異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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命の価値 3

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 結局賊は捕まらず、現場には俺の投げた小刀と、少量の血痕が残っていたのみだった。
 マルは、俺が襲撃を受けたという報告を聞くと、ぽかんと口を開け、しばし呆然とした後、「レイ様って、凄いの引き当てますよねぇ……。誰かがこじれてそういう手段で来る可能性、三割以下だと思ってたんですけど……」と、関心しきりに呟いた。

「話を聞く限り、兇手きょうしゅ(暗殺者)なんでしょうねぇ。
 あんなもの雇うってことは、レイ様を始末するのが目的に間違いありませんけど……三匹目の虫ですね。手段に差がありすぎる。今までとは別口……?    まあ、ちょっと情報収集が必要かな。明日はメバックに行ってきますよ」

 どうせ僕がここに残ってても、レイ様の護衛の足しにならないですし、川の方はルカたちに任せておけますしね。と、そう言ったマルは、今朝早くにメバックの衛兵を一人御者役に引っこ抜いて、馬車で出かけていった。
 一応、土建組合のルカと、副隊長的な立場にある者にだけ、襲撃を受けたことと、それによりしばらく外出が禁じられたことも伝えたのだが、当面現場は任せとけと請け負ってもらえた。勿論、他言無用と言い含めてあるが……どうだろうな。

「雑務は私が請け負いますから、サヤは極力、レイシール様のお傍を離れないで下さい」

 ハインは昨日、寝なかった。
 さすがに今日は襲撃して来ないんじゃないかなと説得したけれど、聞き入れてもらえなかった。
 サヤには日中をお願いしなければいけないのでと言い置いて、寝ずの番として俺の寝室に張り付いた。おかげで俺も寝たふりで一夜を明かすはめになった。
 あの調子だと今晩もなんだろうか……それは嫌だ。万が一、寝落ちして夢を見てしまったら、魘されているのが知られてしまうのだ。
    ……しかし、それもそれとして問題だけど、こっちもこっちで……。

 い、居た堪れない……。

 昼食の賄い作りを終えて帰ってきたサヤが、ハインと交代して、今は俺に張り付いている。
 普段なら嬉しいくらいのことなのだが、昨日からずっと、サヤは沈み込んでいる様な状態で、いつもの笑顔はなりを潜めていた。
 食事中も、普段の和やかな雰囲気など微塵もなく、終始無言で終わってしまった。
 執務室にもサヤはついてきて、書類仕事の手伝いをしてくれはしたものの、業務関係以外の会話は一切無い。

 もうホント、謝るから許してって言いたい……。
 だけどサヤは、謝ってほしいわけじゃ、ないんだよな……。

 何度も謝り、何度も言い聞かせたのだ。
 実力でなんとかできる相手ならともかく、敵わないと思ったなら逃げろと。別に、職務放棄しろと言ってるわけではなく、命を大事にって言ってるだけなのに。
 サヤは、その話をする度、頑なに拒む。
 聞きたくありません!   と、時には泣いてしまうのだ。

「お茶どうぞ」

 物思いに耽っていると、俺の前にことり湯飲みが置かれた。

「あ、ありがと……」

 そのまま一礼して、サヤは今日雑務に利用している、ここ最近マルの机と化した執務机に戻っていく。
 俯き気味の視線は、俺を見なかった。
 目が充血していて、なんだかとても、疲れている様に見える……。
 サヤも昨日、眠れていないのかもしれない……。それとも、身体を冷やしたまま長時間過ごしていたから、体調を崩しているんだろうか……?
 心配でたまらないけれど、拒絶されいるのは雰囲気で分かる。今は何を言っても、サヤを逆撫でしてしまうことになるだろうと分かってしまうので、手が付けられない……。

 溜息を咬み殺す。
 朝から何十回そうしていることか。
 もう一回、駄目元で謝ってみようかな……。そんなことを考え出した時だった。サヤがぴくりと反応し、窓の方に視線を向けた。
 襲撃か?   サヤの耳に、何かの音が届いたらしい。
 緊張した俺に対し、サヤの行動は予想できないものだった。

「レイ、行こ!」

 急に立ち上がって、俺の元に駆け寄ってきたかと思うと、そう言いながら俺の右手を取った。
 そのまま引っ張られる様にして執務室を連れ出される。

「ちょっと、サヤ!    行くってどこに⁉︎」

 やっぱり襲撃⁉︎    に、しては……泣きそうな顔で、迷子が親を探すような表情なのが気にかかる。
 玄関広間に引っ張り出された時、表から馬の嘶きが聞こえた。そのまま玄関扉が押し開けられ、ギルが飛び込んでくるから驚いた。

「サヤ!    レイが大変って何をどうした⁉︎」

 早すぎないか⁉︎

 まだ夕方にも届かない時間だ。
 開け放たれたままの扉から、手綱を繋ぎもしていない馬が行儀良く待っているのが見える。
 いつも馬車なのに、馬で早駆けして来たっていうのか⁉︎    どれだけ心配性だよ。
 ちょっと呆れてそんな風に思ったのだが、次の瞬間頭が真っ白になった。

 俺の手を離したサヤが、そのままギルに駆け寄って、ギュッとしがみ付いたのだ……。

「おわっ?    サヤ⁉︎    相手間違ってないか⁇」
「ギルさん、ギルさん、もう私、どう言うたらええか、どうしたらええのか、分からへん!   私、わたし……、……ぅうううぅぅ~……」

 ギルの腰に手を回し、胸に頭を押し付けたサヤが、声を殺すようにして泣き出した。
 俺にしか触れようとしなかったサヤが、ギルに縋り付いていることも相当な衝撃だったのだが、それよりも、ギルに助けを求めるように縋る姿が、心臓に刺さった。

 俺、サヤがそんな風になるほど酷いこと、したのか……?
 まさか⁉︎全然身に覚えがないのに?

 だけどサヤは、今こうしてる……。

 俺…………何を、間違ったんだ?
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