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影 5
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やっと本題に戻った姫様に、胸をなで下ろす。
ああもぅ……けれど、この状況に絶望されているよりは、良い。
俺は、自分の中で組み立てられたある形を、現実に引き寄せる為、口を開く。
「まず、リカルド様との婚儀を執り行わないで済む様、王家の系譜を手に入れたいのです。
公爵家との婚儀を繰り返していることが、白化の原因ではないかと、サヤが」
そこからは、先程応接室で話し合った内容を、かいつまんで説明した。
白化という病が、血筋に刻まれている可能性があること。
血が濃くなりすぎることで、本来は表に出てこない特性が、顕在化すること。
その血が濃くなるという現象は、近しい関係の婚姻により発生すること。
それを証明する為に、系譜を吟味したいということ。
日々の雨量を記していた表も持参した。縦軸に出産率、死亡率、白化率を。横軸に年代を記し、合計を点で刻み、線で繋げることで見えてくるものがあることを、説明する。
「サヤの国では、血が濃くなりすぎることを禁じております。
実際、その血の濃さによって、フェルドナレン王家と似た状況を招き、滅んだ血族というのが存在したのだそうです。
なので系譜を見返し、出産率や死亡率、分かるならば白化率を調べ、この表にします。
血が濃くなるということ自体は証明のしようがありませんが、出産に対しての死亡率、白化率を年代ごとに追えば、サヤの言う、血の濃さが招く弊害が、数に現れてくる可能性があります」
「待て、その一族がたまたま、そんな風に見えただけであるかもしれぬとは、思わぬのか?
三親等だったか?確かに我々はそういった結婚がたまにあるが、それによる弊害を感じておる者は、いない様に思えるぞ……」
「それは、一夫多妻制故に、あまり意識されないのではないでしょうか。
複数の妻があり、合計で五人子がいる。と考えれば普通のことです。
ですがもし、家柄の格が近い第一夫人の子だけ死亡率が高く、第二夫人以降や、妾の子は元気に育つ。となると、違ってきますよね」
「む……」
「一つの血筋だけで見れば、たまたま第一夫人のお子が虚弱であったと、考えれば済みますが、それが多数の血筋で、何代にも渡って続いていたら?」
サヤの指摘に、姫様が顎に手を当て、考え込む。
王族は十五歳まで育たなければ、存在を公表されない。もしかしたら貴族間でも、出産直後の死は伏せられているかもしれない。
「私が例に挙げたハプスブルグ家ですが、この家系だけに問題が起こったわけではないのです。沢山の高貴な身分の一族が、あの当時は似た様な状況であった様です。
多く生まれた子のうち一年内に死亡する子がことのほか多く、十歳まで成長する間に、更に死亡、無事成人できた者は、一握り。またそうして成人した方も、精神や肉体的な疾患が多かったそうです。
結局、そのハプスブルク家の最後の当主は、精神的に不安定な方であった上に、不能であった為、二度結婚するも子孫は残せず、家は滅びました。
このまま、血の濃度を上げ続ける結婚を繰り返すと、同じ末路を辿る可能性は、低くないと思われます」
子を成せなくなる可能性がある。というのは、恐ろしい話だろう。
なくてはならない、王家を存続させる唯一つの手段なのだ。
サヤはそこまで断じたくないといった表情だが、最悪の場合を強調する様にとマルに念押しされている為、頑張っている様子だ。
サヤの言葉に、リーカ様を始め、配下の方々もざわめいている。
だがそこで姫様は、ため息を一つ吐き、こう続けた。
「可能性。それが問題だ。そこまで行き着かねば、証明出来ぬのだからな」
「そこまで行き着けば最後です。ですから、このグラフを利用するんです」
サヤが、雨量のグラフをパンと叩く。
「これは、未来予測にも使えます。
例えば出産率が年々低下していたとします、そうなると、点と線が、どんどん下降していく。現在までのその下降線を未来まで繋げていけば、未来が予想できます。
当然予測ですから、正確な数値ではありませんが、根拠が無いわけではありません。
過去の比率を計算して、未来に反映させるのですから」
「系譜さえ手に入れられれば、その辺りの計算は僕が担当しますよ。
時間があるのなら、系譜ごと持ち帰って検証し直して頂けば良いですし。
なんにしても、ここで系譜無しにこのやり取りを続けていても実りはありません。
まずは、表を作ってみるべきですよ。目の前の数値を見てから、信憑性を判断して下さい。
それにね、このままを続けていくことは、象徴派の方々を含め、家臣の方々にとって得策ではないのです。象徴にするどころか、王家、滅んじゃいますからね。
この表を国王様に理解して頂ければ、婚儀の先延ばしも可能かと思われますよ。
なにせ、滅びの子を成しても意味ありませんから」
ズバズバと言葉を選ばず喋るマルに、配下の方々一同が慄いているのが分かる。
しかし、その中から一人の従者が意を決して、口を開いた。
「系譜を今から手に入れて、間に合うのか?
