異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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新たな戦い 12

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 その後、どうにかこうにか、帰り着き、昼食を済ました頃には、買い付けたものが順々に届きだしていた。
 バート商会の使用人が、報告をくれたので、荷物の受け取りと、一つお願い事の手紙を託し、俺たちは調理場を借りて、まずは干し野菜作りの下準備を進めることとなった。
 まずは野菜を丹念に、洗うところからだ。

赤茄子トマトは半分に割って、ヘタと中の種を匙で全部掬い出します。
 甘唐辛子ピーマンも半分に割って、種を取ります。これは更に、縦向き一センチに切ってください。
 胡瓜キュウリは輪切りです。三ミリくらいでお願いします。
 水気が腐敗の原因になりますから、野菜に水気が浮いたら、手拭いで拭き取ってください」

 野菜の下ごしらえは、ハインとルーシーが担当だ。
 他にも、調理場にあった野菜をいくつか試してみる。
 南瓜は割らなければ冬まで保つのだが、一つを全部使い切るのはなかなか大変だ。なので使い切れなかった時に保存できるかを試すため、これも干してみることにした。
 あとお馴染みの萵苣レタス。そして茄子。
 本来は、形も色々なものを干せるらしいのだが、時間的な猶予が明日の昼までしかない。なので、できるだけ小さく、薄く刻むらしい。

「洗濯バサミが欲しいです……そしたら萵苣が沢山干せるのに……」

 調理場の一角で、せっせと針と糸を操りながら、サヤがそんなことを呟く。
 また何か新たな道具を思い浮かべている様子だ。ほんと、いくらだって湧いてくるな……。
 更に、竹笊の量が足りない……。切った野菜を重ならないように広げて置くため、場所を思いの外使用するから、調理場のものも借り受けた。
 まあ、足りないのには訳がある。サヤが野菜を干すための道具を作ると言い、笊を二枚使っているのも原因だ。

「バランス取れてますか?」
「えっと……均衡が保たれているかって意味?……うん。まっすぐに見えるけど」
「良かった。じゃあこれに、綿紗めんしゃを取り付けます」
「……綿紗はなんで取り付けるんだ?」
「虫除けです。雑菌が付いてしまいますし、日持ちを考えると、できるだけ清潔に、乾燥させたいので」

 竹笊を紐で繋ぎ、空中で二枚が連なるようにしたサヤが、綿紗をそれに縫い付けようと悪戦苦闘しだす。何せ笊だ。針を刺す場所がなかなか無い。

「上部だけ縫い付けて、周りはぐるっと囲うだけじゃ駄目なのか?」
「隙間があると、虫が入りますから。うーん……チャックがないからここは重ねないと仕方がないとして……風で開かないか心配ですね……。だけど重ねを大きくすると、陽を遮るし……」
「サヤさん、これ、綿紗を袋状に縫ってしまって、笊に野菜を乗せたらがばっと被せて、縛るようにしたらどうかしら」
「あっ、それ名案です!」
「じゃあ縫い物は私が代わるわ。サヤさんは、竹炭とやらを頑張ってらして?」

 縫い物をルーシーに代わってもらったサヤが、今度は裏庭に向かい、届いた鉄鍋に竹を敷き詰めていく。

「極力、敷き詰めて、空間を空けないようにするんです」

 底が穴だらけの鉄鍋が竹でぎっちり埋まってる状況はなんかもう……意味不明すぎて何を言えば良いやら……。
 それが出来上がると蓋をして、鍋の準備は終了の様子だ。庭に煉瓦を重ねてかまどを組む。……煉瓦は買い忘れていたので、使用人に買ってきてもらった。ほんの数個だったし。

「ハの字に組むって言ってました。火の回りが効率良いのだって。
 じゃあ、鍋を乗せて下さい。下で火を炊きます」

 初めは、かまどに火を点けるのが少し苦手だったサヤも、もう手馴れたものだ。種火はあっという間に大きくなる。
 鉄鍋を火にかけ、蓋の上に重石と、蓋穴の上に筒状の竹を置いた。

「これは煙突の代わりです」

 程なくして竹筒の煙突から、黄味がかった白い煙がどんどんと立ち昇りだした。
 まあ、穴が空いているのだから、当然中の竹に火が移っているだろう。
 燃やすだけなら、何故鉄鍋に入れたのか……。色々不思議すぎて何からつっこめば良いのかも分からない。

「……後は、火を消さないまま焼き続けます。風を送ったりはしないで下さい。
 今は、煙が白いでしょう?  これは、竹の水分を多く含んでるんです。炭になると、 これが、青味がかった透明になります。
 そうしたら、一旦土に鍋ごと埋めて、火を完全に消して冷まします」

「じゃあ、火の番を交代でして、見守っておけば良いんだな?」
「はい。あ、私が見てますから、皆さんは休憩を……」
「サヤ、火の番はまず私がしておきますから、干し野菜の方を確認してきて下さい。
 下処理は終わりましたので、あれで良いのかどうか」

