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社交界 2
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「………………地方行政官……長?」
掠れた声でそう呟いたのは父上。
それに姫様は頷いて、念を押すように後を続けた。
「そう。新たにできる役職だ。
知っての通り、フェルドナレンは、春より姫様を女王とすることが決まった。
其方の息子はな、その政策の主軸で、一端を担うことを期待されておったのだが……辞退してきおったのよ。
そもそもが三年前だ。学舎を卒業後、王都へと望まれておったというのに、卒業間近に帰郷……直前で逃げられた。
その後も再三望んだというのに、成人前の身であるとして昨年まで梨の礫でな。
それが夏、土嚢壁の関係でやっと口説き落としたのだが……年の末にやはり無理だと書簡で知らせてきおった。
それで姫様は業を煮やしたのだよ。こやつの首に鎖を巻いてでも確保せよとのお達しだ」
作り話にもほどがあるだろ⁉︎
再三要請を受けていた覚えもなければ口説かれた覚えもない!
叫びたかったがそれもできない。
そもそもなんなんだそれ、姫様が姫様の影を演じるって時点でもうお巫山戯にしか見えないんですけど⁉︎
唖然とするガイウス。
マルが似たようなことはほざいていたものの、大半の者が虚言を吐いていると思っていたろうし、実際誇張の甚だしい虚言でしかなかったものな。
なのに、まさか姫様が更なる虚言で補強してくるとは想像だにしていなかった。
「…………レイシール、本当か……」
父上にも審議を問われるが、俺だって今聞いたばかりの設定だよ。答えられるわけがない。状況見えてないし!
ただひたすら狼狽えるしかできない俺に、姫様ときたら、ざまぁ! みたいな人の悪い笑みを浮かべて楽しんでいる。この人鬼だ!
そしてまた知らない事実を上塗りしてくるのだ。
「故郷での役割があるの一点張りだ。
だが、この役職ならば文句もあるまい? 王都におらずとも務まろうしな。
こやつ向きの職でもある。市政の生活に感心が強い上に、交流も苦とせぬ。庶民らの信頼も得ているようだしな。
セイバーン殿。レイシールは優秀だ。先見の明があり、何より決断力と、行動力が凄まじい。頼りない風に見えて、いざとなれば肝が座る。
いつも覇気が無いふりをしておるくせに、とんだ昼行灯よ。
そもそも土嚢壁だ。貴殿が病床に伏し、正妻殿の許可は得られなかった……本来ならばこの時点でこの計画は頓挫だというのに、そこからたったのふた月たらずで、こやつは状況をひっくり返した上に、あの巨大な壁を作り上げてしまった。川の氾濫も防いでしまった。本来後ろ盾も無い、成人前の二子が、血に頼らずに成し得ることではないのだよ。
そしてその土嚢壁がな……姫様の政策の切り札にもなりうるとあれば……断ってくるとは何事だと言いたくもなる……」
苦虫を噛み潰したように渋い顔でそんな風に言われた。
これは多分、姫様としての本音だ……。
「セイバーンの内情についての報告も受けた。しかし其方は結局、こちらに何も言ってこなかった……。それどころか、職を辞す、セイバーンを返上するだと? 巫山戯るなよ⁉︎
手を貸してくれと言えば、いくらでも差し伸べた。其方にはそれだけの借りがあるというのに……結局これだ。
だがこうして、セイバーン殿がここにおられるのだから、それはもう解決したのだろう?」
それには渋々首肯して答えるしかない。
この社交界中に、そのあたりは細かく報告するつもりだったしな。
その返事に姫様は何故か、渋面になる……。
「ほらな、また勝手に済ませてしまったか。
これだから困る……其方に恩を売るのは至難の技だ。ならもう力づくで手に入れる。我々はその結論に至った。
レイシール。もう良いはずだ。セイバーンの安寧は成った。ジェスルを気にしておるなら、こちらからも釘を刺す。
だから来い。姫様は其方を望む。
確かに、成人前の其方を侮る者もおろうし、苦労させることになろう。そもそも初となる女王の治世だ。荒れることにもなろう。
だが其方がそのようなものに屈するとは思わぬ……。これだけの苦難を一人超えてきた其方だからこそな。
