57 / 115
第1章
57聖君の思い(カシュエルSIDE)②
しおりを挟む「レオラム様はギルドに向かったようですね。あのまま行かせてもよろしかったのですか?」
「護衛も付けてあるし、こもってばかりは疲れるだろう」
騒がしい聖女から逃れ執務室にこもり書類を捌いていた手を止めて、カシュエルはエバンズを見上げた。
エバンズとは長い付き合いなので、自分が何を思って先ほどの発言をしただとか、何を気にかけているのかわかっているはずだ。
この度、聖女召喚という大役を成し遂げ、第二王子としての立場は一層強固になり、目論見通り己の意見を通しやすくなったのは良いが大きな誤算があった。
カシュエルもここまできたら周囲に隠すつもりもないので堂々と行動をしているのだが、むしろもう少し早い段階でレオラムの認知度を上げるつもりが、聖女がことごとく騒動を起こし邪魔をしてきて一行にそれが進まない。
レオラムについて協力してきたエバンズも、レオラムの事情と打ち解け具合が気になるようで眼鏡の奥で目を細めた。
「レオラム様からのお話は?」
「頑なところもあるからね。少しずつとは思っているが、その時間がなかなか持てない」
言外に聖女をなんとかしてくれと告げると、誰もが視線を逸らした。
聖女の騒動のためにレオラムとの時間が減り、レオラム自身が抱えているものは時間をかけて向き合うべきことだと感じているのに、そもそもの時間が少なくて順調とは言い難い。
深夜帰宅後は気遣われ少し話をするだけであとは一緒に寝る毎日で、何度も話題に出して負担になってもとあまり深掘りできず、レオラムから話してくれるのを待っている状態だ。
その分、カシュエルは少しでも気持ちが伝わるよう触れ合いへとなるのだが、レオラムが快楽に弱いのも嬉しいけれど心配だ。
レオラムが誰にでも簡単に流されると思っているわけではないし、そもそも自分がそういう流れに持って行っているのだが、恥ずかしがる姿やとろける感じが可愛すぎて止められない。
よく今まで無事であったと、レオラム自身が辛い日々だったとは思うが人を寄せ付けないスタンスでいてくれたことを嬉しくも思うといった、複雑な気持ちだ。
「随分お元気でいらっしゃる聖女さまですが、今のところはカシュエル殿下しか素直に話を聞かないもので」
「……」
エバンズの皮肉に、カシュエルは無言で応じた。
こちらの都合で召喚したので手厚く待遇したいと考えているが、恋愛脳というか、恋愛にも満たない感情を持ってアピールされても困るだけである。
聖女の能力は必要であるが、彼女自身を欲しいとは思えない。早く自分から興味が移ればいいのだがと、あまり雑に扱うこともできず、やたらと時間が取られていた。
カシュエルは気を取り直し、通信魔道具に視線をやりエバンズに再度確認する。
「ギルドの方への手回しは大丈夫だな?」
「はい。ですが、そのギルド長との繋がりがどう働くのかはわかりません」
「それは大丈夫だろう。レオラムは義理堅いからね。約束を簡単に反故するタイプではないから、挨拶もなしに出て行くような真似はしないよ」
ただ、挨拶さえすればさっさと出て行く可能性は大いにあると思うけど、というのは言葉にしたくなくて、カシュエルは心の中でつぶやく。
大事な部分は何重にも殻が張り巡らされていて、ひとつ割れてもまた次がありレオラムの本心が見えない。
少しずつ、少しずつ、隠さず態度で示していることで絆されてきていると思うが、いつ姿を消してしまうか気が気でいられない。
「今までの活動経歴を見ていても、契約期間はしっかりと役目をこなしていましたし。確かにそういう方ですね」
「本来、真面目な気質なのだろう」
真面目なゆえに、決めたことにブレないでいられるのだろう。
レオラムを知れば知るほど、近づいているようで遠いと感じ、そばにいる時はいつも触れていないと不安になるほどだ。
冷静に合理的に判断し行動するカシュエルが、個人に対して気持ちが動くのはレオラムだけだ。
応援ありがとうございます!
23
お気に入りに追加
4,024
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる