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拠点村 12

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 拠点村に到着したら、まずは出張賄いの準備だ。
 現場には土嚢壁で小屋を一つ作ってあり、氾濫対策の時と同じように、簡易の調理場にしていた。
 だからまず、かまどに火を起こして食材を温める。

麺麭パン炙ったぞ」
「はいよ、サヤ、野菜挟んでおくれ」
「はい。お肉どうぞ」

 流れ作業で賄いを作り、作ったはしから渡していく。因みにに俺は、ソースをかけて、渡す係。

「お疲れ様」
「ゆっくりしてくれ」

 一言ずつだけど声をかけて、調子の有無を確認する。

 はじめは戸惑われたものの、訪問の度にやってると流石に慣れてもらえた。
 実はこれが、少し癒しになっていたりもする。

「レイ様……あんたもマメだなぁ……」
「出歩いて大丈夫かよ?」
「今は最強の護衛がついてるんだ」
「サヤ坊だけでも充分強いのにか?」

 顔見知りはそんな風に、気さくに声を掛けてくれる。氾濫対策の時からの顔が、ちらほらあるのだ。
 そんな中に、更に馴れ馴れしいのも混じっていたりする。

「よぉ、今日もべっぴんさんだなぁ」
「懲りないな……またサヤにのされるぞ」

 水髪紫眼の男こと、元班長のシェルトだ。
 因みに、名前が可愛いことを気にしていて、前回は偽名だった……。
 彼は元石工で、腕の怪我を理由に人足とならざるを得なかったのだが、現場の指揮能力は高く、今回は石工の統率役として雇われていた。
 だから、偽名が名乗れなかったのだ……職人気質だよな。

「腕の具合は大丈夫か?」
「来る度に聞くな……。力仕事は免除されてんだから……分かってんだろうが」

 チッと舌打ちをして、さっさと離れていく。照れているのだ。
 なんだかんだでやり取りが多いから、ここでは一番馴染んでいる感じがする。
 本当なら、ルカも同じくらいの軽口を、叩き合っているはずなのだが……。

 ……今日もルカ、いないのか?

 間が悪いのか、俺の来る日にはいないことが多い。
 いたとしても、なにやら忙しそうにしていて、話し掛けられなかったり……。
 はじめは来ていないのかと思っていた。

 最後の方でウーヴェが来たので、今日もルカはいないのかと確認すると……。

「あ、来ています。
 何か、気になる箇所があるとかで、賄いは適当に置いておいてくれと……」

 ……食事大好きなのに……後回しって……何か、問題でもあったのか?

 気になった。
 けれど他の大工や石工、土建組合員は普段通りに見える……。
 ならば、現場のことではない、何か悩み事でも、抱えているのか?

「そうか。最近話せてないからな……ちょっと様子見がてら、渡してこよう」

 そう言い場所を聞くと、自分が行きますからとウーヴェが慌てる。
 いいからゆっくり休んで食べておけと言い置いて、何か言われる前に足を進めた。

「レイ殿」
「あ、良いです。知人ですから。ディート殿もゆっくり食べていてください」

 まだ食事中だったディート殿が護衛に就こうとするから、すぐそこだしと断った。
 ルカのことだ、多分貴族相手の対応できないんだよな……。ディート殿は気にしないでくれると思うが、貴族全員がそんなだと勘違いさせては首が飛ぶ。
 しばらくルカを探して歩いていると、サヤが慌てて追いかけてきた。流石に護衛無しは許されなかったか……。

「レイシール様、籠に入れてください」

 手に持って歩くのは行儀悪かったかな……。
 そう思ったのだが、違った。籠の中にはもう二つ、賄いが入っていたのだ。

「どうせなら、一緒に食べましょう」

 そう言ってくれたサヤが、とても愛おしい。
 馬車の中でのこともあり、一層そう感じたけれど、ここは手を繋ぐことも憚られて、ありがとうとだけ、伝えた。
 二人で並んで、しばらく歩く。この辺りって話だったが……。

「サヤ、作業の音とか聞こえる?」
「いえ……特殊な音は何も……」

 作業をしていない……?    ますます不穏だ……。

「とりあえず探すか」

 あまり遠くへは離れないからと約束して、二手に分かれてルカを探した。
 サヤの耳に、不穏な音は拾われなかったし、危険な相手が潜む可能性は低いだろう。食事が終わればディート殿も追いかけて来るだろうから、急いで探さないといけない。
 ……とはいえ、もし避けられているのだとしたら……声を聞けば、逃げるかもしれない……。

 ……祝賀会の時のことかな……。ルカはカメリアを…………。

 それを考えたら、急に足が重くなった。
 誰かを好きになるって、自分で制御できるような感情じゃないから……。
 カメリアの時のサヤは、大人びて見えるし、あまりに美しいから……ルカが懸想したとしても、仕方がない。とは、思ってる……。
 あの時は…………取られてはいけないと、焦ってしまった。
 だからあんな風に大人気なく、俺のものだと、言ってしまった……。

 それがルカを、傷付けたかな……。

 気付けば足が止まっていた。
 考えを振り払って、とりあえずまた、一歩を踏み出す。
 すると、視界の端で何かが動いた気がして、視線がそちらに吸い寄せられた。
 建築途中の、湯屋の裏手。少し離れたその場所に見えたのはサヤで、何故か地面に座り込んでいて、その左手はルカに、握られていた。
 近くに、籠が横倒しになっていて……。

 …………あれ?

 状況が飲み込めず、暫し呆然となった。
 するとルカは、サヤに何かを言い、サヤが怯えたように、首を竦める。逃げようと後退るけれど、ルカはのしかかるように足を進めて、サヤの右手も掴み、引っ張って…………っ⁉︎

「ルカ‼︎」

 怒りが先に立って、ついそう怒鳴ってしまった。
 感情のまま走り寄り、サヤを強引に引き離し、背に庇う。籠を蹴飛ばしてしまったけれど、構ってられなかった。

「何をしている⁉︎」
「そりゃ、こっちの台詞だ‼︎」

 怒鳴った俺以上の音量で、怒鳴り返された。

 ルカは、怒っていた。今まで見たこともない、憤怒に染まった表情。
 サヤを奪われ空になったルカの両手が、今度は俺の襟元を掴む。

「あんた……女に、何させてんだ⁉︎」

 …………女…………?

「サヤ坊じゃ、ねえよな。この人は、カメリアさんだな⁉︎    あんた、なんでこの人に、こんな危険なことさせてんだ⁉︎
 男のなりさせて、連れ回して、護衛だの、乱闘だの、散々危険なことにも首突っ込ませてたよな⁉︎」

 バレ……た…………?
 何故…………。

 頭が働かず、呆然とルカを、見つめることしかできなかった。
 そんな俺の態度をどう解釈したのか、ルカが更に、腕に力を込める。

「お貴族様は、なんでもありかよ⁉︎
 女に危険なことさせて、自分は高みの見物か?    巫山戯んなよ……囲うにしたって、そりゃあんまりだろ⁉︎」
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