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自覚 7
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咄嗟に振り返る。大きく枝を伸ばす木の下、敷物の端の方で、サヤが何故か、小さくうずくまっているのが見え、血の気が引いた。
「サヤ⁉︎」
全力で走り、戻る。俺は腰帯の小刀を確認し、ハインは鞘を左手に握り締める。
視線を走らすが、不穏な気配も、人影も察知できない。こんな場所にまで、兇手か⁉︎ サヤ……っ。
たいした距離ではない筈なのに、酷く遠く感じた。焦りばかりが先走る。
結局、敵影は発見できず、サヤの元に到着し、抱き起こすが、サヤは、震えていた。恐怖に顔を歪めて。
「サヤ!」
「っ、やぁっ、とって、いやああああぁぁっ⁉︎」
恐慌にかられた様子で、俺にしがみついて叫ぶ。幻覚? 一体何をされた⁉︎
衣服に血の染みなどを探すが、見える範囲には無い。だがサヤは震えている……どうすれば良いんだ⁉︎ ただサヤを搔き抱くしかできず、焦燥にかられる。
外傷を探し、サヤの肌が晒された部分を手で撫で確認するが、何も見つからず、焦ってとにかく上着を脱がそうと手を掛け、
「レイシール様、これでは?」
何か気の抜けた声。
藁にもすがる思いでそちらに視線をやると、ハインが虚空を指差している。
……いや違う。木から垂れ下がる……虫?
そこら中に、垂れ下がっていた。
毛虫が。
…………。
改めてサヤを見下ろす。ああ、這っているな、毛虫。毒も何もない類のものであったから、全く意識していなかった。
そうだ。サヤは、虫が苦手だった。
「どうやら虫の巣窟であったようですね。
泉の側に、場所を移しますか」
「……そうだな」
そう言いつつ、木の下から逃げ、せっせとサヤの服や髪の中を這う毛虫を、二人で取って投げ捨てるを繰り返した。
それがひと段落してから、俺はサヤを泉まで連れて行き、濡らした手拭いで、身体や顔を拭いてやる。化粧は落ちてしまうが、この際仕方がない。
その間にハインは荷物や敷物を、何往復かして運んで来てくれた。
新たに敷き直した敷物の上で、サヤの髪の毛の中や上着の下を、もう一度丹念に確認し、紛れ込んでいた小さな二匹を泉に放り捨て、違和感が残る場所がないかを確認する。
「わ、わからへん。まだなんか、ついとらへん?ほんまにおらん?」
「うん、もういない」
「不安なら、服を泉で濯ぎますか?」
相当な恐怖であった様子で、ずっと俺にしがみついたまま離れない。
小さな子供みたいに怯えるサヤを、しょうがなくそのまま、抱きしめていた。
近衛の方々にまで、相当な腕前と認められるサヤが、毛虫でこうも取り乱す。
この姿をあの方々が見たら、なんて思うんだろう。
「流石に木陰ではないと、少々暑いですね……。泉に飛び込みたくなります」
「駄目に決まってるだろ。帰りどうする気だ」
「それもそうですね。虫のいない木陰でも探して来ます」
そう言ったハインが立ち上がり、泉を迂回していく。対岸の木立が乱立している辺りを見にいくつもりなのだろう。
俺は腕の中のサヤを確認する。
めそめそと半泣き状態だ。髪を括っていないからか、表情のせいか、いつもより随分と幼く見える……。
「……肝を冷やした……」
ついそんな小言を零してしまった。
「サヤを、失うのかと思った……。ほんと、怖かったんだぞ」
「か、かんにん……せやけどなっ、あんなん誰かて悲鳴あげるで⁉︎
木陰で涼しいし、変な音とかなんもせえへんし、気が緩むやん⁉︎
そしたら首の辺りが痒うなって、手をやったら何かブニュって……払ったらアレが落ちて来て……しかも、よう見たらそこら中に⁉︎」
話してて思い出したのか、見事な鳥肌を立てて、俺に必死で身を寄せてくる。
その姿が可愛すぎて、口元が緩んでくるのを気合いで我慢した。怖がってるのを笑っちゃ駄目だ……耐えろ俺。
「二人が毛虫、指で摘んで放り捨てとるの、唖然とした。
いや、助かったけど……平気で触るんやもん……」
「そりゃ、毒もない無害なやつだから、怖がる部分無いよ?」
「あるやろ⁉︎ ぶにゅって! しかも、わさぁってっ⁉︎」
「よく見れば可愛いと思うんだけど」
「よく見たないし! その感覚だけは、絶対に、理解できひん自信ある!」
そこが限界だった。吹き出してしまう。
腹筋が痛くなるくらい笑って、涙まで滲んでしまった。
だって、サヤが本気で怖がってる。剣や槍を構えた男たちを前にしても、全くひるまなかった娘が……って思ったら、もう、その落差がさ……っ。
ふと気付くと、サヤが何故か真っ赤になって固まっている。
「どうした?」
「……これかっ! って、思うて……」
これ?
