123 / 1,121
命の価値 3
しおりを挟む
結局賊は捕まらず、現場には俺の投げた小刀と、少量の血痕が残っていたのみだった。
マルは、俺が襲撃を受けたという報告を聞くと、ぽかんと口を開け、しばし呆然とした後、「レイ様って、凄いの引き当てますよねぇ……。誰かがこじれてそういう手段で来る可能性、三割以下だと思ってたんですけど……」と、関心しきりに呟いた。
「話を聞く限り、兇手(暗殺者)なんでしょうねぇ。
あんなもの雇うってことは、レイ様を始末するのが目的に間違いありませんけど……三匹目の虫ですね。手段に差がありすぎる。今までとは別口……? まあ、ちょっと情報収集が必要かな。明日はメバックに行ってきますよ」
どうせ僕がここに残ってても、レイ様の護衛の足しにならないですし、川の方はルカたちに任せておけますしね。と、そう言ったマルは、今朝早くにメバックの衛兵を一人御者役に引っこ抜いて、馬車で出かけていった。
一応、土建組合のルカと、副隊長的な立場にある者にだけ、襲撃を受けたことと、それによりしばらく外出が禁じられたことも伝えたのだが、当面現場は任せとけと請け負ってもらえた。勿論、他言無用と言い含めてあるが……どうだろうな。
「雑務は私が請け負いますから、サヤは極力、レイシール様のお傍を離れないで下さい」
ハインは昨日、寝なかった。
さすがに今日は襲撃して来ないんじゃないかなと説得したけれど、聞き入れてもらえなかった。
サヤには日中をお願いしなければいけないのでと言い置いて、寝ずの番として俺の寝室に張り付いた。おかげで俺も寝たふりで一夜を明かすはめになった。
あの調子だと今晩もなんだろうか……それは嫌だ。万が一、寝落ちして夢を見てしまったら、魘されているのが知られてしまうのだ。
……しかし、それもそれとして問題だけど、こっちもこっちで……。
い、居た堪れない……。
昼食の賄い作りを終えて帰ってきたサヤが、ハインと交代して、今は俺に張り付いている。
普段なら嬉しいくらいのことなのだが、昨日からずっと、サヤは沈み込んでいる様な状態で、いつもの笑顔はなりを潜めていた。
食事中も、普段の和やかな雰囲気など微塵もなく、終始無言で終わってしまった。
執務室にもサヤはついてきて、書類仕事の手伝いをしてくれはしたものの、業務関係以外の会話は一切無い。
もうホント、謝るから許してって言いたい……。
だけどサヤは、謝ってほしいわけじゃ、ないんだよな……。
何度も謝り、何度も言い聞かせたのだ。
実力でなんとかできる相手ならともかく、敵わないと思ったなら逃げろと。別に、職務放棄しろと言ってるわけではなく、命を大事にって言ってるだけなのに。
サヤは、その話をする度、頑なに拒む。
聞きたくありません! と、時には泣いてしまうのだ。
「お茶どうぞ」
物思いに耽っていると、俺の前にことり湯飲みが置かれた。
「あ、ありがと……」
そのまま一礼して、サヤは今日雑務に利用している、ここ最近マルの机と化した執務机に戻っていく。
俯き気味の視線は、俺を見なかった。
目が充血していて、なんだかとても、疲れている様に見える……。
サヤも昨日、眠れていないのかもしれない……。それとも、身体を冷やしたまま長時間過ごしていたから、体調を崩しているんだろうか……?
心配でたまらないけれど、拒絶されいるのは雰囲気で分かる。今は何を言っても、サヤを逆撫でしてしまうことになるだろうと分かってしまうので、手が付けられない……。
溜息を咬み殺す。
朝から何十回そうしていることか。
もう一回、駄目元で謝ってみようかな……。そんなことを考え出した時だった。サヤがぴくりと反応し、窓の方に視線を向けた。
襲撃か? サヤの耳に、何かの音が届いたらしい。
緊張した俺に対し、サヤの行動は予想できないものだった。
「レイ、行こ!」
急に立ち上がって、俺の元に駆け寄ってきたかと思うと、そう言いながら俺の右手を取った。
そのまま引っ張られる様にして執務室を連れ出される。
「ちょっと、サヤ! 行くってどこに⁉︎」
やっぱり襲撃⁉︎ に、しては……泣きそうな顔で、迷子が親を探すような表情なのが気にかかる。
玄関広間に引っ張り出された時、表から馬の嘶きが聞こえた。そのまま玄関扉が押し開けられ、ギルが飛び込んでくるから驚いた。
「サヤ! レイが大変って何をどうした⁉︎」
早すぎないか⁉︎
まだ夕方にも届かない時間だ。
開け放たれたままの扉から、手綱を繋ぎもしていない馬が行儀良く待っているのが見える。
いつも馬車なのに、馬で早駆けして来たっていうのか⁉︎ どれだけ心配性だよ。
ちょっと呆れてそんな風に思ったのだが、次の瞬間頭が真っ白になった。
俺の手を離したサヤが、そのままギルに駆け寄って、ギュッとしがみ付いたのだ……。
「おわっ? サヤ⁉︎ 相手間違ってないか⁇」
「ギルさん、ギルさん、もう私、どう言うたらええか、どうしたらええのか、分からへん! 私、わたし……、……ぅうううぅぅ~……」
ギルの腰に手を回し、胸に頭を押し付けたサヤが、声を殺すようにして泣き出した。
俺にしか触れようとしなかったサヤが、ギルに縋り付いていることも相当な衝撃だったのだが、それよりも、ギルに助けを求めるように縋る姿が、心臓に刺さった。
俺、サヤがそんな風になるほど酷いこと、したのか……?
まさか⁉︎全然身に覚えがないのに?
