異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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秘密 2

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「サヤっ……」
「え?……っ!    あ、その……」

 ついいつもの感覚で、口にしたのだと思う。
 サヤは、自身の世界の知識を引っ張り出してしまったことに……それをルオード様の目がある場所でしてしまったことに気付き、動揺した様に、視線を泳がせた。
 そして、血の気の引いた、青い顔で俯く。
 俺も、混乱していた。
 あの方の体質が、まさか病とは……しかもサヤが、それに対しての知識を有しているとは、考えもしていなかったのだ。
 ……いや、言い訳だ。サヤの知識が並外れていることを、分かっているべきだった。
 俺が、もっと意識していなければいけないことだった。ルオード様の目を。サヤの言動を。過去の自分を思い返している場合ではなかったんだ。

「病……と、言ったか」

 ルオード様が、低く、重い声でそう零す。普段の温和な雰囲気は無く、どこか張り詰めた声音だった。視線を鋭くし、値踏みする様にサヤを熟視しつつ、一歩を踏み出す。
 守らなければ。
 急いでサヤの前に身を割り込まそうとしたけれど、サヤの手がそれを阻んだ。

「はい……」
「其方は、あの方をご存知ない筈だ。なのに何故、病だと言う」
「……わ、私の国に……いらっしゃったのです。その様な病の方々が。
 その方々は、陽の光を浴びると、目や、皮膚が火傷してしまうのです。へ、部屋の中に居ても、それは一緒で……曇りなら、大丈夫だなんて、ことは、ありません。だから……」

 サヤは、クリスタ様をただ心配したのだと、その発言で分かった。
 前後の会話で、ただ部屋を用意したのでは駄目だと察し、慌てて助言したのだ。クリスタ様の体調を慮って。
 だが、病だと言ってしまったのが良くなかった。この世界の病は、悪魔の呪いだ。悪しきものに、魅入られているということなのだ。

「帳を暗色にとは、どういう意味だ。何故絹を選ぶ」
「帳……は……窓からの、光を……出来うる限り、吸収すべきと思って……。
 その……光は、壁や、床で、反射します……。白い壁の部屋が、少しの灯りで、明るく感じるのは、壁に当たった光が反射し、光度が増すからで……」

 サヤが言葉を重ねる度、ルオード様の眼光は鋭さを増し、逆にサヤは血の気が引いていった。
 手が白い、言葉も、細切れだ……怖いと、全身が訴えている。

「逆に黒は、光を吸収します。
 クリスタ様の、病は、光の中の、毒となるものを、身体が、受け付けないからで……出来る限り、光を入れない様に、するには……暗色の、帳が良いと、思ったのです……。絹は……その、光の、中の、毒と、なるものを、吸着する、比率が、高い、から……」
「なんなんだ……貴様は何故、その様なことを……っ。言え!    その情報はどこで得たものだ。貴様は、何を知っている‼︎」
「っひっ……!」

 ルオード様の疑念が、猜疑心が爆発した。
 そしてそれが、俺の我慢の限界でもあった。
 腕を伸ばすルオード様に、サヤが悲鳴を噛み殺し、身を縮こませて目を瞑る。

「おやめ下さい」

 ルオード様の手首を掴み、サヤに触れる前に阻止した。
 俺の取った行動に、ルオード様が驚いた様子で、動きを止めた。
 俺もすぐに手を離す。そして、そのままサヤの前に、身を割り込ませた。
 背中に、サヤが触れている。サヤの酷い震えが、伝わってくる。

「サヤは、クリスタ様を思いやっただけでしょう」
「この者は、我々しか知らぬはずのことを口にしたのだ!    退け、レイシール。貴様も斬るぞ」

 その言葉に、言葉同様の殺気を感じ、ルオード様が文字通り、サヤを斬ることも厭わない心算であることを理解した。なら、尚のこと引かない。引いてたまるか。

「退きません。サヤは私の従者です。この子は異国の者だ。異国の知識を有している。ただそれだけのことです」
「この様な子供が、あの様な知識を有しているのがそもそもおかしい!    光の反射?    吸収だと⁉︎    我々は、長くお側に仕えてきた。その経験則で知っていたことを……それをその子供は、あんな風に表現したのだぞ⁉︎    たかだか十四の子供の口が、この国の最高峰で学んだ我々の知らぬ知識を、当たり前の様に口にしたのだ!    それをおかしいと、何故思わない‼︎」

 その言葉に、クリスタ様の姿を思い出す。
 確かに彼の方は、暗い色合いの服を好んで身につけていた……。
 あれは、多少なりともましだと感じ、あの色合いを好まれていたということか。
 確かに、知らない事実だ……かなり構ってもらっていたと思える俺にも知らされていなかった。これはきっと、秘匿された情報だったのだ。
 そうだな……アギー公爵家の方なのだものな……。身体の有利、不利など、弱味になりかねないものは、公にできるはずがない。ただでさえ脆弱で、陽の光に弱い。知られるのは、隠しようもないこのことだけで、充分だ。
 だが、サヤの知識の出所は、サヤの世界だ。クリスタ様や、アギー公爵家とは、何の関わりもない。この子を疑うこと自体が大間違いだということが、俺には分かる。
 そこでふと気が付いた。
 妙だ。ルオード様は、何故こうも焦ってらっしゃるのだろう……。クリスタ様の体質が、病であると分かった。それの対処法を、サヤが知っていた。驚くことではあっても、そこまで警戒することであるとは、思えない。

「おかしな知識、尋常ではない武の体得。この様な子供の姿で?    この子供は、本当に子供なのか?    こんな妙なことが、あると思うか」
「思いますよ。私はルオード様よりサヤを知っております。サヤの知識は国で得たものだし、サヤの武術は、幼い頃に無体を働かれたからです。必死で身を鍛えただけのこと。
 だいたい、ここはセイバーンですよ。こんな片田舎の、男爵家に……しかも妾腹の二子で、学舎まで中退。成人してすらいない私に取り入って、何になるというのです?」

 気付けたから、冷静にそう答えることができた。
 俺の返答に、ルオード様が口を閉ざす。
 その様子を観察する。この方は、元、クリスタ様の従者で、今は、フェルドナレン王家近衛の一人だ。アギー公爵家とフェルドナレン王家は、繋がりが強い。いや、公爵家の全ては、王家と繋がりが強い。歴代の王妃は、多くが公爵家から嫁いでいるのだ。そして、今の王妃はアギー公爵家から嫁がれた方。
 もしかして、その辺が絡むのだろうか……?

「よくお考え下さい。クリスタ様がここにお越しになること自体が、事故です。予定もしていなければ、想像もしていなかったんですよ。
 だから家具だ帳だと、こんなに慌てることになった。
 なのに、サヤが何を企むというのですか。この子はただ、クリスタ様のお身体を心配しただけだ。お会いしたこともない彼の方を気遣って、最善を用意しようと進言しただけではないですか」
「悪魔の手先なら、クリスタ様に仕込んだ呪いを、知っているかもしれない。信用を得て近付く為に、あんな風に振る舞ったのかもしれない」

 悪魔なんて、誰も会ったことがないのに、そんなわけがない。それこそ神話だ。
 だが、クリスタ様が生まれた時から悪魔に魅入られていたと思うよりは、サヤを悪いものだと思い込む方が、自分を納得させられる。ということなのかもしれない。
 悪魔だとか、呪いだとか、病だとか……俺たちは、見えもしないものに、翻弄されている……。それは、本当に、正しいのか?    誰が正しいと保証するんだ?

 俺は、賭けに出ることにした。
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