異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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拠点村 6

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 ディート殿に、姫様の病の性質や、獣人の生まれる条件。世の中の仕組みについての話なども含め、延々と話すこととなった。
 一応信心の方は大丈夫か?    と確認したのだが、獣人と絡む人間が信心など拘っているものかと笑われた。まあ、拘ってたら関わりにくいのは確かだしな。
 途中、耳の良いサヤが、ディート殿に全部を明かしている俺に気付き、お茶を入れてきてくれたのだが、少々不安そうにこちらを見るも、大丈夫だよと伝えると、一礼して部屋を去る。
 程なくして、仕事を終わらせたのか、また執務室にやってきて、話に加わった。

「はぁ……壮大な話だな。我らが皆、人と獣人の混血か」

 一通りを聴き終えた後の、第一声は、たったそれだけ。

「白化の病の性質を考えると、辻褄が合うのですよ。
 我々が皆、種を元から有していると考える方が自然ですしね」
「まあそうだな。そもそも、身に降りかかる不幸と自身の行いは、全く影響しあっておらんのは明白だ。
 でなければ、世の中に『悪い杭ほど残り立つ』などという言葉は無いだろうしな」
「『正直者ほど損をする』とかね」

 結局、さした抵抗もなく受け入れたなぁ、この人……と、感心するしかなかった。
 表情を伺っていても、全然素なのだ。
 案の定というか、ジェイドが前々から俺たちの周りに潜んでいた者の一人だということも察知されていた。

「面白いことを考える……忍とな」
「サヤの国にはある職種ですからね。考えついたというわけではありませんよ」
「いやいや、百人にその話をしたとして、それを使おうと思って形にする人間は、普通おらんだろう。行動力が半端ないな」
「で、元国境警備担当のディート殿は、彼らを裁くのですか」
「裁かれるのは依頼人であろうが。
 とりあえず、元の職からは足を洗った様子であるし、レイ殿の管理下のもと、更生して正しく暮らすならとやかく言う必要もなかろう。
 罪を犯して我が領地に押しかける罪人が少しでも減ってくれるなら、こちらは喜びこそすれ、困ることはない」

 そう言って、机の茶に手を伸ばし、一気に煽った。

「そもそもな、俺も今の世の在りようには一言物申したいと、常々思っていた。というか、我が領地の国境警備隊は全員同じ思いであろうと俺は確信している。
 考えてもみろ、今の形であると、必ず一定量の犯罪者が量産され続けるのだ。これではいつまでもイタチごっこではないか。
 我が領地では、親を亡くした子は、大抵近所のどの家庭かが引き取る。
 任務中に殉死する者も多いうえ、警備は常に人不足。子供を路頭に迷わせておく余裕など無いのでな。
 そうして育った者は、別段悪事に染まりもせん。見捨てるから悪事を働くしかないのだろうが」

 ディート殿の話に、俺たちは口を半開きで聞き入ることとなった。
 意外だったのだ……。他の領地のこう言った話は、あまり聞くことがないから……。

「面倒を見る余裕が、無い家庭も、あるのでは?」
「将来の戦力だ。多少の無理は承知で引き受けるし、そういった子供を引き取る場合手当も出る。
 それに、我らの領地は、国境警備員となる子を一度に教育する場がある。各家庭の負担は、案外少ないぞ」
「一度に教育⁉︎」

 サヤが食いついた。

「学校ですか?」
「似たようなものだ。
 国境警備は連携が大切なのでな。一定量の力量が備わらぬと邪魔だ。それは十歳までに身に付けさせる。
 例えば任務上の隠語や、任務の際の行動などだな。年齢によって役割が違う。はじめに配属される十歳の任務は伝令と雑用だ。そのための必要最低限の能力は備えさせる」
「向き不向きもあるのでは?」
「む……そこはまあ……。だが、あまりに戦力外の者は、前線任務には回さぬように後方担当になるな。足手纏いも困るし、死なれても困るのだ」
「……ディート様の領地……犯罪件数も少なそうですね」
「そこだ!    そうなのだ。我が領民の犯罪件数は決して多くない。孤児とてほとんどおらんのだ。にも関わらず、犯罪者が減らん!    この腹立たしさが分かってもらえるか⁉︎」

 それはたしかに腹立たしいだろうなと思った。
 それだけ統率がとれており、獣人もさして差別対象になっていない様子ならば、当然治安も良いはず。
 なのにディート殿の領地、ヴァイデンフェラーは、決して治安が良いとは言い難い状態なのだ。
 その理由が、国境に隣接するということ。
 隣国は、シエルストレームスなのだが、あの国への玄関口が、フェルドナレンからは、ヴァイデンフェラーひとつしかない。
 逃げようとする、もしくは入国しようとする罪人が、彼の領地をただ通過しようと押し寄せる。

「子供は皆で育てれば良いのだ。そうすればちゃんと、まともな大人になる。
 だのに、王都をはじめとする都の孤児はどうだ。自己責任?    馬鹿が。子供に自己責任もクソもあるか。社会の責任だ。
 前世だの、今世の行いだの……ごちゃごちゃ言う前に、生活を正せば良いではないか。堕ちるに任せておくから罪人が減らんのだ。
 神殿が孤児の更生に努め、育てているというが、全く機能しているように見えぬのが、本当に腹立たしくてな」

 昨日、ハインに聞いた話を思い出し、自然とサヤの視線が床に落ちた。
 更生……あの実態も、更生というのだろうか……。
 機能……していないのだろうな。神殿は。
 元から、なのか、時代の流れによって、なのかは分からない。
 番号持ちだの、狂信者だの、まだよく分かっていない言葉も多い。
 ただ、俺たちが見て、日常だと思っていた世の中の仕組みは、思いの外、裏や闇があるのだろうということだ。
 孤児と関わるような貴族は、少ない。だから……この実態も、ほとんど知られていないのではないか……。

 これも、放ってはおけない……もう関わるしかない、問題なのだと、思った。

「何か、考えよう」

 膝の上で拳を握り、俯くサヤの手を、握った。
 我がことのように受け止めて、悩んでくれる優しいサヤ。見て見ぬ振りはしないと、そう伝える。

「知った以上は、当たり前だなんて、思いたくない……。
 何か、できることを、探そう」

 正義感とか、使命感とか、そういったものではなく、ただそこにハインがいて、苦しんでいたということが、捨て置けなかった。
 ハインは救い上げられたと言ったけれど、きっといまだ、救われていない。
 だって、あんなに辛そうに、苦しそうに、語ったのだ。
 きっとそうやって死んでいった仲間を、明日は我が身だと思いながら、見送っていたのだ……。

「何かしら力になれることがあれば、俺も手を貸そう。
 レイ殿の試みようとしていることは突飛だし、一体何がどうなるやら予測もできんが……何もせず手をこまねいているよりは、ずっと良い。
 価値観の根本を覆せば、孤児の扱いだって変わるやもしれんしな」

 そう言ってくれたディート殿に感謝を伝え、とにかく今は元気を出し、昼からの視察を楽しもうと気合を入れた。
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