異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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暗躍 7

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 草の言に、耳を疑った。
 王家の方を、格子付きの馬車に乗せるつもりなのか⁉︎
 人を……罪を犯してもいない人を、獣みたいに檻に押し込もうとするのか?
 このまま時が経てば、姫様はリカルド様との婚儀を挙げることになる。
 本人の意思なんて関係なしに、その道しか進めなくなる。待っていれば、象徴派の望みはほぼ叶うんじゃないのか?   なのになんで?   足掻くことすら、許さないというのか?

 それとも……そもそも、人を、人だと思って、いないのか……。

 象徴派というのは、どこまで、卑しい思考をしているんだ……っ!
 あまりにも腹が立った。そんな、馬鹿らしいこと、許されると思うなよ⁉︎

「……草、その偽装商団の主犯、ヴァーリン家の長老で間違い無かったのか?」
「あ?   あぁ、ブリアック様って、呼ばれてた。同名だ。年齢的にも間違いねぇだろ」

 ヴゥーリン家の長老は、ブリアックと言うのか……。
 目標が定まった。このまま、好きにさせてなるものか。
 俺は執務机に移動し、先程考えをまとめる為に書きなぐっていた紙を取り出す。
 はじめから、真っ当な答えなど、求めてはいけなかったのかもしれない。
 王家の方を囚われの身とすることすら辞さないような連中が、まともな行動を取るわけがなかったのだ。
 考えていた可能性の中で、引っかかりのあった部分。その、王家の方を蔑ろにする、象徴派という存在。
 その存在が派生しているのは公爵家だ。しかもヴァーリン内部に関係者が多い。
 リカルド様は、ことを荒立てたくないとお考えで、十年もの時間を掛け、傀儡派の中に潜り込み、その頭となった。
 そこまで周到に準備をする必要のあることなんて、そうそう、無い。
 つまり、一番、ありそうにないやつから、潰していけば早い。

「草、仕事を頼めるか。
 偽装商団を、見張っておいてくれ。多分、日中には動かない、早朝か、夜半だ。
 こちらの命など頓着していないだろうけれど、人目は気にする様子だから、人の活動時間には動かないだろう。動きがあれば、即、知らせてくれ」
「……分かった。ちょっと笛を貸せ」

 そう言った草が、俺が投げてよこした笛をまた受け取る。
 そうしてから、大窓まで移動し、霧雨の降る夜空に向かい、それを吹いた。
 俺の耳に届く音は、特に無い……。耳の良いサヤにも、聞こえていない様子だったが、ハインは耳を押さえ、顔を歪めた。
 しばらく待つと、またピクリとハインが反応する。何か聞こえたらしい。

「これで良い。返す」

 笛を投げ返された。
 笛で連絡を取ったのか?   器用なことだな。

「草はあの笛の音、聞こえるのか?」
「獣ほどには聞こえねぇよ」

 少なくとも、何かが聞こえてはいるのだな。
 獣人を獣と言うのは気にくわないが、彼には彼の価値観があるのだろう。
 では、次だ。

「ハイン。マルに引き篭りは終了だと伝えてくれ。今すぐここに連れて来てほしい」

 思考を全力で働かせ、多分これだろうという結論を導き出す。
 うん……サヤも言っていたのだから、可能性は高い。公爵家内でだって、起こり得る現象だ。

「あれは動かないかもしれませんが……」
「ああ、じゃあ、ヴァーリン家の秘密が絞り込めたと言ってくれ。多分白化だ」
「?」
「そのまま言えば、マルなら何か引っかかるんじゃないかな?」

 これが一番、可能性が高いと思う。
 きっと、ヴァーリンにも産まれたのだ、白い方が。
 そしてそれを、隠して来ている……。
 何故隠すのか、その理由は簡単だ。王家の威信を揺るがしかねない。王家にしか、白い方は生まれて来ていないことに、なっているからだ。
 サヤが教えてくれた、劣性遺伝というもの……あれの性質を考えれば、王家にあの頻度で白い方が生まれるくらい、血が濃くなっているならば、他で生まれない方が、おかしいくらいなのではないか。

 そして……白く生まれた方を傀儡にしようなどと考える奴なら、王家の方が滅びた後、その白い方を後釜に据えるくらいのことは、忌避感なく考えそうだ。
 リカルド様が、ことを穏便におさめたいと思っているのは、そういったことを考える者たちと、相容れない思想の者たちもいるということではないだろうか。そして、そちらの発言権が低かったなら、身を守るために出来ることは、沈黙しかない。そう、反撃の準備が、整うまでは。