だけどサヤは、今こうしてる……。
俺…………何を、間違ったんだ?
マルは、俺が襲撃を受けたという報告を聞くと、ぽかんと口を開け、しばし呆然とした後、「レイ様って、凄いの引き当てますよねぇ……。誰かがこじれてそういう手段で来る可能性、三割以下だと思ってたんですけど……」と、関心しきりに呟いた。
「話を聞く限り、兇手(暗殺者)なんでしょうねぇ。
あんなもの雇うってことは、レイ様を始末するのが目的に間違いありませんけど……三匹目の虫ですね。手段に差がありすぎる。今までとは別口……? まあ、ちょっと情報収集が必要かな。明日はメバックに行ってきますよ」
どうせ僕がここに残ってても、レイ様の護衛の足しにならないですし、川の方はルカたちに任せておけますしね。と、そう言ったマルは、今朝早くにメバックの衛兵を一人御者役に引っこ抜いて、馬車で出かけていった。
一応、土建組合のルカと、副隊長的な立場にある者にだけ、襲撃を受けたことと、それによりしばらく外出が禁じられたことも伝えたのだが、当面現場は任せとけと請け負ってもらえた。勿論、他言無用と言い含めてあるが……どうだろうな。
「雑務は私が請け負いますから、サヤは極力、レイシール様のお傍を離れないで下さい」
ハインは昨日、寝なかった。
さすがに今日は襲撃して来ないんじゃないかなと説得したけれど、聞き入れてもらえなかった。
サヤには日中をお願いしなければいけないのでと言い置いて、寝ずの番として俺の寝室に張り付いた。おかげで俺も寝たふりで一夜を明かすはめになった。
あの調子だと今晩もなんだろうか……それは嫌だ。万が一、寝落ちして夢を見てしまったら、魘されているのが知られてしまうのだ。
……しかし、それもそれとして問題だけど、こっちもこっちで……。
い、居た堪れない……。
昼食の賄い作りを終えて帰ってきたサヤが、ハインと交代して、今は俺に張り付いている。
普段なら嬉しいくらいのことなのだが、昨日からずっと、サヤは沈み込んでいる様な状態で、いつもの笑顔はなりを潜めていた。
食事中も、普段の和やかな雰囲気など微塵もなく、終始無言で終わってしまった。
執務室にもサヤはついてきて、書類仕事の手伝いをしてくれはしたものの、業務関係以外の会話は一切無い。
もうホント、謝るから許してって言いたい……。
だけどサヤは、謝ってほしいわけじゃ、ないんだよな……。
何度も謝り、何度も言い聞かせたのだ。
実力でなんとかできる相手ならともかく、敵わないと思ったなら逃げろと。別に、職務放棄しろと言ってるわけではなく、命を大事にって言ってるだけなのに。
サヤは、その話をする度、頑なに拒む。
聞きたくありません! と、時には泣いてしまうのだ。
「お茶どうぞ」
物思いに耽っていると、俺の前にことり湯飲みが置かれた。
「あ、ありがと……」
そのまま一礼して、サヤは今日雑務に利用している、ここ最近マルの机と化した執務机に戻っていく。
俯き気味の視線は、俺を見なかった。
目が充血していて、なんだかとても、疲れている様に見える……。
サヤも昨日、眠れていないのかもしれない……。それとも、身体を冷やしたまま長時間過ごしていたから、体調を崩しているんだろうか……?
心配でたまらないけれど、拒絶されいるのは雰囲気で分かる。今は何を言っても、サヤを逆撫でしてしまうことになるだろうと分かってしまうので、手が付けられない……。
溜息を咬み殺す。
朝から何十回そうしていることか。
もう一回、駄目元で謝ってみようかな……。そんなことを考え出した時だった。サヤがぴくりと反応し、窓の方に視線を向けた。
襲撃か? サヤの耳に、何かの音が届いたらしい。
緊張した俺に対し、サヤの行動は予想できないものだった。
「レイ、行こ!」
急に立ち上がって、俺の元に駆け寄ってきたかと思うと、そう言いながら俺の右手を取った。
そのまま引っ張られる様にして執務室を連れ出される。
「ちょっと、サヤ! 行くってどこに⁉︎」
やっぱり襲撃⁉︎ に、しては……泣きそうな顔で、迷子が親を探すような表情なのが気にかかる。
玄関広間に引っ張り出された時、表から馬の嘶きが聞こえた。そのまま玄関扉が押し開けられ、ギルが飛び込んでくるから驚いた。
「サヤ! レイが大変って何をどうした⁉︎」
早すぎないか⁉︎
まだ夕方にも届かない時間だ。
開け放たれたままの扉から、手綱を繋ぎもしていない馬が行儀良く待っているのが見える。
いつも馬車なのに、馬で早駆けして来たっていうのか⁉︎ どれだけ心配性だよ。
ちょっと呆れてそんな風に思ったのだが、次の瞬間頭が真っ白になった。
俺の手を離したサヤが、そのままギルに駆け寄って、ギュッとしがみ付いたのだ……。
「おわっ? サヤ⁉︎ 相手間違ってないか⁇」
「ギルさん、ギルさん、もう私、どう言うたらええか、どうしたらええのか、分からへん! 私、わたし……、……ぅうううぅぅ~……」
ギルの腰に手を回し、胸に頭を押し付けたサヤが、声を殺すようにして泣き出した。
俺にしか触れようとしなかったサヤが、ギルに縋り付いていることも相当な衝撃だったのだが、それよりも、ギルに助けを求めるように縋る姿が、心臓に刺さった。
俺、サヤがそんな風になるほど酷いこと、したのか……?
まさか⁉︎全然身に覚えがないのに?
だけどサヤは、今こうしてる……。
俺…………何を、間違ったんだ?
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる