【本編完結】自由気ままな伯爵令嬢は、腹黒王子にやたらと攻められています

橋本彩里(Ayari)

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魔力検証

隊長の計らい①

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 ロードウェスター伯爵領では、野菜たちが集結しずらりと並んでいた。
 私の横にはアンドリュー。シルヴィアの横には殿下の側近で姉の夫でもあるオズワルドが寄り添うように畑に立ち、四人は隊列を組む野菜たちを眺めていた。

「まあ、可愛い」
「ヴィアが一番可愛いですよ」

 すりっと頬を寄せて、愛をささやくかのように姉に顔を近づけるオズワルド。
 そのまま姉のエメラルドの瞳を覗き込むとすぅっと微笑を浮かべ、キャラメル色の髪を長い指でするりと触る。まるで今から口説くかのような空気だ。

「オズワルド、いい加減にしろよ」
「でも、ヴィア姉さまが可愛いのはいつもです。そして、野菜たちもいい子たちばかりなので愛らしい姿なのも事実です」

 はぁっと大きく肩を竦め魔王に苦言を呈するアンドリューに、私は姉が可愛いのは推しと同意見、姉の意見である野菜たちが可愛いのも同意見だと告げた。

「ティア……」
「なんでしょうか?」

 私の身内贔屓発言に呆れを含んだ声でアンドリューに名を呼ばれ、にっこりと笑みを向けた。
 好きなものは好き、大事なものは大事と口にするのに遠慮はいらない。
 それに、態度で表しておかないと伝わるものも伝わらないし、王子ならわかってくれるかなと甘えもある。我ながらタフになってきたと思う。

 推しの美貌には見慣れたようで見慣れていないけれど、姉への愛で甘いのは少し慣れてきたことも、アンドリューと以前よりは構えず話せていることも、公爵領で会ったときには考えられなかったことだ。
 アンドリューの透き通るような青の瞳が私を映し出し、獲物を見つけたとばかりに楽しげに瞳を揺らめかす。

「俺にとってはティアが一番だ」

 視線を捉えたまま熱っぽくささやかれ、にこっと笑った頬が引きつりそうになった。

「……殿下、先ほどオズワルド様に苦言していらしたのに」

 アンドリュー相手に話すのは慣れたとしてもなかなか余裕というものを持てず、思わずむぅっと唇を尖らせると、王子がくすりと笑う。

「言ったところでやめないのなら、こっちはこっちでと思っただけだ」
「切り替えが早くないでしょうか?」

 さっきの今だよ?

「瞬時の判断もときに必要だ」
「殿下は早すぎます」
「そんな俺も悪くないだろう?」

 低めの美声でささやきかけられ、私の頬が熱くなっていく。
 それを隠すように野菜たちに顔を向けた。

 なんだろう。攻めに甘さが含まれていつでもふわっとしてしまう。
 心を落ちつかせようとほっこり野菜たちを見ていたが、あまりに視線を感じるのでもう一度アンドリューに向けると、隠すものがない青空の下で驚くほど美しい顔立ちが間近にあった。

「殿下、ちかっ、」
「ティア。俺から目を離すな」

 また咄嗟に視線を逸らそうとすると、王子はすぐさま引き止めてくる。
 満面の笑みを浮かべたアンドリューを前にして、丘デートの話も含めてだろう意味深な言葉に気づき、私は耳まで熱くなったのを感じた。

「まぁ、ティアったら。すっかり殿下と仲が良くなったのね」
「いい雰囲気ですね。とてもいいことです」

 純粋に喜びの声を上げるシルヴィアに、妖艶という言葉が似合うほど麗しく微笑むオズワルド。
 元はと言えば、遠慮なしに姉に愛をささやくオズワルドのせいなのにと思うが、口に出したところでこの男性たちに勝てるわけもない。
 私は賢明に口を噤んだ。沈黙は金、雄弁は銀である。

「……カブ隊長が見当たらないですね」

 困ったときは隊長とばかりに、隊長の姿を探す。

 今回ここに集まっているのも、丘でのひと騒動が終わったあと、隊長たちに出立時間より早く畑に来るようにと指示されたからだ。
 もしかして野菜たちが覗き見をしていたのはその件を伝えるためなのかと聞いたら、へへっとばかりにみんなが小さな足を片方出して地面をちょんちょんとしだした。

 なので、純粋な(?)覗きもあったようだ。野菜の行動はときに不思議である。
 特にキノコの主犯格であるエリンギやシイタケはずいぶんと楽しかったようで、思い出したように押し倒されるところからリプレイする。
 本当、羞恥以外のなんでもないからやめてほしい。

 なかにはお尻ふりふりしているものもいて、アレンジを加えて意気揚々と再現しだした。
 こんなのを他人に見られたらと思うとぞっとするので、「次にしたら隅から隅まで丁寧に水で洗うわよ」と脅したら、ぷるぷるうんうんとそれはどっちの意図をもってなのかわからない仕草をしていた。大丈夫だろうか?

 風味が落ちるのを嫌がるので、きっとやめてくれるはず……。
 そう思いたいのだけど、野菜たちには私の本気度が伝わるらしいといっても、そういった機微は難しそうだし、どこまで伝わっているかは疑問だ。

 
 そのときのことを思い出していると、黄色のリボンをつけた隊長が赤カブとなった副隊長と美脚大根を引き連れてとてとてと私の前までやってきた。
 しれっと私の横にきたシュクリュは、『わふん』と鳴いてくっついてくる。
 まだ警戒しているのか、もともと人に懐かないシュクリュなので常時行動でもあるのか、王子側でないほうだ。

「隊長、楽しみにしているわ」

 よしよしとシュクリュを撫でながら告げると、隊長がこくりと頷いた。
 燦々さんさんと太陽が降り注ぎ、栄養満点のふかふかの土とそこに並ぶ野菜に天然のライトが当たる。つやつやとボディや葉と土と太陽のコラボはこれ以上ないくらいの健康的な組み合わせだ。

 道にはリヤーフの姿はないけれどどこで聞きつけたのかシュタイン商会が露店を出し、領民や観光客がいったい何事かと覗きに来ていた。
 お祭りのような雰囲気のなか、隊長が片方の手を頭、もう片方を腰へとセットする。

「踊りでも始まりそうな雰囲気だな」
「そうですね。なんだかドキドキしてきました」

 自分たちのために練習してくれたと思うと、経験はないけど我が子の運動会の成果でも見る気持ちになり、楽しみとともに失敗しないかという心配も湧き出てきてワクワクドキドキする。
 アンドリューはくくっと笑いをこぼし、当たり前のように私の腰を抱いた。

 隊長の後ろで副隊長カブや美脚大根などの手足し生えの野菜たちが、同じようにセットする。
 美脚大根は片足を上げて下げてと足を主張しながら、カブたちと対面する位置にいる。どうしても美脚を見せつけないと気が済まないらしい。

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