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第2章
77決意①
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ぐっと詰まった胸が苦しくて、その場で気絶しないのが不思議だった。
痛みは慣れた。慣れたというよりは、苦痛を逃すことが上手くなった。そうしないと心が持たないから。
あらゆることを遮断して、降りかかるそれが過ぎ去るのを待っていた。
罵詈雑言を浴びせられ続け、視界が歪む。何が正しいとか正しくないとか、そんなことを言ってもこの人たちには届かない。届けようとも思わない。
それらは聞かれることもなく、圧倒的な力でねじ伏せられるからだ。
背中がじくじくと痛み、空腹でふらつく。だけど、ここで倒れてしまえばまた長くなる。
それだけは嫌だと、レオラムは必死で下を向いて歯を食いしばって耐えた。
「気味が悪い子だね」
そう言って、叔母にしょっちゅう食事を抜かれた。
「こっちを見るな。化け物め」
感情が表に出ると茶色の瞳が黒に近くなりそれが気に食わないと言われ、叔父に体罰を日常的に与えられていた。
見るなと言って叩くくせに、下を向いているとその態度はなんなんだとまたぶたれる。
この時はヒーラーとして他者を癒す力があるのをわかっていなかったが、突然開花したそれは自分の傷を癒すことはそれが普通ではないこととともに理解していた。
普通なら痕や後遺症が残るひどい傷でも時間が経てば何もなかったかのように治ったから、実体験として嫌でも知ることとなった。
そんなレオラムを見た叔父たちは、寝て起きたら尋常ではないスピードで治癒されていることが気味が悪い、化け物だと言い、瞳とともに体質を嫌った。
その上、どれだけ体罰を与えても露見しにくいと一層仕打ちはひどくなった。
今日もよくわからない理由でぶたれ、罵られ、鞭で打たれた。
上半身は服で隠れるからとレオラムの傷は絶えず、叔父の機嫌によってその執拗さも変わる。
10歳になったばかりのレオラムでは、大柄な叔父には敵わない。父の弟だと言うその男は、ある日を境にこの家を占領し家にあるものをめちゃくちゃにしていった。
酒を飲み、贅沢が好きな叔父夫婦はあっという間に両親たちが貯めていた資産を食い尽くしていく。
サムハミッドは田舎の男爵家。
代々受け継がれてきた土地はあるが、年々契約する騎士は減っていた。そして、叔父がこの家にきてからはレオラムは伏せっているとされてろくに外に出してもらえないので、どれだけ残ってくれているのかわからない。
それくらい、自分たちの娯楽に使うばかりで叔父たちは何もしない。
先代、先先代と代々争いとは無縁な穏やかな家系で、父と母も村人に慕われていた。
叔父も子どもの頃は穏やかだったと噂に聞いたが、それも家庭内ではどうだったか今の現状ではわかったものではない。
身内の醜聞は隠しておきたいというのは人の心理であるし、家族のことを悪く言い触らすのは気が引けたのだろう。
あと、いつかわかってくれる、家族だからと信じていたに違いない。レオラムの知る父はそういう人だった。
だから、周囲は誰も気づかない。
外面は良い人たちだから、かわいそうな子のためにやってきた善意者という面を被り後見人となった叔父と叔母を疑うような人たちはおらず、レオラムは一人で耐えていた。
──壊れてしまった。壊してしまった……。
自分たちを守ってくれる人、無条件で愛情を注いでくれる人はもういない。
身体が弱い妹には知られてはならない。
彼らの矛先が彼女に向いてはならない。
レオラムが耐えている理由はもはやそれだけだ。妹がいなければ、こんな家なんてすぐさま飛び出している。
その結果、例え野垂れ死んだとしてもここにいるよりはマシだろう。
男爵という身分なんていらない。
欲しいならくれてやるとは思うが、それも男の自分がいなければ今はまだ後見人という立場の彼らに好きなようにされ、妹もどうなるかわならないと思うと何もできない。
だから、ただレオラムは耐える。
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