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雨季 2
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「意味が分からん! なんでああなる⁉︎」
「凄いな。まさか葡萄に移るとは思わなかった」
試作で作ったという炭酸葡萄は、みんなの胃袋に見事収まった。
使用人の皆にも好評だった様子だ。
だってな、葡萄が口の中でしゅわしゅわするんだ! 炭酸水はあまり得意ではなかったが、これはちょっと楽しい。葡萄の味だから美味だし。
大量の家具や荷物も無事玄関広間に入れることが叶ったので現在は昼食時間だ。
ギルのところの使用人達には、一筆を持って食事処に向かってもらった。
五食程は多めに食事を用意しているし、料理人とユミルたちは、賄いを食さず試作を製作し、食べているので、急な人数だが大丈夫だとサヤが言ったからだ。
「炭酸水って瓶で買えるんですね。それが分かったので、挑戦してみたんです。
作り方は本当に簡単ですよ。炭酸の入った瓶に、果物を入れて、数時間置くだけです。冷やすとより美味しいですけど。瓶の口が細いので、小さなものしか入らないのが残念ですね。
一晩漬け込むなら、皮を剥かないで入れる方が良いです。苦味が出ませんから」
「おいっ⁉︎ つ、作り方公言したら駄目だろ! 料理人が首を吊るぞ‼︎」
「ああ、うちは良いんです。作り方は教え合う方針でやってるので」
俺がそう言うと、ディート殿が口を開けて固まった。
うん。これを言うと大抵の人がそんな顔になる。
しかし、とりあえず俺の方針として、そう公言すると決まったので、そうしている。
まあ、料理人本人が公言しているので、全く何の問題も無いのだが、そこは伏せているので仕方がない。
「俺が王都に帰ってこれを売り出したりしたらどうするのだ⁉︎」
「ああ、どうぞ。構いませんよ。
こんな片田舎なので、さした影響は受けないですしね」
「ディート様の故郷に、炭酸水の源泉があるなら、直接漬けておくのをお勧めしますよ」
「いや、ちょっと!」
「サヤさん、葡萄以外でも出来るんですか?」
慌てるディート殿をよそに、ルーシーが興味津々でサヤに聞く。
サヤはというと、あっさり「ええ、出来ます」と、答えるものだから、ディート殿は天を仰いでしまった。まあ、我々の常識から考えると、そんな顔になるな。
「桃と苺は作ってみたことがあります」
「桃は、瓶には入らないですよね?」
「密閉出来る容器があれば良いのですけどね。あとは、先程言った様に。湧いた水に直接入れるかです。口が開いていると、炭酸が抜けていってしまいますから」
「そうなんですね。帰ったら、作ってみようかしら」
「是非。新しい果物にも挑戦してみて下さい。美味だったら教えて下さいね」
「はいっ」
ニコニコと笑顔のルーシー。サヤも微笑みを返す。
二人の微笑ましいやりとりが久しぶりで、その様子にとても癒されるものだから、俺もつい笑顔になる。
そんな風に見守っていたら、そういえばと、ギルが口を開いた。
「サヤ、丸紐と穴開きの金属板っていうの、持って来たんだが、どうすればいい」
「ああ、有難うございます。荷物の中ですか?」
「いや、ちょっと待て」
懐を探ったギルが、布の袋を取り出す。
それをサヤに差し出すと、サヤは有難うございますと、受け取った。そして、
「申し訳ありません、少し、席を外します」
と言い、食堂を後にしてしまった。
「どうしたんだ?」
「受け取ったものを部屋に置きにいっただけだと思いますよ。
そういえばルーシー、十七歳になったのだってね。おめでとう」
サヤが離席したのは、ルーシーが十七歳を迎えたからだ。ギルからの届け物で、ルーシーへの祝いの品を作るのだと報告を受けている。祝いの品を作るまでは、ルーシーに内緒にするとのことなので、俺が話を逸らそうと思ったわけだ。
俺の祝いの言葉に、ルーシーが吃驚した様に、「そんな、あ、ありがとうございます……」と、しどろもどろ答える。
「レイシール様に、お祝いの言葉を頂くだなんて、吃驚してしまいました」
