【本編完結】自由気ままな伯爵令嬢は、腹黒王子にやたらと攻められています

橋本彩里(Ayari)

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婚約と俺様王子

王宮に呼び出されました②

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「ことがことだけに時間がかかってしまったが、無事に話はつけた。それよりもティア。会わない間に俺のこと忘れてないよな?」
「……忘れておりません」
「なら、どんなふうに思い出していた?」
「どんなふうにって……」

 言葉にきゅうしていると、目の前でアンドリューが口角を上げて優雅に微笑み、んんっと軽く首を傾げて答えを促してくる。

「殿下のお名前聞いたときとか、どうしているかなぁっとか、です」
「俺は一人のときはよく思い出していた。あとは食事のときとかだな。ティアは今何を食べているんだろうかとか、学園では今どこを習っているのだろうかとか」

 恥ずかしがりながら答えた私に対し、アンドリューはさらりと上乗せしてくる。
 せっかく頬キスを華麗(?)にスルーし、顔が近いのにも表だって反応せず我慢したのに、距離を詰めてくる王子は容赦なくて、結局私は顔を熱くした。きっとわかりやすく赤くなっているに違いない。

 よくもまぁ次から次へと甘い空気を作り出してくるものだと、少しふてくされた気持ちでアンドリューの顔を改めて見ると、蒼海のような美しい瞳の奥へと視線が吸い込まれる。
 ゆらゆらと揺れるように見える美しい碧色の瞳は、さらに絡まる視線に満足げに細められた。

 ──あっ、これはまずい感じがする。

 私は慌てて強引に話を進めようと試みる。その際に軽く顔を背けてみるが、髪に絡まる指先からは逃れられない。

「それで大事なお話とはなんでしょうか?」

 問いかけてはみたけれど、大事な話とは伯爵領から持って帰ってきた野菜の種とよだれのことだろうと予測している。
 シュクリュのよだれは機密となるので、ほいほいとその辺で栽培することはやめたほうがいいだろうと、一度王子にこの案件は預からせてほしいと言われ保留状態なのだ。

 このたび、目処がついたという連絡とともに招待を受け、意気揚々とまではいかないけれど種とよだれのことはずっと気になっていたので、どのような話になるのか楽しみにやってきた。
 馬車での出来事に羞恥もあったけれど、アンドリュー自身に会えることも内心楽しみにはしていた。

「まだ堅苦しいな」
「ですが、なにぶん場所も場所ですし」

 しれっと呼んでくれたけれど、私は初王宮なんですが?
 田舎者の私にはどこもかしこもきらきらと目新しく、それでいて厳かな空気も漂っていて気持ちは引き締まり、ありがたいことなのだけど精神的負荷は結構ある。

「ああ、そうか。ティアは王宮に来るのは初めてだったな。まあ、そのうち嫌でも慣れるだろう。王には認められたから、ティアは俺の婚約者としてここに堂々と来ればいい。正式な発表はまた時期を見てになるが」
「……えっ!? 殿下っ! お話を止めて申し訳ないのですが、どうも耳がおかしくなったようで。もう一度おっしゃっていただけませんか?」

 私はさらりと言われた内容のありえなさに、思わず話の途中で話しかけていた。
 何か重大なことをさらっと言われたようなと、内心盛大に顔を引きつらせながら、聞き間違いに違いない、そうだと言ってくれとアンドリューに詰め寄る。

「ああ。何度でも。ティアは俺の婚約者となった。だから、いつでもここに来ればいい」
「えっ。えぇぇぇぇ~~~っ!?」

 聞き間違いではなかった。
 あっさりと肯定されて、思わず両頬を押さえた。感情が追いつかず、表情も自分でどうなっているかわからない。
 そっちの心構えはしておらず、衝撃と動揺に私は何度も瞬きを繰り返したが、あいにく王子から冗談だとか否定の言葉は返ってこなかった。

 ――えぇーっと、婚約の話が進むの早すぎない?

 だって、相手は王族だ。王子本人が私との婚約を望んでいるからといって、二週間そこらでそんな簡単に進む話ではないはずだ。
 アンドリューと話をしてから、私もいつかはと思ってはいた。私なりに多少なりともそうなる覚悟はしていた。……やっぱり早くないだろうか。

 私は盛大に狼狽えた。
 大事な話ってそっち? となんだか騙された気分である。
 すっかり野菜たちの話だとばかり思っていたので、勝手に勘違いしてなんの心構えもなくその事実を知らされ、私はただただアンドリューを見つめる。

「ほんと、賢いのに抜けてるところとかすっごい可愛くて、こんなに一緒にいて楽しい婚約者を得ることができて俺は嬉しいよ」

 してやったりとばかりに意地悪そうに口の端を上げ、それでいて蒼海の瞳には慈しむような優しさも浮かばせてアンドリューが笑う。
 思考が追いついていない私は、それ以上何も口にできずその美貌にとらわれる。

「だが、俺としては思うところはあるな。さて、話し合いといこうか」

 明るい碧眼がきらりと怪しい光を宿したかと思うと、いつのまにか押し倒されていた。


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