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仮面 4
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「この病は、身体の構造に、問題が生じるものです。ですから、取り除くことが出来ません」
「……ふ……なんと……病ならばと希望を持ちかけたのに、叩き落とされた心地だ」
「申し訳ありません。ですが、知らないままでおくことは、クリスタ様の行動を、縛ってしまうと思いました」
クリスタ様が、サヤを鋭く睨む。俺は、とっさに立ち上がって、サヤを背に庇った。
「も、申し訳ありません! で、ですが……サヤの言うことも、一理、あると思うのです。
病のことを知れば、気を付けるべきことが分かれば、クリスタ様はもっと、足を踏み出せる様になる。手探りで進まずとも、良くなるのです。
サヤは、クリスタ様にとって毒となるものは、陽の光全てではなく、その一部だと俺に言いました。それは、絹である程度、遮ることが出来るそうです。だから、帳を絹にした。
色を黒くしたのも、光を吸収し、クリスタ様に届く光量を調整出来る様にと配慮したからです。
この者は、クリスタ様に仇をなすつもりで、ああ言ったのではありません、サヤは、ただ優しいのです。その方が貴方の為になると思ったからこそ、口にしたのです!」
「……治らぬ病と聞いて、どう前向きになれば良いのだ? そのどこに、希望を持てば良い。
僕の願いは絶たれた。どれだけ努力しても、僕は健康になれない……呪いに抗えない……。……僕は……あとどれくらい、生きられるんだ?」
沈んで、掠れた声。俺越しに、サヤを睨みつけるクリスタ様の瞳が、憎悪にも似た炎を宿している。リーカ様や、他の使用人の方々も、サヤに鋭い視線を送っていた。
陽の光の毒を拒む術を持たず、治るわけでもない病を抱えて、一生を生きることになると、知らされたのだ。サヤを睨みつけたくなる気持ちも、分かる。けれど、サヤは……きっと、意味があって、そう口にした。ただ傷付ける為に、真実を告げたわけじゃない筈だ!
「……寿命については、分かりません。クリスタ様の場合、症状を聞いた限りは、ただ色を作れないだけのようです。
人より光の毒を、体に溜め込む体質ですから、光を浴び過ぎない様に注意して頂きさいすれば、それ以外は、他の人と変わらぬと聞いています」
クリスタ様が、呆気に取られた様に、口を開いて固まった。
「……他の者と、変わらぬだと?」
「はい。私の国では、病と寿命は関係しない。と、されています。
もし、短命となるのだとしたら、それは陽の光を考慮せず、瞳や身体を酷使するからです。
ですから、お伝えしました。
陽の光を我慢して、普通に見える様に無理をされることが、お身体への毒なのです。
ご自愛下さい。無理をせず、ちゃんと身体を労って下さい。そうすれば、疲れは取れます。
……お身内の方にも、似た症状の方がいらっしゃるのなら……ここで私が用意したもの、注意したことを、取り入れてみて頂ければ……多少は、違うかもしれません」
サヤの言葉に違和感を覚えた。
最後に付け足された一言が、引っかかったのだ。
アギー家で、クリスタ様以外に、クリスタ様の様な病の方がいらっしゃると、聞いたことはない。
とっさに振り返って、サヤを見る。
騎士の様に、凛々しいサヤは、拳を握って、手を震わせていた。
怖いのだ…………。
淡々と話していたけれど、サヤは、怖いのをこらえて、知識を晒していたのだ。
何を怖がっている?前、俺たちに教えてくれたことが、全てじゃないってことなのか?
そう思い、サヤの震える手に、俺の手を伸ばしかけたその時に、扉が叩かれた。
「ルオード。今、そこなサヤから、僕の病について聞いた。
その方、知っておったというのに、何故僕への報告が無かった」
やってきたルオード様に、クリスタ様が鋭くそう問う。
それに対しルオード様は、息を吐いて視線を上げた。
「サヤを見極めるのを優先したからです。その者の素性や思惑が、計りかねましたゆえ」
「それは其方が決めずとも良い。僕が僕の目で判断できる」
「……そうでしょうか……。クリスタ様は、近頃、気持ちが先走ってらっしゃる。
焦りのあまり、見るべきものを見ておらぬことが増えた様に思えますが」
冷めた視線で、長椅子に座るクリスタ様を、ルオード様が見下ろして、そう言った。
何か、お二人の間に隔たりの様なものを感じて、驚いてしまう。
ルオード様が、そんな風に、距離を開けた態度を取るだなんてことが、信じられなかった。
いや、違う……少し前から、違和感は感じていた。
学舎に居た頃のルオード様は、何があっても、ただ優しく、微笑んでいらっしゃる様な方だった。クリスタ様の言い分が間違っていたのだとしても、突き放してしまわれたりしなかった。
いつも寄り添って、優しく諭して、そっと身を引く様な……そんな方だったのだ。
勿論、ルオード様だって怒るときは怒る。喧嘩した仲間を、冷めた目で睥睨して黙らせていたことだってあったけれど、それをクリスタ様にされているのを、見たことはない。
なのに、先日クリスタ様を叱責された時、ルオード様は、違った……。
俺に近衛となれと強要したクリスタ様を、あの行動は論外だと、傷つけるのを厭わず口にされたのだ。
だけど…………サヤの知識に疑念を抱いた時のルオード様は、本気だったよな……?
