からなかったとしても、沢山のものを残すよう、頑張るから。
どうか俺を、幸せにしてくれないか」
俺がサヤを、幸せにするから。
左の耳元でそう囁いて、唇で耳朶を啄む。背中を撫でて、もう一度顔を見て微笑むと、サヤは逆に、泣きそうな顔をした。
「でも……」
「でもじゃない」
「レイが……」
「俺は何も失ってないよ」
「…………バカ」
顔を伏せたサヤをそのまま抱きしめて、気持ちが落ち着くのをただ待った。
そうして夜会の残り時間は、二人きり、静かに過ぎていった。
「よぅご両人! どこにしけ込んでいたのだ! 全く見かけなかったではないか!」
しっ、しけ……⁉︎
禿頭をほの赤く染めたヴァイデンフェラー様が上機嫌で手を振り、こちらだと教えてくれたのだが、言われた言葉に慌てた。
咄嗟にサヤを見て、彼女にはまだ意味が飲み込めてないと理解したので、慌てて駆け寄る。
「そういうことはしてません!」
「照れるな若人。年頃なのだから仕方がなかろう!」
「あなた、失礼ですからおやめになって?」
ひゅぉっと、冷気が吹き付けたような気がした。
奥方様は非の打ち所のない笑顔で、頬に手をやった姿は「困ったわぁ」と、軽い感じなのに、声音は凍えきっていた。
それを聞いた途端、ヴァイデンフェラー様もウッと、言葉を詰まらせる。
「あ……の、先程、ディート様にお世話になりました。いつもありがとうございます」
空気を読んだのか、サヤが慌ててそう言い、頭を下げ、間を取り持とうとしたのだけれど……。
「まあ! あの子ったらここに⁉︎」
「? ……あの、……お聞きになって……」
「おりませんわ。あの子はいっつも、なんの連絡もなく好きに行動しますの。
それもこれも全部、この悪いお手本が原因……」
「ワシはなんもしとらんぞ⁉︎」
「やっと片言喋りだした頃から、あの子を好き勝手前線にまで連れ回していたのはどこの誰ですか」
……どう足掻いてもヴァイデンフェラー様が不利であるらしい。
「あ、いや……任務を遂行されておりましたので、職務ですよ。
それで黙っていらっしゃったのかと……」
「良いのです。今に始まったことではないですから、慣れてますわ。お気遣い痛み入ります、レイシール様」
……これは、故郷に戻ったら小言が凄そうだな……それで戻らないのかもしれないが、悪循環を招いてやしないか……。
心配になったものの、きっとディート殿はそれもさして気にしてなかろうと思った。あの人が動じてる姿は想像できないものな……。
「レイシール、他家との交流は持てたのか?」
「あ、はい。リヴィ様方が懇話会を開いてくださいまして……かなり広く、周知は叶ったかと。ご安心ください」
父上にそう答えると、少しホッとしたような顔をされた。成人前の二人を手元から離したことを、少し心配させていたのだろう。
そうして、暫く疎遠であった家々への挨拶はあらかた済ませたと父上からも報告があり、それに付き合ってくださったヴァイデンフェラー様に、今一度礼を述べると。
「なに、この風変わりな車を押しておれば人が集まってくるのだから、手間でもなかったわ!」
と、豪快に笑われた。良い人だ……ホッとする。
「残りの時間も少なくなってきておるし、もうゆるりと飲もうではないか!」
「さっきから飲み続けているのはどこの誰だ」
「貴殿が飲まぬからワシが余計に飲んでおるのだ!」
「薬があるのでな。酒は許可が出ておらぬ」
「つまらんなぁ! 少しくらい付き合え!」
「孫を見るまでは死にたくない。他をあたってくれ」
笑って遇らう父上に、年甲斐もなく頬を膨らませるヴァイデンフェラー様。その様子があまりにおかしくて、俺もつい釣られて笑ってしまった。
なんというか、こんな風に稚気に富んだ大人のやり取り、見たことがなかったのだ。
ヴァイデンフェラー様はなんというか、感情がそのまま外に溢れているような感じで、全く裏を感じなくて、そのことにとても心が和む気がした。
「孫かぁ。……三年後に即身篭ったとしても……貴殿は六十くらいか?」
「そうだな。だから無理は禁物だ。
そういえば、そちらの後継殿はもう?」
「うちもまだだ。それにうちは一子しか嫁を取っておらん! あいつらいつまで一人でフラフラしておるつもりだ!」
「あら、ディート以外はちゃんとお相手を見つけてましてよ」
「……な、なに……⁉︎ 聞いておらんぞ⁉︎」
「聞かれませんでしたもの」
大人たちのそんなやり取りに苦笑しつつ、ヴァイデンフェラーの人たちは明るいなぁと、感心するしかない。
と、それまで俺同様、やり取りを見守っていたヴァイデンフェラーの若奥様がふと、こちらに視線をやった。
「あら。……サヤ様、お加減が、まだ……?」
「あっ、いえ、なんでもないです……!」
その言葉に、半歩後ろに下がっていたサヤを振り返って……。
「……失礼。ちょっと……」
そのままサヤの肩に手を回して、その場を離れた。
震えてはいない……。だから、卑猥な言葉や視線に傷ついたわけでは、ない。
なら理由はなんだろう……なんて……考えるまでもなかったから、そのまま黙って、足を進める。
露台に人がいないことは分かっていたけれど、そこはサヤが寒いだろうし……歓談用に仕切られた区画の隅の、窓辺までで我慢した。