「サヤ、後ほど、伺いたいと姫様に言伝をお願いしたい。
 マルと話を詰めてからになるから……一時間後くらいかな」
「畏まりました。お休みの場合は?」
「起きててもらってくれ。緊急事態だからって」

 不敬にも程があるが、それくらい切迫している可能性がある。彼の方は、聞き届けてくださる筈だ。

 二人が部屋を出て行き、さて。と、考える。
 リカルド様……彼の方を、どうにか話し合いの席につけたい。
 その為にはあの部下二人が邪魔だ。
 だが、あの二人をどうにかしてしまうと、森のブリアックらにこちらのことが気付かれてしまう可能性もある……。どうするかな……?
 残っている草に視線をやる。
 彼は、見張りを頼んだ時、そのまま出て行くと思ったのに……わざわざ笛で知らせを出しただけで、残っている。
 まだ何か、俺が頼みたいことがあるなら、動いてくれるということか?

「……なぁ、草。リカルド様についてる者らは、ブリアックとどうやって連絡を取っているのか分かるか?」
「特定の木に、目印を刻ンでンな。
 斥候が巡回して来て、それを確認してる。目印は数種類あるみたいだな、意味までは知らン」

 思っていたより具体的な答えが返って来た。
 ふむ……ここから馬車で一時間ほどの場所に潜伏しているなら、定期連絡の頻度はそう多くないな……。
 印の意味が分かれば相手を出し抜けるが、そう簡単に解読は出来ないかもしれない。

「定時連絡の頻度は?」
「基本となってそうなのは日に二度。朝と、夕。だが、急に時間外に接触していることもある」

 結構しっかり見張ってたんだなぁ……たまたまなんて言ってるのに……。
 なんだか只働きさせてしまっている気がする。情報分は、後でちゃんと支払おうと心に決めた。
 印の意味で時間を調整するのか?   それとも……?
 いや、それだけ分かればなんとかなるか……。

「その印、写して来てくれるか。
 並び順も正確に、あと、どれが何個あるか。
 ああ、待って、あともう一つ聞きたいことが……」

 自らの足を向けようとしたのを慌てて呼び止める。

「……なあ、草たちの扱う道具の中に、外傷無しで人を眠らせたりできるものって、ある?」
「ある。なんだ、いるのか?」

 うーん……他に手段があれば良いのだけれど……無かった場合、それに頼ることになるかもしれない。

「数種類ある。今は持ってない、取りに行ってくるから、少し時間がかかるが……」
「あ、じゃあ無理かな……あまり時間に余裕無いし……」
「そこまでじゃねぇ。食事処にある程度の道具が保管してある。そこに行って取って来るだけだ。
 どんなのがいる、数種類あンだがな?」

 そんなことをしてたのか⁉︎
 だけどまあ、どうせマルの差し金なのだろう。この調子なら、アーロンの所にも色々置いてあるんだろうな……。まあ、お陰で今回、助かるのだけども。

「使用方法と、効果を教えてくれ、適切なのを選びたい」

 話し合っているうちに、サヤが戻った。
 姫様は是であるという。
 よし、あとはマルか。
 思っていたより時間が掛かっている様子なのが、少々気になった。

「……遅いな、出て来ないのか?」
「いえ、もういらっしゃいます」

 サヤがそう言い、扉を開くと、程なくしてハインに引っ張られたマルがやって来た。

「一日すら篭らしてもらえないとは思いませんでしたよぅ」
「悪いな、だけど正直、もう時間は無さそうなんだ」

 まだ一日だから、マルの様子にそう大層な変化はない。
 それでも一日食事は抜いている筈で、体調は大丈夫かと確認すると、

「ああ、問題ありません。
 それよりも白化ですって?   裏は……」
「取っていない。だが、可能性は低くないと思うんだ」

 マルが篭ってからの状況を伝え、俺の憶測を述べる。ふんふんと聞いていたマルは、そのうちにまにまと笑い出した。

「まあ、概ね僕の方の推察と合ってますねぇ。
 白化、可能性は高いと思いますよ。
 該当しそうな者は二名います。
 死産だと報告された者が一名、病弱だと言われ、人目に触れずにいる者が一名。
 面白いのが、そのどちらも同一の女性が母親とされているんですけどね、その方も、ヴァーリン家に嫁いでからこっち、全く人目に触れておられぬという、大層変わった方なんですよぅ。
 ついでに、長老の娘にあたる可能性がありますねぇ。彼の方、かつては結構浮名を流してらっしゃって、至る所に恋人がいらっしゃいましたから。
 養子に出されているので、血縁の無い子爵家の者となってますけれどね」

