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自覚 16

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 夕刻前に、サヤとルーシーは無事戻った。
 買い物を堪能し、昼食も外食を楽しみ、甘味屋にも立ち寄ったと言い、ルーシーはホクホクだ。
 サヤも気分転換になった様子で、ニコニコと笑顔を絶やさない。とても満喫できたといった様子だな。
 夕食までの時間を、応接室でくつろぎつつ、報告を聞くことにした。

「美しい装飾品が、沢山あったんです。
 私の世界のと違って、全部手製なのに、すごく細やかで、細部まで作りこまれてて……。
 指輪とネックレスを購入したのですけど、髪飾りが蝶なので、花の意匠にしてみたんです。
 イヤリングが見当たらなくて……不思議だったんですけど、成人した人しか身に付けないんですね」
「イヤリング……?   って?   あとネックレスは首飾りであってる?」
「あっ、はい。ネックレスは、首飾りです。イヤリングは……耳飾り?
 私の国では、ピアスとか、イヤーカフスとか、色々種類があるのですけど」
「あー……うん。あれは基本、成人した貴族の装飾品……だな」

 正確には違うけれど、サヤにこれを言うのは酷だろう。ちょっと色々、アレだし。
 ちらりとルーシーに視線をやると、この話題に視線を泳がせている。
 彼女も、サヤにこれをそのまま伝えるのは考えものだと思ったらしい。良い判断だ。と、視線で礼を述べておくと、ホッとした顔になった。
 うん……まあ……折を見て、また説明しておこう。そんな機会があれば、だけど。

「それで、その……ちょっと、思いついたことが、あるのですけど……」
「うん?」
「意匠師は素性を伏せた方が多いと聞いてます。
 今回の祝賀会、私はレイシール様の護衛を兼ねて、できるだけ近くにいるようにって言われましたけど……カメリアに扮しているといえど、あまり顔を晒すと、私だって分かりやすいと思うんです」

 それは……そう、だな……。
 実際、祝賀会には関係者が多く出席するだろう。
 サヤがあの大人の女性に扮したとしても、やはり顔を晒せば、幾人か気付いてしまいそうだ。
 最悪、護衛を兼ねてサヤがまた女装してくれているのだと言い張る手もあるが、あの麗しさだ……正直、女性だとバレる可能性がとても高いと思えた。

「それでですね、私の世界では、トークハットと呼ばれるものがありまして」
「トークハット?」
「はい、ヴェールのついた帽子です。
 この世界の人、帽子をかぶっているのを見たことがないのですけど、もしかして、帽子、ありませんか?」
「いや、あるにはあるな……」

 あるにはあるが……あまり利用している者を見たことが、ない。異国の衣装だしな。
 それを伝えると、うーん……と、サヤが少し悩みだす。

「なら、目じゃなくて、口?   フェイスヴェール……?   レースマスクもありかも……」
「サヤ……それらは、どういったものなんだ?」

 どんなものか想像ができないとなんともいえない。
 そう思って聞いたら、あっと、我に帰る。

「描きますね。ちょっと待ってください」

 口では説明しにくいと思ったらしく、サヤがワドにお願いして、執務机を利用させてもらうこととなった。

「えっと、トークハットというのは、ヴェールのついた帽子です。
 ヴェールというのは、しゃのような、透ける布地ですね。
 帽子にそのヴェールが取り付けてあって、頭から垂らします。それで、顔をほんのり隠す装飾品なんです」

 頭だけの輪郭を描いたサヤが、それにトークハットというものを被せた絵を描く。成る程……帽子から垂れた布地で、顔を隠すのだそうだ。
 長さは、鼻までのもの、顎までのものと、数種類ある様子だ。

「フェイスヴェールは、反対に、顔の鼻から下を隠す道具です。
 レースマスクは、レースの布で目元や顔全体を隠すものですね。
 どちらも、頭の後ろで括って使いますが、耳にかけても良いかと」

 それぞれを輪郭のみの頭に描いていく。
 いつの間にやらギルとルーシーも来ていて、サヤの手元をじっと見据えていた。

「全て女性の装飾品です。
 口元は異母様が扇で隠されていたのを見たことがあります。
 これだと、両手が空けられますし、顔の半分が分からないので、結構誤魔化せると思うんです」
「はい!   私、このレースマスクが好きです!」
「俺はフェイスヴェールかな……。艶っぽい」
「帽子はあまり流行ってないしな……こんなに小さいと、すぐに落ちてしまいそうだ」
「あっ、ピンとかもないんでした。じゃあ、帽子は難しいですね……」

 とりあえず作ってみるかという話になった。
 なにせ小さな布だ。あっという間に出来上がるらしい。
 ルーシーが素晴らしくやる気を発揮して、チクチクと縫い上げていく。サヤもその横で、同じく製作するようだ。手早いな……。

「サヤさん、この部分はどうなってるんですか?」
「布を細く切って、巻くようにしてまとめると、花の形が出来上がるんです。それを縫い付けてあって……」
「ああっ、それでこんなに立体的⁉︎   すごい!」

 さして時間をかけず、夕食までの時間で作り上げてしまった。
 帽子は保留となり、レースマスクとフェイスヴェールを、それぞれ、サヤと、ルーシーが身に付ける。

「視界は案外良好ですね!」
「陽除け外套と変わりませんから。如何ですか?」
「結構良いな。刺繍とか入れて、もう少し顔を隠しても良いな」
「だけどこれ……なんか……」

 妖艶……じゃないか?

「うん。色っぽい」

 ギルはいたく気に入った様子だ。
 顔の露出をおさえているはずなのに、何故かこう……そそられるものがあるというか……。妙にその……うううぅぅ。

「えー?    そうですか?    かっこいいとは思いますけど」

 ルーシーには分からないらしい。ハインも全然気にした様子がない。
 あれ?    俺とギルだけ?

「まあ、良いんじゃないか?    俺はこれは、いけると思う。貴族でも、扇の代用品として売り出せば、案外売れるんじゃないか?」
「そう思います!    私これ好きです!    叔父様、サヤさんだけじゃあ目立っちゃうから、祝賀会、私もこれ使うわ!」
「叔父はやめろ。けど良いな。うん。知り合いの女性陣にも勧めてみるか……。顔を伏せておきたいご婦人は多いだろうしな」

 そんなわけで、このレースマスクとフェイスヴェールは採用となった。
 採用となったが……なにせ名前が、覚えにくい……。

「女性用の面覆めんおおいで良いんじゃないか?    顔全般を隠す装飾品をそう呼ぼう」

 男性の場合、鎧兜に面覆いが付いている場合があるが、女性用というものは存在しない。
 というわけで、面覆いが採用となった。
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