硝子窓の側は冷気を感じるからか、ここも人が少ない。けれど、寒さは露台の外よりはマシだ。
「……三年待つって決めたのは、俺だよ」
人の視線が無いことは確認してから、サヤを腕の中に収めた。そうしてから、耳元に小さく囁く。
「サヤが気に病む必要はないし、たとえご両親に承諾を得られたとしても、俺は同じ選択をした。
サヤの国では、十代で結婚なんて、ほとんどしないって話だったろう?」
「違う……」
「違わない。だからサヤはこのことを、気にする必要なんて無いんだよ」
「違うっ。そこやないって、分かってるくせに!」
「違わないよ。その先のことは、俺だって半分担うことだし、そもそも神の領域だってことも、言ったはずだ。
サヤは余計なことを考え過ぎてる。それに……授からなかったとしても、他の手段はちゃんとある。準備もする」
「…………お義父様は、悲しまはる……」
「そんなことはない。父上は、サヤが来てくれること、嬉しいと思ってるよ」
「それは、なんも、知らんからや!」
小さく……でも、酷く心の乱れた声音でサヤは言い、俺の胸を押した。
力技で身を離そうとするのを、なんとか気合いで堪える。
「サヤだって知らないよ。未来のことは、誰にも分からない」
「種が、違う……それは、どうしようもない事実や」
「違ったからって、その先のことは分からない」
「分かるもん! 私は、知ってる!」
「そうだとしても。サヤにはなんの責任も無い。
俺が望んだ。サヤしかいらない。そう言ったのは俺だって、皆が分かってる」
「…………そうやない……。
レイは、無理やり私だけやって、言うてるだけやもん……。
ちゃんと、他の人とやったら……この世界の人とやったら、普通に……。
リヴィ様かて、言うたやんか……領主の妻は、子を産むのが一番の仕事やって……一番、やらなあかんことやって…………」
やっぱりそこから、気にしてたか……。
溜息は飲み込んだ。
今は、俺がしっかりしなきゃ話にならないと思ったから。
だから腕に力を込めて、更にサヤを強く抱きしめた。絶対に離さない……。
「気持ちが無い相手となんて、俺は無理」
「それこそ、分からへんやんか。接してみたら、案外良い人や、気の合う人が……」
「サヤは俺を、侮辱してるのか」
敢えて。
キツい言葉を選んだ。
当然腕の中のサヤが、身体を強張らせる。
だけどこれは、俺だって怒って良いことだと思う。
「俺が、サヤだけだと、もう決めたんだ。
サヤにだって、それを覆す権利は無いよ。俺の気持ちのあり方を決めて良いのは、俺だけだ」
そう言い見下ろすと、少し怯えた瞳が、俺を見上げてきた。
俺の怒りには気付いてる。でもそれでも、ならば自分にできることはと考えている、騎士の顔をしたサヤ。
必死で責任を、役割を、この世界で自分がやるべきことを探す顔。それでしか、生きる手段が無いだなんて、思ってほしくない。
サヤがここにいる意味なんて、役割なんて、そんなの本当は、無くったって良いんだ。
その瞳を覗き込んで、サヤの中の不安や、葛藤を探り出す。
「……一番の責任を果たせないから、それならセイバーンを、離れるって?
その方が俺が、二人目の妻を娶りやすいとか、そういう、また俺を怒らせるようなことを、考えていたりする?」
そう問うと、表情が強張った。
「だから、女近衛にだってならなきゃ駄目だって風に、考えた?
当然俺はそんなの許さないし、子が欲しいからサヤと結ばれたいんじゃないってことだって、散々言ったよね?
俺は、サヤがいてくれるなら、それで充分なんだ」
「レイは、領主になるんやで」
「そうだよ。サヤがいてくれるから、なるんだ。
サヤがいないなら、ならないんだよ」
「レイは……そういう人やない。ちゃんと自分の責任とか、大切にする人や。私とか、関係ない」
「でもサヤがいないなら、俺は手段を選ばないよ。最良だと思う手段を、責任のもとで選ぶ」
自分だって、親だって、切れるものは切る。
そう言外に言うと、サヤはキッと俺を睨んできた。
「そんな方法選ばんかて、切り抜けられるって、もう知ってるはずや」
「うん。サヤがいてくれるなら、大変でも、他の方法をいくらだって探す。
サヤと一緒にありたいって思うから、どれだけだって頑張れる。
サヤとの時間を、少しでも多くしたいから、長生きだってするんだ」
「…………無茶苦茶や……」
「うん。俺は我儘になったんだよ」
我儘になっても良いって、サヤが許してくれたから、そうなれるんだよ。
「サヤがいれば、俺はもう幸せなんだよ。
他のことでどれだけ苦労したって良いし、それだって苦労じゃなくなる。サヤとの時間なら全部宝だ。
サヤがいれば、俺は良い領主になる。子は授からなかったとしても、沢山のものを残すよう、頑張るから。
どうか俺を、幸せにしてくれないか」
俺がサヤを、幸せにするから。
左の耳元でそう囁いて、唇で耳朶を啄む。背中を撫でて、もう一度顔を見て微笑むと、サヤは逆に、泣きそうな顔をした。
「でも……」
「でもじゃない」
「レイが……」
「俺は何も失ってないよ」
「…………バカ」
顔を伏せたサヤをそのまま抱きしめて、気持ちが落ち着くのをただ待った。
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