「次にメバックへ出向いた時にと思っていたのだけど、来てくれたからね。
帳の件も、ルーシーに奔走してもらったのだろう? いつも世話になっているから」
「め、滅相もございません! 我々バート商会の方がよほどお世話になってます!」
あわあわと慌てるルーシー。
いや、俺は常に世話になりっぱなしだぞ。サヤのことでも、色々気を使ってもらっていると思う。だから、ふと思いついて、こんなことを聞いてみることにした。
「祝いの品をと思っているのだが、ルーシーは何か、欲しいものはあるか?」
サヤからだけである必要はない、俺だって渡しても良いだろう。
「ええええぇぇ、そんなっ、めめめ滅相もありません!」
「遠慮するな。俺とルーシーの仲だろうに」
笑ってそう言うと、そわそわと、ギルの様子を伺うルーシー。
ギルは、少々渋面で俺に「あんまり甘やかすなよ」と言ったが、言葉ほど遠慮している様子はない。
だから、にこりと笑って「なんでも良い。言ってごらん」と、促した。
「なんでも……ですか?」
「ああ、なんでも良い」
「……あの、では……」
一層縮こまりつつも、意を決した様にキュッと眉間に決意を込める。
「あのっ、雨季の間、こちらで女中見習いをさせていただきたいです!」
……予想の斜め上を行く欲しいものが帰って来た……。
ギルも想定していなかった答えであったらしく、口を開けて硬直したのち、慌ててルーシーの頭を掴む。
「欲しいものだっつったろうが! やりたいこと言ってどうする!」
「承諾が欲しいのだもの、間違ってないわっ!」
「迷惑だから駄目だって言ったよな⁉︎」
「叔父様が迷惑なだけでしょ!」
ギャンギャンやり合いを始めてしまった二人に、ディート殿は呆然とし、ハインは眉間にしわを寄せた。煩いなと顔に書いてある。しかし、関わるとややこしくなるので、知らぬふりを決め込んだ。ハイン……仲裁するとか、何か、もう少しあっても良いんじゃないのか?
「えっと、何故女中見習いをしたいんだ? ルーシーは、バート商会の後継だろうに」
とりあえず、事情を聞かないことには分からないなと思ったので聞いてみた。
するとルーシーは、
「私もお泊りしたいです!」
……お泊り?
「凄いな。まさか葡萄に移るとは思わなかった」
試作で作ったという炭酸葡萄は、みんなの胃袋に見事収まった。
使用人の皆にも好評だった様子だ。
だってな、葡萄が口の中でしゅわしゅわするんだ! 炭酸水はあまり得意ではなかったが、これはちょっと楽しい。葡萄の味だから美味だし。
大量の家具や荷物も無事玄関広間に入れることが叶ったので現在は昼食時間だ。
ギルのところの使用人達には、一筆を持って食事処に向かってもらった。
五食程は多めに食事を用意しているし、料理人とユミルたちは、賄いを食さず試作を製作し、食べているので、急な人数だが大丈夫だとサヤが言ったからだ。
「炭酸水って瓶で買えるんですね。それが分かったので、挑戦してみたんです。
作り方は本当に簡単ですよ。炭酸の入った瓶に、果物を入れて、数時間置くだけです。冷やすとより美味しいですけど。瓶の口が細いので、小さなものしか入らないのが残念ですね。
一晩漬け込むなら、皮を剥かないで入れる方が良いです。苦味が出ませんから」
「おいっ⁉︎ つ、作り方公言したら駄目だろ! 料理人が首を吊るぞ‼︎」
「ああ、うちは良いんです。作り方は教え合う方針でやってるので」
俺がそう言うと、ディート殿が口を開けて固まった。
うん。これを言うと大抵の人がそんな顔になる。
しかし、とりあえず俺の方針として、そう公言すると決まったので、そうしている。
まあ、料理人本人が公言しているので、全く何の問題も無いのだが、そこは伏せているので仕方がない。
「俺が王都に帰ってこれを売り出したりしたらどうするのだ⁉︎」
「ああ、どうぞ。構いませんよ。
こんな片田舎なので、さした影響は受けないですしね」
「ディート様の故郷に、炭酸水の源泉があるなら、直接漬けておくのをお勧めしますよ」
「いや、ちょっと!」
「サヤさん、葡萄以外でも出来るんですか?」
慌てるディート殿をよそに、ルーシーが興味津々でサヤに聞く。
