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第2章
98くすぶる①
しおりを挟む怒涛の1日が終わりを告げ、レオラムは部屋でじっとしていられず、バルコニーに出て空を見上げていた。
昼の騒動を鎮めるかのように、ぽつ、ぽつ、と小さな雨粒が落ちてくる。
「黒、……か」
まぶたの上に溜った雨を瞬きで弾き、頬に流れたそれを拭った。その際に、そっと目元を指で覆う。
あまりにもいろんなことがあったため軽く流されてしまったが、それはしっかりとレオラムの意識の中に根付いていた。
天は、月も星も黒い雲で覆われている。
光のない黒い黒い夜空を見上げているからか、じわりじわりと染み浮き出てきて気になってくる。
──あの日、気づけたならば……。
両親は今も生きていたのではないだろうか。
──何より、自分が言い出さなければ……。
こんなことにはなっていなかったのではないだろうか。
何度も、何度もそう思った。バカみたいに同じことを考えては打ちのめされて、それでも考えずにはいられなかった。
過去は変えられない。それはわかってはいるけれど、どうしても考えずにはいられない。
黒を持ち癒しの力を持つ聖女であるミコトと一緒にいたためか、彼女は女性であったからか、どうしてもこんな夜は両親を、母のことを思わずにはいられない。
伏せられていく母の瞳が、脳裏にこびりついている。
レオラムはそっと塞いでいた指を外した。
暗闇を見つめる虹彩がゆらゆらと揺れる。
低身長であることや、この世界では珍しい黒よりの瞳。
それらの特徴を微妙に引き継ぎ特に目のことでいろいろ言われてきたレオラムは、グリフィン局長の言葉をおふざけで終わらせることができずくすぶっていた。
自分自身が感情が高ぶると瞳が黒くなることとか、今まで認めたくはなくて考えないようにしていたが少しばかり年々黒い色が強くなってきてるようなとか、体質を含めそれらはやはり異質ではあると理解していた。
そんな中、例え変人だとしても、変人でも王城で研究を許されているということが彼が優秀であることを示しており、こうして一人になってみるとグリフィン局長が興味を示した理由が気になった。
興味を示したのは黒だからって単純な理由なようで、レオラムからしたら単純ではない。
その理由がわかるのなら知りたい気持ちもあるし、このまま蓋をしておきたい気持ちもあり、レオラムの眼差しが深く沈む。
どれくらいそうしていただろうか。
髪や身体が雨でしっとりと濡れていき、中に入らないとと思いながらも外を眺めていると、カタンッと窓が開けられる音とともに、背後から長い腕にふわりと抱きしめられた。
「風邪を引いてしまうよ」
「カシュー」
今日は転移魔法ではなく自分の足で帰ってきたようで、部屋にいないことに気づきここまで探しに来てくれたようだ。
当たり前のように自分を包み込む存在に、沈みかけた思考が緩やかに浮上する。
「こんなところでどうしたの?」
「なんとなく外に出たくなって。お帰りなさい」
「ただいま。レオ。身体が冷たくなってる」
「……んっ」
そのまま身体を持ち上げられて、温もりを与えられながら魔力を流され水滴を払われる。
己の魔力が全て書き換えられるのではないかと思うほどの圧倒的なそれは、すっかり流されることに安心して、混ざり合っていることが普通になっていた。
顔を近づけじっとレオラムの顔を見ていたが、カシュエルは何も言わずにレオラムの目元を親指で拭った。
少し寂しそうに微笑んで見せた王子が一度瞳を閉じると、それらは瞬く間になくなり獰猛さを含むものへと変貌する。
「レオ」
「カシュー。強いです」
痛いほど強く抱きしめられレオラムが苦言を漏らすと、甘く名を呼ばれ制される。
「レオ」
少しも逃しはしないとばかりの強い双眸を瞬きもせず見つめていたレオラムは、再び名を呼ばれ目をつぶった。
「……愛してる」
唇と唇が重なる瞬間とろりと染み込むように囁かれ、熱っぽい吐息が唇にかかる。
言葉にされなかったがその後に、レオラムだけを、そうはっきりと聞こえるようだった。
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