52 / 166
婚約と俺様王子
王宮に呼び出されました①
しおりを挟む伯爵領から王都に戻ってきた二週間後。
精一杯の作法を心がけなるべく清楚に見えるようにふふっと笑みを浮かべ、私はアンドリューに呼ばれて王宮にやってきていた。
「うっわぁ」
初っ端、永遠と続いているのではと思われるほど広く美しい宮殿のあまりのすごさに小さくその声を上げてしまったが、その後はしっかり笑顔をキープし足を進めていく。
ただ、気持ちは大いに荒れている。ばっくんばっくんと周囲に誰もいなければ一度大きな声を出して落ちつきたいところである。
「…………」
知らない方と視線が合ったので、にこっと笑み浮かべながら頭を下げつつも、脳内は騒がしいままだ。
だって、伯爵領からの帰りの馬車のあとのアンドリューとの初顔合わせ。平静でいろというほうが無理である。
さすが大人向け乙女ゲームの元攻略対象者。行きと比べものにならないほど帰りは攻められた。
それでも婚約者未満の対応だと宣っていたが、やたらと爽やかな笑顔でぐいぐいくるアンドリューに言葉や態度で迫られた。
あれやこれやと思い出すだけで顔から火が吹くレベルで、それはもういろいろ巧みで、私は流されっぱなしで……、うぅぅ~、だめだめ。
これから王子に会うのに思い出すのはよろしくないと、お野菜たち、ほっこりお野菜たちと脳内で繰り返す。
──ああ~、隊長たちに会いたいっ!
磨かれた回廊を何度か曲がり元攻略対象者であるラシェルに案内され、初めての王宮でどうなることかと思ったけれど、戸惑う暇もなくあれよあれよと案内された場所は意外なところだった。
てっきり室内のどこかの部屋かと思えば外。
たどり着いたところは、周囲を取り囲むように美しい薔薇が咲き誇り、甘さと華やかな香りから、フルーティーな香りまでとてもうっとりするような庭園であった。
「綺麗なところ」
ひらひら、ふわふわっと蝶が舞い、頬を撫でる涼やかな風に目を細める。
座って待ていいと言われたけれどしばらくそのままそれらを眺めていたら、数分もしないうちに背後から声をかけられ抱きしめられた。
薔薇の匂いのなかにふわりと爽やかな香りとともに、覚えのある体温が私を包み込む。
「ティア、よく来たね」
まさか背後から現れるとは思わず、口からぽわんと魂魄が飛び出るかと思うくらい驚いた。
姿を現わすときは、正面からわかりやすく来てほしい。
ただでさえアンドリューに会うのに緊張していたのに、不意打ちに遭って会ったときの心構えとか吹っ飛んでしまった。
周囲は草木や花に囲まれているのにどこからやってきたのか。心臓に悪いったらない。
「殿下」
「久しぶりだな。ティア。会いたかった」
当然のようにちゅっと頬にキスを受けたが、頬キスくらいで騒いでいたら先が持たない。
私はゆっくりと顔を背後に向け、身体は固定されて動けないので目線だけ下げて挨拶を返した。
「お招きいただきありがとうございます」
ううぅ、王子の秀美な顔が、目と鼻の先と非常に近すぎる!
あと、やっぱりほっぺにちゅは恥ずかしいと、キスされた部分が熱を持ったような気がして気になって仕方がない。
私は内心の戸惑いを隠しながら、取り繕うようににこりと笑顔を浮かべた。
「ここには俺しかいないから、堅苦しいのはいらない」
「わかりました。その、お元気でしたか?」
私から腕を離しベンチ式の大きな長椅子に一緒に座ると、アンドリューは私の髪に優しく触れてくる。
まるで会わなかった時間を埋めるかのように密着され、触れていたいんだとばかりの距離感が心の奥底がむずむずして落ちつかない。
「ああ。ティアも元気そうでなによりだ。今日は会えるのを楽しみにしていた」
「私もです。伯爵領ではとてもお世話になりました。このたびは大事な話があるとか?」
「そうだ。待たせてしまったな」
「いえ。殿下はとてもお忙しいでしょうし、こうして時間を割いていただいただけでもありがたいです」
高貴な人物らしく爪先まで整えられ美しくも男らしい指が、くるくると私の猫っ毛の髪を絡めて遊びだす。
優しくときおり引っ張られるのをくすぐったく感じながら、私はされるがまま王子を見上げた。
21
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
愛されない王妃は、お飾りでいたい
夕立悠理
恋愛
──私が君を愛することは、ない。
クロアには前世の記憶がある。前世の記憶によると、ここはロマンス小説の世界でクロアは悪役令嬢だった。けれど、クロアが敗戦国の王に嫁がされたことにより、物語は終わった。
そして迎えた初夜。夫はクロアを愛せず、抱くつもりもないといった。
「イエーイ、これで自由の身だわ!!!」
クロアが喜びながらスローライフを送っていると、なんだか、夫の態度が急変し──!?
「初夜にいった言葉を忘れたんですか!?」
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました
ほーみ
恋愛
その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。
「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」
そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。
「……は?」
まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。