姫様の猶予は雨季の間に限られている。もう、半ばを過ぎたというのに……」
「系譜ですが、ここから一番近場で手に入れられる場所となると、王家かと思うのですが、間違いありませんね?
ならば、信頼できる方の手助けがあれば、最短八日で、持ち帰ることが可能ですよ。
できれば十日程頂ければと思いますが」
「よ、八日⁉︎ 早馬を潰しながら飛ばすつもりか⁉︎」
普通に考えて片道の時間だ。早馬を潰してと表現されたが、それでも八日で往復は無理だろう。馬の数が相当数必要となるし、潰れる度に都合良く調達は出来ない。
「そこは秘密です。蛇の道は蛇と申しますでしょう? レイ様に伝手がありますから、お任せ頂けませんか? 正直、姫様でなければ、お断りさせて頂きたいほどの、奥の手なので」
「いや、奥の手って、物理的に無……」
無理だろうと言い募ろうとする従者の前に、姫様の手がすっと上がり、遮った。
「下がれ。マルクスが是と言うならば、それをするのだろう。
レイシール……其方の伝手、使わせて貰う。目的が叶った暁には、それなりの報酬を約束しよう」
そう言った姫様に、マルがにんまりと笑う。俺の特別な伝手を強調していたので、多分報酬を要求しているのだとは思っていた。だが、その姫様のお言葉だけでは不満であるらしい。
「姫様、口約束だけでは困っちゃいます。
レイ様の伝手は、他のどんな貴族も持ち合わせておられない、特別なものなのですよ。
レイ様にしか使えませんし、レイ様だっておいそれと使おうとはなさいません。それくらいのものなのです」
「…………何が望みだ」
「そうですね、レイ様の願いをひとつ、聞き届けて下さるというのでどうです?
証文も用意させて頂きます」
「良かろう」
「姫様⁉︎」
「こやつは王にしてやるというのを、即座に断ってくる奴だからな」
それ以上のものは要求されまい。
姫様の呟きに、リーカ様がくすくすと笑う。
俺のことを俺抜きで決めるなよとマルを睨むが、必要なことなんですよと微笑まれてしまった。
「……まあ良い。
系譜を手に入れるなら、私が一筆認めよう。ディルスという名の門番に、手渡せば良い。それを中の手の者に託してくれよう。持ち出す機会を探るのに、少し日数は掛かると思うが、女中に門外まで持ち出させる。それを指定の者に渡す様、指示しておく。
系譜を手に入れ、そのグラフとやらを作り上げたとしても、父上が私を王とすることを受け入れるとは思えぬが……まさかこれだけが、其方の手であるとは、言わぬよな?」
皮肉げに姫様が言う。
その言葉に、サヤの心配そうな視線が、俺を見たのを肌で感じる。
ええ勿論、それだけだとは言いませんとも。
「姫様を王へと推す、心強い味方をご用意致します」
啖呵を切った。
必ずそれを成すのだという、決意を込めて。
勝算はあると思っている。後は情報と、俺次第であるはずだ。
「……その様な、大口を叩いて、良いのか?」
困惑顔の姫様。小心者の俺が大言壮語を吐いたのだ。驚くだろう。
その姫様に向かい、俺はできるだけ鮮やかに見える様、口角を上げて笑う。
「雨季の終わりと共に、憂いなく王都にご帰還頂けよう、全力で挑みます。
どうぞ心安らかに、お待ち下さい」
胸に手を当てて、臣下の礼をとる。
懐かしいなと、心の奥で思っていた。
学舎に居た頃を思い出す。模擬演習の対抗戦で、自軍の将に作戦立案をする際は、この様にしたのだ。
お互い気心の知れた者同士、少々照れつつも、勝たねばならぬので真剣だった。
任せたぞ。ヘマするなよと肩を叩き合い、少々無理な作戦にも、気合を入れて挑んでいたのを、懐かしく感じる。
その時の高揚感を、思い出す。あの頃の俺は、ある意味一番、心が自由だった。
自然と口角が、持ち上がる。表情を作るのではない、自然と笑みが浮かんだ。
「…………其方がその顔をするなら、任せるしか無いだろうな……」
姫様がそう言い、自身の顔を手で覆う。
その後ろの方で、リーカ様ともう一人の女中殿が、お互いの手を取り合って目を潤ませ、先ほど問いかけてきていた従者の方も、真っ赤になって固まっていたのだが、俺の意識はそちらには向いていなかった。
「其方……蕩心の微笑みには磨きが掛かったな……」
顔を隠した姫様が、そう呟いたのだが、それも小声すぎて、俺には届いていなかった。
ああもぅ……けれど、この状況に絶望されているよりは、良い。
俺は、自分の中で組み立てられたある形を、現実に引き寄せる為、口を開く。
「まず、リカルド様との婚儀を執り行わないで済む様、王家の系譜を手に入れたいのです。