サヤはというと、あっさり「ええ、出来ます」と、答えるものだから、ディート殿は天を仰いでしまった。まあ、我々の常識から考えると、そんな顔になるな。
「桃と苺は作ってみたことがあります」
「桃は、瓶には入らないですよね?」
「密閉出来る容器があれば良いのですけどね。あとは、先程言った様に。湧いた水に直接入れるかです。口が開いていると、炭酸が抜けていってしまいますから」
「そうなんですね。帰ったら、作ってみようかしら」
「是非。新しい果物にも挑戦してみて下さい。美味だったら教えて下さいね」
「はいっ」
ニコニコと笑顔のルーシー。サヤも微笑みを返す。
二人の微笑ましいやりとりが久しぶりで、その様子にとても癒されるものだから、俺もつい笑顔になる。
そんな風に見守っていたら、そういえばと、ギルが口を開いた。
「サヤ、丸紐と穴開きの金属板っていうの、持って来たんだが、どうすればいい」
「ああ、有難うございます。荷物の中ですか?」
「いや、ちょっと待て」
懐を探ったギルが、布の袋を取り出す。
それをサヤに差し出すと、サヤは有難うございますと、受け取った。そして、
「申し訳ありません、少し、席を外します」
と言い、食堂を後にしてしまった。
「どうしたんだ?」
「受け取ったものを部屋に置きにいっただけだと思いますよ。
そういえばルーシー、十七歳になったのだってね。おめでとう」
サヤが離席したのは、ルーシーが十七歳を迎えたからだ。ギルからの届け物で、ルーシーへの祝いの品を作るのだと報告を受けている。祝いの品を作るまでは、ルーシーに内緒にするとのことなので、俺が話を逸らそうと思ったわけだ。
俺の祝いの言葉に、ルーシーが吃驚した様に、「そんな、あ、ありがとうございます……」と、しどろもどろ答える。
「レイシール様に、お祝いの言葉を頂くだなんて、吃驚してしまいました」
「次にメバックへ出向いた時にと思っていたのだけど、来てくれたからね。
帳の件も、ルーシーに奔走してもらったのだろう? いつも世話になっているから」
「め、滅相もございません! 我々バート商会の方がよほどお世話になってます!」
あわあわと慌てるルーシー。
いや、俺は常に世話になりっぱなしだぞ。サヤのことでも、色々気を使ってもらっていると思う。だから、ふと思いついて、こんなことを聞いてみることにした。
「祝いの品をと思っているのだが、ルーシーは何か、欲しいものはあるか?」
サヤからだけである必要はない、俺だって渡しても良いだろう。
「ええええぇぇ、そんなっ、めめめ滅相もありません!」
「遠慮するな。俺とルーシーの仲だろうに」
笑ってそう言うと、そわそわと、ギルの様子を伺うルーシー。
ギルは、少々渋面で俺に「あんまり甘やかすなよ」と言ったが、言葉ほど遠慮している様子はない。
だから、にこりと笑って「なんでも良い。言ってごらん」と、促した。
「なんでも……ですか?」
「ああ、なんでも良い」
「……あの、では……」
一層縮こまりつつも、意を決した様にキュッと眉間に決意を込める。
「あのっ、雨季の間、こちらで女中見習いをさせていただきたいです!」
……予想の斜め上を行く欲しいものが帰って来た……。
ギルも想定していなかった答えであったらしく、口を開けて硬直したのち、慌ててルーシーの頭を掴む。
「欲しいものだっつったろうが! やりたいこと言ってどうする!」
「承諾が欲しいのだもの、間違ってないわっ!」
「迷惑だから駄目だって言ったよな⁉︎」
「叔父様が迷惑なだけでしょ!」
ギャンギャンやり合いを始めてしまった二人に、ディート殿は呆然とし、ハインは眉間にしわを寄せた。煩いなと顔に書いてある。しかし、関わるとややこしくなるので、知らぬふりを決め込んだ。ハイン……仲裁するとか、何か、もう少しあっても良いんじゃないのか?
「えっと、何故女中見習いをしたいんだ? ルーシーは、バート商会の後継だろうに」
とりあえず、事情を聞かないことには分からないなと思ったので聞いてみた。
するとルーシーは、
「私もお泊りしたいです!」
……お泊り?
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