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実際、我が国の王家は、聡明な方が多いと思っている。
この世界には、酷い王政を敷いた国の滅びの物語や、今も尚歪んだ治世の国など、いくらだって存在する。
けれどこの国は、平和だ。騎士が剣の腕を重要視されない程、安定している。他国の脅威があってなお。
当然あまりよろしくない貴族も、腹黒い行いもあるが、王政自体は、歪んでいない。
短い中でも、家臣に手綱を握られることなく、王族はきちんと役割を果たしている。二千年もの長きに渡ってだ。
だから、姫様の言う国王様のお言葉は、にわかには信じ難かった。
「……本当に、そう、仰ったのですか?」
「言ったさ! リカルドは王に相応しくない。私がなると伝えても、許可されなかった……。
だから妥協案を提示した。王に相応しい者を連れて来れば、リカルドを選ばずとも良いかと。
そちらは何故か許可が出た。私が王になるのでないならば、良いらしい。
それとも……王位に就けることを躊躇うほどの出来でしかない私には、所詮無理だと思われたかな……」
フンと、笑う姫様は、苦しそうだった。
表情には出していない。だが、父親に認められない自分を、期待に応えられないと判断された自身を、不甲斐なく思っているのだ。
その気持ちの動きが、痛いくらいに伝わってくる。
胸が、苦しい。
姫様が王に相応しくないだなんて、俺には到底、思えなかったから。あれ程の努力をされ、知識を磨き、それでも足りないと言われる姫様が、不憫でならなかった。
学舎でのこの方は、好成績を維持されていた。
講義には殆ど出られない。だから、俺や他の者が取った授業の写しを頼りに学ばれていたというのに、それでも、座学の成績は目覚しかった。
武術ばかりはそうもいかない。
どうしても昇級が難しく、留年が続いたが、こればかりは姫様に落ち度はないと思う。それでも試験は受けてらっしゃった。その後長く寝込むことが分かっているのに。
今思えば、女性の身で、武術を身につけてらっしゃったというだけで、相当なことだ。陽の光を毒とするのに、それだけの時間を鍛錬に割いておられる。
その血の滲む様な努力を、認めてもらえない……。
姫様の感情に引きずられて、苦しくなっていた俺の耳に「だがな」と、柔らかい口調で、姫様の声が届く。
慌てて顔を上げると、優しい表情の姫様が、俺を見ていた。
「其方の嘆願でな、光明が見えたと思ったのだぞ。
其方は男爵家の二子という立場で、自由のきかぬ身だ。
そんな其方が、一庶民の提案、その素晴らしさを理解し、形となるよう動いた。
成人すらしておらぬくせに、家の力を一切借りず、起死回生の一手でもって、一石を投じた。
何も持たぬはずの其方が、何も持たぬままにそれだけのことをしたのだ。
しかもこの土嚢。これは素晴らしいな。スヴェトランを考えるなら、防衛力の強化は必須項目だ。
だが、あからさまな軍事面の強化は、他の国も刺激してしまう。特にジェンティーローニだな。世代交代があるこの時期に、我々がそんな風に動けば、静かな隣人もこちらを訝しむやもしれぬ。
あちらとは良好な関係を維持しておきたい。
だから、軍事力強化と捉えられる様な政策は、取れぬ。
土嚢ならば、軍事の強化には見えぬし、防衛力の強化であるしな。なにより、スヴェトラン側の国境防衛には、とても有効だと考えている。
また、今回ここで提案された、交易路計画は良いな。
高低差の少ない、交易の為の道か。攻め込まれた際のことは課題だが、道が整うということは、迅速に行動出来るということであろうから、防衛拠点を設置することで対処出来るだろう。
何より、道があれば使いたくなるのが道理だ。攻め込む場合も同じであろう。なら、ある意味守る要所は絞り込みやすくなるということで……」
目を輝かせて、怒涛の如く言葉を連ねる姫様。
きっと姫様の前には、フェルドナレンの大地が広がっているのだと思った。
この方には見えているのだ。国同士の関係も、必要な手段も。成すべきことを、きちんと分かってらしゃる。
国という、やり直しのきかない大組織を運営する覚悟を持ってらっしゃる。この小さい肩に、白くて細い腕に、抱える覚悟を持ってらしゃるのだ。
「それに、ヴァーリンは、今回適当ではないと、リカルドのことを抜きにしても、考えていたのだ。
