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新たな戦い 13
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夕方手前あたりで、干し野菜は一旦回収された。
それぞれ笊の上で、小さくなってヨレている。
「また明日朝から干しましょう。水分が浮いている野菜があったらそれは拭き取っておいてください。カビの原因になってしまうので」
結構な分量があるので、野菜を手拭いで拭いていくサヤとハインを真似て、俺もそれを少々手伝った。一通り拭き終わったら、野菜をひっくり返す。
それがひと段落したら、今度は庭だ。
「煙がうす青くなるのに二時間超えたんだが、大丈夫だったか?」
「竹が大きめだったから、水気等が抜けきるのに時間がかかったのだと思います。
問題はありませんから、大丈夫ですよ。……ここですか?」
「ああ、言われた通り、鍋ごと穴に放り込んで土をぶっかけといたぞ」
鍋を掘り起こし、蓋を触って熱を確認したサヤは、大丈夫だと判断したのだろう。鍋をそのまま引き上げた。
「上手くできていると良いのですけど……」
そう言って蓋を少しだけ開けて中を覗き込み……ふぅ……と、安堵の溜息。
「できてる……良かった」
「よし! どんなだ、見せてみろ」
蓋を開けると、白い灰になった竹があり、それを払うと、そこには少々……どころじゃなく縮んだ、青黒いものが入っていた。
びっちりと敷き詰めたはずなのに、結構隙間がある……。三割ほど目減りした感じだな。
「炭素以外が抜けましたから、小さくなったんです」
そのタンソというものが何かはよくわからないが……まあ、何かが出て縮んだのだろう。
「……見事なまでに真っ黒だな……。これ、本当に火がつくのか?」
「つきますよ。でもこれは、乾燥剤として使うので、燃やしませんけど」
サヤがそう言うと、何故か空間が残念な雰囲気になる……。
いや、俺もちょっと期待していたから……。だって、こんな真っ黒に焼け焦げた竹が、まだ燃えるんだぞ?見てみたくなるじゃないか。
「……まあ、こんなにたくさんは必要ないので、少し使ってみます?」
興味津々な状態の俺たちに根負けしたサヤが、苦笑しつつそんな風に言うと、皆が頷いた。
竹を焼くのに使った煉瓦のかまどをそのまま利用し、お茶を入れてみることにする。
「……本当だ……灰なのに、燃える……なんで⁉︎」
「煙が少ないですね」
燃えた。
真っ黒なのにちゃんと火が点く。まるで石を焼いた時のように、中から赤く熱を滲ませ、火も上がっていた。凄いぞこれ!
「実際には、灰ではなく、炭は、木の不純物のみを除去したものなんです。
不純物はもう燃やしたあとなので、本来は燃やすのに邪魔なものがありません。そのため煙も少ないですし、匂いもほぼありません。
鍋に入れたのは、空気を極力減らすためです。
鍋の中で竹は、ほとんど蒸し焼きにされている感じで、本来酸素と結合して燃える部分……炭素だけが残 され、炭になったんです」
説明されるが意味はとんと分からない。何か特殊な手法であるのは確かなのだろう。
そんな感じで、裏庭でお茶を楽しんでいたのだけれど……。
トサッ。と、何かが落ちる音。
視線をやると、ちょうどマルがやって来たようだった。手に持っていた書類入りの鞄を取り落とした様子。どうしたんだ?
「やぁ、マル。おかえ……」
「木炭⁉︎ なんでここに⁉︎ まさかとは思うけどやっぱりサヤくんが作ったんですね⁉︎」
庭の端に積んである黒い塊に興奮状態だ。
だが慌てて裏口を閉じて、鞄も置き去りに小走りでやってくる。
「サヤくん、これ秘匿権に引っかかります。木炭は製造をある貴族が握ってるんですよ!
