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終章 竜と魔法の王国
106. 魔竜討伐戦 【作戦】
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ルシア達の報告のもと、ジオルグが立てた作戦は拍子抜けするほど単純なものだった。
コリーンがすでにこの世にはいない時点で、向こうは完全に詰んでいる、とセオは言う。
「魔竜頼みでしか動けない以上、目を覚ますまで向こうからは仕掛けてこないはずだ」
「まあ、あちらさんが寝床が見つかったことに気づいてなけりゃあ、こっちも奇を衒う必要はねえからな」
「今もギルドのチームが現地で見張りを続けてくれているが、彼らは万が一テシリア兵に見つかっても、『ギルドの依頼で魔石を掘りに来た』で通すと言っていた」
セオ、ルシア、カイルらは、後発でやってきたジスティやヒューに、この作戦に至った裏付けをそれぞれ口にする。
不穏な辺境を治める知恵の一つなのか。ラドモンド辺境伯やルシア達が、普段からギルドとの付き合いを密にしていてくれたおかげで、ギルドマスターからの声がかりで集められた彼らは非常に協力的だった。その分きっと、宰相閣下が報酬をはずんだのだろう。
ジオルグがルシアを通じてギルドに依頼したクエストは、魔竜の『捜索』と『退治』の二つ。
魔竜探索チームは、現場の見張り以外のタスクはもう終えていた。
俺は、セオやジオルグと共に作戦当日の『退治』のクエストに参加することになっている。
そして、ジスティとカイルとヒュー、それにルシア率いる辺境警備隊にはそれぞれにしくじりが許されない重大な任務があった。
──作戦その一。
夜陰に乗じ、有翼獅子に乗ったルシアとジスティを、辺境警備隊の翼竜隊がその一頭にカイルを同乗させて先導し、空を飛んで行って魔竜の寝床がある崖まで一気に迫る。カイルが指し示した鏡面の結界ごと、ルシアの後ろに同乗したジスティが焔竜の剣で攻撃し、洞窟の中で眠る魔竜を強制的に目覚めさせる。
火を吐く魔竜に対して敢えて同じ火の属性、それも強力な攻撃をぶつけることで挑発してやるのだ。
──作戦その二。
魔竜を叩き起こしたら、有翼獅子と翼竜隊は速やかに崖から離脱する。そのまま峡谷内を飛行しながら魔竜をうまく挑発して消耗をさせ、俺たちが待つビルンの大草原の真ん中まで誘導する……。
あとは、『退治』のために集まった名だたる魔法士たちの結界でその動きを封じ込め、俺が月精の魔法で呪いを浄化する。それでも死ななければ、そこからは俺たち全員と、ギルドが集めたメンバーたちとの総力戦だ。
いうまでもなく、竜殺しのルシアなら一人でも斃せる相手だが、ここはたった一人の勇者ではなく、この国の者たちが自分たちの力で斃すべき敵だった。それに当初の意図とは違っているが、ルシアはジオルグにイーシュトール以外の竜は殺さない旨の誓いを立てている。
そして、最後に。アイリーネが選んだ『騎士』が、聖女から授かった剣で魔竜にとどめを刺す。
これは今回の魔竜討伐戦において、竜を祀る祭壇の祭司、ジオルグが新たに付け加えた儀式だ。
実は、それを提案したのは俺だった。『セイント・オブ・ドラゴン ─竜と魔法の王国─』に出てくる魔竜討伐戦の最後の場面だけでも、逆に擬えたくなったのだ。
だけど、俺もジオルグも死なない。死なせない、絶対に。
魔竜討伐戦の『明日』を、必ず二人で迎えてみせる。
「とりあえず、作戦開始までは皆しっかり休養するように」
ジオルグのその言葉で、作戦会議は終了した。
* * *
宿泊している部屋に戻ると、居室の燭台には灯りが点され、テーブルには夕食の用意がしてあった。使用人を呼ぶための鈴もその端に据えられている。
他の各逗留者の部屋にも同じような支度がしてあるのだろうか、などと首を傾げつつ、俺はジオルグと一緒にテーブルについた。
「これは、あなたが?」
「ああ、先にヴィクトルに頼んでおいた。……よほどのことがない限り我々は、明日の昼過ぎまでこの部屋から出ることはないからと」
ジオルグが淡々とそう言ったので、その意味を拾うのに少し時間が要った。
え、……と、つまり?
「あの……今日はするんですか?」
我ながら間抜けな訊ね方をしてしまった。
だってジオルグは、俺が彼を追いかけるようにセラザに来てからも、一度も俺を抱こうとしなかったのだ。
朝も昼も夜も、一日中ずっと一緒にいて、周りに人目がない時にはどちらからともなく手を繋いだり、キスをしたりはしていた。それだけで魔力回路が繋がって、触れ合った場所を通じて互いの魔力が行き交うのがわかるのが嬉しかった。
しかし、同じベッドで寝ていても、それ以上のことは何もなかった。俺は別にしても良かったのだが、ここにきて宰相閣下はそれはそれは手厚い保護者ぶりを発揮して、俺の睡眠時間を少しでも長く確保しようとしたのだ。
それは受ける側である俺の負担を慮ってのことだともわかっている。
いずれ時が満ちたときにというお互いの暗黙の了解はあったのだが、それが今夜だと気づかなかった俺は、もしかして彼の伴侶失格だろうか……。
ジオルグは、火影に妖しく映える金色の双眸でじっと俺を見据えた。
「私はしたいが、君は?」
「あの……、はい、もちろん。したい、です」
もう、呆れるぐらいしどろもどろだった。
……本当に俺は、この顔に滅茶苦茶弱い。
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