千年夜行

真澄鏡月

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第一章 胎動編

参ノ詩 ~血濡レノ宮の中心へ~ [中] 神山 明美

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「アメリアさんあの人達大丈夫でしょうか?」
 私の問いかけにアメリアは微笑みながらカタコトの日本語で返答する。
「ダイジョウブ……ワタシノナカマツヨイ…サキヲイソゴウ」
 私達を小脇に抱えているとは思えない足取りで暗い廊下を駆けてゆく。
 時折、影の人間や悪霊が襲ってくるも悉く避け突き放してゆく。
「お姉ちゃん凄い!!どうしてそんなに足が速いの?」
 夜見は喜びを隠せない口調でアメリアに話しかけるがアメリアは無言で走る。
「どうしたの?アメリアさん。ねぇ」
私はアメリアに何度も尋ねるとアメリアは重い口を開く。
「シズカニ……」
 そう呟きアメリアは私達を地面に下ろし、サーベルを抜いて臨戦態勢に入る。その顔は恐怖で引きっており、ただならぬ雰囲気と暫くの静寂が辺りを包む。
 ブゥ━━ン
 静寂を破ったのはチェーンソーの音だった。私の脳内にまさか!と駆け巡るが早いか右手の木製の閂がされた扉と扉枠の隙間からチェーンソーの刃が差し込まれ、閂を斬り始める
 ブゥ━━ンガガガガガツン
木製の閂は無残にも斬り落とされ、ギィィと音を立てゆっくりと開く。
 びちゃびちゃと足音をたて、影は姿を表した。
 ソレはたった今血の海から這い上がってきた様で全身から血液を滴らせ、表情は怒りに歪んでいる。
 フッと私の足から力が抜けトサッと床に座り込む。
 脚を酷使してきたからなのか目の前の存在に身体が恐れを成しているのか正直分からない。
「なんでアイツが……ここに……」
 言葉を漏らした私を横目にアメリアさんは私と夜見の頭に手を置く。
「え……何してるの?お姉ちゃん。」
 夜見の問にアメリアは大丈夫と言い微笑む。そうしている間も影は赤い瞳を光らせながら1歩1歩近づいてくる。
「糞ガキ!よくもこの俺に屈辱を味あわせてくれたな!!もてあそぶのはやめだ!ぶち殺してやる!」
 凄まじい怒気の籠った叫びが辺りにこだまし、咄嗟とっさに耳を塞ぐ。
「うっ……痛い……」
 身体がビリビリと痺れ痛い。おそらく凄まじい声が私達の骨すら振動させているのだろう。痺れで動けない姿を嘲笑あざわらうが如く影は笑みを浮かべチェーンソーを構える。
「ネェ……コンナトコロデ、サケンデモイイノカイ?」
 アメリアがカタコトの日本語で影に話しかける。
「何が言いたい外国人?命乞いか?」
 アメリアは笑顔を浮かべ
「サッキ……ネムッテイル眠っている…………ヲミタ」
 影はそれを聞いて鼻で笑う。
「何が寝てるって?俺はこの周辺の層では一二を争う強さだ。何が目覚めようと知ったこっちゃない。」
 自身の自慢混じりで話す影を横目にアメリアはボソッと呟く。
「ソレガ ナナホシムラノタイヤクガミ七星村の大厄神トイッタラ?」
 その言葉に影は目を見開き、
「そんな筈がねぇ!あの方がこんな浅瀬にいる訳ねぇだろ!!外国人だk……」
 影がそこまで言ったタイミングでアメリアは私達の頭を地面に勢いよく付け、自身も身を低くする。
 その瞬間、私達の頭上をヒュッと風きり音と共に何かが通過しドゴンッと大きな音が響く。
 恐る恐る頭を上げると影の右半身が抉れ赤黒い液体が吹き出している。その背後には黒い顔布を巻き、赤黒いボロボロの巫女服を見にまとった少女が立っている。
 その場にいた全員が瞬時に本能で理解する。
━━コイツは化物の中の化物だ━━
「ゴポッ……な……んで……」
 巫女はヒタッ……ヒタッ……と裸足で硬い廊下を数歩歩き、地面を蹴り影に向かって跳躍する。
「お……ねが……い……やめ……t」
 その勢いのまま放たれた蹴りは影の左頬を捉え、パキャッと硬いものが破裂したような音を響かせながら首から上を蹴り砕く。
首から上を失った影はブシュ……!!と断面から血液を吹き、辺りに巻き散らせながら宙を舞い地面を転がる。巫女はそれを拾い少し眺めた後、上に放り投げ鉄槌で地面に叩きつけて影ごと地面を叩き割る。影の亡骸は鉄槌を受け、グシャッという音と共に真っ二つに千切れ、別々の方向に弾け飛ぶ。
 数秒もしない内に影は大量の血液と少しの肉片を残し完全に消滅する。
 巫女は血溜まりに手を入れ少し掻き回した後、手についた血液をペロッと舐めると私達の方を向く。
 巫女の黒い顔布には「鏖殺おうさつ」と書かれている。
 巫女は顔布をペラっと捲り、私達の顔をまじまじと眺める。
 巫女の顔は左目から頬にかけて北斗七星の徴が刻まれており、左右で瞳の色が違う。
 そして何よりも
[この巫女は私達の姿形を見ていない、いやもっと深い魂の根底まで覗かれている]
 と本能的に感じる。
 巫女はしばらく私達を眺めた後、ニタァと悪意の籠った笑顔を浮かべ、私を指差す。
「お前……面白そうでし……私を楽しませろでし……」
 と言うと巫女は手印を結ぶ。その瞬間空気がズシッと重くなり凄まじい圧迫感を感じる。
 いつの間にか目の前の巫女の両目から黒い液体が溢れ頬を伝い、印に垂れた瞬間巫女の足元に赤黒い光を放つ陣が形成される。
「陣地!滅尽蝕離めつじんしょくり
 巫女は両手足に青い電撃のようなオーラを纏う
「さぁ……始めようでし!!」
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