過剰な程だった。あれは、クリスタ様を心配したから、あんな風に警戒したのだよな?
なんだろう……この違和感は。
「僕が、正しく判断できないと言いたいのか」
「……結果ありきで、見ていらしゃる様に見受けられます。
普段の貴方ならば、優先順位を間違えたりなさいません。
……いえ、申し訳ありません。もう従者でもありませんのに、出過ぎたことを申しました」
キリキリと張り詰めた雰囲気で言い合いをしていたというのに、ルオード様は、クリスタ様のと会話を打ち切るかの様に、さっさと引き下がる。
今はもう、そんな関係じゃないと、距離を空けた。そのルオード様の態度に、クリスタ様が傷付いた様な顔をされる。
居た堪れなかった。
今の俺と、クリスタ様が、重なって見える。
サヤに距離を置かれた俺。ルオード様に距離を置かれたクリスタ様。
苦しい……それが、手に取るように分かるのだ。
「あ、あの……ルオード様。サヤと俺の見極めは、もう、お済みなのですか?」
場の雰囲気を断ち切りたくて、そう口にする。
するとルオード様が、視線を俺に向けてきた。
背に庇うサヤを、俺越しに見る。
「……そうだね。あらかたは。
其の者は……確かに、悪意や、何かしらの目的があって、行動している風ではない。
あの強さを身につけた理由も、ディートから、報告を受けたよ。
だが、知識の出所が、私にはどうにも、見出せない」
ルオード様の視線が鋭くなった。
咄嗟に手を背後に回し、サヤの腕を掴む。
怖がらなくて良い、絶対に守る。そう、伝えたくて。
だがサヤは、その俺の手を、やんわりと振り解いた。
「……ふ……なんと……病ならばと希望を持ちかけたのに、叩き落とされた心地だ」
「申し訳ありません。ですが、知らないままでおくことは、クリスタ様の行動を、縛ってしまうと思いました」
クリスタ様が、サヤを鋭く睨む。俺は、とっさに立ち上がって、サヤを背に庇った。
「も、申し訳ありません! で、ですが……サヤの言うことも、一理、あると思うのです。
病のことを知れば、気を付けるべきことが分かれば、クリスタ様はもっと、足を踏み出せる様になる。手探りで進まずとも、良くなるのです。
サヤは、クリスタ様にとって毒となるものは、陽の光全てではなく、その一部だと俺に言いました。それは、絹である程度、遮ることが出来るそうです。だから、帳を絹にした。
色を黒くしたのも、光を吸収し、クリスタ様に届く光量を調整出来る様にと配慮したからです。
この者は、クリスタ様に仇をなすつもりで、ああ言ったのではありません、サヤは、ただ優しいのです。その方が貴方の為になると思ったからこそ、口にしたのです!」
「……治らぬ病と聞いて、どう前向きになれば良いのだ? そのどこに、希望を持てば良い。
僕の願いは絶たれた。どれだけ努力しても、僕は健康になれない……呪いに抗えない……。……僕は……あとどれくらい、生きられるんだ?」
沈んで、掠れた声。俺越しに、サヤを睨みつけるクリスタ様の瞳が、憎悪にも似た炎を宿している。リーカ様や、他の使用人の方々も、サヤに鋭い視線を送っていた。
陽の光の毒を拒む術を持たず、治るわけでもない病を抱えて、一生を生きることになると、知らされたのだ。サヤを睨みつけたくなる気持ちも、分かる。けれど、サヤは……きっと、意味があって、そう口にした。ただ傷付ける為に、真実を告げたわけじゃない筈だ!
