【本編完結】裏切りの転生騎士は宰相閣下に求愛される

碧木二三

文字の大きさ
111 / 122
終章 竜と魔法の王国

105. 魔竜の作り方

しおりを挟む

「シリル、そしてアイリーネ殿。今から我々が斃すのは、イーシュトールが死んだ後にもこの世に留まり続けている妄執の念だ。そういった意味では、彼奴を魔竜と呼んで差し支えない。ただし、そのだ。アレはかつて竜種に刃向かい、そして敗れた幻獣種のむくろ昏迷の森オルラントの『火蜥蜴サラマンドラ』であったモノ」
火蜥蜴サラマンドラ?」

 アイリーネは戸惑ったように繰り返す。

「ああ、やっぱり。そういうことか」

 ようやく合点がいったとセオが頷く。

「あんな、そもそも一体どこから連れて来たのかと思ってた。魔竜を作るにしたって、魔術的な器が必要なはずだからな。元々イーシュトールを恨んでるヤツなら、まさにおあつらえ向きってわけだ」
火蜥蜴サラマンドラならば、火を吐くのは納得だ。イーシュトールが使うのは、確か雷撃のはずだからな。だが、火蜥蜴サラマンドラが空を飛ぶか?」

 ジスティが首を傾げると、飛ぶんだよな、これが、とセオが言った。

「一般的には無翼だけど、ダードウィンのヤツなら話は別。詳しく知りたかったらあとで古い伝承集でも読んどいてくれ。それが面倒ならカイルに聞いてもいいしさ」
「……ああ、後で教えとく」

 目を閉じて椅子に座っていたカイルがおざなりに言った。冒険者風の服から騎士装束に眼鏡をかけたお馴染みの姿に戻っていたが、さすがに疲れているのかいつもより口数が少ない。

「推定だけど、魔竜の体長は頭から尾までの全長は最大で約三十メートルほど。としたら、翼は開いた状態で片翼十メートルほどかな。着地した形跡がどこにもなくて足跡が残ってないけど、後脚で立った場合の推定身長は最大でも約二十、全体的にイーシュトールより一回り大きいと見てる」 

 出現した時間帯が真夜中だったことから、その姿は闇に紛れ、目撃情報の正確性もイマイチだという話だったが、セオたちの調査のおかげで、口から吐き出した火焔の威力などから魔竜の大体の大きさは判明していた。

解答こたえがわかると、やり方も何となく読めてくるな。あの女、イーシュトールを射ったやじりを手元に転送させて持ち帰ったんだ。そこから魔竜の魂と呪いを魔術的に培養させて……? ヤバいな。それを自分の中に取り込んでんだ。だから百年、眠ってたのか……」

 セオの碧緑色の目が、異様な輝きを帯びている。カイルも目を開けて頷く。

「そして、彼女が魔竜の呪いで眠っている間に黒月党を立ち上げ、魔竜の信徒を増やした誰かがいる……? いや、帝国からの資金援助もあったかもしれない。そこはラドモンド卿に一度訊ねてみるか。彼ならば何か知っているかも」
「カイル、それこそ考えるのは後だ」

 ジスティがたしなめるように言った。
 しかし、カイルの口から今は席を外している領主館の主の名が出たことで、俺ははっと思い出した。

「そうか。あの女が、自分の思い通りになる魔竜の贋物を作る為に、ダードウィンの手から『火蜥蜴サラマンドラ』のむくろを盗み出したのも……、十年前……?」

 聖竜神殿からセラザへの転移後、領主館までの原生林を歩いたとき、リーヴェルトが言っていた。
 シリルが棲んでいた草原の集落が襲われた頃、一方ではダードウィンの沽券に関わる一大事が起きていたのだと。
 俺がかいつまんで説明すると、セオはなるほどなー、と感心したように手を打った。

「で、魔竜の中身をそいつに容れて完成させてから、えさを集めるための魔石をバラ撒きに王都にやって来た。そしてついでに父上をたぶらかしたわけか」
「彼女がスタウゼン公爵に近づいたのは、宮廷内に親帝国派の存在を定着させる狙いもあったからでしょう。何せ、いっときは宰相になるとまで言われたお方だ」

 ジスティが言うと、セオは鼻を鳴らした。

「ふん、慰めてくれなくて結構。とにかく、今はあの悪食の魔竜をぶっ殺すことだけを考えてればいいんだ」

 ああ、その通りだな、とジオルグが言った。

「それで、話を元に戻すが。今回の魔竜は、外側が贋物だとはいえ中身は魔竜の呪いそのもので出来ている。つまり、【聖なる竜の刻印】を額に戴く君たちは、次の襲来時には確実に狙われるということだ」

 ジオルグの言葉に、アイリーネの肩がぴくっと揺れる。

月精ラエルであるシリルには、その呪いを解くために討伐戦には必ず参加してもらわねばならない。だが、アイリーネ殿。もし望まれるのなら、あなたは王都にお戻りになっても構わない。相手が正真正銘の竜種でない以上、あなたまで彼奴の相手をする必要は全くない」

 アイリーネは、大きな青い瞳を見開いてジオルグの顔を凝視した。集まっている皆も、沈黙をしたまま、ただ見守っている。
 おそらく、彼女はちゃんと理解したのだ。今回の討伐戦において、少なからずこの場にいる誰かの……もしくは全員の血が流れる可能性があるということを。
 そしてそれは、自分自身でさえも例外ではないのだと。

 宰相閣下、とアイリーネは小さいがはっきりと通る声で言った。

「いいえ。わたしはここで、皆さまの戦いを見届けます。例え誰かが傷を負ったとしても、わたしが必ず魔法で癒します。わたしは、聖女としてこの世界に……、に喚ばれたのですもの。ですから、王都には戻りません」
「……承知しました。それならば、アイリーネ殿にもやって頂かなくてはならないことがあります」
「はい、わたしにできることでしたらなんでも致します」
「無論、あなたにしか出来ぬことです」

 と、ジオルグは口の端を上げて微笑んでみせる。

「が、その前に今から魔竜討伐戦の作戦について話す。決行は水曜日の未明。つまり、準備に費やせる時間は明日一日だけだが、新月の夜を待つつもりは毛頭ない」

 月の満ち欠けは、魔物にとって魔力の増減を左右するほどの影響を及ぼす。百年に一度、魔竜が新月の夜にイーシュトールと入れ替わっていたのも、そうすることに意味があったからだ。
 全員、宰相閣下に向けて承諾の意を示す頷きを返した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...