あの家は文官を多く輩出しているとはいえ、武に偏り過ぎだ。特にリカルドは武将であるしな。
血筋の私ではなく、武に偏った公爵家からの婿を王にすると言う時点で、刺激が強過ぎる。
なのに……更に象徴派まで絡むとな……。他国に知られれば、厄介なことになる」
付け入る隙を与えてしまいかねない。
だから姫様は、何としてもリカルド様以外の夫をと、あんな行動に出たのだろう。
「王宮では……姫様を王へと推す声は、無いのですか?」
「それよりも子を成せの一点張りだ。
……まあ、私が悪いのだがな。
今まで、諦め切れず、婚儀を拒んできた……。あれが選ばれるであろうことも納得いかなかったし、王になれぬという事実も受け入れ難くてな……。
既に婚儀を済ませ、子を成していたならばあるいは王へと考えられますが……とぬかされたわ。
そんなわけがない……二人目、三人目と要求され続けるだけよ。それは、母上を見ていれば分かる。婚儀を挙げた時点で、私の夢は潰えると分かっている……」
三人産んでも、私しか残らなかったのだから、それも致し方ないのだがな……。
そういう姫様に、王家の血の呪いの重みを知る。
尊き白などと言っていられるのは、当事者でないからだろう。
やはり、白化という劣性遺伝子とやらは、なんとかすべき問題だと思う。
「まあ、そんなわけでな。私という人間は白い者を産む、国家の部品と成り果てることを望まれておるのだ。
末期だよ。フェルドナレンの元で王政を続けていくことは、もう無理やもしれぬと、重臣らすら、そう思っておる……」
姫様の弱気な発言に、恐怖すら覚えた。慌てて口を開こうとしたのだが、次の瞬間、ギラリと姫様の瞳が熱を帯びた。
「馬鹿どもめ! ふざけるな。何が末期か。あえてそちらを選ぼうと画策しおって。私にそれが見えておらぬと、私にはその程度の判断も出来ぬと、そう思われておるのか⁉︎
腹が立ったのでな、父上には、雨季の間の猶予を頂いた。あそこに居れば、このままの未来しか無いわ。どう足掻こうと潰されるのでな。
それで、其方の嘆願に乗る形で、出てきてやった。
足掻いてやるさ。最後の最後まで。私は、私の手で国を回す」
踏ん反り返って足を組み、どうだと言わんばかりの姫様。
折れてないその強い心に、俺自身、つい笑ってしまった。そうだ、これが姫様。
姫様が諦めてらっしゃらないなら、俺はそれを手助けする。そう約束したのだ、なら、実行に移すまでだな。
ふつふつと、感情が沸き立つのを感じる。この方の為に、俺は動かなければならない。
「そう聞けて、安心しました。
なら……姫様を王とする為の画策を、ここで整えていきますか」
自然と、そんな言葉が口をつく。
出来ると思ったのだ。心の中で、何かがカチリと、上手く合わさったような気がしていた。
姫様は折れていない。リカルド様は、多分、王となること自体には、拘ってはいない。
彼の方の態度と、気持ち。もう少し確かめてみなければならないが、俺の考え自体は、あながち、外れていないと思う。
俺の言葉に、姫様が虚を突かれたといった顔になる。
なんですか。自分で言ったんでしょう?王となりたいと。
「俺は、姫様が王に相応しくないとは、思わないので。
土嚢のことにしても、独自に調べたり、試したりされたのですよね?先ほどの手記、姫様の字でしたから。
それなら、思いつきや勢いで行動されたのではないのでしょうし、俺が言うことはありませんよ。
で、俺がこの二人を伴ってここに出向いたのは、姫様のお力になれると思ったからです。
少々、耳に痛い話も含まれますが……姫様が連れて来られている方々は、皆、姫様のお味方であるのですよね?それならば、人払いも必要無いでしょうから、このまま話を始めさせて頂きますよ」
何日もここで共に過ごしている配下の方々や近衛の方とは、もう充分面識もある。
人となりも、だいたい把握した。姫様の害となる様な方は含まれていないと、認識している。
「其方……そういう妙な胆力は、相変わらずだな。踏ん切りが良すぎて、たまに困る」
「俺には俺の根拠があるのですけどね?」
「其方にしか分からぬ根拠だわ。まあ、良い。其方がそう言い切るならば、問題無いということだ」
そう言った姫様が、花の綻ぶ様な笑顔を振りまくものだから、その美しさについ見とれてしまった。慌てて視線を逸らす。
や、やっぱり慣れない……女性の表情をされるのだものな……。やっぱりクリスタ様とは、どこかが違う。
「……どうした、照れたのか?