ここに来い。来てくれ。其方にしか勤まらぬ。
…………と、いうのが姫様からのお言葉だ。断ってくれるなよ……私の首が飛ぶのでな」
姫様の顔で熱のこもった言葉を畳み掛けておきながら、最後の最後で伝言だと言って返事を拒否……。
この人は……サヤの知識を望んでいるからこそ、ここまで力を込めているのだろうけれど……。
「クリスタ殿……では、レイシール名指しの招待や、この待遇は……」
「其奴を確実に得るための手段として、少し無理を通させてもらった。いろいろ心労をかけてしまったろう、そこは詫びる。とはいえ、ひと月ばかり前倒ししただけで、春からはこの待遇が当たり前となろうな」
嘘でしょ……。
これが普通とか、男爵家の成人前にそれは、反感買うどころの話じゃないよな…………。
頭を抱えて蹲ってしまいたい俺をよそに、姫様は父上に世間話よろしく話題を振ってるし……他人事みたいにしやがってと、若干腹立たしい……。
「セイバーン殿は、もうあの土嚢壁は確認済みか」
「いえ……」
「まあ時期的に難しいか。戻られたら確認してみると良い。あれは圧巻だぞ。それをこれから、道に作り変えていくのだから、更にとんでもない話だ」
とんでもないと言いながら、姫様の瞳はうきうきと輝いているように見える。
国を背負い立つ重責に、こんな風に心を燃やし、覇気に満ちているのだから……この人もある種の変態なんだろう。うん。きっとそうだ。
「これは春まで伏せてもらうが、姫様はフェルドナレンの内政に力を入れる心算でいらっしゃる。
ジュンティーローニの代替わりや、スヴェトランのきな臭い動きがこの国に及ぼす影響は計り知れぬ。そして我が国の王が女となることで、他国にはまたとない隙だと受け取られようし、そこにつけ入ろうとするだろう……が、そうはさせぬ。そしてそこに必要な一手が、其方の息子だ」
ぐらりと揺れたガイウスを、咄嗟にサヤが支えた。
慌てて体勢を整えるガイウスだが、動揺は隠せない様子。
まぁ、心境は分かるよ……意味が分からないのに重圧だけは凄いよな……俺ももう逃げてしまいたい……。
「詳しくは、ここでは省こう。後で少々時間を貰うことになろうが、その折に説明する。
長旅であったろうし、まずは部屋でゆるりと寛いでくれ」
そう言われ、俺たちは一旦、部屋へ案内されることとなった……。
◆
「レイシール……何故何も言わなかった……」
「…………言えませんよ……。俺は辞退したつもりでいたんです。
一応、交易路計画は続くと思ってましたけど、責任者は俺以外になるだろうと……」
「……セイバーンを返上するというのも…………」
「それは……前にもお伝えしたでしょう? 俺は、セイバーンを終わらせるつもりでいたんです……」
部屋に帰っても寛ぐ時間など無かった。
姫様の虚言混じりな酷い暴露に、父上の質問攻めが止まらない……。
サヤは不安そうな視線をチラチラとこちらに寄越していて、ガイウスはいつになく白い顔で押し黙ったまま……。その様子に、何があったのか分からない古参の方々は、俺を不審そうに盗み見ながら、何かこそりと言葉を交わしている……。
俺たちのやりとりを、残りの一同は不安そうに遠巻きにしていた。
くそっ、この話はあまり引っ張りたくないのに……。
姫様の虚言のせいで喋りにくいうえに、俺が一人でぐるぐる考えて最悪の選択をしてたってだけだから、恥ずかしいんだよな……。
しかし、俺がそんな風に考えているなど思わない父上は、なんだかひどく曲解したことを言い出した。
「それは……家のことに、お前を、巻き込んでしまったということだな……。
セイバーンの血は、お前にとって毒でしかなかった……それは承知していたから、お前がここに戻るなど、無いと思っていた。
なのにお前は戻り…………それどころかお前の今後まで……お前の人生そのものまで、我々は犠牲にしていたと、そういうことだな……」
「ちっ、違いますよ⁉︎ 十六で召し抱えられたところで……子供があんな場所で、役に立つわけないでしょう⁉︎
あれは、クリスタ様がたまたま俺を気に入ってくださって……贔屓にされただけというか……俺なんかより優秀な人なんていくらだっているんです! ちょっと大げさに言いすぎなんですよ彼の方は!」
彼の方が俺を狙ってたのは、傀儡の王として使えそうだって思ってただけだし!