公爵家との婚儀を繰り返していることが、白化の原因ではないかと、サヤが」
そこからは、先程応接室で話し合った内容を、かいつまんで説明した。
白化という病が、血筋に刻まれている可能性があること。
血が濃くなりすぎることで、本来は表に出てこない特性が、顕在化すること。
その血が濃くなるという現象は、近しい関係の婚姻により発生すること。
それを証明する為に、系譜を吟味したいということ。
日々の雨量を記していた表も持参した。縦軸に出産率、死亡率、白化率を。横軸に年代を記し、合計を点で刻み、線で繋げることで見えてくるものがあることを、説明する。
「サヤの国では、血が濃くなりすぎることを禁じております。
実際、その血の濃さによって、フェルドナレン王家と似た状況を招き、滅んだ血族というのが存在したのだそうです。
なので系譜を見返し、出産率や死亡率、分かるならば白化率を調べ、この表にします。
血が濃くなるということ自体は証明のしようがありませんが、出産に対しての死亡率、白化率を年代ごとに追えば、サヤの言う、血の濃さが招く弊害が、数に現れてくる可能性があります」
「待て、その一族がたまたま、そんな風に見えただけであるかもしれぬとは、思わぬのか?
三親等だったか?確かに我々はそういった結婚がたまにあるが、それによる弊害を感じておる者は、いない様に思えるぞ……」
「それは、一夫多妻制故に、あまり意識されないのではないでしょうか。
複数の妻があり、合計で五人子がいる。と考えれば普通のことです。
ですがもし、家柄の格が近い第一夫人の子だけ死亡率が高く、第二夫人以降や、妾の子は元気に育つ。となると、違ってきますよね」
「む……」
「一つの血筋だけで見れば、たまたま第一夫人のお子が虚弱であったと、考えれば済みますが、それが多数の血筋で、何代にも渡って続いていたら?」
サヤの指摘に、姫様が顎に手を当て、考え込む。
王族は十五歳まで育たなければ、存在を公表されない。もしかしたら貴族間でも、出産直後の死は伏せられているかもしれない。
「私が例に挙げたハプスブルグ家ですが、この家系だけに問題が起こったわけではないのです。沢山の高貴な身分の一族が、あの当時は似た様な状況であった様です。
多く生まれた子のうち一年内に死亡する子がことのほか多く、十歳まで成長する間に、更に死亡、無事成人できた者は、一握り。またそうして成人した方も、精神や肉体的な疾患が多かったそうです。
結局、そのハプスブルク家の最後の当主は、精神的に不安定な方であった上に、不能であった為、二度結婚するも子孫は残せず、家は滅びました。
このまま、血の濃度を上げ続ける結婚を繰り返すと、同じ末路を辿る可能性は、低くないと思われます」
子を成せなくなる可能性がある。というのは、恐ろしい話だろう。
なくてはならない、王家を存続させる唯一つの手段なのだ。
サヤはそこまで断じたくないといった表情だが、最悪の場合を強調する様にとマルに念押しされている為、頑張っている様子だ。
サヤの言葉に、リーカ様を始め、配下の方々もざわめいている。
だがそこで姫様は、ため息を一つ吐き、こう続けた。
「可能性。それが問題だ。そこまで行き着かねば、証明出来ぬのだからな」
「そこまで行き着けば最後です。ですから、このグラフを利用するんです」
サヤが、雨量のグラフをパンと叩く。
「これは、未来予測にも使えます。
例えば出産率が年々低下していたとします、そうなると、点と線が、どんどん下降していく。現在までのその下降線を未来まで繋げていけば、未来が予想できます。
当然予測ですから、正確な数値ではありませんが、根拠が無いわけではありません。
過去の比率を計算して、未来に反映させるのですから」
「系譜さえ手に入れられれば、その辺りの計算は僕が担当しますよ。
時間があるのなら、系譜ごと持ち帰って検証し直して頂けば良いですし。
なんにしても、ここで系譜無しにこのやり取りを続けていても実りはありません。
まずは、表を作ってみるべきですよ。目の前の数値を見てから、信憑性を判断して下さい。
それにね、このままを続けていくことは、象徴派の方々を含め、家臣の方々にとって得策ではないのです。象徴にするどころか、王家、滅んじゃいますからね。
この表を国王様に理解して頂ければ、婚儀の先延ばしも可能かと思われますよ。
なにせ、滅びの子を成しても意味ありませんから」
ズバズバと言葉を選ばず喋るマルに、配下の方々一同が慄いているのが分かる。
しかし、その中から一人の従者が意を決して、口を開いた。
「系譜を今から手に入れて、間に合うのか?
