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第十二章 竜の正体
95. 竜人種の血 ③
しおりを挟む「君はもともと、異種交配には強い種族だ。だから私の血もきっと受け容れるだろうと直感したが……。それでもあの夜の間はずっと気が気ではなかった」
致死量ではないにしろ、強い毒に蝕まれて弱っている俺の身体にとって、果たして自分の血の毒は、本当に負担になりはしないだろうかと。王冠蛇の毒に対抗するため、初めて薄めることのない純正の血を他者に与えたジオルグは、その直後はさすがに大きな不安を覚えたらしい。
あの夜は一晩中、俺につきっきりで眠らずに過ごしたのだという。
俺は目を閉じ、記憶を探る。ただおぼろげに、誰かがずっと頭を撫でながら優しく声をかけてくれていたような気がするが、ジオルグがそうしてくれていたのだろうか。
ヒースゲイルに俺の主治医になってくれるよう頼んだのも、俺の魔力回路が変化することがわかっていたからだった。
「……知らない間に勝手なことをされて、逃げ出したくなったか? だとしても、もう君を離してはやれないが」
そう言って、ジオルグは例の強い目で俺の顔をじっと見下ろした。
「ジル……」
俺は思わず苦笑した。だって、今更そんな露悪的に俺の退路を断つような言い方をしたって無駄だ。
どういった代物であれ、ジオルグの血が魔物の毒から俺の命を救ってくれたことは事実。それに、この目をする時はいつも俺のことを深く案じてくれている時だった。
むしろ俺は、初めて出逢った夜のジオルグから、そこまで深く求められていたということがまだ信じられないでいる。もしや夢ではとも思うが、例え夢だとしてもこれは出来過ぎだった。こんなに自分に都合が良すぎる夢なんて見たことがない。
これまで混ざり物と言われ、散々蔑まれてきた雑種の血が、まさかこんな強味を発揮するとは……。
でも、それこそ今更だったがどうしても気になることがあった。
「あの、本当に俺でいいんですか? 俺は男だし……、でも今のお話だと、一族の方々はあなたの伴侶には純血の女性が相応しいと思っているのでしょう?」
「そんなくだらないことを言うものじゃない。私には君しかいない」
ジオルグは熱のこもった声で言った。
「それで言うなら、確かに君は純血ではないが、月精の徴を持つ者だ。これ以上に尊い事実はあるまい。それに私はもう伴侶の条件として純血の女性にこだわる必要はない立場だ。今のところ竜人種の純血の女性で最年少の者は、ゼフェウスと婚礼を挙げることが決まっている」
それに、とジオルグはさらに言った。古代種、もとい長命種にとって伴侶の性別は実は二の次なのだとか。無論、後継を望むのならば異性と結ばれる必要があるが、それ以外の理由で性別にこだわることはないらしい。
「性別はおろか、容姿の美醜や年齢よりも我らにとって何よりも重視されるのは『血』を含めた相性だ。それは魔力回路を形成する上で最も重要な因子だからだ。どんなに惹かれたとしても、己と血が合わなければ添い遂げることは難しい。君は王都の人間社会で育ったせいか、やけに短命種のような価値観を持ち出すことがあるが、まあそういうことだ」
なるほど。以前、ゼフェウスが俺のことを「まるで人間のよう」と言っていたのはそれか。よくわからないが、俺の言動の中に何かしらそう感じさせるものがあったのだろう。
それに、美醜にこだわらないのも当然だ。俺はここで生きてきて嫌というほど実感しているのだが、古代種の中に醜い容姿の者など存在しない。人間と比べて成人以降の老化がかなり緩やかで、しかも皆それが当然であるかのように美しい姿をしている。
「さて、これで君に話せることはほとんど話したと思うが」
俺はジオルグの肩に手をかけて伸び上がると、その口の端にそっと軽く触れるだけのキスをした。
「シリル?」
「ごめんなさい。でも、まだです」
ジオルグは怪訝そうに眉宇を顰めるが、まだあと一つ、もっとも肝心なことが残っている。
それは、月精とイーシュトールの関係についてだった。
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