ああぁぁ、これでクリスタ様が姫様本人だと知られたらやばい……もっと酷い勘違いをしてしまいそうだ。
だが一生懸命話を逸らそうと努力する俺の足を引っ張る奴がいる……っ!
「ははは、十六歳で領主代行が勤まっちゃうのは優秀だと思うんですけどねぇ……」
「俺一人でじゃなかったろうがっ!
それに俺がやってたのは書類関連とセイバーン村周辺のことだけだ。規模が違うだろ!」
それだってハインや村人に支えられて、やっとこさこなしていただけだ。
何かあればギルやマルに相談できたし、手を借りられた。屋敷には先人の記した資料が山とあったし、手掛かりだって得られた。それをハインと二人で漁ったのだ。俺一人だったら全く役に立たなかったに違いない。
だが俺の言葉に、マルは苦笑しながらかぶりを振った。
「あのねレイ様。それでも普通は無理なんですって。
貴方は十六歳で責任を担う覚悟をして、行動した。
それがどれだけのことか、多分ご領主様はご存知ですよ。
貴方と同じく、成人前急に、責任を担う立場に立たされた方なのですから」
「……私は……そこまで幼くはなかった……」
マルの言葉に父上は、苦渋に満ちた顔で首を横に振った。
それに対しマルは、えぇ、存じてますよ。と、言葉を続ける。
「アルドナン様が十八歳の終わりに、セイバーンは当時のご領主様夫妻を失った。つまり、今のレイ様と同じくらいですよね。
婚約者様はいらっしゃいましたけど、婚姻なんてしている暇もないくらい、色々なことに忙殺されたのですよね。まだ何も教えられてなくて、失敗ばかりで、氾濫まであって、何もかもが思うようにできなかった。そんな中で婚約者様まで身罷って……。
残されたたった一人で、血の責任を全て背負うのは、きっと我々では考えられないほどの重責であったんでしょうねぇ。
何もかも手探りで進むしかなくて、一人で全てを担うのは無理で、配下に委ねていくしかなかった……。そうやって半ば無理やり、今の形に整えていかれたのですよね?」
まるで見てきたかのように語るマルに、父上は当時を思い出しているのか、揺れる瞳でどこか虚無を見ていた。
そんな過酷な時間が、父上を雁字搦めに縛っていったのだろうか……だから幼い頃の父上はどこか厳しい……頑なな感じがしていたのかな……。
そんな風に思い、父を見ていたら、そこでマルは、思ってもいなかったことを口にした。
「でも僕から言わせると、人に任せるってかなりの決断力と、覚悟を有します。
信頼できる人間を見極める目も問われますよね。
なにより、領主様ご自身が信頼に足ると思われていなければ、絶対に上手くいかないことでした。
そんな困難を乗り越えてしまう胆力は……レイ様にも受け継がれていると、僕は思うんですよねぇ」
面白そうに笑いながら……。そうして、思い出したようにぽんと手を叩き、口にしたのは……。
「先程のね、セイバーンを返上するというお話ですが……レイ様が全部の責任を、お一人で済ませようとしたからなんですよ」
掠れた声でそう呟いたのは父上。
それに姫様は頷いて、念を押すように後を続けた。
「そう。新たにできる役職だ。
知っての通り、フェルドナレンは、春より姫様を女王とすることが決まった。
其方の息子はな、その政策の主軸で、一端を担うことを期待されておったのだが……辞退してきおったのよ。
そもそもが三年前だ。学舎を卒業後、王都へと望まれておったというのに、卒業間近に帰郷……直前で逃げられた。
その後も再三望んだというのに、成人前の身であるとして昨年まで梨の礫でな。
それが夏、土嚢壁の関係でやっと口説き落としたのだが……年の末にやはり無理だと書簡で知らせてきおった。
それで姫様は業を煮やしたのだよ。こやつの首に鎖を巻いてでも確保せよとのお達しだ」
作り話にもほどがあるだろ⁉︎
再三要請を受けていた覚えもなければ口説かれた覚えもない!