なんとか笑いを引っ込めてサヤを見ると、今度は視線を逸らされてしまった。だけど腕の中だ。表情全部が筒抜けで、俺の腕の中におさまっているサヤが、瞳を潤ませて、口元を両手で隠し、耳まで赤くした姿を、じっくりと見ることになる。
「やっと、初めて、ちゃんと見た」
「何を?」
「レイが、顔作らんと笑うとこ」
「…………」
そう言われて我にかえる。
更にサヤの瞳から雫が頬を伝うものだから、慌てた。
「ごめんっ。笑って悪かった!」
「ううん、もっと笑うてくれた方がええ。大丈夫、嬉しいだけや……」
そう言って微笑むものだから……。
一層力を込めて、サヤを抱きしめて、その表情を視界から隠した。
見ていたら、決心が揺らぐ……そう思ったのだ。
サヤに演技の笑顔を向けられた時、俺は凄く傷付いた。
だけど当の俺は、ずっとサヤに、そんな作り物の顔を……仮面の顔を、見せていたのだ……。
凄く、申し訳ないことをしていた……。
「……悪かったよ……。別に、サヤに感情を偽ってるつもりは無かったんだ。
サヤが気持ち悪い思いをしたらいけないと思って……女性として見られるのが嫌だって、分かってるから、余計に気になって……」
俺はずっとサヤを、女性としてしか、見れていなかったから……。
「分かっとる。私に気を使うて、そうしてくれてはるんやろうなって、思うてた」
胸に寄りかかるサヤが、そう言ってクスリと笑った。
「レイは、気ぃ使いやもんね」
「……そんなつもりは無いんだけどな……」
「レイは、いつも周りの雰囲気を探っとる。
私の国ではそういうの、空気を読むって、表現する。
それが、レイの処世術やったんやろうなって、分かる」
サヤの指摘に、少々バツの悪い思いをした。
言うなれば……貴族社会全体が、まさしくそういう生き方をする場だ。
力のある者は気を使わせる側に回れるが、そんなのはほんの一握り。
上にはおもねり、下には傲慢になる。そんな社会だ。
俺は当然、その最下層に身を置いている。
だから、ひたすら……人の機微を探り続けなければ、生きてはいけない。
「せやけど、これからは、もうちょっとだけ……作らん顔を、見せてほしい。
恋人やもん。本音を言うたらええし、私も言う。
レイは、知られたくないことでも、私にならええって、言うたやろ?
