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第2章

94噂と自覚

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 怖いのに見ていたい。
 そんなカシュエルの神秘的な瞳に囚われたまま、レオラムはこくりと息を呑んだ。

「レオラムは、もう少し私にとってどれだけ大事な存在なのか自覚しようか?」

 カシュエルにきゅっと指を絡めるように繋ぎ直される。
 先ほどより触れる面積が多くなり、離さないとばかりに絡め取られ、王子の私室ではないことや人前であることで余計にカシュエルを意識してしまう。

 大事に思われていることは自覚している。
 それは自分には過分なほどと思っているのに、それでも足りないというのだろうか。

 決して、カシュエルに思われていることや大事に扱われていることを軽く見ているつもりではないのに、自覚が足りないと言われレオラムはどうしていいのかわからない。

「そうよ。そうよ。噂が本当なら、レオラムを巻き込むことでカシュエル殿下が探しに来る可能性もあるなって私も思ってたわよ」

 困惑していると、なぜかミコトがカシュエルを援護しだした。
 手はしっかり繋いだままであるが、掴まれていた頬は外されたのでミコトの方を向く。

「噂?」
「レオラムは知らないの? 10日ほど前だったかな。大切に閉じ込めていた人が逃げ出したとかで、聖君殿下が仕事を放って突然転移魔法で消えて次の日まで戻らなかったとか。今までそんなことなどなかったから、それはもう王城大騒ぎだったわよ」
「…………」

 それは、妹の手紙のときのやつだろうか。
 王城大騒ぎと聞いて、レオラムは冷や汗が出てきた。

 護衛を伴ってしっかり手順を踏んだつもりであったのに、まさかそんなことになっていようとは考えもしなかった。
 今日、ミコトのことを知るまでは聖女騒動は大変だなと思っていたが、自分も他人事ではなかったと思うと、徐々に変に鼓動が早くなってくる。

「それまで私はレオラムのこと知らなかったのだけど、それからずいぶんと噂を耳にしたのよね。だから、いろんな意味で確かめたかったのと安全の保険もかけてのレオラムでもあったのよ」
「ミコト…………」

 もう言葉が出ません。ミコトさん。
 あと、安全の保険をかけられていたとか初耳ですけど?

「実際殿下が来たら来たで複雑な心境を予想していたのだけど、今はとても爽快だわ」
「爽快って。……そんなことまで考えていたんだ?」
「ええ。だって、異世界よ。なにがあるかわからないし、本来なら大人しくしているのがいいのだけどそういうの性格的に無理だし。だからこそ、その辺はちゃんと考えてるわよ」
 
 本当に逞しすぎない?

 行動的だしすぐに言動に出るけれど、ミコトなりに安全だとか様々なことを考えた上でなのだと言われ、レオラムはなんとも言えない気持ちになった。
 直情的といえど、大事なところはしっかりと考えているミコトに感心するが、まさか自分のことでそんな噂が回っているなんて思いもしなくて、レオラムはずっと嫌な汗が出っぱなしである。

 18歳になるまで、そしてその後もカシュエルにゆっくり丁寧に、そして強引に心を解されるまでいっぱいいっぱいだった。
 今までは噂に対して無頓着だったし、他人に悪く見られようがそれなら仕方がないと諦めて、噂に対して何か行動を変えようなど思わなかった。
 噂の詳しい内容や王城のその時の騒動を知るのが怖すぎるなと、今さらなのだが過去の自分の下手さに落ち込む。

 レオラムがしおしおとしょげていると、ミコトはわざと小馬鹿にしたようにグリフィン局長に声をかけた。

「ということで、あなたのリサーチ不足。私の噂が入っていたのなら、カシュエル殿下が溺愛している人がいるっていう噂もリサーチできてるはずだし。レオラムに幻滅する前に自分に幻滅すべきよ。プフッ」

 しっかりここに来てされたことの仕返しとばかりに笑うミコトに呆れながらも、やはり逞しさと明るさにちょっと笑ってしまう。
 グリフィン局長は、ぺちぺちと墓石を悔しそうに叩き出した。


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