【本編完結】裏切りの転生騎士は宰相閣下に求愛される

碧木二三

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第十一章 セラザからの迎え

84. 欠けた記憶

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 ちょうど話の区切りがついたところで、さっきセオを神殿内に招じ入れようとした若い神官がやってきて、転位装置の改修が終わったことを報せてくれた。
 すぐに行くと告げてから、俺はセオに向かって小さく頭を下げた。

「石のことを教えて頂き、ありがとうございました。ここでセオと話せてよかった」
 
 俺が礼を言うと、セオは何故かむっとしたように顔を顰めた。

「なんだよそれ。まるでこれが……」

 言いかけて口を閉ざしてしまう。

「セオ?」

 俺が呼びかけた時、カイルが俺たちの傍までやってきた。

「シリル、そろそろ用意を。あちら側の『扉』から迎えが来る頃合だ」
「あ、はい。今行きます」

 俺が立ち上がろうとすると、先にセオが素早く立ち上がった。そしてこちらには見向きもせず、ジスティが待っているお堂の前に向かってすたすたと歩いていってしまう。
 一体何が? というようにカイルが俺を見るが、俺は小さく肩を竦めてみせるだけだった。二人で足早にセオの後を追う。
 お堂の前まで来たとき、立ち止まったセオがくるりと振り向き、ジスティの前に立った。

「ジスティ。申し訳ないが、殿下に伝えてもらえないか。僕もシリルと一緒にセラザに行ってくる」
「は? セオデリク殿、それはちょっと、いやだいぶ困るんだが」

 ジスティが弱りきったように眉尻を下げたその隣りで、カイルはため息をついて言った。

「やれやれ、先を越されたか」
「先を越されたって、お前まさか」

 ジスティが目を剥くと、カイルは澄まし顔で返した。

「そのまさかで悪いな、コーゼル師団長。実は俺も、シリルと一緒にセラザに行くつもりだ」
「セオ。カイルさん……」
 
 当然ながら、一人で行くつもりだった俺は呆然と二人の顔を交互に見た。と、怒りを宿した碧緑色の瞳が、俺をまっすぐに睨みつけている。

「どうせわかっちゃいないだろうけどな。さっきからお前、口許だけで無理して笑ってるから。しかもこれで会うのが最後みたいな言い方したよな、馬鹿ッ」
「いや馬鹿って……」
「セオデリク殿。シリルへのその麗しい友情には感服いたしますが、私としてはあなたをセラザに行かせるわけには参りません」

 断固とした口調でジスティが割り込んでくる。

「カイル、お前はシリルと一緒に行っていい。いや、むしろ行け。明日の昼前には俺もガレート周りでセラザに入る予定だ。それまでにシリルの護衛と現地での情報収集を頼む」
「了解した」
「お願いだ、カイル、僕も一緒に連れて行ってくれ。危険な場所には絶対に行かないし、万が一魔竜に襲われたとしても、僕のことは放っておいていい。自分の身ぐらいなら守れる」
「いや、ですからそういうわけには……。それにセオデリク殿、今はセラザの全域が危険区域です。そんな場所に騎士でもないあなたを行かせる訳にはいきません」
「……ジスティ、いや、コーゼル師団長。俺は別に一緒に行っても構わないが。彼も何かの役に立つかもしれないし、あとはお前がうまく殿下に執りなしてくれればいいんだし」
「はあ!?」

 どうやらカイルは、セオの魔法を一戦力としてそれなりに買っているようだ。師団長と副師団長の間でも意見が割れ、収拾がつかなくなってしまった。
 俺はふと、先に呼びに来てくれた若い神官がお堂の前で所在無げに立っているのを見つけ、あることを思い出して声をかけた。

「あの、すみません。実はさっき、黒月の連中に襲われたときに神官長様から頂いた金の印章をこの中で落としてしまったのですが」
「ああ、そうでしたか。ですがあれは、王宮とここと麓にある聖堂の三つの『扉』を結ぶ為の『鍵』で、それ以外の『扉』へ向かう場合は、あちら側から誰かが跳んできて空間を繋いでもらわなくてはならないので……」

 彼はとても丁寧に説明してくれた。要は、今はこちら側からの『鍵』は必要ないらしい。
 俺が公爵夫人コリーンに襲われて落としてしまった金の印章は、そのときに無理矢理閉じられてしまった『扉』の修繕をした者がおそらく拾っているはずなので、あとで確認してくれるとのことだった。

「わかりました。ありがとうございます」

 俺が礼を言うと、神官は含羞はにかむように微笑んだ。

「いえ、私など、これぐらいしかお役に立てなくて……、あ」
「え、何ですか?」

 別にたいしたことでは……、と彼は焦ったように言った。

「ただ、さっき三つの『扉』と言ってしまいましたが、正確には四つです。一番新しく出来たものなのですが、あまり使われないのでつい忘れてしまっていて」
「そうですか。ちなみにそれはどこにある『扉』なんですか?」
「ランスの離宮です。国王陛下がご療養でお過ごしになるようになってから出来たものですから、三、四年ほど前になるかと思います」
「え?」

 ──ランスの離宮?

 つい先日まで、俺は一年間ランスにいたが、神殿に繋がる『扉』があるとは知らなかった。
 俺は改めて転移装置があるお堂を見る。建物の規模としては小さいが、ロートバルの屋敷の地下室に比べると倍の広さはあった。
 天井も、高い。

 ──ランスの離宮と、聖竜神殿の間で、一体何を……?

「……あ」

 俺は息を呑んだ。何か、大事な記憶が欠けていることにようやく気づいたのだ。
 俺は、ランスで。ランス、ランスで……。

……、何を? 何かを見たから……」
「シ、シリル様……?」

 大丈夫ですか、と怪訝そうに覗き込まれる。
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