「……寿命については、分かりません。クリスタ様の場合、症状を聞いた限りは、ただ色を作れないだけのようです。
人より光の毒を、体に溜め込む体質ですから、光を浴び過ぎない様に注意して頂きさいすれば、それ以外は、他の人と変わらぬと聞いています」
クリスタ様が、呆気に取られた様に、口を開いて固まった。
「……他の者と、変わらぬだと?」
「はい。私の国では、病と寿命は関係しない。と、されています。
もし、短命となるのだとしたら、それは陽の光を考慮せず、瞳や身体を酷使するからです。
ですから、お伝えしました。
陽の光を我慢して、普通に見える様に無理をされることが、お身体への毒なのです。
ご自愛下さい。無理をせず、ちゃんと身体を労って下さい。そうすれば、疲れは取れます。
……お身内の方にも、似た症状の方がいらっしゃるのなら……ここで私が用意したもの、注意したことを、取り入れてみて頂ければ……多少は、違うかもしれません」
サヤの言葉に違和感を覚えた。
最後に付け足された一言が、引っかかったのだ。
アギー家で、クリスタ様以外に、クリスタ様の様な病の方がいらっしゃると、聞いたことはない。
とっさに振り返って、サヤを見る。
騎士の様に、凛々しいサヤは、拳を握って、手を震わせていた。
怖いのだ…………。
淡々と話していたけれど、サヤは、怖いのをこらえて、知識を晒していたのだ。
何を怖がっている?前、俺たちに教えてくれたことが、全てじゃないってことなのか?
そう思い、サヤの震える手に、俺の手を伸ばしかけたその時に、扉が叩かれた。
「ルオード。今、そこなサヤから、僕の病について聞いた。
その方、知っておったというのに、何故僕への報告が無かった」
やってきたルオード様に、クリスタ様が鋭くそう問う。
それに対しルオード様は、息を吐いて視線を上げた。
「サヤを見極めるのを優先したからです。その者の素性や思惑が、計りかねましたゆえ」
「それは其方が決めずとも良い。僕が僕の目で判断できる」
「……そうでしょうか……。クリスタ様は、近頃、気持ちが先走ってらっしゃる。
焦りのあまり、見るべきものを見ておらぬことが増えた様に思えますが」
冷めた視線で、長椅子に座るクリスタ様を、ルオード様が見下ろして、そう言った。
何か、お二人の間に隔たりの様なものを感じて、驚いてしまう。
ルオード様が、そんな風に、距離を開けた態度を取るだなんてことが、信じられなかった。
いや、違う……少し前から、違和感は感じていた。
学舎に居た頃のルオード様は、何があっても、ただ優しく、微笑んでいらっしゃる様な方だった。クリスタ様の言い分が間違っていたのだとしても、突き放してしまわれたりしなかった。
いつも寄り添って、優しく諭して、そっと身を引く様な……そんな方だったのだ。
勿論、ルオード様だって怒るときは怒る。喧嘩した仲間を、冷めた目で睥睨して黙らせていたことだってあったけれど、それをクリスタ様にされているのを、見たことはない。
なのに、先日クリスタ様を叱責された時、ルオード様は、違った……。
俺に近衛となれと強要したクリスタ様を、あの行動は論外だと、傷つけるのを厭わず口にされたのだ。
だけど…………サヤの知識に疑念を抱いた時のルオード様は、本気だったよな……?
過剰な程だった。あれは、クリスタ様を心配したから、あんな風に警戒したのだよな?
なんだろう……この違和感は。
「僕が、正しく判断できないと言いたいのか」
「……結果ありきで、見ていらしゃる様に見受けられます。
普段の貴方ならば、優先順位を間違えたりなさいません。
……いえ、申し訳ありません。もう従者でもありませんのに、出過ぎたことを申しました」
キリキリと張り詰めた雰囲気で言い合いをしていたというのに、ルオード様は、クリスタ様のと会話を打ち切るかの様に、さっさと引き下がる。
今はもう、そんな関係じゃないと、距離を空けた。そのルオード様の態度に、クリスタ様が傷付いた様な顔をされる。
居た堪れなかった。
今の俺と、クリスタ様が、重なって見える。
サヤに距離を置かれた俺。ルオード様に距離を置かれたクリスタ様。
苦しい……それが、手に取るように分かるのだ。
「あ、あの……ルオード様。サヤと俺の見極めは、もう、お済みなのですか?」
場の雰囲気を断ち切りたくて、そう口にする。
するとルオード様が、視線を俺に向けてきた。
背に庇うサヤを、俺越しに見る。
「……そうだね。あらかたは。
其の者は……確かに、悪意や、何かしらの目的があって、行動している風ではない。
あの強さを身につけた理由も、ディートから、報告を受けたよ。
だが、知識の出所が、私にはどうにも、見出せない」
ルオード様の視線が鋭くなった。
咄嗟に手を背後に回し、サヤの腕を掴む。
怖がらなくて良い、絶対に守る。そう、伝えたくて。
だがサヤは、その俺の手を、やんわりと振り解いた。
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