急いで処分するか、使い切るかしてください」
「え?」
「鍛冶場で扱う特殊な道具なんですよあれ。大炭、小炭、どっちですか。まあどっちも問題なんですけど……それよりどうやってあんなもの街中で作ったんです⁉︎」
「えっ? あの……意味が、分からないです……」
困惑し、怯えた様子を見せるサヤ。
秘匿権を犯したということに酷く狼狽しているように見えた。
ギルも慌てている。秘匿権のなんたるかを一番身近に知っているのは彼であるからだ。
「製鉄技術に関わるのか……やばいだろそれ⁉︎」
「やばいですよ! 首が飛びかねませんよっ! だからのんびりお茶してる状態じゃないんですよ!」
マルの言葉に、サヤがいよいよ蒼白だ。震える手で「そんな、私……」と、泣きそうな顔になる。
サヤのことだ、当然人の権利を侵害する気など無く、俺の反応から、この世界には無いものと判断したのだろう。俺も、『燃やした木』という言葉から、薪の燃えかすの方しか連想しておらず、木炭が出てこなかった。まあ、まさかそうやって作られているだなんて知らなかったからでもあるのだが。……ん? だけどあれ……相当特殊な手法で、簡単には作れないと、聞いた覚えがある……。
「待て、マル。木炭って、これ、違うんじゃないか?」
「あの形状、燃えてる状況、どう見ても木炭ですよ!」
「だけどこれ、竹だぞ」
「…………うぇ?」
庭の端にある、鍋に入りきらず残った竹を指差す。
「大炭も小炭も目にしたことはある。しかもあれは、そうそう簡単に作れるものじゃないんだろう?
これはサヤが庭で、鍋で作ったんだ。そもそも用途が乾燥剤のかわりだ。似ているだろうが、違う」
「………………なんです?乾燥剤って」
「干した野菜の水分を取るためのものだって」
「……干した野菜の水分を取るってなんです?」
あ。そういえば、マルにはまだ、伝えていなかったんだったか……。
「よし。とにかく中に入ろう。竹炭は、一旦どこかに隠しておく方が良いかな」
「調理場に持って入ろう。外に置いておくのは不安だ。あとこの、使った竹炭の処分を……」
「あ、それもそのまま調理場に持っていく方が良いです。
一度火をつけた炭は、火がつきやすくなっているので、着火剤代わりにまた使えますし、かまどで薪に混ぜてしまえます」
皆で慌てて後処理をする。
穴の空いた鉄鍋も煙突がわりの竹も何もかもを持って、屋敷の中に急いで退避した。
「マル、書類鞄忘れてる」
「うわっ、あれ大切なものなんですよっ」
思いっきり放置して忘れてたけどな、お前。
それぞれ笊の上で、小さくなってヨレている。
「また明日朝から干しましょう。水分が浮いている野菜があったらそれは拭き取っておいてください。カビの原因になってしまうので」
結構な分量があるので、野菜を手拭いで拭いていくサヤとハインを真似て、俺もそれを少々手伝った。一通り拭き終わったら、野菜をひっくり返す。
それがひと段落したら、今度は庭だ。
「煙がうす青くなるのに二時間超えたんだが、大丈夫だったか?」
「竹が大きめだったから、水気等が抜けきるのに時間がかかったのだと思います。
問題はありませんから、大丈夫ですよ。……ここですか?」
「ああ、言われた通り、鍋ごと穴に放り込んで土をぶっかけといたぞ」
鍋を掘り起こし、蓋を触って熱を確認したサヤは、大丈夫だと判断したのだろう。鍋をそのまま引き上げた。
「上手くできていると良いのですけど……」
そう言って蓋を少しだけ開けて中を覗き込み……ふぅ……と、安堵の溜息。
「できてる……良かった」
「よし! どんなだ、見せてみろ」
蓋を開けると、白い灰になった竹があり、それを払うと、そこには少々……どころじゃなく縮んだ、青黒いものが入っていた。
びっちりと敷き詰めたはずなのに、結構隙間がある……。三割ほど目減りした感じだな。
「炭素以外が抜けましたから、小さくなったんです」
そのタンソというものが何かはよくわからないが……まあ、何かが出て縮んだのだろう。
「……見事なまでに真っ黒だな……。これ、本当に火がつくのか?」
「つきますよ。でもこれは、乾燥剤として使うので、燃やしませんけど」
サヤがそう言うと、何故か空間が残念な雰囲気になる……。
いや、俺もちょっと期待していたから……。だって、こんな真っ黒に焼け焦げた竹が、まだ燃えるんだぞ?見てみたくなるじゃないか。
「……まあ、こんなにたくさんは必要ないので、少し使ってみます?」
興味津々な状態の俺たちに根負けしたサヤが、苦笑しつつそんな風に言うと、皆が頷いた。
竹を焼くのに使った煉瓦のかまどをそのまま利用し、お茶を入れてみることにする。
「……本当だ……灰なのに、燃える……なんで⁉︎」
「煙が少ないですね」
燃えた。
真っ黒なのにちゃんと火が点く。まるで石を焼いた時のように、中から赤く熱を滲ませ、火も上がっていた。凄いぞこれ!