苦しゅうないぞ、たんと拝むが良かろう」
「い、良いです……充分です。……覗き込まないでくださいよ⁉︎」
わざわざ小机を回ってきて、顔を覗き込もうとするので慌てて逃げた。
女性は慣れないんですよ! お願いですから、揶揄わないで下さいよ⁉︎
そんな俺の様子にリーカ様のほほほと笑う声。余計恥ずかしくなって顔の火照りがおさまらない……っ。
「其方……図体ばかり育ったくせに、肝の小ささは相変わらずよな。
私が王族であったことより、女であったこと方が問題か」
「そうですよ! 悪かったですね⁉︎
ほんと慣れてないんですよ、知ってるでしょう⁉︎」
「知ってる……思い出した、お主、身代わりの茶会でも、どこぞの姫君に話し掛けられる度に、逃げ惑っておったよな」
「思惑が透けて見えるんですよ⁉︎ 逃げますよそりゃあ!」
話し掛けてきた姫自身や、同行する親族が、クリスタ様との関係から、家や身分での便宜を希望しているのが透けて見える場合があるのだ。
俺がヘマをした所為で大ごとになったのではたまらないから、必死で逃げていた。
あれは別に、女性からだけ逃げていたのではない。
「くくく……良い良い。其方が学舎の頃のまま、変わらぬ様でで安心したのだ。
其方は、変わらぬと思ってはいたのだが……身分では、確かに変わらぬのだからなぁ」
よく分からないことを呟きつつ、姫様が腹を抱えて笑う。
そして小さな声で「やはり、其方だと思うがな」と、呟くのが聞こえたが、それを振り切る様に顔を上げた。
「さて、揶揄っておっても話が進まぬな。
後ろの二人が居心地悪そうにしておることだし、本題に入るとしよう。
私を王とする為の画策とな。大変興味深い。聞かせてもらおうではないか」
この世界には、酷い王政を敷いた国の滅びの物語や、今も尚歪んだ治世の国など、いくらだって存在する。
けれどこの国は、平和だ。騎士が剣の腕を重要視されない程、安定している。他国の脅威があってなお。
当然あまりよろしくない貴族も、腹黒い行いもあるが、王政自体は、歪んでいない。
短い中でも、家臣に手綱を握られることなく、王族はきちんと役割を果たしている。二千年もの長きに渡ってだ。
だから、姫様の言う国王様のお言葉は、にわかには信じ難かった。
「……本当に、そう、仰ったのですか?」
「言ったさ! リカルドは王に相応しくない。私がなると伝えても、許可されなかった……。
だから妥協案を提示した。王に相応しい者を連れて来れば、リカルドを選ばずとも良いかと。
そちらは何故か許可が出た。私が王になるのでないならば、良いらしい。
それとも……王位に就けることを躊躇うほどの出来でしかない私には、所詮無理だと思われたかな……」
フンと、笑う姫様は、苦しそうだった。
表情には出していない。だが、父親に認められない自分を、期待に応えられないと判断された自身を、不甲斐なく思っているのだ。
その気持ちの動きが、痛いくらいに伝わってくる。
胸が、苦しい。
姫様が王に相応しくないだなんて、俺には到底、思えなかったから。あれ程の努力をされ、知識を磨き、それでも足りないと言われる姫様が、不憫でならなかった。
学舎でのこの方は、好成績を維持されていた。
講義には殆ど出られない。だから、俺や他の者が取った授業の写しを頼りに学ばれていたというのに、それでも、座学の成績は目覚しかった。
武術ばかりはそうもいかない。
どうしても昇級が難しく、留年が続いたが、こればかりは姫様に落ち度はないと思う。それでも試験は受けてらっしゃった。その後長く寝込むことが分かっているのに。
今思えば、女性の身で、武術を身につけてらっしゃったというだけで、相当なことだ。陽の光を毒とするのに、それだけの時間を鍛錬に割いておられる。
その血の滲む様な努力を、認めてもらえない……。
姫様の感情に引きずられて、苦しくなっていた俺の耳に「だがな」と、柔らかい口調で、姫様の声が届く。
慌てて顔を上げると、優しい表情の姫様が、俺を見ていた。
「其方の嘆願でな、光明が見えたと思ったのだぞ。