それをしよう。
私も……これからはレイに、もっとそういうの、言うようにする」
これからは……。
その言葉が胸に痛い。
それが本心サヤの望むことであるならば嬉しかったろう。
だけど彼女は……多分、何か目的があって、こうしてる。
程なくするとハインが戻った。
「無理ですね。そこら中にいます。
人の踏み込まない場所となれば、致し方ないのでしょうね」
虫除け香を持って来ればよかったですねとハイン。
通常貴族は常に持ち歩いているのだろうが、俺は必要としていなかった為気にも止めていなかったのだ。
「仕方がありません、弁当がこの日差しで傷む前に、さっさと食べてしまいましょう。
もうそろそろ、昼の頃合いですし」
ハインの提案に、内心では暗く落ち込みつつ、にこやかに同意しておいた。
膝の上のサヤが離れることに、安堵と不安を同時に感じつつ、昼食となった。
「サヤ⁉︎」
全力で走り、戻る。俺は腰帯の小刀を確認し、ハインは鞘を左手に握り締める。
視線を走らすが、不穏な気配も、人影も察知できない。こんな場所にまで、兇手か⁉︎ サヤ……っ。
たいした距離ではない筈なのに、酷く遠く感じた。焦りばかりが先走る。
結局、敵影は発見できず、サヤの元に到着し、抱き起こすが、サヤは、震えていた。恐怖に顔を歪めて。
「サヤ!」
「っ、やぁっ、とって、いやああああぁぁっ⁉︎」
恐慌にかられた様子で、俺にしがみついて叫ぶ。幻覚? 一体何をされた⁉︎
衣服に血の染みなどを探すが、見える範囲には無い。だがサヤは震えている……どうすれば良いんだ⁉︎ ただサヤを搔き抱くしかできず、焦燥にかられる。
外傷を探し、サヤの肌が晒された部分を手で撫で確認するが、何も見つからず、焦ってとにかく上着を脱がそうと手を掛け、
「レイシール様、これでは?」
何か気の抜けた声。
藁にもすがる思いでそちらに視線をやると、ハインが虚空を指差している。
……いや違う。木から垂れ下がる……虫?
そこら中に、垂れ下がっていた。
毛虫が。
…………。
改めてサヤを見下ろす。ああ、這っているな、毛虫。毒も何もない類のものであったから、全く意識していなかった。
そうだ。サヤは、虫が苦手だった。
「どうやら虫の巣窟であったようですね。
泉の側に、場所を移しますか」
「……そうだな」
そう言いつつ、木の下から逃げ、せっせとサヤの服や髪の中を這う毛虫を、二人で取って投げ捨てるを繰り返した。
それがひと段落してから、俺はサヤを泉まで連れて行き、濡らした手拭いで、身体や顔を拭いてやる。化粧は落ちてしまうが、この際仕方がない。
その間にハインは荷物や敷物を、何往復かして運んで来てくれた。
新たに敷き直した敷物の上で、サヤの髪の毛の中や上着の下を、もう一度丹念に確認し、紛れ込んでいた小さな二匹を泉に放り捨て、違和感が残る場所がないかを確認する。
「わ、わからへん。まだなんか、ついとらへん?ほんまにおらん?」
「うん、もういない」
「不安なら、服を泉で濯ぎますか?」
相当な恐怖であった様子で、ずっと俺にしがみついたまま離れない。
小さな子供みたいに怯えるサヤを、しょうがなくそのまま、抱きしめていた。
近衛の方々にまで、相当な腕前と認められるサヤが、毛虫でこうも取り乱す。
この姿をあの方々が見たら、なんて思うんだろう。
「流石に木陰ではないと、少々暑いですね……。泉に飛び込みたくなります」
「駄目に決まってるだろ。帰りどうする気だ」
「それもそうですね。虫のいない木陰でも探して来ます」
そう言ったハインが立ち上がり、泉を迂回していく。対岸の木立が乱立している辺りを見にいくつもりなのだろう。
俺は腕の中のサヤを確認する。
めそめそと半泣き状態だ。髪を括っていないからか、表情のせいか、いつもより随分と幼く見える……。
「……肝を冷やした……」
ついそんな小言を零してしまった。
「サヤを、失うのかと思った……。ほんと、怖かったんだぞ」
「か、かんにん……せやけどなっ、あんなん誰かて悲鳴あげるで⁉︎
木陰で涼しいし、変な音とかなんもせえへんし、気が緩むやん⁉︎
そしたら首の辺りが痒うなって、手をやったら何かブニュって……払ったらアレが落ちて来て……しかも、よう見たらそこら中に⁉︎」
話してて思い出したのか、見事な鳥肌を立てて、俺に必死で身を寄せてくる。
その姿が可愛すぎて、口元が緩んでくるのを気合いで我慢した。怖がってるのを笑っちゃ駄目だ……耐えろ俺。
「二人が毛虫、指で摘んで放り捨てとるの、唖然とした。
いや、助かったけど……平気で触るんやもん……」
「そりゃ、毒もない無害なやつだから、怖がる部分無いよ?」
「あるやろ⁉︎ ぶにゅって! しかも、わさぁってっ⁉︎」
「よく見れば可愛いと思うんだけど」
「よく見たないし! その感覚だけは、絶対に、理解できひん自信ある!」
そこが限界だった。吹き出してしまう。
腹筋が痛くなるくらい笑って、涙まで滲んでしまった。
だって、サヤが本気で怖がってる。剣や槍を構えた男たちを前にしても、全くひるまなかった娘が……って思ったら、もう、その落差がさ……っ。
ふと気付くと、サヤが何故か真っ赤になって固まっている。
「どうした?」
「……これかっ! って、思うて……」
これ?