姫様の猶予は雨季の間に限られている。もう、半ばを過ぎたというのに……」
「系譜ですが、ここから一番近場で手に入れられる場所となると、王家かと思うのですが、間違いありませんね?
ならば、信頼できる方の手助けがあれば、最短八日で、持ち帰ることが可能ですよ。
できれば十日程頂ければと思いますが」
「よ、八日⁉︎ 早馬を潰しながら飛ばすつもりか⁉︎」
普通に考えて片道の時間だ。早馬を潰してと表現されたが、それでも八日で往復は無理だろう。馬の数が相当数必要となるし、潰れる度に都合良く調達は出来ない。
「そこは秘密です。蛇の道は蛇と申しますでしょう? レイ様に伝手がありますから、お任せ頂けませんか? 正直、姫様でなければ、お断りさせて頂きたいほどの、奥の手なので」
「いや、奥の手って、物理的に無……」
無理だろうと言い募ろうとする従者の前に、姫様の手がすっと上がり、遮った。
「下がれ。マルクスが是と言うならば、それをするのだろう。
レイシール……其方の伝手、使わせて貰う。目的が叶った暁には、それなりの報酬を約束しよう」
そう言った姫様に、マルがにんまりと笑う。俺の特別な伝手を強調していたので、多分報酬を要求しているのだとは思っていた。だが、その姫様のお言葉だけでは不満であるらしい。
「姫様、口約束だけでは困っちゃいます。
レイ様の伝手は、他のどんな貴族も持ち合わせておられない、特別なものなのですよ。
レイ様にしか使えませんし、レイ様だっておいそれと使おうとはなさいません。それくらいのものなのです」
「…………何が望みだ」
「そうですね、レイ様の願いをひとつ、聞き届けて下さるというのでどうです?
証文も用意させて頂きます」
「良かろう」
「姫様⁉︎」
「こやつは王にしてやるというのを、即座に断ってくる奴だからな」
それ以上のものは要求されまい。
姫様の呟きに、リーカ様がくすくすと笑う。
俺のことを俺抜きで決めるなよとマルを睨むが、必要なことなんですよと微笑まれてしまった。
「……まあ良い。
系譜を手に入れるなら、私が一筆認めよう。ディルスという名の門番に、手渡せば良い。それを中の手の者に託してくれよう。持ち出す機会を探るのに、少し日数は掛かると思うが、女中に門外まで持ち出させる。それを指定の者に渡す様、指示しておく。
系譜を手に入れ、そのグラフとやらを作り上げたとしても、父上が私を王とすることを受け入れるとは思えぬが……まさかこれだけが、其方の手であるとは、言わぬよな?」
皮肉げに姫様が言う。
その言葉に、サヤの心配そうな視線が、俺を見たのを肌で感じる。
ええ勿論、それだけだとは言いませんとも。
「姫様を王へと推す、心強い味方をご用意致します」
啖呵を切った。
必ずそれを成すのだという、決意を込めて。
勝算はあると思っている。後は情報と、俺次第であるはずだ。
「……その様な、大口を叩いて、良いのか?」
困惑顔の姫様。小心者の俺が大言壮語を吐いたのだ。驚くだろう。
その姫様に向かい、俺はできるだけ鮮やかに見える様、口角を上げて笑う。
「雨季の終わりと共に、憂いなく王都にご帰還頂けよう、全力で挑みます。
どうぞ心安らかに、お待ち下さい」
胸に手を当てて、臣下の礼をとる。
懐かしいなと、心の奥で思っていた。
学舎に居た頃を思い出す。模擬演習の対抗戦で、自軍の将に作戦立案をする際は、この様にしたのだ。
お互い気心の知れた者同士、少々照れつつも、勝たねばならぬので真剣だった。
任せたぞ。ヘマするなよと肩を叩き合い、少々無理な作戦にも、気合を入れて挑んでいたのを、懐かしく感じる。
その時の高揚感を、思い出す。あの頃の俺は、ある意味一番、心が自由だった。
自然と口角が、持ち上がる。表情を作るのではない、自然と笑みが浮かんだ。
「…………其方がその顔をするなら、任せるしか無いだろうな……」
姫様がそう言い、自身の顔を手で覆う。
その後ろの方で、リーカ様ともう一人の女中殿が、お互いの手を取り合って目を潤ませ、先ほど問いかけてきていた従者の方も、真っ赤になって固まっていたのだが、俺の意識はそちらには向いていなかった。
「其方……蕩心の微笑みには磨きが掛かったな……」
顔を隠した姫様が、そう呟いたのだが、それも小声すぎて、俺には届いていなかった。
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