其方は男爵家の二子という立場で、自由のきかぬ身だ。
そんな其方が、一庶民の提案、その素晴らしさを理解し、形となるよう動いた。
成人すらしておらぬくせに、家の力を一切借りず、起死回生の一手でもって、一石を投じた。
何も持たぬはずの其方が、何も持たぬままにそれだけのことをしたのだ。
しかもこの土嚢。これは素晴らしいな。スヴェトランを考えるなら、防衛力の強化は必須項目だ。
だが、あからさまな軍事面の強化は、他の国も刺激してしまう。特にジェンティーローニだな。世代交代があるこの時期に、我々がそんな風に動けば、静かな隣人もこちらを訝しむやもしれぬ。
あちらとは良好な関係を維持しておきたい。
だから、軍事力強化と捉えられる様な政策は、取れぬ。
土嚢ならば、軍事の強化には見えぬし、防衛力の強化であるしな。なにより、スヴェトラン側の国境防衛には、とても有効だと考えている。
また、今回ここで提案された、交易路計画は良いな。
高低差の少ない、交易の為の道か。攻め込まれた際のことは課題だが、道が整うということは、迅速に行動出来るということであろうから、防衛拠点を設置することで対処出来るだろう。
何より、道があれば使いたくなるのが道理だ。攻め込む場合も同じであろう。なら、ある意味守る要所は絞り込みやすくなるということで……」
目を輝かせて、怒涛の如く言葉を連ねる姫様。
きっと姫様の前には、フェルドナレンの大地が広がっているのだと思った。
この方には見えているのだ。国同士の関係も、必要な手段も。成すべきことを、きちんと分かってらしゃる。
国という、やり直しのきかない大組織を運営する覚悟を持ってらっしゃる。この小さい肩に、白くて細い腕に、抱える覚悟を持ってらしゃるのだ。
「それに、ヴァーリンは、今回適当ではないと、リカルドのことを抜きにしても、考えていたのだ。
あの家は文官を多く輩出しているとはいえ、武に偏り過ぎだ。特にリカルドは武将であるしな。
血筋の私ではなく、武に偏った公爵家からの婿を王にすると言う時点で、刺激が強過ぎる。
なのに……更に象徴派まで絡むとな……。他国に知られれば、厄介なことになる」
付け入る隙を与えてしまいかねない。
だから姫様は、何としてもリカルド様以外の夫をと、あんな行動に出たのだろう。
「王宮では……姫様を王へと推す声は、無いのですか?」
「それよりも子を成せの一点張りだ。
……まあ、私が悪いのだがな。
今まで、諦め切れず、婚儀を拒んできた……。あれが選ばれるであろうことも納得いかなかったし、王になれぬという事実も受け入れ難くてな……。
既に婚儀を済ませ、子を成していたならばあるいは王へと考えられますが……とぬかされたわ。
そんなわけがない……二人目、三人目と要求され続けるだけよ。それは、母上を見ていれば分かる。婚儀を挙げた時点で、私の夢は潰えると分かっている……」
三人産んでも、私しか残らなかったのだから、それも致し方ないのだがな……。
そういう姫様に、王家の血の呪いの重みを知る。
尊き白などと言っていられるのは、当事者でないからだろう。
やはり、白化という劣性遺伝子とやらは、なんとかすべき問題だと思う。
「まあ、そんなわけでな。私という人間は白い者を産む、国家の部品と成り果てることを望まれておるのだ。
末期だよ。フェルドナレンの元で王政を続けていくことは、もう無理やもしれぬと、重臣らすら、そう思っておる……」
姫様の弱気な発言に、恐怖すら覚えた。慌てて口を開こうとしたのだが、次の瞬間、ギラリと姫様の瞳が熱を帯びた。
「馬鹿どもめ! ふざけるな。何が末期か。あえてそちらを選ぼうと画策しおって。私にそれが見えておらぬと、私にはその程度の判断も出来ぬと、そう思われておるのか⁉︎
腹が立ったのでな、父上には、雨季の間の猶予を頂いた。あそこに居れば、このままの未来しか無いわ。どう足掻こうと潰されるのでな。
それで、其方の嘆願に乗る形で、出てきてやった。
足掻いてやるさ。最後の最後まで。私は、私の手で国を回す」