なんとか笑いを引っ込めてサヤを見ると、今度は視線を逸らされてしまった。だけど腕の中だ。表情全部が筒抜けで、俺の腕の中におさまっているサヤが、瞳を潤ませて、口元を両手で隠し、耳まで赤くした姿を、じっくりと見ることになる。
「やっと、初めて、ちゃんと見た」
「何を?」
「レイが、顔作らんと笑うとこ」
「…………」
そう言われて我にかえる。
更にサヤの瞳から雫が頬を伝うものだから、慌てた。
「ごめんっ。笑って悪かった!」
「ううん、もっと笑うてくれた方がええ。大丈夫、嬉しいだけや……」
そう言って微笑むものだから……。
一層力を込めて、サヤを抱きしめて、その表情を視界から隠した。
見ていたら、決心が揺らぐ……そう思ったのだ。
サヤに演技の笑顔を向けられた時、俺は凄く傷付いた。
だけど当の俺は、ずっとサヤに、そんな作り物の顔を……仮面の顔を、見せていたのだ……。
凄く、申し訳ないことをしていた……。
「……悪かったよ……。別に、サヤに感情を偽ってるつもりは無かったんだ。
サヤが気持ち悪い思いをしたらいけないと思って……女性として見られるのが嫌だって、分かってるから、余計に気になって……」
俺はずっとサヤを、女性としてしか、見れていなかったから……。
「分かっとる。私に気を使うて、そうしてくれてはるんやろうなって、思うてた」
胸に寄りかかるサヤが、そう言ってクスリと笑った。
「レイは、気ぃ使いやもんね」
「……そんなつもりは無いんだけどな……」
「レイは、いつも周りの雰囲気を探っとる。
私の国ではそういうの、空気を読むって、表現する。
それが、レイの処世術やったんやろうなって、分かる」
サヤの指摘に、少々バツの悪い思いをした。
言うなれば……貴族社会全体が、まさしくそういう生き方をする場だ。
力のある者は気を使わせる側に回れるが、そんなのはほんの一握り。
上にはおもねり、下には傲慢になる。そんな社会だ。
俺は当然、その最下層に身を置いている。
だから、ひたすら……人の機微を探り続けなければ、生きてはいけない。
「せやけど、これからは、もうちょっとだけ……作らん顔を、見せてほしい。
恋人やもん。本音を言うたらええし、私も言う。
レイは、知られたくないことでも、私にならええって、言うたやろ?
それをしよう。
私も……これからはレイに、もっとそういうの、言うようにする」
これからは……。
その言葉が胸に痛い。
それが本心サヤの望むことであるならば嬉しかったろう。
だけど彼女は……多分、何か目的があって、こうしてる。
程なくするとハインが戻った。
「無理ですね。そこら中にいます。
人の踏み込まない場所となれば、致し方ないのでしょうね」
虫除け香を持って来ればよかったですねとハイン。
通常貴族は常に持ち歩いているのだろうが、俺は必要としていなかった為気にも止めていなかったのだ。
「仕方がありません、弁当がこの日差しで傷む前に、さっさと食べてしまいましょう。
もうそろそろ、昼の頃合いですし」
ハインの提案に、内心では暗く落ち込みつつ、にこやかに同意しておいた。
膝の上のサヤが離れることに、安堵と不安を同時に感じつつ、昼食となった。
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