叫びたかったがそれもできない。
そもそもなんなんだそれ、姫様が姫様の影を演じるって時点でもうお巫山戯にしか見えないんですけど⁉︎
唖然とするガイウス。
マルが似たようなことはほざいていたものの、大半の者が虚言を吐いていると思っていたろうし、実際誇張の甚だしい虚言でしかなかったものな。
なのに、まさか姫様が更なる虚言で補強してくるとは想像だにしていなかった。
「…………レイシール、本当か……」
父上にも審議を問われるが、俺だって今聞いたばかりの設定だよ。答えられるわけがない。状況見えてないし!
ただひたすら狼狽えるしかできない俺に、姫様ときたら、ざまぁ! みたいな人の悪い笑みを浮かべて楽しんでいる。この人鬼だ!
そしてまた知らない事実を上塗りしてくるのだ。
「故郷での役割があるの一点張りだ。
だが、この役職ならば文句もあるまい? 王都におらずとも務まろうしな。
こやつ向きの職でもある。市政の生活に感心が強い上に、交流も苦とせぬ。庶民らの信頼も得ているようだしな。
セイバーン殿。レイシールは優秀だ。先見の明があり、何より決断力と、行動力が凄まじい。頼りない風に見えて、いざとなれば肝が座る。
いつも覇気が無いふりをしておるくせに、とんだ昼行灯よ。
そもそも土嚢壁だ。貴殿が病床に伏し、正妻殿の許可は得られなかった……本来ならばこの時点でこの計画は頓挫だというのに、そこからたったのふた月たらずで、こやつは状況をひっくり返した上に、あの巨大な壁を作り上げてしまった。川の氾濫も防いでしまった。本来後ろ盾も無い、成人前の二子が、血に頼らずに成し得ることではないのだよ。
そしてその土嚢壁がな……姫様の政策の切り札にもなりうるとあれば……断ってくるとは何事だと言いたくもなる……」
苦虫を噛み潰したように渋い顔でそんな風に言われた。
これは多分、姫様としての本音だ……。
「セイバーンの内情についての報告も受けた。しかし其方は結局、こちらに何も言ってこなかった……。それどころか、職を辞す、セイバーンを返上するだと? 巫山戯るなよ⁉︎
手を貸してくれと言えば、いくらでも差し伸べた。其方にはそれだけの借りがあるというのに……結局これだ。
だがこうして、セイバーン殿がここにおられるのだから、それはもう解決したのだろう?」
それには渋々首肯して答えるしかない。
この社交界中に、そのあたりは細かく報告するつもりだったしな。
その返事に姫様は何故か、渋面になる……。
「ほらな、また勝手に済ませてしまったか。
これだから困る……其方に恩を売るのは至難の技だ。ならもう力づくで手に入れる。我々はその結論に至った。
レイシール。もう良いはずだ。セイバーンの安寧は成った。ジェスルを気にしておるなら、こちらからも釘を刺す。
だから来い。姫様は其方を望む。
確かに、成人前の其方を侮る者もおろうし、苦労させることになろう。そもそも初となる女王の治世だ。荒れることにもなろう。
だが其方がそのようなものに屈するとは思わぬ……。これだけの苦難を一人超えてきた其方だからこそな。
ここに来い。来てくれ。其方にしか勤まらぬ。
…………と、いうのが姫様からのお言葉だ。断ってくれるなよ……私の首が飛ぶのでな」
姫様の顔で熱のこもった言葉を畳み掛けておきながら、最後の最後で伝言だと言って返事を拒否……。
この人は……サヤの知識を望んでいるからこそ、ここまで力を込めているのだろうけれど……。
「クリスタ殿……では、レイシール名指しの招待や、この待遇は……」
「其奴を確実に得るための手段として、少し無理を通させてもらった。いろいろ心労をかけてしまったろう、そこは詫びる。とはいえ、ひと月ばかり前倒ししただけで、春からはこの待遇が当たり前となろうな」