「実際には、灰ではなく、炭は、木の不純物のみを除去したものなんです。
不純物はもう燃やしたあとなので、本来は燃やすのに邪魔なものがありません。そのため煙も少ないですし、匂いもほぼありません。
鍋に入れたのは、空気を極力減らすためです。
鍋の中で竹は、ほとんど蒸し焼きにされている感じで、本来酸素と結合して燃える部分……炭素だけが残 され、炭になったんです」
説明されるが意味はとんと分からない。何か特殊な手法であるのは確かなのだろう。
そんな感じで、裏庭でお茶を楽しんでいたのだけれど……。
トサッ。と、何かが落ちる音。
視線をやると、ちょうどマルがやって来たようだった。手に持っていた書類入りの鞄を取り落とした様子。どうしたんだ?
「やぁ、マル。おかえ……」
「木炭⁉︎ なんでここに⁉︎ まさかとは思うけどやっぱりサヤくんが作ったんですね⁉︎」
庭の端に積んである黒い塊に興奮状態だ。
だが慌てて裏口を閉じて、鞄も置き去りに小走りでやってくる。
「サヤくん、これ秘匿権に引っかかります。木炭は製造をある貴族が握ってるんですよ!
急いで処分するか、使い切るかしてください」
「え?」
「鍛冶場で扱う特殊な道具なんですよあれ。大炭、小炭、どっちですか。まあどっちも問題なんですけど……それよりどうやってあんなもの街中で作ったんです⁉︎」
「えっ? あの……意味が、分からないです……」
困惑し、怯えた様子を見せるサヤ。
秘匿権を犯したということに酷く狼狽しているように見えた。
ギルも慌てている。秘匿権のなんたるかを一番身近に知っているのは彼であるからだ。
「製鉄技術に関わるのか……やばいだろそれ⁉︎」
「やばいですよ! 首が飛びかねませんよっ! だからのんびりお茶してる状態じゃないんですよ!」
マルの言葉に、サヤがいよいよ蒼白だ。震える手で「そんな、私……」と、泣きそうな顔になる。
サヤのことだ、当然人の権利を侵害する気など無く、俺の反応から、この世界には無いものと判断したのだろう。俺も、『燃やした木』という言葉から、薪の燃えかすの方しか連想しておらず、木炭が出てこなかった。まあ、まさかそうやって作られているだなんて知らなかったからでもあるのだが。……ん? だけどあれ……相当特殊な手法で、簡単には作れないと、聞いた覚えがある……。
「待て、マル。木炭って、これ、違うんじゃないか?」
「あの形状、燃えてる状況、どう見ても木炭ですよ!」
「だけどこれ、竹だぞ」
「…………うぇ?」
庭の端にある、鍋に入りきらず残った竹を指差す。
「大炭も小炭も目にしたことはある。しかもあれは、そうそう簡単に作れるものじゃないんだろう?
これはサヤが庭で、鍋で作ったんだ。そもそも用途が乾燥剤のかわりだ。似ているだろうが、違う」
「………………なんです?乾燥剤って」
「干した野菜の水分を取るためのものだって」
「……干した野菜の水分を取るってなんです?」
あ。そういえば、マルにはまだ、伝えていなかったんだったか……。
「よし。とにかく中に入ろう。竹炭は、一旦どこかに隠しておく方が良いかな」
「調理場に持って入ろう。外に置いておくのは不安だ。あとこの、使った竹炭の処分を……」
「あ、それもそのまま調理場に持っていく方が良いです。
一度火をつけた炭は、火がつきやすくなっているので、着火剤代わりにまた使えますし、かまどで薪に混ぜてしまえます」
皆で慌てて後処理をする。
穴の空いた鉄鍋も煙突がわりの竹も何もかもを持って、屋敷の中に急いで退避した。
「マル、書類鞄忘れてる」
「うわっ、あれ大切なものなんですよっ」
思いっきり放置して忘れてたけどな、お前。
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