 …………何を、どこまで、調べたんだ……。

 たった一日未満を、片田舎の小部屋で過ごして、なんでそんな話がホイホイ出て来るのか……。
 相変わらずというか、流石というか、マルの情報網は意味不明だ。
 長老の娘にあたる可能性がある……?   公にできない相手との関係……?   ううぅぅ、聞きたくない……ていうか、サヤには絶対に聞かせたくない。

「マル、詳しくは、良い。後で個人的に聞くから。
 それより、この状況をどうするかって部分なんだよ。
 あちらはもう我慢の限界らしいんだ」
「ああ、我慢の限界というか……元からまともな方向には考えていらっしゃいませんよ。
 あの長老、病を患っているらしく、自分の目が黒いうちに目的を達成しようって、躍起になってるんだと思うんです。
 ですから、遅かれ早かれ、似たような騒動にはなってたんじゃないですか?」
「……リカルド様は元気で手に負えない的なこと言ってたけど……?」
「病は伏せてますから。薬物で痛みは中和しているそうですし」

 こいつに隠し事って、無理なんだな。
 とりあえずその結論に達した。
 いや、前から知ってるし、再確認しただけか。
 こういう奴だって思わないと、身がもたない……。

「リカルド様が事情を伏せて行動している理由は分かるのか」
「十中八九、ハロルド様の為でしょうね。
 彼の方の母親は、長老の母親と同じ子爵家出身です」

 ここで彼が出てくるのか……。
 その子爵家の名が出れば、ハロルド様にも飛び火しかねない。それを懸念したのか。
 ふむ……なら、ハロルド様に累が及ばないなら、リカルド様との交渉は成立する?

「……ならば、ハロルド様を巻き込まない形であるなら、交渉の席に着いてくれそうかな?」
「……レイ様がそうだと思うなら、そうしてみては如何です?
 僕の、彼の方の認識より、貴方が接して得た感覚の方が、僕は重要だと思うので」

 笑顔でそう言ってくるが、まるで「お手並み拝見」と言われている気がした。
 こんな風に、何事でも探ろうと思えば探り出してしまうマルが、リカルド様の演技は見破っていなかった。
 だから、俺の判断に信用を置いてくれているのだと思う。
 それと同時に、公爵家との交渉に、彼は出て来てくれる気は無い様子だ。
 彼の手腕なら、公爵家のリカルド様が相手であっても、あの手この手で言いくるめてしまいそうなのに、そうしてくれる気は無いらしい。
 まあ、俺の与えた印は未だ身につけていないし、そうなると彼は、ただの一般人だ。貴族のゴタゴタに首は突っ込めないか。

「……分かった。なら、俺が思いつくやり方で交渉するよ。
 とりあえず……姫様を踏まえ、三人で話が出来る場を設けたいから、まずは説得をしてくる」
「ああ、なら、こちらは場の調整をしておきましょう。
 良い法方がありますよ。
 睡眠作用のある毒物なのですけどね?   少量ならちょっと長く眠るだけです」

 マルの視線が草を見る。彼は了解したと頷き、動いた。
 大窓を開け、隙間から露台へ出たと思うと、そのままサッと、飛び降りてしまう。

「すぐ戻ると思いますよ。
 明日それを利用して、時間を作りましょうか」
「今晩はともかく、明日の早朝、相手が動くかもしれない」
「動けませんよ。
 丁度良いので、土建組合の面々と辺りを散策します。
 河川敷作りの視察を兼ねて、ね。削ってた丘、もう随分目減りしてしまいましたし、新しく土嚢に出来る場所を探しておく必要がありますし。良いですよね?」
「あ、ああ……危険が無いのなら、構わないが……」
「了解です。危険のない様にしますね」

 ヘラヘラと笑って安請け合いをするマル。
 まあ……彼がそう言うなら、大丈夫なんだろう。だけど、その前に……。

「俺が姫様のところに行ってる間に、食事を取れ。動いて良いのはそれからだぞ」
「……はぁい」
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