嘘でしょ……。
これが普通とか、男爵家の成人前にそれは、反感買うどころの話じゃないよな…………。
頭を抱えて蹲ってしまいたい俺をよそに、姫様は父上に世間話よろしく話題を振ってるし……他人事みたいにしやがってと、若干腹立たしい……。
「セイバーン殿は、もうあの土嚢壁は確認済みか」
「いえ……」
「まあ時期的に難しいか。戻られたら確認してみると良い。あれは圧巻だぞ。それをこれから、道に作り変えていくのだから、更にとんでもない話だ」
とんでもないと言いながら、姫様の瞳はうきうきと輝いているように見える。
国を背負い立つ重責に、こんな風に心を燃やし、覇気に満ちているのだから……この人もある種の変態なんだろう。うん。きっとそうだ。
「これは春まで伏せてもらうが、姫様はフェルドナレンの内政に力を入れる心算でいらっしゃる。
ジュンティーローニの代替わりや、スヴェトランのきな臭い動きがこの国に及ぼす影響は計り知れぬ。そして我が国の王が女となることで、他国にはまたとない隙だと受け取られようし、そこにつけ入ろうとするだろう……が、そうはさせぬ。そしてそこに必要な一手が、其方の息子だ」
ぐらりと揺れたガイウスを、咄嗟にサヤが支えた。
慌てて体勢を整えるガイウスだが、動揺は隠せない様子。
まぁ、心境は分かるよ……意味が分からないのに重圧だけは凄いよな……俺ももう逃げてしまいたい……。
「詳しくは、ここでは省こう。後で少々時間を貰うことになろうが、その折に説明する。
長旅であったろうし、まずは部屋でゆるりと寛いでくれ」
そう言われ、俺たちは一旦、部屋へ案内されることとなった……。
◆
「レイシール……何故何も言わなかった……」
「…………言えませんよ……。俺は辞退したつもりでいたんです。
一応、交易路計画は続くと思ってましたけど、責任者は俺以外になるだろうと……」
「……セイバーンを返上するというのも…………」
「それは……前にもお伝えしたでしょう? 俺は、セイバーンを終わらせるつもりでいたんです……」
部屋に帰っても寛ぐ時間など無かった。
姫様の虚言混じりな酷い暴露に、父上の質問攻めが止まらない……。
サヤは不安そうな視線をチラチラとこちらに寄越していて、ガイウスはいつになく白い顔で押し黙ったまま……。その様子に、何があったのか分からない古参の方々は、俺を不審そうに盗み見ながら、何かこそりと言葉を交わしている……。
俺たちのやりとりを、残りの一同は不安そうに遠巻きにしていた。
くそっ、この話はあまり引っ張りたくないのに……。
姫様の虚言のせいで喋りにくいうえに、俺が一人でぐるぐる考えて最悪の選択をしてたってだけだから、恥ずかしいんだよな……。
しかし、俺がそんな風に考えているなど思わない父上は、なんだかひどく曲解したことを言い出した。
「それは……家のことに、お前を、巻き込んでしまったということだな……。
セイバーンの血は、お前にとって毒でしかなかった……それは承知していたから、お前がここに戻るなど、無いと思っていた。
なのにお前は戻り…………それどころかお前の今後まで……お前の人生そのものまで、我々は犠牲にしていたと、そういうことだな……」
「ちっ、違いますよ⁉︎ 十六で召し抱えられたところで……子供があんな場所で、役に立つわけないでしょう⁉︎
あれは、クリスタ様がたまたま俺を気に入ってくださって……贔屓にされただけというか……俺なんかより優秀な人なんていくらだっているんです! ちょっと大げさに言いすぎなんですよ彼の方は!」
彼の方が俺を狙ってたのは、傀儡の王として使えそうだって思ってただけだし!