 やって来たハインがそう言い、サヤはまた、調理場へと向かった。くるくるとよく働く。
 これはあれだな……居た堪れなくって必死で働いている感じだ。さっきから俺の方見ないしなぁ……。
 今までだったらそんなサヤの態度に、少なからず傷つき、狼狽えていたろうと思う。
 けれど、俺を受け入れてくれた先程のサヤを思えば、あの態度も仕方がないのだよなと納得ができる。ただ恥ずかしいだけだと分かっているから、落ち着くまでしばらくそっとしておくしかないかなと、冷静に考えられた。

「しっかし……今回のはほんと、特別意味不明だよな……」
「まあそうですね。ですが、サヤが言うことですから意味のあることなのでしょう」

 たちこめる煙に咳き込みつつ、ギルが呟き、ハインがそれに言葉を返す。
 ハインはいつも通りだが、ギルは若干、表情が硬い……。サヤの奇行に不安が募り、少々心配している様子だ。

「ギル。サヤにそんな顔を見せないでくれよ。彼女が不安になってしまう」

 畏怖すら感じていることが伺えて、とっさにそう注意を促す。
 するとバツが悪そうに視線を泳がせ。

「分かってる。けど……これがこの後、なんかすげーこと引き起こすんだって分かってるだけに、どんなもんが出てくるのかって考えると、ちょっと不安になるんだよ……」

 そんな風に言うものだから……ちゃんと言い含めておこうと思った。

「ギル、サヤの知識は、神に与えられた奇跡や恩恵じゃない。
 彼女が努力して、手に入れてきたものだ。それだけの時間を使って、経験して、犠牲を払って、身につけてきたんだ。
 ……それを、そんな風にされたら、傷つく……。ギルは、ただ優しさから与えようとするサヤを、怖いと思うのか?」

 誰かのためにと知識を晒し、それによって怖がられ、それでも恨み言ひとつ言わず、グッと堪える。彼女ならそうするのだろうと、想像できる。俺を責めることすらしなかった、彼女だから……。
 だけど、当然傷付かないわけがない。女性に優しいギルだから、そんな風に我慢するサヤは、嫌だよな?

「……すまん。そうだよな……。前も似たようなことあったのに、……悪かった」

 パンパンと頬を叩いて気持ちを切り替える。
 そうしてから「火の番は俺らがしとく。お前はあいつんとこ行っとけ」と、追い払われてしまった。
 まだ避けられると思うんだけどなぁ……。そんなことを思いつつも、サヤと一緒にいられるのは嬉しいわけで、調理場に向かって足を進めた。
 すると、ルーシーとサヤの会話が聞こえてくる。

「あっ、レイ様。見てください、完成ですよ」
「良い感じです。これなら軒に吊るして、干し野菜を作れますよ」

 ニコニコ笑顔の二人に迎えられた。
 彼女らの前には、二つの竹笊を三本の紐で連ね、さらに綿紗で包めるように工夫された、何やら不思議なものが出来上がっていた。

「この笊に野菜を並べて、軒や物干し竿に吊るして使います。
 干し野菜は、一日程度で半乾き、二日から五日……場合によってはもっと長く干しもするのですけど、カラカラに乾いたのを本乾きと言います。つまり、干す時間で日持ちが変わる……水分を多く捨てた方が、長持ちするんです。
 朝から夕方前までの時間を、この状態で持ち運んで干します。夜は室内に取り込みます。雨の日は干せません。逆に水分を含んでしまうので。
 そんな感じで出し入れが必要なので、それなりに手間がかかります。
 でもこれなら、出し入れはそれほど手間じゃありませんし、風が吹いても袋の中にしか飛び散りませんから安心ですよ」

 そう言われ、そうか、風が吹いたら飛ぶよな。と、改めて気付く。

「ここみたいに、窓が硝子張りであれば、部屋の中の日当たりが良い場所に置いておけば良いのですけど、きっとそんな環境じゃないから……」
「……あ、これ……ホセたちのために、作ってたのか」
「っ、あっ、だ、駄目でしたかっ⁉︎」

 俺のつぶやきに、サヤが慌てる。

「で、でも……野菜を乾かすのを、ずっと見てる時間もないと思うんです。だからその……朝干したら、夕方までほっとけるようにしておければ、片手間に取り入れられるかと……す、少しでも、生活が楽になればと……」
「うん、ありがとう。親身になって考えてくれたんだろう?
 そうだな……ただ干し野菜の作り方を伝えるだけじゃ、生活に取り入れられる保証はないんだものな」

 そう行って頭を撫でると、ホッとした顔になる。
 ……そしてそれを見ていたルーシーがムフフとなんだか意味深な顔をする……あ、し、しまった。

「ではっ、私のお仕事は終わりましたし、この干し笊の検証はお二人にお任せしますっ」
「いや、ルーシー……」
「あっしまったーっ!    私、急ぎの仕事があるんです、失礼しますねーっ」
「……うん……」

 すっごく、あからさまだよ、ルーシー……。
 調理場に二人で取り残されて、そのなんともいえない余韻に浸る。
 なんとなく気疲れして、あとは黙々と、干し笊に野菜を並べるのを手伝った。
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