踏ん反り返って足を組み、どうだと言わんばかりの姫様。
折れてないその強い心に、俺自身、つい笑ってしまった。そうだ、これが姫様。
姫様が諦めてらっしゃらないなら、俺はそれを手助けする。そう約束したのだ、なら、実行に移すまでだな。
ふつふつと、感情が沸き立つのを感じる。この方の為に、俺は動かなければならない。
「そう聞けて、安心しました。
なら……姫様を王とする為の画策を、ここで整えていきますか」
自然と、そんな言葉が口をつく。
出来ると思ったのだ。心の中で、何かがカチリと、上手く合わさったような気がしていた。
姫様は折れていない。リカルド様は、多分、王となること自体には、拘ってはいない。
彼の方の態度と、気持ち。もう少し確かめてみなければならないが、俺の考え自体は、あながち、外れていないと思う。
俺の言葉に、姫様が虚を突かれたといった顔になる。
なんですか。自分で言ったんでしょう?王となりたいと。
「俺は、姫様が王に相応しくないとは、思わないので。
土嚢のことにしても、独自に調べたり、試したりされたのですよね?先ほどの手記、姫様の字でしたから。
それなら、思いつきや勢いで行動されたのではないのでしょうし、俺が言うことはありませんよ。
で、俺がこの二人を伴ってここに出向いたのは、姫様のお力になれると思ったからです。
少々、耳に痛い話も含まれますが……姫様が連れて来られている方々は、皆、姫様のお味方であるのですよね?それならば、人払いも必要無いでしょうから、このまま話を始めさせて頂きますよ」
何日もここで共に過ごしている配下の方々や近衛の方とは、もう充分面識もある。
人となりも、だいたい把握した。姫様の害となる様な方は含まれていないと、認識している。
「其方……そういう妙な胆力は、相変わらずだな。踏ん切りが良すぎて、たまに困る」
「俺には俺の根拠があるのですけどね?」
「其方にしか分からぬ根拠だわ。まあ、良い。其方がそう言い切るならば、問題無いということだ」
そう言った姫様が、花の綻ぶ様な笑顔を振りまくものだから、その美しさについ見とれてしまった。慌てて視線を逸らす。
や、やっぱり慣れない……女性の表情をされるのだものな……。やっぱりクリスタ様とは、どこかが違う。
「……どうした、照れたのか?
苦しゅうないぞ、たんと拝むが良かろう」
「い、良いです……充分です。……覗き込まないでくださいよ⁉︎」
わざわざ小机を回ってきて、顔を覗き込もうとするので慌てて逃げた。
女性は慣れないんですよ! お願いですから、揶揄わないで下さいよ⁉︎
そんな俺の様子にリーカ様のほほほと笑う声。余計恥ずかしくなって顔の火照りがおさまらない……っ。
「其方……図体ばかり育ったくせに、肝の小ささは相変わらずよな。
私が王族であったことより、女であったこと方が問題か」
「そうですよ! 悪かったですね⁉︎
ほんと慣れてないんですよ、知ってるでしょう⁉︎」
「知ってる……思い出した、お主、身代わりの茶会でも、どこぞの姫君に話し掛けられる度に、逃げ惑っておったよな」
「思惑が透けて見えるんですよ⁉︎ 逃げますよそりゃあ!」
話し掛けてきた姫自身や、同行する親族が、クリスタ様との関係から、家や身分での便宜を希望しているのが透けて見える場合があるのだ。
俺がヘマをした所為で大ごとになったのではたまらないから、必死で逃げていた。
あれは別に、女性からだけ逃げていたのではない。
「くくく……良い良い。其方が学舎の頃のまま、変わらぬ様でで安心したのだ。
其方は、変わらぬと思ってはいたのだが……身分では、確かに変わらぬのだからなぁ」
よく分からないことを呟きつつ、姫様が腹を抱えて笑う。
そして小さな声で「やはり、其方だと思うがな」と、呟くのが聞こえたが、それを振り切る様に顔を上げた。
「さて、揶揄っておっても話が進まぬな。
後ろの二人が居心地悪そうにしておることだし、本題に入るとしよう。
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