ああぁぁ、これでクリスタ様が姫様本人だと知られたらやばい……もっと酷い勘違いをしてしまいそうだ。
だが一生懸命話を逸らそうと努力する俺の足を引っ張る奴がいる……っ!
「ははは、十六歳で領主代行が勤まっちゃうのは優秀だと思うんですけどねぇ……」
「俺一人でじゃなかったろうがっ!
それに俺がやってたのは書類関連とセイバーン村周辺のことだけだ。規模が違うだろ!」
それだってハインや村人に支えられて、やっとこさこなしていただけだ。
何かあればギルやマルに相談できたし、手を借りられた。屋敷には先人の記した資料が山とあったし、手掛かりだって得られた。それをハインと二人で漁ったのだ。俺一人だったら全く役に立たなかったに違いない。
だが俺の言葉に、マルは苦笑しながらかぶりを振った。
「あのねレイ様。それでも普通は無理なんですって。
貴方は十六歳で責任を担う覚悟をして、行動した。
それがどれだけのことか、多分ご領主様はご存知ですよ。
貴方と同じく、成人前急に、責任を担う立場に立たされた方なのですから」
「……私は……そこまで幼くはなかった……」
マルの言葉に父上は、苦渋に満ちた顔で首を横に振った。
それに対しマルは、えぇ、存じてますよ。と、言葉を続ける。
「アルドナン様が十八歳の終わりに、セイバーンは当時のご領主様夫妻を失った。つまり、今のレイ様と同じくらいですよね。
婚約者様はいらっしゃいましたけど、婚姻なんてしている暇もないくらい、色々なことに忙殺されたのですよね。まだ何も教えられてなくて、失敗ばかりで、氾濫まであって、何もかもが思うようにできなかった。そんな中で婚約者様まで身罷って……。
残されたたった一人で、血の責任を全て背負うのは、きっと我々では考えられないほどの重責であったんでしょうねぇ。
何もかも手探りで進むしかなくて、一人で全てを担うのは無理で、配下に委ねていくしかなかった……。そうやって半ば無理やり、今の形に整えていかれたのですよね?」
まるで見てきたかのように語るマルに、父上は当時を思い出しているのか、揺れる瞳でどこか虚無を見ていた。
そんな過酷な時間が、父上を雁字搦めに縛っていったのだろうか……だから幼い頃の父上はどこか厳しい……頑なな感じがしていたのかな……。
そんな風に思い、父を見ていたら、そこでマルは、思ってもいなかったことを口にした。
「でも僕から言わせると、人に任せるってかなりの決断力と、覚悟を有します。
信頼できる人間を見極める目も問われますよね。
なにより、領主様ご自身が信頼に足ると思われていなければ、絶対に上手くいかないことでした。
そんな困難を乗り越えてしまう胆力は……レイ様にも受け継がれていると、僕は思うんですよねぇ」
面白そうに笑いながら……。そうして、思い出したようにぽんと手を叩き、口にしたのは……。
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